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第5回 保健医療分野AI開発加速コンソーシアム
議事概要
 
○ 日時 平成31年2月14日(木) 13:00~15:00
 
○ 場所 ビジョンセンター東京八重洲南口 6F VisionHall
 
○ 出席者(50音順)
(構成員)◎北野構成員、末松構成員、田辺構成員、豊田構成員、西川構成員、羽鳥構成員、保科構成員、堀川構成員、間野構成員、宮田構成員、山内構成員、山本構成員、○米田構成員、渡部構成員(◎は座長、○は副座長)
(代理人)市川構成員代理(辻井構成員の代理出席)
(参考人)大武参考人、近藤参考人
(オブザーバー)大坪次長、岡企画官、葛西技術参与、西川課長、原参事官、増原課長補佐、山田参事官
 
○ 議題
 (1)開会
 (2)議事
  [1]介護・認知症領域における取り組みについて
  [2]がんゲノム領域における取り組みについて
  [3]その他
 (3)閉会
 
○ 配付資料
配布資料
資料1 認知症ケアおよび介護におけるAIおよびロボットの活用(近藤参考人提出資料)
資料2 防ぎうる認知症にならない社会に向けた技術開発を起点とする取り組み(大武参考人提出資料)
資料3 介護・認知症領域における取り組みについて
資料4 がんゲノム医療と人工知能(間野構成員提出資料)
参考資料1 保健医療分野AI開発加速コンソーシアム 開催要領
参考資料2 日本における重点開発領域について
(「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」での議論)
参考資料3 健康・医療・介護領域においてAIの開発・利活用が期待できる分野/領域(案)
参考資料4 第4回「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」における主なご意見
参考資料5 保健医療分野AI開発加速コンソーシアム 議論の進め方(案)
 
○ 議事
(事務局)定刻になりましたので、「第5回保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」を開催させていただきます。皆様方におかれましては、ご多忙にもかかわらずご出席いただきまして誠にありがとうございます。
まず初めに、事務局より構成員の出欠の状況につきましてご報告を申し上げます。本日は松尾構成員より欠席との連絡をいただいております。また、山本構成員が少し遅れられてご参加ということでございます。
本日ご欠席の構成員の代理出席の状況でございますけれども、国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 研究センター長の辻構成員の代理として、市川副センター長にご出席いただいております。
また、本日は2名の参考人といたしまして、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 健康長寿支援ロボットセンター 近藤センター長、国立研究開発法人理化学研究所 革新知能統合研究センター目的指向基盤技術研究グループ 認知行動支援技術チーム 大武チームリーダーにご出席をいただいております。
次に、オブザーバーでございますけれども、本日も内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室、内閣官房健康・医療戦略室、個人情報保護委員会、総務省、文部科学省、経済産業省、当省データヘルス改革推進本部からご出席をいただいております。
その他の事務局及び関係部局等からの出席者につきましても、座席表に記載のとおりですので、個々の紹介のほうは割愛させていただきます。冒頭、カメラ撮りはここまでとさせていただきますので、よろしくお願いしたいと思います。
以後の議事進行につきましては座長にお願いいたします。よろしくお願いいたします。
(北野座長)ありがとうございます。座長の北野でございます。まず、議事に入る前に資料確認をしたいと思います。事務局からお願いします。
(事務局)本日もペーパーレスにて実施をさせていただきますことを、ご了承のほどよろしくお願いいたします。タブレットの使用方法が分からない方がいらっしゃいましたら、サポートの者が参りますので言っていただければと思います。パソコンを立ち上げていただきますと、時計が若干、時刻がずれていると思いますので、それに惑わされずによろしくお願いしたいなと思っております。
資料につきましては議事次第、資料1~4、参考資料1~5、あと、過去4回の資料をお手元にございますタブレットのほうに格納しております。タブレットの操作方法につきましては、「タブレット操作説明書」をご確認いただければと思います。
参考資料3につきまして補足をさせていただきたいと思います。参考資料2としまして、「AI懇談会における重点開発領域について」という資料をつけております。これは2枚紙の資料になってございますけれども、2枚目のほうにAI活用推進懇談会のほうで選定されました6領域を示した図を入れておりますけれども、この資料をもとに作成をしたのが参考資料3ということでございます。
参考資料3は、過去の懇談会におきましてAIの開発・利活用が期待できる6分野を中心に、どういう領域がその中に、あるいは周辺に存在するのかということを補足的に書き足した、作成中のたたき台ということでございます。非常に幅広い保健医療福祉分野におきまして、どういう分野・領域があって、どういったAI開発が進んでいるのかということを議論する際の参考として作成させていただいております。
この資料につきましては、本日はほかにたくさん用意している議題がございますので、直ちに本日ご議論いただくことを予定しておりませんけれども、本資料につきましてご質問とかご意見がございましたら、会議の終了後にメールベースで意見を事務局にいただければと思っております。
少しだけ補足しますと、診断・治療とあります時に、治療方法としてはAIの開発が期待される分野として、手術支援分野がもともと記載されているわけですけれども、治療という場合には手術以外にもいろんな治療方法があるということで、それを参考として書き足してみたり、実際に医療そのものではなくて、例えば次回のコンソーシアムにおきましては、AIホスピタルの関係なども専門家の先生からご報告いただこうと思っておりますけれども、例えばその中で取り組まれております、医師が説明した内容をカルテに記載する技術は、医療技術そのものというより医療従事者支援ということで分野があるのかなということで、そういったところを書いているというものであります。
なお、こういった資料を作りますと、新たな重点分野が選定されるのかとか、ここに書けば研究費がつくのではないかというような誤解が生じることがありますが、そういった目的で作っているものではないということを補足的にご説明させていただきたいと思います。
また、参考資料4でございますけれども、前回の議論を事務局でとりまとめたものでございます。構成員の皆様には事前にご確認をいただいているところでございますけれども、本日の議論の際、ご参考にご覧いただければと思っております。資料の説明が少し長くなりましたが、以上でございます。
(北野座長)資料3に関して、補足させていただきます。この目的は健康・医療、介護分野におけるAI開発・利活用の俯瞰図を作ることになります。
本コンソーシアムで議論してきた画像診断系の話、今議論している介護の話、それ以外にも平成29年に行われた「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」で挙げられたAI開発を進めるべき重点6領域がありますけれども、健康・医療、介護分野は幅広いので、どういうところでAIが使われるかという俯瞰図を作ります。それに応じて何が行われて何が行われていないのか、行われているものは十分なのか、連動性がどうなのかといった整理や、行われていないものに関しては、それぞれの優先順位がどうなっていて、国がやるべきものなのか、民間に任せることが良いか、また支援が必要なのかといったことを整理します。
予算で何かプロジェクトを立ち上げる時に、全体俯瞰図があった上で議論して立ち上げる場合と、誰かが言っているからという理由で立ち上げる場合では政策の精度が変わってきますので、そのために全体像を作ることがこの目標になりますので、ご提案いただければ、どんどん入れていきたいと思います。ただ、俯瞰図に入ったからといって全てに予算がつくわけではないということは、念のため申し添えておきます。
早速今日の議事に入りたいと思います。第4回から日本における重点開発領域について議論してまいりましたが、引き続き、介護・認知症領域と、新たに今回はがんゲノムについて取り上げたいと思います。
会議の前半で、介護・認知症領域について2名の参考人と事務局からご発表いただき、自由討議は発表のあと5分から10分程度行います。後半はがんゲノム領域に関して構成員からご発表いただき、その後自由討議を30分行います。討議のポイントとしては、AI開発の状況・製品化の見込み、開発にあたっての課題、その分野に取り組んだ理由、介護・認知症領域では他にどのような領域でAIの開発が期待されるかという点を、参考人を交えて議論したいと思います。
資料1について近藤参考人からご報告をお願いしたいと思いますが、近藤参考人は、ご都合により1時半までのご出席となりますので、発表いただいた直後に質疑応答に入りたいと思いますのでよろしくお願いします。では、近藤参考人、よろしくお願いします。
(近藤構成員)国立長寿医療研究センターの健康長寿支援ロボットセンターから参りました近藤でございます。今日、動画が使えないということを知らなくて、動画が入っているスライドが混じっていますので、多少ご理解していただきづらい部分もあると思いますが、何とぞご容赦ください。
○要介護の原因となる疾病の比率
これは平成28年度の国民生活基礎調査の結果から出させていただいた、要介護の原因となる疾病の比率でございます。要介護状態となるのは圧倒的に75歳以上が多くて、83.8%を占めております。一般的には要介護というと脳血管疾患が原因と思われがちですが、メインのターゲットになる75歳以上に関しましては脳血管疾患はそれほど大きくなくて、むしろ認知症、あるいはフレイル、骨折・転倒が大きな割合を占めているのは、このグラフからもお分かりになりと思います。
国立長寿医療研究センターとしては、認知症、フレイル、骨折・転倒などの予防に注力しなければいけないと。当然ロボットセンターも長寿医療センターの中にございますので、ここらへんの開発を中心に今、行っております。フレイルと骨折・転倒に関しましてもいろいろプロジェクトをやらせていただいていますが、今日は主題である認知症のことに関して、我々がやっている活動をご紹介していきたいと思います。
[認知症]
○高齢者認知症の病型頻度
これは2011年の調査で、高齢者認知症の病型としては圧倒的にアルツハイマー型認知症が多いことがお分かりになると思います。この段階では7割を占めていますが、実際センターで私も認知症診療に関わらせていただいておりますが、センターで診療している印象では、あるいはデータベースを見るかぎりにおいては、8割、9割がアルツハイマーになっております。
○アルツハイマー型認知症の臨床経過
これもよく知られていることではありますが、アルツハイマー型認知症の臨床経過に関しましては、一番最初に出てくるのが発症初期の記憶・記銘力障害、あるいは見当識障害。特に展望記憶が障害されるということがよく分かっております。
○老人斑と神経原線維変化
ただ、実際は初期の症状が出てくる前に、老人斑と神経原線維変化というスライドがございますが、左側の老人斑のほうは病理学的な所見ですけれども、アミロイドβの神経細胞表面への凝集、それから、Bの神経原線維変化に関しましては、細胞内のタウ蛋白の蓄積によるものだということが分かっています。
○アルツハイマー病のアミロイドカスケード仮説
それがいつ始まるかといいますと、アルツハイマー病のアミロイドカスケード仮説というのがございまして、アミロイドβの蓄積が最初に起こって、それからタウの蓄積が起こって、神経障害が起こって、それからやっと脳構造の変化が生じて、認知機能障害、先ほど申しました初期の記憶障害等はアミロイドβが蓄積し始めて20年以上たってから始まる。だから、アルツハイマー型の認知症に関しましては、かなり前から病理学的な変化が起こっているということになります。
○Nun Study
今、アミロイドβの蓄積が起点になってアルツハイマー病が起こると考えられていますが、1つおもしろい研究がございまして、Nun Studyという研究でございます。
これは動画にしたため左側のグラフが抜け落ちていますが、ケンタッキー大学で行われた加齢とアルツハイマー病に対する研究で、アメリカの678名の篤志修道尼の方に参加していただいて、認知機能と健康状態を経時的にフォローして、死後に脳を病理解剖させていただくという研究でございます。
その中で驚くべき結果が、102歳で亡くなられたメアリーさんという尼さんは、先ほど申し上げた脳に神経線維及び老人斑が多数あって、病理所見は明らかにアルツハイマー病であったにも関わらず、死の直前のMMSEのスコアが27点。満点が30でございまして、認知症といわれているのは23点からになりますが、非常に高いスコアを記録されたのと、記憶力は正常で社会性に問題はありませんでした。
最近言われ始めているのは、アミロイドβやタウの蓄積だけがアルツハイマー病の原因ではないのではないか。あと、生活習慣とか人生に対する姿勢、尼さんですので非常にご立派な考えをお持ちですので、人生に対する姿勢の関与も大きいのではないかと言われ始めています。
○認知症の発症と進行に関する原因
そういったことを組み込んだ上で認知症の発症と進行に関係する要因を考えていくと、若い時期からの遺伝的要因、社会経済要因に加えて、生活習慣病、最終的にはうつとか転倒とか身体活動、社会活動の不足、あるいは転居・施設入所などがかなり発症に関わってくるのではないか、進行にも関わってくるのではないか。逆に発症の遅延化・進行予防に役立つ要因としては、特に大きなものは活動。身体的、認知的、社会的なものが関係するのではないかと言われています。
○Nerve growth factor (NGF)
これはRita Levi-Monitalcini先生が1942年に発見しましたNGF、Nerve growth factorの解説でございます。動画になっていないので分かりづらいかもしれませんが、細胞というのは相手の細胞、右側の神経細胞はその後ろ側に刺激する神経細胞をもう1つ持っていますが、刺激された細胞のほうは、刺激されて活動するとNGFを分泌して、それが逆に刺激した細胞のほうに軸索輸送で逆行性に送られます。
これが最初に何に役立っているか分からなかったのですが、下の図に書いてありますように、軸索を縛ってしまったり、あるいは抗NGF抗体を注入すると、刺激している細胞が死んでしまう。要するに、生き残るためにNGFをもらっているということになります。ということは、イコール神経は活動しないと死にやすい状態になります。
○神経細胞のアポトーシスの時期の延伸化
サイトカインやホルモンなどの神経が長生きできるような要因を整えてあげると、普通、マウスというのは平均余命26か月ですが、それより長いラットのほうに脳細胞を移植するとか36か月後でもラットの脳内でマウスの細胞が生存するという研究結果が出ています。なので、脳内の状態をいろんな要因をコントロールすることによって、なるべく細胞が生きやすい状態を作ってあげることによって認知症の発症を遅らせたり、進行を線維化できる可能性が出てまいります。
○脳が活動すれば良いのか?
当然、脳が活動すればよいわけですが、ただそれが、むち打たれるというか、やれと言われて嫌なことをやっていると、それは逆に脳細胞の死につながってしまうというデータが出てまいります。
なので、良循環と悪循環と書いてあるスライドのように、ほめる、認めるなどのポジティブなフィードバックをしてあげて脳の活動を盛んに上げると、それが良循環になって認知症がなかなか進まない。逆に、叱る、否定するなどのネガティブなフィードバックを与えて脳の深い刺激による悪性サイクルを作ると、早く脳細胞が死んでしまうというような考え方になります。
[楽しい身体活動とは?]
○NOSS
先ほど身体活動がいいということをお話ししましたが、このスライドの男性は、西川流という名古屋で日本舞踊の総帥をされている先生で、この方が、認知症、それよりは老化に良い活動ということで、日本舞踊から少し簡単な要素を抽出して、老人に楽しんでもらうための踊りを考案されています。
○NOSS by Pepper
Pepperの胸のところに「JOYSOUND」、カラオケのジョイサウンドでございますが、これはブラザーの子会社のエクシングというところが実際は運営しておりますが、エクシングと長寿医療センターが協力させていただいて、PepperにNOSSを移植して、Pepperに踊ってもらって高齢者に身体活動をしてもらおうというような活動に取り組んでおります。
○Trial of activity with a human-shaped robot for care recipients
Pepperによるアクティビティの効果を論文にして「GGI」という雑誌に掲載していただいておりますが、その結果ですと、抵抗感とか親しみというのは、通所リハの利用者の方のロボットに対する抵抗感、あるいはロボットに対する親しみという意味合いでございますが、最初、Pepperのアクティビティをやる前は抵抗感が結構あったのがなくなってる。逆に親しみは増していく。あと、ロボットのPepper以外のものも含めて、ロボットを使ったアクティビティに対する興味は改善していく。最終的満足度も10センチの回答書を使った調査では7.4センチなので、かなり満足であったという結果が出ております。
[ロボットによる活動量増大]
○自立する杖ロボット
これはあくまでも通所施設での活動になりますが、ふだんの生活でも身体活動をいっぱいしていたただかなければいけないということで、今、開発しているのが、これも動画が映せなくて申し訳ありませんが、手を離しても自立する杖ロボットの開発をやっております。
この杖ロボットは何を狙っているかといいますと、人間というのはもともと四つ足で歩いている動物ですので、2足というのはコントロールが必要な活動になります。これは簡単に証明できることですが、2足で立っている時の重心動揺を計測しておいて、その時、指1本でも、テーブルでもいいですし、手すりにつかまると、とたんに重心動揺がシュッと小さくなって体が安定してまいります。なので、杖自体に支える能力がなくても、杖を持って歩くだけで重心動揺が少なく安定した歩行ができるので、活動量が増えてくるだろうということを狙っております。
○杖ロボットの開発
杖ロボットに関しましては名城大で作っておりまして、最初はご覧にいれたようにかなり大きなものでしたが、今は2キロになって小さくなっています。名城大のほうでもライトタッチ効果、つまり、軽く触れただけでも重心動揺が少なくなるかどうかご検証いただいております。
○杖ロボット走行実験
これはどこを歩いているかというと、トレッドミルといって、ベルトが動く歩行路でございます。この歩行路が前に映っている画面と連動して、バーチャルリアリティになっておりまして、前の映像が下り坂になるとトレッドミルの前が下がる。逆に、上り坂になると前が上がるというように、バーチャルリアリティの画像と、歩行されている方が歩く環境が同期するような形の計測器でございます。これの上に杖ロボットを持って乗ってもらって、重心動揺が減るかどうかという検証をやっている最中でございます。
○認知症の発症と進行に関係する要因
もちろん身体活動だけでは認知症の進行を遅らせるのは難しゅうございますので、次の発表の大武先生とかぶるところはございますが、認知的な活動を盛んにするためのロボットも考えております。
[認知的活動の増大のために]
○傾聴ロボット
我々はこのロボットを傾聴ロボットと名付けまして、お年寄りのお話を傾聴させていただくという形のロボットを作っております。最終的にはスケジュール管理などもできるような、つまり、お薬を飲む時間の管理ができるようなところを目指しています。
○当センターで開発中の傾聴ロボット
今現在、トヨタ自動車と、ポコビィというしゃべるロボットを開発しております。何がみそかといいますと、ただしゃべるだけではなくて、認知症の非薬物療法の中で唯一エビデンスがあると言われている回想法を採り入れた形の会話を成立させて、高齢者の認知症の進行を少しでも遅らせようという取り組みをしております。
次のスライドはトヨタが作ったプロモーションビデオですが、これも動画をご紹介することができなくて申し訳ございません。尾っぽに筋が入っておりますのでたぬきに見えますが、これはあらいぐまでございます。
○認知症の発症と進行に関係する要因
最後、認知症の発症と進行に関係する要因、何度も同じスライドを使ってしまって申し訳ございませんが、進行させる要因として大きなものは転居とか施設入所がございます。
[在宅生活の延長のために・・・]
○夜間排尿意図検知の重要性
在宅生活の延長のための取り組みを当センターでやっております。今日はAIがテーマということですが、なかなかAIに近づけなくて申し訳ございませんでしたが、ここでIBMさんと、Watsonを使わせていただいて当センターにおける転倒転落事故のレポート、全3439件をAIで分析させていただいた結果をここに提示させていただいております。
驚くべきことに夜間、夜間に限らないですけれども、特に夜間が多ございますが、排尿意図を感じて患者さんが歩いてしまって転ぶというのが、当センターの実に40%を占めております。当センターはメインの対象が高齢者でございますので、高齢者の転倒の予防にいかに、尿意を感じてトイレに行くことを安全にさせてあげることの重要性が、これでお分かりになると思います。
○夜間排尿サポートシステム
ただ、全部介護を入れればいい、あるいはロボットで搬送してもらえばいいということですと、逆に高齢者の機能を落としてしまうことにつながりますので、今、我々が取り組んでいるのは、早期に尿意を検知するシステムを作っています。
マイクロウェーブとか振動を使って脈拍と呼吸のコヒーレンスという値を出して、コヒーレンスの動向で尿意を感じているかどうかを判別するシステムを作っている最中でございますが、尿意を検知した場合、アラートを出しておいて、高齢者の方がトイレに行きたくて起き上がったら、先ほどお見せしましたポコビィで、軽い、柔らかなストッピングをやっている間に自走能力がある歩行器をベッドの横に持ってきて、一緒にトレイに行って、また戻ってくるというようなシステムを作ろうとしている最中でございます。
○Walking Support System: ROBO Snail
ROBO Snailという自走能力があるウォーキングサポートのシステムを作っておりますが、残念ですが動画を見せられないので大変申し訳ございません。
[未来に向けて ―ロボットの在宅導入を阻む物―]
我々今、ロボットセンターで高齢者の生活の役に立つためのロボットシステム、24~25のプロジェクトを走らせておりますが、その中でひしひしと感じるロボットの在宅導入を阻むもののご紹介をさせていただきます。
○イノベーションに対するハザードとソリューション
技術的ハザードの中で一番大変なのは音声認識でございます。これはあまり注目されていない技術ですが、ここの部分が問題で、うまく人間の声が聞き取れないロボットが多数ございます。それから、通信。特に病院というのは、Wi-Fiの電波でロボットをコントロールしようとすると、コンタミネーション、混信が起こってしまってほとんどロボットが動きません。なので、通信に関する問題に関しても技術的なハザードが大きくなっています。
非接触での生態情報計測に関しましては、今、我々が一生懸命取り組んでいるところでございます。今4Gですけれども、5Gの通信環境が早期に実現すると、そこらへんの問題も解決する可能性があるのですが、ご存じのように中国の5Gを扱っている会社が頓挫しておりますので、少し先が長くなるのではないかと考えてございます。
環境的ハザードに関しましては、本当に在宅生活の中で役に立つような標準的な評価プロトコルがないという問題がございます。今、AMEDのほうの事業をいただきまして、この部分に関しては当センターで取り組ませていただいているところでございます。
○介護ロボットの効果検証の標準的プログラムの策定
その中で問題になってくるのが、介護ロボットデータのクラウド上の管理に関してコンセンサスが得られていないところが、1つ大きな問題でございます。それから、日本の狭い家屋環境では大きめのロボットはとても使えないということがございますので、使うとするとロボティクススマートハウスになってきますが、ここもいろいろ規制がございまして、詳細は今日お話しできませんが、いろんな問題に直面しております。
クラウド上でのデータ管理に関しましては、今AMEDの事業の中でやらせていただいていますが、介護ロボットの効果検証の標準的プログラムの策定ということで、先ほど触れさせていただきました心拍呼吸のコヒーレンス、これは非接触で測れるものでございますので、介護ロボットの効果検証に今後利用できると考えています。
○介護ロボットデータのクラウド上での管理と分析
これは非常に大きなデータになりますので、介護ロボットデータのクラウド上での管理と分析ということで、今クラウド上にIBMのWatson IoT Platformを使わせていただいて、テストデータを蓄積し始めているところでございますが、これもパブリックにやろうとするといろんな規制がございます。
○Take home message
フレイル・認知症などの重要な問題を解決するためには、ロボットやICTを使った介護・生活支援機器の導入は必須でございます。今日はフレイルには触れませんでしたが、フレイルに関してもロボットを今たくさん開発しているところでございます。
高齢者の生活の中のあらゆるニーズに応えるため、ロボット・生活支援機器の開発が急ピッチで進んでおります。そこを一生懸命支援するというのは、健康長寿支援ロボットセンターのミッションの1つでございます。
通信・音声認識などの技術革新及び退職後に移住する住居に対する補助と規制緩和が必要になると考えております。
以上でございます。ありがとうございました。
(北野座長)時間となってしまいましたので、どうしてもという質問があればお願いします。
(米田構成員)先ほどのケンタッキー大学の方の研究で、脳にいっぱいアミロイドの沈着があっても認知は普通だったという方がおられるということで、あれはある意味、脳には非常に潜在能力があって、それを上手に使えば認知症にならなくていいということを示しているのかもしれないなと思うんですけれども、そういう潜在能力を、例えばAIを使って引き出す研究はされているんでしょうか。
(近藤構成員)AIを使った状況判断をして、高齢者にとって非常にストレスが少ない会話の環境とか、あるいは生活環境を作ってあげるというのが1つの方策ではないかと、私は考えております。
(羽鳥構成員)日本医師会の羽鳥です。大変すばらしい発表ありがとうございます。一番最後のスライドで、介護ロボットデータのクラウド上での管理。非接触型の心電図の話が出ていますが、心房細動とか一過性心房細動とか、こういう病気を捉えることができたら、脳梗塞を防ぐこともありうると思うので、研究はどのへんまで進んでいるんでしょうか。
(近藤構成員)かなり雑音が入るんですけれども、少なくとも振動とマイクロウェーブを使って、非接触でRR間隔などを計測できるところまではきております。
(北野座長)ありがとうございました。いろいろまだあるとは思いますが、近藤参考人は、1時半までということで、どうもありがとうございました。
続きまして、資料2について大武参考人からご説明をお願いしたいと思います。大武参考人は、ご都合により2時までのご出席になりますので、質問は、ご説明のあとすぐにスタートしたいと思います。よろしくお願いします。
(大武構成員)よろしくお願いします。「防ぎうる認知症にならない社会に向けた技術開発を起点とする取り組み」について、話題提供させていただきます。資料2になります。
最初に少し自己紹介をいたします。理化学研究所革新知能統合研究センター 認知行動支援技術チームというところでチームリーダーを務めております。このセンターはここから歩いて10分ぐらいのところにある、日本橋駅直結のビルの15階にございます。ということで今日も歩いてまいりました。
ここで次世代の人工知能の研究をしようということで、次世代の人工知能の1つとして、人間の知能を育むような人工知能の実現を目指して研究を行っております。その具体的な分野として、高齢者の認知予備力。先ほどまさにNun Studyで、アメリカの修道院の修道女が、実際にはアミロイドβがたまっていたのに生活上困らなかったという話が、認知予備力、コグニティブリザーブという形で理論化されているのですが、そういったものを高めるような技術を作ろうということで研究をしております。
これと並行しまして、NPO法人ほのぼの研究所代表理事・所長を務めております。こちらは10年前に設立したもので、認知症予防参加型研究プラットフォームとして、元被験者だった方が次の研究では実施者になるというような参加型研究を行い、多様な高齢者を対象にフィールドワークを進めております。
○認知症の定義と状況
先ほど近藤先生から具体的な疾患についてお話がありましたが、定義としましては症状で定義されます。脳や身体の疾患を原因として、記憶・判断力などの障害が起こり、普通の社会生活が送れなくなった状態ということで、普通の社会生活ができなくなったところで認知症と呼ばれるというものです。
状況としましては、65歳以上の3人に1人は認知症とともに亡くなっているという統計があります。ここで考えているのが、防ぎうる認知症と防ぎえない認知症に整理できると。1つ目の防ぎうるのは、主として長年の生活習慣に起因すると考えられるもの。防げないのは、感染症、遺伝、若年性といった、長年の生活習慣以外に起因すると考えられるものになります。
○防ぎうる認知症の予防
加齢による認知機能低下の抑制が有効であるということで、認知機能がどのように加齢とともに推移するかという、これがコグニティブリザーブに関連する論文で書かれている図を、さらに少しアレンジしたものになります。
認知機能が最初から高めで、落ち方が緩やかな方もいます。それが青い線になります。それから、認知機能が最初から低めで、落ちるスピードも早いという方もいます。これが実線ですが、これに加えて、疾患による認知機能低下がどこかで始まったとすると、どこかのところで生活に必要な認知機能というラインを踏み越えて発症ということになります。
青い実線の方のように、最後まで線を踏み越えずに寿命を全うすることができれば、認知症とともに亡くならないという状況になります。寿命も延びていますので、70歳ぐらいで亡くなる方もいれば、100歳を超えて生きられる方もいらっしゃいますけれども、長生きをすればするほど、この一線を越える方が増えるという状況なので、とにかく加齢による認知機能低下の抑制が有効です。
○認知症の人が減っている国・増えている国
実際、認知症の人が増えている国と減っている国があるという統計もございます。減っているのはアメリカ、イギリス、スウェーデン、オランダ、増えているのは日本、中国という統計があります。ですので、社会システムですとか文化の影響も大きい。社会生活が送れないということなので、かなり相対的な状況にあります。
○認知症発症リスクを高めるもの
これも最近出たレビューで整理されていますけれども、若年期には低学歴、中年期には難聴、高血圧、肥満、高年期には喫煙、うつ、運動不足、社会的孤立、糖尿病。これも先ほどの近藤先生のお話にもあった要因で、それぞれの、特にライフステージに応じて影響があるとされています。
○認知症を予防する方法
その中で認知症を予防する方法を大きく分けますと、第一に、脳を含む体を若く保つ生理的アプローチがあります。ここで抗酸化作用のある食事をとったり運動をしたりするということです。第二に、認知機能を丁寧に使う認知的アプローチがあります。知的活動や社会的交流などです。
これらは主として観察研究で見つけられてきているもので、そういう意味では相関であって因果ではない可能性もありますけれども、そこに基づいて介入研究をデザインして、介入した結果変わると確認されているものは、一応因果としても成り立つというふうにされています。
○社会的交流と認知症発症率
社会的交流に関しまして有名なスタディがあります。社会的交流が少ない群は多い群に比べて、認知症の発症率が約8倍であるというものです。先ほど近藤先生の最後のお話にも、回想法が、唯一エビデンスがあるというお話があったのですけれども、それは軽度認知症と中程度までの方には効果があるというエビデンスです。社会的交流で健常高齢者を対象にして、かつ交流が中心の介入というものは、まだ報告されていない状況にあります。
○会話支援手法 共想法 定義と特徴
ここで社会的交流の介入を加入とする手法として考案したのが、会話支援手法、共想法というものです。会話の分量と強度を設定することが可能です。下がりやすい認知機能を活用するように会話にルールを加えております。
1つ目は、テーマに沿って話題と写真を用意すること。2つ目が、持ち時間を決めて会話をすること。ある種の日常会話を研究発表のように行うということでもありますが、慣れてくると普通の会話をよりアクティブにしているような形になります。関連研究としましては、先ほどもありました回想法がありますが、ここでは昔のことではなくて、今のことを話すというところが大きく異なります。
○会話解析評価技術の開発
会話解析評価技術を開発しております。ここでそういった会話をした場合に、どのような質の会話がなされたかということを量的に把握するためのものです。
赤の集合は、誰か参加者が話題提供している時に用いた単語のグループ。それから、質問の時に周りの人が使った単語の群が緑色。それに回答した時に用いた単語の集合が青というふうに色分けしますと、このようなベン図が描けるようになります。
このようにしますと、高齢の方は、話すのはできるという方もいれば、全然話さないで聞いてばかりという方もいらっしゃるのが実際ですけれども、本来頭を使うのは双方向の会話です。自分だけで話すと赤の集合だけが出てきますが、周りの方からのいろんな刺激によって、より幅広い単語が使われるというところで、青い部分が出てくる。そういった会話を実際脳に刺激があるというふうに考えて、それがなされたかを評価しております。ここで会話を通じて新しい単語を聞き、話すということが実際行われていることを確かめております。
○会話支援ロボット
この研究をする中で、こういう会話は認知予備力を高める上で良い会話であろうと、原理的に考えられるような会話を、日常生活の中でされている方々に出会いました。それが107、108まで生きられた、きんさんぎんさんの娘さん姉妹、画面の方です。
認知機能をフル活用するという特徴を備えた会話をされていて、発話の間に隙間がほとんどなく、かつ話者交代が頻繁に起こり、笑いとともに話者交代が起こる。先ほど、楽しいと良い方向に行くけれども、楽しくないとまずくなるという近藤先生のお話がありましたが、まさに笑いに包まれた会話をされていらっしゃいます。以上を通じて様々な認知機能をフル活用しながら、バランス良く会話に参加されています。
これらにヒントを得まして、笑い促進機能ですとか、話者交代支援機能を持つ会話支援ロボットなども開発しまして、早い時期に出願したものは特許登録されております。
○共想法 研究経過・計画
2006年の10月にこの手法を考案しまして約12年が経っております。たまたま私は、最初の5年は東京大学、次の5年は千葉大学、2017年から理化学研究所におりまして、研究ステージに応じた研究を展開しております。それと並行しまして、ほのぼの研究所が研究プラットフォームとして、主として実用化を最初の段階から同時並行で進めております。
○2017年- 種を苗に
最初の5年では共想法という手法、種を、認知症予防支援プログラムというサービス、苗にする方法を開発しました。これは今も引き続き行っております。
○2012年- 苗を畑に2012年から苗を畑にということで、この支援プログラムを異なる対象、施設で実施する方法を開発、協働事業(畑)として実施しております。これも引き続き継続しておりますが、現在、埼玉、茨城、千葉、大阪、以前には長崎の病院でも実施して参りまして、適用範囲ですとか、限界ですとか、そういったものを確認しながら研究を進めております。
○2017年- 畑を試験農園に
そして2017年から畑を試験農園にということで、安全性などはその前の研究で分かってきていますので、何にどう効くのかということをより厳密に解明することに取り組んでいます。エビデンス収集、アナロジーで言えば試験農園のようなものを目指して、システム化し、社会実装への基礎を作っております。これがちょうど理化学研究所に異動してからの時期になります。2018年度に在宅高齢者、健常の方を対象にランダム化対照群付比較試験を行っております。
○防ぎうる認知症にならない暮らしを支える共想法
防ぎうる認知症にならない暮らしを支える共想法ということで、継続をするコースを2011年から行っております。共想法に定期的に参加することを通じて、認知機能を使う行動をする暮らしを実現しようというもので、これを1つのペースメーカーとして参加されている方は、最近の出来事についていくらでも話せる活気あふれる高齢者となってきております。もともとの方もいらっしゃいますし、参加しているうちにそうなっていく方もいらっしゃいます。
記憶障害と言われますが、その前にそれらをドライブするのは興味とか関心とか行動である。それらを喚起しながら同時に使っていくということで、テーマも、好きな物事とか、とっつきやすいところから始まりまして、お掃除ビフォーアフター。これを機に捨てるもの、最後に食べたいもの、50年後に伝えたい今の暮らしというふうに、だんだん難易度を上げながら続けております。
○防ぎうる認知症にならない社会に向けて
防ぎうる認知症にならない社会に向けて何をしたらいいかということで、防ぎうる認知症にならない暮らしを支えるサービス。これはいろんなものがありうると考えていますが、この中に共想法関連サービスが位置づけられていて、それらが実践できる場や手段が身近にあり、どのような状況の人も認知機能を適切に使う行動をする暮らしをしている。逆に言うと、今はそういう暮らしをしている人が一部であるという状況です。
そのような暮らしを支援することや、その仕組みづくりを仕事とする人、事業、産業があるという状態を、遅くとも10年後、8年後ぐらいまでにできたらいいなと考えて、今、研究をしています。
そういう状態に向けて何があればいいのかというのをバックキャストしましたところ、1つ目がモノ。会話支援AIによる認知行動支援システムを作ること。2点目が手法。介入、解析、検査に資するAI技術を作ること。3点目がデータ。臨床試験により得られるエビデンスがあること。これらがあるという状態に向けて研究を進めております。
○会話支援AIによる認知行動支援システム
会話支援システム、これはウェブベースのものですが、それと連動してグループ会話支援ロボットを開発しています。クリーム色のお地蔵さんのようなロボットですが、これが現在最新版になります。さらに遠隔型アプリ、対話型ロボットなども試作段階として開発しております。
○司会進行と発話量制御機能を有するグループ会話支援ロボット
これは臨床試験で使えるレベルとしては作り込めております。司会進行と発話量制御。ずっと話している人に、さりげなくというか、ばちっと、ありがとうございましたと言って止めるとか、話していない人にいかがですかといって当てるというのが、自動でできます。これは特許として成立しております。
○システム フローチャート
これがそのフローチャートになります。実際に発話量のばらつきが小さくなり、皆さんが発言するような会話になっております。
○介入、解析、検査に資するAI技術
脳波データに基づく認知的負荷の機械学習に基づく判別技術も開発しております。認知機能低下とともに、同じことをやっても難しく感じる。認知的負荷が大きくなるということを使って認知的負荷をEEGデータから検出できれば認知機能低下を推定できるという考えで、まずはその人が難しいと感じているのか、そうでないかを脳波から見て判別する技術を開発しております。これはAIの国際会議のワークショップ、AI for Social Goodというところで報告しております。
○臨床試験により得られるエビデンス
医学的に証明するためにはRCTという方法をとる必要があります。2つの群に分けて、介入手法を使った場合、そうでない場合を実施します。今回は65人の方を半分、32人、33人で分けました。規模としてはパイロットですけれども、その中で週1回12週共想法、またはただのおしゃべりに参加していただいて、共想法群のほうが一部の認知機能検査得点が向上していました。あとは両方上がっている項目もあるので、そういったものに関しても、今後さらに精査していく計画です。
○防ぎうる認知症にならない社会に向けて
このグラフは認知症ではなくて、無歯顎者、自分の歯が1本もない人の割合です。1975年から2005年にかけて55歳から64歳で歯がない人は20%いましたが、30年間で2%になったという報告があります。これは8020運動という、80歳までに20本残すという厚生労働省が主導したプロジェクトの成果として、実際にこういうことが起こっています。
今、認知症や認知機能に関するセルフケアをやっている人が、そもそもそんなにいないというところで、伸びしろは大きい。全く歯を磨かずにみんなが虫歯になっているような状況が認知機能の分野において起こっているのです。8020運動のようなプロジェクトを認知機能分野で行えば、30年で認知症有病率を10分の1にすることも夢ではないのではないか。そうでないと次世代が困るということで、このまま次の世代に社会を渡せないという危機感のもと、何とかしたいということで研究を進めておりますし、それは不可能ではないと考えています。以上報告させていただきます。
(北野座長)ありがとうございました。これから10分ほど質疑応答をしたいと思いますよろしくお願いします。
(保科構成員)大変興味深いご発表ありがとうございます。特に話者支援ロボット、会話支援ロボットに非常に興味を持ちました。
いくつか質問がありまして、まず1つがグループ会話支援ロボットのところで、これは司会進行を人間ではなくてロボットがやったほうが実はよかったみたいなポイントがあればお教えいただきたいのと、技術的なお話になるかもしれないですけれども、冒頭、ロボットのところで笑い機能というお話があったので、それはどういった機能なのか。あと、グループで会話している時に、多く話している人と話していない人の、いわゆる判定をして会話を促していますけれども、話者特定に声紋認証を使っているのか、そういったところをお教えいただきたいと思います。
(大武構成員)ありがとうございます。1点目のグループ会話支援機能について、ロボットがやったほうがいいのかどうかということにつきまして、まずはスケーラビリティという意味で、ロボットがやることに意義があります。まだできていませんけれども、例えばこういう会場にグループがわっとあって、ロボットが各グループに一台ずつあって、全体を見ている人は人間というような状況を1つは想定しております。それができるのが、ロボットに司会をさせる意義の一つです。
あとはエビデンス収集という意味で、実施者との相性みたいな話が出てくるとややこしいのですが、ロボットであると条件を揃えることができるメリットがあります。その後の実用化という意味で、ロボットに司会進行を任せると、人間は、例えば行動観察する、あるいはその中でうまく流れに乗らない人を臨機応変にサポートすることができるというメリットがあることから、そういったものをやっています。
実際主観評価もやっていて、これは未発表ですが、少なくとも、話が長過ぎる時に止められるのは、人間よりロボットがいいという感想をいただいています。ロボットの方が、ばちっと止められるし、ある意味自動だとみんな分かっているので、納得頂けます。
(保科構成員)止めやすい。
(大武構成員)そうですね。バランスよく話すことに意味があるということは皆さんに共有いただいた上で、結構おもしろがって、止められると笑いが起こるというような、そういう感じで進めております。なので、どんなものなのかという了解を得ることも、結構重要かと考えています。
2点目の笑い機能は、笑い上戸の人がいると盛り上がる、けれども、なかなか笑ってくれない人ばかりだと、同じことでも誰も笑わないという状況を何とかしたいということが発端になっています。笑い上戸役をするロボットを一台、グループの参加者として交ぜます。参加者の笑顔度を画像で認識しておき、みんなの平均値が上がってくるとロボットが先陣を切って笑う。そうすると、笑い絶対量が増えるということを実験で調べています。グループに1人笑い上戸役が入るようにということで実装しています。
3点目の、参加者毎の発話量が多い、少ないに関する判定につきましては、これ自体が音源分離とか音源定位とか、あるいは声紋による話者同定という、研究課題になります。ここは、それができたとして何ができるかを研究しようと割り切っておりまして、ヘッドセッドマイクを全員がつけて、発話量を計測しています。先ほどの音声認識が難しいという話もあったのですが、全員指向性マイクをつけて、話者同定は、できたとして何ができるかを研究するという方向でやっております。
実際、高齢だからといってみんなが認識できないわけではなくて、非常に滑舌が良くてほぼ100%認識できる方から、べらんめえ言葉で、全然認識できない方もいらっしゃいます。今回そこはまだ精査できてないですけれども、非常に個人差が大きくて、加齢だけの問題ではないということも分かってきております。実用化という意味では、少々面倒ですけれどもヘッドセッドマイクをつけるというところで、それはそれとして乗り切っております。
(宮田構成員)質問というか、介護が続いたので少しコメントさせていただければと思います。前回のコニカミノルタさん含めた今回4者でお話をいただいて、特に身体面のAI、IoTを使った評価はかなり実用段階まできていると思います。認知症に関しては、介入部分はこれからということで、非常に期待があるのですが、今、私は労使協の理事だったり、老健さんとも一緒に働かせていただいて、現場からの期待としては、評価面がIoTで客観化するだけでも待望であると。
これは、当時の介護保険を決めた人たちが悪いわけではなくて、昔はデータも時間もなかったので、どれぐらいケアを提供したかで診療報酬が決まっていて、良くなるともらいが少なくなるという時代だったのですが、これがIoTによって客観的なADLが評価できれば、評価コストが下がるだけでなくて、頑張った分、ここへインセンティブでつけられる。非常に今、現場もこういう技術に関しては期待をしていてやる気になっているので、現状、AIの最初の段階の認識評価の部分だけでも、広く、安くというのが重要ですけど、普及させられればすごく価値があるのではないかと思いました。
(北野座長)すごく重要なポイントで、診療報酬や国家財政、健康保険支出との兼ね合いのインパクトというのは重要なことだと思います。
私から1つ質問があります。ロボットのリアリティのレベルというのは影響があると思います。今の技術ではもっと人間に近いレベルにもできます。例えば、そのレベルまで行くかどうかというのはありますが、阪大の石黒先生が研究しているようなロボットもあります。
(大武構成員)不気味の谷の。
(北野座長)話し方も、ロボットのような話し方もできるし、今は本当に人が話しているような話し方もできます。どちらのほうが良いでしょうか。それとも、それは受け手の好みなのでしょうか。どのようにやられているのでしょうか。
(大武構成員)私は機械だと思ってもらってよいかなと。
(北野座長)そちらのほうがむしろ良いということでしょうか。
(大武構成員)はい。あとは、しょうがないというか、顔は。
(北野座長)人間のようになりすぎるとよろしくないということですね。
(大武構成員)期待が大きくなりすぎるというのと、何でもできるように作り込んでいるつもりはなくて、あくまで機械なのですけれども、愛着が湧くような見た目がよかろうということです。実は別の研究で、介護の見守り用ベッドサイド転倒転落防止ロボットという研究をしています。そちらでは、ナースの方など現場の人にインタビューさせていただいて、いわゆるよくあるロボットの目がくりくりしているのだと、見つめられているようで怖いと。親和性が悪いという意見をいただいて、垂れ目の細めにしましたところ大変良いというご意見をいただきました。それで非常によかったので、これはグループ会話支援ロボットにも採用しようということで、垂れ目ラインでいこうということにしております。
(羽鳥構成員)大武先生、おもしろい発表をありがとうございます。最初の演題の「人間の知能を育む」という、ここに感動しました。もしかしたら量子コンピュータみたいに、ものすごい高機能のコンピュータの話かと思ったら、とてもフレンドリーな話でよかったです。
将棋でも碁でもAIが人に勝てるようになって、だけれども、今の若い人たちはAIの棋譜を見ながら定石で学んできてさらに強くなって、羽生さんを負かしてしまうようなことがある。AIのこの様な技術を応用して認知症になった人の塩迂回路の修正を求めていくシステムができると認知症の人が良くなるんじゃないかと、すごく夢があるものだと思いますので、誰にでも手が届くものをつくっていただきたい。
(大武参考人)とにかく早く減らしたいという思いがございまして、そういう意味では水際で防ぐというのでジャストアイデアなんですけれども、年金を受給する時にちょっとだけ認知機能を全員に取っていただく。取ったからあげるとかあげないとかではなくて、どういうふうに落ちていくのかみたいなことをもっと大規模にデータで取っていけたりすると、生活が成り立たなくなるほどまずくなる前に、みんなじわじわ悪くなっている状況でもありますので、介護施設に行ってからというよりも、その前の段階でのデータ収集をする仕組みを制度化していけると、研究も進みますし、まずいと分かった時に、総入れ歯になる前に、10本ぐらい抜けて10本ぐらい残っているようなところで何とかすることもできるようになると考えています。
(北野座長)それでは、時間となりましたので、ありがとうございました。
(大武参考人)ありがとうございます。
(北野座長)続きまして、資料3に関しまして事務局からお願いいたします。
(事務局)老健局の諏訪園と申します。どうぞよろしくお願いいたします。「介護・認知症領域における取り組みについて」ということで、ご説明します。時間もありますので、ポイントを絞ってご説明したいと思います。いくつか取り組みがございますが、本日、5つのカテゴリーについてのご紹介をしたいと思います。
[基盤としての「科学的介護」]
第1番目が基盤としての「科学的介護」ということでございまして、1ページから2ページ目にかけて、2ページ目に現在厚労省として取り組んでいるデータヘルス改革8分野において進めているわけでございますが、これの赤枠の部分、左下の科学的介護データの収集と分析、それから、右上のほうにある患者情報を共有化できる環境整備の中で、そういうものを進める中で介護情報の共有も目指していく。こういう2点の取り組みをしているところでございます。
○科学的介護データ提供サービス
科学的介護データ提供サービスにつきましては、3ページにありますように、データを収集して、どのようなサービスが有効か、ビフォーアフターで調べた上で科学的に分析し、それを新しいケアのモデルとして提示していくということでございますが、次にありますように、3つのデータベースからなっているところでございます。
○介護関連データベースの構成
最初が介護保険総合データベースで、要介護認定情報と介護レセプト情報。それから、リハビリ事業所からリハビリテーションの情報を収集して分析しフィードバックを行う、リハビリデータ専門のデータベースとしてのVISITと呼んでいるもの。それから、現在開発中でございますが、介入、状態等のデータ。日常生活動作に関する情報ですとか、バーセルインデックスなどの情報を収集するというもので、これは2020年度からの本格運用を目指しているところでございます。
○保健医療記録共有サービス
9ページに、2つ目の項目として取り上げた患者情報の共有のさらに先に介護情報の共有ということで、現在、保健医療記録共有サービスについての検討が進められているところでございます。
○保険医療記録共有サービスの実装に向けた工程表
10ページにありますように、それを進めていく中で、この工程表の下から2段目ですけれども、今後、介護保険関連情報として共有するデータ項目の精査、データの収集元・保管先の検討等々を進めた上で、このネットワークに介護情報を接続する作業に向けて検討を進めていこうという状況でございます。
[AIケアプランの取り組み]
○AIを活用したケアプラン作成支援の実用化に向けた取組
2番目の項目ですが、AIケアプランの取り組みということで、12ページに、これまでの取り組みとして老健事業というところで、セントケア・ホールディングさんと国際社会経済研究所さんに調査研究をしてもらっております。
現在は個別の取り組みに必ずしも限定することなく、国内全体でAIケアプランを作ろうというところが複数出てきておりますので、そういったところの様々な取り組みの実態の把握ですとか、あるいは実際に利用された方の評価などを通じて、どういう課題があるのかといったこと等を整理して、報告書をまとめてもらう予定にしております。
[介護ロボットの取り組み]
○介護ロボットの開発支援について
3番目の分野でございますが、本日もご紹介がございました介護ロボットにつきましては、14ページにございますように、これは経産省と連携して取り組みを進めているところでございます。機器の開発支援については経産省を中心に支援をしていただいております。
一方、厚労省は介護現場での様々なニーズ、使い勝手の問題を含めて、そうしたニーズをくみ取って、あるいは介護現場で試作機器を実証するということを通じて、その評価などをお伝えするということでございまして、ここに開発重点分野がございますが、赤枠が最近追加して、新たに重点分野として支援を進めているところでございます。
○ニーズ・シーズ連携協調のための協議会の設置
ニーズ・シーズを連携する、つなぐために、協議会を全国50か所に設置して、経産省さん、あるいは開発企業さんとの連携を進めております。
○今後の「介護現場革新プラン」の進め方について
また、16ページにございますけれども、これは必ずしもロボット、ICTに限らないのですが、介護現場で様々な業務がございます。ICTによる音声入力をすると記録の作業が減らせるのではないか。あるいは、介護ロボットといわれるセンサーを活用すると、夜間の見守りが軽減されるのではないか。あるいは元気な高齢の方を活用して周辺業務をやっていただくと、全体としてケアの質を維持しながら人も省力化できる。
こういったことを関係の団体と協議をして、本日2回目を行いましたけれども、そういった議論の方向性をとりまとめて、来年度、全国でパイロット事業を実施していきたいと、こういう取り組みでございます。
[認知症に関する取り組み]
4つ目が認知症に関する取り組みでございまして、本日お話がありましたが、認知症分野では主に3つの分野において活用されていると承知しておりまして、病態の解明、診断、そして、ケアというところで活用が進んでいると思います。本日ご説明のあった2人の参考人の方のご報告以外にも、こちらのケアコーチング、介護ケア業務改善、前回ご説明があったBPSDの予測といった取り組みが現在行われております。
[未来イノベーションWGについて]
最後でございますが、未来イノベーションWGを1月25日に立ち上げてございます。これは内閣官房にある協議会3つの下に設けたものでございまして、2040年ごろにおける未来の医療福祉分野のあり方を考える時に、将来見込まれる社会・地域の変化、あるいは技術革新を見据えて、バックキャストして中長期的な戦略を構築していくという観点から議論を行っていただくものでございます。
検討事項が21ページの真ん中にございますけれども、2040年の将来における日常生活を含めた国民の暮らしの中で、先端技術が溶け込んでいる社会システムという目標や将来像を作成して、その中で変容していく医療介護サービスを想定した場合に、必要になる技術・サービスを抽出する。
それを実現するためのムーンショット型プロジェクトの立ち上げであるとか、そうしたもののロードマップを考える。インテリジェンス機能をどう実現するか、政府だけでなくて民間投資のイノベーションの活性化をどうするか、政府の研究開発戦略のあり方を検討するといったことを議論していくということでございます。
次のページにあるのが、いわゆる立てつけの絵ということです。
○2040年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現
若干補足しますと、30ページに飛びますけれども、こうしたものが出来上がりました背景には、昨年10月に大臣より、未来投資会議において医療・福祉サービス改革を進めていく旨表明され、大臣から、関係する省庁とも議論して取り組みを進めるようにというお話がございまして、それを受けて経産省と議論して、両省で共同事務局を構成して、先ほどのワーキングを立ち上げたところでございます。
○本WGの議論のスコープ
具体的な進め方は36ページに、これは全部ご説明する時間はございませんが、先ほど申し上げましたように、バックキャスト型の議論、あるいはアプローチということですので、現状維持のシナリオをまず考えた上で2040年に目指す将来像を検討し、その上で目指す姿の実現に向けたアプローチを整理し、そのために必要なブレークスルーを検討する等々の取り組みを議論の枠組みとして行い始めたところでございます。
ここから先の資料は、説明は省略させていただきます。
○事故発生の防止及び発生時の対応について
前回ご質問がございました介護現場での事故、AI機器も今後出てくるだろうというところでのご質問がありまして、これについて77ページをお開きいただきたいのですが、現状、事故発生の防止及び発生時の対応につきまして、これは特養関係の規定を例に出してきていますが、施設の人員、設備及び運営に関する基準という省令がございます。
ここに事故発生の防止及び発生時の対応ということがございまして、施設はそもそも事故の発生またはその再発を防止するため、次の各号に定める措置を講じなければならないということで、事故発生の防止のための指針を整備するというのがまずあり、その上で事故が発生した場合等においては、その報告と改善策を従業員に周知徹底する体制を整備すること。そして、事故発生防止委員会を設置し、また、従業員に対する研修を定期的に行うということを求めてございます。
また、2項において、事故が発生した場合には、速やかに市町村、入所者の家族等に連絡を行い必要な措置を講じる。3項で、前項の事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなければならない。そして、サービスの提供により賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならないとしておりまして、また、それぞれ具体化してお示しした通知も出しているところでございます。
こうしたものを踏まえて、仮に事故が起こった場合には、損害賠償すべきものであれば損害賠償が行われるという形になってございます。ですので、事故の原因が人のケアによるものなのか、福祉機器、あるいは最近では介護ロボットといいますが、そういうものかは別にして、ですから、AIが入っているかどうかはともかくとして、何らかの事故があればこうしたルールの中で整理されるということでございます。
仮にAIが入っているかいないかは別として、工業製品でございますので、工業製品に起因する事故の場合には、そこに欠陥がある等の要件が満たされる場合には、製造物責任法の規律が及ぶと承知しております。以上でございます。
(北野座長)時間もありますので1つ、2つ、質問をお願いします。羽鳥さん、お願いします。
(羽鳥構成員)短めに2つ。22~24にかけて、健康・医療戦略の推進体制と未来イノベーションですけど、委員の名簿を見ていると医師会の先生が誰も入っていないんですけど、医師会も頑張っているのでぜひこういうところには入れてほしいのと、2つ目としては、先ほどのAIケアプランのこともありますけど、往々にして介護の意見書とか介護の現場では、医師外しとは言わないけれども、福祉関係の方が非常に強くて、医療関係の方がなかなか発言できないこともあるので、AIケアプランが前面に出てくるとまた医師外しにつながるのかなという恐れもあるので、必ず最後は医師の意見書がどこかに入るような仕組みは残しておいていただきたいなと思います。
(北野座長)ありがとうございます。事務局から今の意見に対して何かコメントはありますでしょうか。
(事務局)ワーキングについて関心をいただきまして、ありがとうございます。また中間報告をまとめましたらご説明させていただければと思っています。
(北野座長)それでは、もう1つだけ質問をお願いします。
(末松構成員)研究開発の面からお聞きしたいことがあります。今お示しいただいた資料の中で、長寿者のゲノム情報、ゲノムコホートみたいなものが一方で存在していますが、ゲノムコホートの中にはタグ情報という形で、85歳ぐらいからの生活習慣などがずっとフォローされているデータがあります。そして、100歳、あるいは110歳というところまでの最低1年に1回ずつのフォローアップというのを、複数の大学、医療機関で実施しています。
時間の余裕は我々にはなくて、一番最後にもありましたように、2040年に至る人口分布の「老化シフト」にどう対応するかということがすぐに今求められている状況だと思います。アカデミアが集めた情報と介護関連のデータを紐づけして、研究開発を推進するようなお考えが厚労省にないのかどうかをお聞きしておきたいと思います。
また人の一生を時系列で見ると、85歳以上の方が何かの病気で救急に運ばれて、十分にリカバリーせずにだんだん状況が悪くなっていくケースも多く、おそらく、これから20年の間に救急の体制もこうでなきゃいけないというような、要するに、今と全く違うことがどんどん起きていく可能性があるわけです。その時に時系列情報も含めた研究開発を包括的に行うような仕組みをぜひ考えていただきたいというのがお願いであります。これはAIと直接関係ないんですけれども、よろしくお願いします。
(北野座長)ありがとうございます。何かコメントはありますでしょうか。
(大武参考人)今のお話に非常に共感するというか、先ほど医師を入れるべきというお話もあったのですけれども、一方で、医師は患者が死んだら負けというか、死ぬことイコール失敗になってしまうので、とにかく死なせないという方向に物事が進みがちです。より良く生きるという意味でいうと、死んだら負けとは限らないということなので、そういう意味では、85歳以上の医療をどうするかというのはお医者様だけではなく、ありとあらゆる関係者を巻き込んで、85歳の人が救急で運ばれたらどうしたらいいかというのを考えて行かれればと思います。
今までは、働き手が急に倒れた時に何とかしないといけないというような医療しかなかったというか、そういうガイドラインに乗せないと、あとで訴えられるということなのですが、そうでなくていいのだということをみんなが共有するようになると、先ほどの認知症の有病率10分の1にも関わりますが、認知症になって20年たった人ががんになって、今だと治してさらに10年生きて、結局30年間認知症みたいなことになってしまうのですけれども、それはいかがか、というようなことも含めて、医者でない人にもっと入ってほしいというのが逆に希望です。
(羽鳥構成員)医師会も終末期医療というのを重要なテーマとして取り上げてます。僕も担当ですので、今日の意見は参考にします。
(大武参考人)もちろん、エンドオブライフとか、緩和ケアとか、いろいろあると思いますので。ありがとうございます。
(北野座長)そこは死生観や哲学的なところも含めた深い議論があるとは思います。ありがとうございました。
(西川課長)経済産業省です。諏訪園審議官からも説明がありましたとおり、厚生労働省と共同事務局で「未来イノベーションワーキンググループ(WG)」を開催しています。羽鳥先生からご指摘いただきましたが、もちろん医師会の先生方にも随時ご説明をしながらやっていきたいと思っておりますし、これまでも御説明させていただいておりますが、未来イノベーションWGにおいては、まずは2040年に向けて、ビジョナリーなご発言をいただけるような個人の方を中心にお集まりいただいて整理をお願いしているところでございます。実際に政策や研究開発プロジェクトに落としていく段階においては、医師会を含めていろんな方と整理をしながら進めさせていただきたいと思っていますので、ご指導をよろしくお願いします。
(北野座長)ありがとうございます。それでは後半戦、資料4「がんゲノム医療と人工知能」を間野先生からご発表いただき、その後、自由討議に入りたいと思います。よろしくお願いします。
(間野構成員)国立がん研究センターの間野でございます。今日は「がんゲノム医療と人工知能」と題しまして、おそらく今年のどこかのタイミングで、がんのゲノム医療が日本で保険収載されて国民医療としてスタートします。ですので、そのご紹介も含めて発表させていただきたいと思います。
○がんゲノム医療とは?
これはがんゲノム医療を簡単に模式化したものですけれども、簡単に言うと、がん患者の腫瘍部及び正常部のゲノム情報を用いて、治療の最適化・予後予測あるいは発症予防を行う医療行為というふうに考えることができます。例えば、遺伝性腫瘍の患者さんが見つかった時に、その人のご家族にまだがんは発症していないけれども、同じ遺伝子変異を持っているかどうかを調べて、その人のフォローアップを行うことによって2次発がんを予防するというものも、広い意味ではがんゲノム医療に含まれます。
実際にヒトゲノムは2万3000種類ぐらいの遺伝子が存在するのですけれども、そのうち薬に紐づいてる、がんの原因となって、それに対応した薬があるような遺伝子を100個とか300個とか集めて一度に調べる、がん遺伝子パネル検査というのがあります。それを個々の患者さんに行って、遺伝子パネル検査をやって、治療の最適化を図るというのが、これから日本で行われようとしているがんゲノム医療になります。
実際にがんの患者さんからサンプルをいただいて、それが検査室に送られて、次世代シークエンサーというたくさんの塩基配列を解析できる装置を用いて、がん遺伝子パネル検査に載っている遺伝子の配列異常を調べます。おそらく、複数のがん遺伝子パネル検査が日本で承認されると思いますので、それぞれ少しずつ遺伝子の数は違うんですけれども、薬に紐づいてる、あるいは遺伝子変異があることによって予後が分かるとか、そういう遺伝子の変異情報が次世代シークエンサーによって解析されます。その結果によって、個々の患者さんに、最適なお薬が選ばれることになるわけです。ところが、最適な薬を選ぶというのが実はそう簡単ではありません。
○EGFRタンパクとがん化変異
例えば今、日本ではEGFRという遺伝子、Epidermal Growth Factor Receptor、上皮成長因子受容体といいますけれども、上皮成長因子受容体に遺伝子変異があると、たんぱく質が活性化されて肺がんが生じるということが知られています。
上の図にありますように、EGFRというのは1200アミノ酸ぐらいからなるたんぱく質ですが、その中の酵素活性領域、右側の黄色のところですけれども、例えばL858R、これは858番目のアミノ酸であるロイシンがアルギニンに置換するような変異があるということを意味しています、という変異があるとEGFRが活性化されて肺がんの原因となります。
また、エクソン19内欠失といって、数アミノ酸が欠失するような変異がありますと、EGFRは活性化されてしいます。EGFRというのはもともと細胞を増殖に向かわせる酵素でして、ここに変異があると、酵素活性が数百倍にも増強して細胞を肺がんに導いてしまいます。EGFR酵素活性の阻害薬というのが既に作られていて、肺がんの人で、がんを調べてL858R変異があると、そのEEGFR阻害剤が臨床で使用されます。これは日本で既に薬事承認されて、実際の臨床で使われています。
ところが、肺がんの人の遺伝子変異を調べて、それがL858R変異とかエクソン19内欠失であればいいですけれども、下の図にありますように、実はEGFRには1000種類以上のアミノ酸変異がデータベース上に載っています。それらの変異が、上のL858Rと同じようにEGFRを活性化させて、だからこそ、EGFR阻害剤の治療対象であるかどうか全然分からないわけです。自分がたまたま診た患者さんが稀な変異であった場合に、その人にEGFR阻害剤を使うべきなのか、それとも、その変異はたまたまがんのゲノムの不安定性の結果生じた、いわばパッセンジャー、意味のない変異であって、EGFRの活性化と無関係なのかというのは分からないわけです。
ですので、代表的なアミノ酸置換が生じていれば話はシンプルですけれども、実臨床では肺がんの患者さんでも、何がんの患者さんでも、たくさんの遺伝子異常が見つかります。こういう変異の方がむしろ多くて、意義不明変異とか、variants of unknown significance、VUSと呼ばれています。VUSをどうするかというのは、すごく大きな問題なわけです。例えばある患者さんの肺がんがEGFRのVUSを持っていたとして、そのVUSがEGFRを活性化させる場合には、その患者さんにとっては極めて重要なの情報になるわけです。
○がんゲノム医療用知識データベースの構築
シークエンスをするたびに患者さんに見つかった変異を、医者が一生懸命PubMedの文献情報を調べても正確ではないですし、間に合いませんから、まず最初に、たくさんある文献情報を集めたがんゲノム医療用知識データベースを構築する必要があります。ここではCancer Knowledge Data Base、CKDBと呼んでいますけれども、この中に様々な遺伝子変異と薬との紐づけ情報を、膨大な科学論文の中から吸い出して、整理して格納しておく必要があります。
このCKDBの中には、例えば一番上に書いてありますけれども、その国において保険収載されている薬に対応する遺伝子変異、例えばEGFR阻害剤と、先ほどのEGF-R RL858Rはその典型なわけです、を格納してあります。
次は、例えばその国において、遺伝子変異に対応する保険収載された薬はないけれども、臨床試験が走っている。ですので、保険にはまだ認められていないけれども、臨床試験に入ることができるような薬に対応した遺伝子変異というのを格納します。もちろん刻々と臨床試験は変わっていきますので、常にデータベースはアップデートしていく必要があります。
例えば、日本のCKDBを作る場合には、アメリカで承認されている薬に対応した遺伝子変異というのも入れておくべきでしょう。FDAというのはアメリカの薬事承認をする機関ですけれども、FDAで認められた薬の遺伝子変異もCKDBには入れておくべきだと考えられます。
それから、薬に直接は紐づいていないけれども、がんの予後を予測することができるとか、既に公的なデータベースでがんとの関連が報告されている遺伝子変異もここに入れておくべきだと思われます。ClinVarとかOncoKBというのは公的なデータベースですけれども、そこに既に報告されているような遺伝子変異というのは、日本のCKDBに入れておくべきだと考えます。
それでもなお、山のようなVUS、意義不明変異ががんのゲノムにはたくさんありますので、それらはどこかの誰かが論文で報告していないかどうか定期的にサーチして、それをデータベースに入れておく必要があります。ここに人工知能が必要なわけです。
文献情報は膨大ですから、その中から、少なくとも遺伝子変異とがんの薬との紐づけに関係するような記載がないかどうかをサーチして、そこであらあらに文献を選び出して、あとはマニュアルでキュレーションして正しい情報を入れておくといったCKDBを、日本においても国が保証して作るべきだというふうに考えます。
○Natural Language Processing(NLP)
膨大な文献情報から意味のある、例えば遺伝子変異と特定の抗がん剤との間に因果関係があるということが推測されるような論文を探し出すために、さすがに最初のスクリーニングを人でやるわけにいきませんので、人工知能が必要になります。
ここにおいてはいわゆる自然言語処理、Natural Language Processing、NLPと呼ばれますけれども、NLPというのが重要な働きをします。NLPについては、実際に文献情報のデータベースとして世界で最大規模のアメリカのPubMedが、そこの生物学論文の解釈にどの程度有効なのかということを調べるため、いろんな領域の研究者を集めてワークショップを行っています。
NLPはもちろん英語だけではなくて、いろんな言語において自然言語処理が行われるわけですけれども、例えば日本語ですと、形容詞とか形容句、動詞、接続詞、そういう構成要素の理解も必要ですし、辞書も必要ですし、シソーラスも膨大な量が必要ですし、さらには言語特有の文の形のデータベースというのも必要になります。構文の形みたいなことをたくさん集めたのをコーパスというんですけれども、そういうふうな膨大な知識情報をもとに、それぞれの文の構成成分を、ここは形容詞です、ここは動詞です、ここは目的句ですとか、そういうふうに切り分けていって、さらにそれの意味を作るというのを自然言語処理では行うわけです。
まだ人工知能はそれほど優秀ではなくて、形態素解析という構成成分を、ドメインは何かということを解析するのは、かなり精度良くできて、90%あるいは95%以上の正解でドメインを言い当てられる。それは日本語だろうが英語だろうができるんですけれども、実際にその文が、最終的にそれを肯定している文なのか、あるいは肯定していない文なのかというのは言語によっても癖があって、なかなか難しいというのが今の現状です。
数年前の報告では、文全体の正答率は6割程度なので、それをそのまま人の命に関わる電子カルテを読み込むのに使うのは、1次スクリーニングはできるんですけれども、今の段階では、それ自体に完全に頼るのは厳しいのではないかと個人的に思います。でも、遺伝子変異と薬との関係に因果関係を意味するような文があったということ自体はNLPでも分かりますので、それでパブメドから必要な論文をサーチして、そのあとマニュアル、人によるキュレーションを経て、そこのCKDBに入れていくことが必要です。
○日本のゲノム医療体制
これが厚生労働省が日本で作ろうとしている、がんゲノム医療体制を表したものです。一昨年にがんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会という会議体が開かれて、2年後の、つまり今年ですが、ゲノム医療をスタートする時に、日本においてはどのような体制で、どのようなインフラを備えて、がんゲノム医療をスタートするべきかということが議論されました。
日本では毎年100万人の人が新しくがん患者さんと診断されて、亡くなる方が38万人ほどいらっしゃいますので、非常にたくさんの方ががんに侵されて亡くなるわけです。日本は皆保険ですから、諸外国のようにゲノム検査を受けられる、お金を払える人がその恩恵を受けるというのとは全く違うインフラを日本で作る必要があります。
そこで提案されたことは、1つは、最初からすべての病院でゲノム医療を行うというのは非現実的なので、日本の中で限られた要件を満たしたような病院でゲノム医療をスタートして、段階的に増やしていこうということでした。それが日本のがんゲノム医療中核拠点病院、図の左側にありますけれども、がんゲノム医療中核拠点病院とか、がんゲノム医療連携病院になります。
そこに患者さんがいらして、インフォームドコンセントを経た上でゲノムの検査を受けたいとなりますと、左上の検査会社にそのサンプルが送られて、検査会社から患者さんにレポートが返ってきます。日本は皆保険でそれだけの患者さんのゲノム医療を行うわけですから、ゲノム医療検査を受ける患者さんのゲノム情報と臨床情報、薬が効いたとか、効かなかったとか、それから、薬を使ったら重篤な副作用が出たという情報を集めるようなデータセンターを作ろうというのが、その懇談会で提言されたもう1つの重要なポイントになります。
そのデータセンターが、がんゲノム情報管理センター、Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics、C-CATというふうに我々が呼んでいるものです。C-CATが右側に書いてあるブルーの四角になります。検査会社からC-CATに対してゲノム検査を受けた患者さんの元データが送られて、セキュアな形でC-CATに送られてまいります。
一方、中核拠点病院や連携病院からは患者さんの臨床情報が送られてきます。もちろんすべての臨床情報がここに送られてくるわけではなくて、基本的ながんの情報と、薬を作る上で極めて重要な、薬が有効だったか、無効だったのかという薬の有効性情報。もう1つは、非常に重篤な副作用があったかという情報です。
吐き気とか脱毛はほとんどすべての殺細胞薬でありますので、そういう情報は集めなくて、例えば致死的な肺線維症とか、投薬中止に至った肝機能障害とか血小板減少症とか、非常に重篤な副作用の情報をC-CATに集めてまいります。C-CATにはゲノム情報と極めて貴重な臨床情報が集まる、その両方が紐づいて蓄えられるがんゲノム情報レポジトリーというデータベースが存在することになります。
C-CATでは1人1人の患者さんに対して、そのゲノム情報をC-CATの中で作っているCKDB、さっき申し上げたがんゲノム医療用知識データベースに当てて、この患者さんはこの変異を持っているからこういう保険のお薬が使えます。あるいはこういう変異を持っているから、日本でこういう番号の臨床試験が走っているこれが適合するかもしれないという臨床的意義づけのついたC-CAT調査結果というのをそれぞれの病院に返します。
なお、これは医療行為ではありませんので、これは決して患者さんに返すものではありません。ゲノム医療体制では中核拠点病院で各患者さんに最終的にどういった治療を行うかということを議論するためのエキスパートパネルという会議体を作ることを必要としています。C-CAT調査結果はあくまでエキスパートパネルにお返しして、病院の医師や看護師、薬剤師、がんゲノムの専門家、あるいは遺伝カウンセラーといった人が集まって作るエキスパートパネルで、議論をする上での重要な参考資料となるように、C-CAT調査結果を1例1例、必ずお返しすることにしています。
一方、こうして膨大にたまっている情報は、アメリカと比べると日本はがんの患者さんに使える薬は少ないですので、日本で使える薬を最大化するためにいろんな新しい枠組みを作っていくことにも役立てます。さらに言えば、例えば、ある遺伝性腫瘍の患者さんは何人くらい日本にいるのかとか、例えば新しい遺伝子Aの変異に対するお薬を承認する時に、どれぐらいの医療経済効果があるかというのも、C-CATがあれば科学的に把握することができます。
C-CATデータは様々な使い道があるんですけれども、その代表的なものとして、右側の矢印に書いていますように、このデータをぜひアカデミアや企業の方にも使っていただいて、新たな治療薬、新たなバイオマーカー診断薬の創出に役立ててもらいたいと思います。
臨床情報がゲノム情報と紐づいて、おそらく何万、何十万とたまっていく国は世界にありませんので、日本はゲノム医療を行う上で世界で最も有用なリソースを持つ国になります。最初に患者さんからインフォームドコンセントを得る時に、そのデータをC-CATに送っていいかどうかとともに、もう1つ、C-CATに送ったデータを2次利活用していいですかと聞いていますので、もちろんその質問に対してイエスと答えた患者さんのデータだけですけれども、そのデータを使って新しい治療標的や新しいバイオマーカーを見つけてもらいたいというふうに考えています。
最初から、アカデミア、企業も含めた利活用を前提としたインフォームドコンセントを得ますので、このデータを使って、おそらく世界中の製薬会社が、新しい治療標的やバイオマーカー探索というのをやってもらいたいと考えています。
それに加えて、C-CATのデータ収集がうまく回り始めたら、例えば集める時に、ゲノムデータだけでなくて、例えばX線のレントゲン写真とか病理画像を集めますと、それのAI開発が可能になります。
さらに言えば、海外では全国レベルで臨床情報を集めることができないんですね。そのため、これは日本の最大の強みになると思います。また、これは個人的な希望ですけれども、日本中の臨床情報を集めるプラットフォームの上で、がんの全ゲノム解析をやりたいと考えています。
現在、がんのお薬で有効なものがあるのは、すべてのがん患者さんの中で2割から3割ぐらいしかありませんから、残りの7割から8割の患者さんに薬を届けるためには新しい発見をしないといけないし、そのためには今まで全くしてこなかったがんの全ゲノム解析をやる以外の選択肢はないと思います。それを、臨床情報を集めるシステムがある日本の中で、C-CATのプラットフォームの上で全ゲノム解析をやることは、極めて重要な国家プロジェクトではないかと考えています。
○AIによる新しいパイプライン
人工知能は、先ほど申し上げたようにCKDBを作る上での自然言語処理もそうですし、今はまだ予定されていませんけれども、将来的に画像を集められるようになれば、ディープラーニングを使って画像診断装置みたいなものを作る可能性もあります。
ただ、ゲノムに限っても、これからやることがたくさんあります。これはパイプラインのいくつかを述べたものですけれども、これまでのゲノムの解析のコンピュータパイプライン、コンピュータソフトウェアというのは、そのゲノムポジションの特定の塩基置換が、周囲のバッククラウンドのノイズと比べてどれぐらい有意に変異しているかを調べるアプローチが金科玉条で、それをもとに、これは異常だ、つまり、がんの原因であるということが議論されていました。
つまり、単一の塩基置換というのが今までのすべてのゲノム解析の着眼点だったわけです。それはほとんどやり尽くされているので、これからはおそらくコンビネーションが問題になってくると思います。そこに書いてありますように、複数の体細胞変異、あるいは生殖系列の多型、それから、遺伝子の発現データ、遺伝子のエピジェネティックなデータの組み合わせから、特定のがんを特徴付けるものを探すことがこれから必要になると思います。
これを我々としては全ゲノム解析と併せて行いたいと考えますし、そのためには非常に大きなメモリを積んだGPUの非常に大規模なクラスタが使える環境が必要になってきます。例えば左の下に示す論文に、単一の生殖細胞系列の多型、単一のSNPだと統計的有意差が出なかったけれども、実は複数のSNPが同時にあることが病気に極めて強く関連することが既に報告されています。当たり前といえば当たり前ですけれども、がんはたくさんの遺伝子変異が重なってできる病気ですけれども、重なってできる時に、前にある変異と新しくある変異の間に因果関係がないわけがないわけです。
つまり、クローナルセレクションされる上で、ほかにもいろんな変異は起きるけれども、一番がん細胞にとって得になるような変異がクローナルセレクションされるわけですから、当然因果関係はあるわけです。ですから、そういうものを組み合わせて解釈するようなコンピュータパイプラインが必ずや必要になると思いますし、それをC-CATでも作っていきたいと思います。
その組み合わせは、例えば右にありますように、今まで予想していたようなたんぱくをコードするところ、つまり、狭い意味での遺伝子に変異があるだけでなくて、例えば遺伝子がないところに、Non-coding RNAと書いてありますけれども、たんぱく質を作らないRNAのところにも変異があります。人のゲノムでたんぱく質を作るところは約1.5%しかありませんから、98.5%はまだ何をしているか分からないんです。
ところが、何をしているか分からない98.5%のうち、7割から8割ぐらいはRNAに転写されています。それが何のために転写されているかは誰もまだ分からない。おそらくRNAがたんぱくと一緒に作用していろんなことをしているんだと思いますが、何をしているか分からないNon-coding RNAの変異は、もしかしたら単一の塩基が変異するホットスポットがないかもしれなくて、広い領域が壊れているのかもしれないので、領域の変異と特定の遺伝子の変異とが重なった時に、どういうがん種が起きやすいかという視点に立ったコンピュータのパイプラインというのが、これから必ずや必要になると思います。
左側の生活習慣病の遺伝子多型の組み合わせが大事だというデータからも、それが類推されます。ですので、さっき申し上げましたように、自然言語処理ももちろん使いますし、画像の診断のためのディープラーニングも使えますし、こういった新しいタイプのパイプラインをこれから開発していきたいと考えています。以上です。ありがとうございました。
(北野座長)ありがとうございました。本件、討議に入りたいと思います。
(山内構成員)間野先生、ありがとうございました。日々若い女性を乳がんで亡くして、非常に悔しい思いをしている私たち臨床の者にとっては、こういうのがどんどん進んでがんがなくなればいいなということで、非常にプロミッシングな体制だと思っています。特にゲノムのデータはこれからどんどん集まってくると思うので、こういったものがきちんとできていけばと思います。
先生の6枚目のスライドの、がんのゲノム情報のレポジトリーで臨床情報というのがあるんですけれども、この会議の最初でも、皆さんが臨床情報とか臨床の現場のデータを欲しがっていることは非常に分かるんですけれども、そのデータを入れることで、日々臨床の現場ではあっぷあっぷで、入れてくれるデータマネージャーもなかなか現場では雇えないし、人材もいないので、宮田先生も関連するNCDのデータは、外科医が外科の専門医を取るためにやらなきゃいけないので、研修医が頑張って入れていますけれども、その時間ですら医者の働き方改革で、むだと言ったらいけないですけれども、ほかがやってくれれば。
AIがこれだけ進んでいるのに、なんでそこだけ人海戦術なんだろうということを非常に感じていて、先ほど厚労省のほうからも発表がありました保健医療記録共有サービスとか、国民がみんな、アメリカのようにソーシャルセキュリティナンバーとか、韓国のようにソーシャルセキュリティナンバーで全部の医療情報にアクセスできれば、全部が共有して、毎回毎回入れなくていいわけです。
今回、臨床情報も、がん対策基本法でがん登録をしているじゃないですか。それを使えるのかとか、今後AIの開発において使えるのかどうか、今後のことだとは思うんですけれども、私が声を大にして申し上げたいのは、そこだけが全然後れていて、皆さんが欲しいデータを人海戦術で入れなければいけない。そこを何とかしてほしいというのが現状だと思います。
(間野構成員)私も、そうだ、そうだというふうに声を上げて言いたいんですけれど、例えばがん登録推進法で、院内がん登録と全国がん登録の情報があります。私たちはそれをぜひ突合したい。院内がん登録とか全国がん登録であるのに、同じ厚労省の事業なのに、それが突合できないのはあまりに。ちょっと言葉をやさしくしようと思って(笑)。
それは突合するべきだと個人的には思います。今の法律だと、例えばがん登録推進法だと、名寄せを名前とか生年月日とか住所で行うんですけれども、C-CATは名前は受け入れていないので、今のままだと突合することができない。さらに、がん登録推進法だと2次利活用を許していないんですね。だから、私たちはぜひ一緒にさせるべきだと考えますし、2年半後ぐらいにがん登録推進法の見直しの時期が来ますので、ぜひその時に、こちらと一緒にするような形にしたいというふうに声を上げていきたいと思います。
それから、アメリカの、例えば100万人以上のペーシェントを持っている電子カルテから医療用のビッグデータを作っている会社はいくつもあるんですけれども、実際に詳しく聞いてみると、彼らも人を使っているんですね。だから、システマティックに、オートマティックに、ボタンを押せばAIがやってくれるというのは幻想にすぎなくて、実際にデータを吸い上げて、それがどういう種類のデータかというのはAIによって振り分けをしていますけれども、最後はマニュアルキュレーションです。
アメリカの非常に代表的なメーカーも、1000人ぐらいのキュレーターチームでカルテをキュレーションしています。ですから、現実的な解決策としては、AIが進歩していくとともに、構造化したカルテの形態に、カルテの側も歩み寄ってくる必要があると思います。
今回C-CATで行う時には、電子カルテのベンダーが日本には幸いメジャーなものは数が少ないので、彼らに依頼して、C-CATにデータを送るための専用の電カルのページを作ってもらい、それを拠点病院に実装していく。ドクターはプルダウンで入力するだけで、そこで「送る」とやるとC-CATに自動的にデータが送られてくるようになっています。
これは厚労省がそういうシステムを作ることをサポートしてくださったのでできたわけですけれども、こういう形ががんで非常にうまくいけば、これはがんだけに限るようなシステムではなくて、例えば膠原病とか遺伝素因が強いような疾患に対して、同じようなことがこれからもできるようになると思います。
(北野座長)データベースについて、行政に動きはあるのでしょうか。それとも、これから検討という状況でしょうか。
(宮田構成員)では、厚労省に代わって。代わってというか、データヘルス改革推進本部で一緒に動いているので。
まさに間野先生におっしゃっていただいたんですが、アメリカだったりイギリスは、ちょっと前まで少し日本より後れている部分があったんですが、ミーニングフルユースということだったり、あるいはイギリスだと政府が強く主導して、インターオペラビリティを実装しないと国がサーティファイしませんよという強いリーダーシップで、そこを標準化に持っていっています。
両国に聞いても、国の役割は非常に意義があったという話でもありますので、今まさに厚労省の側では、そういった海外の事例も踏まえた上で、コストを抑えながら統一化していく方向を模索していただいているところなので、そこに間に合わせられればいいかなと。
あとは、がん登録の2次利用に関してはぜひ、何度聞いても、施設に予後情報が来るだけでもだいぶ医療は変わってきますが、これができないという回答が返ってきてしまうので、ここも同時に解決していただくといいなと思いました。
(葛西参与)ありがとうございます。私が答えたほうがいいような話を、宮田先生のほうから。データヘルス改革推進本部におりますので、私のほうから簡単に。意見も後半あります。
自動的に各病院機関さんのほうであまり負担なくデータが交換できる仕組みというのは、全国保健医療ネットワークでも検討しております。今、間野先生の、これはもちろん私もやっているんですが、インフラは実は分野ごとにいろんなものが重複されているんですね。これは徐々に今設計を集約して、二重化がないようにしようとしている次第です。なので、2020年ターゲットのところで、徐々にデータの交換が楽になるような仕組みで設計を進めております。
ただ1点、実は課題がありまして、これは私の意見ですけれども、データヘルス改革推進本部にいると、今日もそうだったんですけれども、前半、介護、IoTの話がありました。途中で脳波の話もありました、データは。EEGの話もありました。近藤先生の話ですと、途中でロボットが出てきました。グレイルという有名なロボットですけれども、ロボットの話もあります。当然間野先生のところでやられているような自然言語処理と、がん登録の転記情報があったり、自然言語処理系があって、膨大な量のデータ形式の宇宙の中に、私は今おります。
これをうまく交換するためには、諸外国では、今、間野先生がおっしゃられたとおり、キュレーションだったり、アトリビューターといわれる、どのデータを取り出して、どういうふうにくっつけて分析をすると、適材適所にスマートに分析ができるかという人間がいるんですね。この部分が非常に少ないです。医療の分野は、分野、分野のエキスパートの方が結構いらっしゃるのですが、データ交換の仕組み、アトリビュートする仕組みを考える人間はほぼいないんですね。ここの部分で苦労しているのは確かでございます。
もう1点が、分野、分野のエキスパートがやられているせいで、システムが二項対立になっていまして、クラウドがいいとか、オンプレミスがいいとか、ストレージ型がいいとか、データベース型がいいとか、それぞれベンダーさんも仲が悪かったりします。こういったことの背景で言うと、そういう二項対立というのは非常にむだだと思っております。例えばAPIとかデータ交換技術が仮想的に行われる仕組みが、諸外国はあるんですね。
仮想的にデータ交換するような、クラウド上で行動・実行できるような仕組みを取り込む必要があるなというのは検討しておりまして、今まさに間野先生のところでもそういう話が。人工知能も種類がいろいろありまして、まだまだ一緒に検討していかなければいけないなというところがあるので、技術的にすべてバラ色ですとはまだ言いません。ただ、仮想的にデータを交換する仕組みだったり、アトリビューターだったり。そういった方々を何とか確保していくことによって、皆様が懸念されている課題を解決する必要があるかなということだけ、意見としてお伝えしたいと思います。
(米田構成員)間野先生、宮田先生、ご意見ありがとうございます。本日のご発表を見させていただきまして非常に感銘を受けております。スライド6ページの日本のゲノム医療体制、このご説明の際に、既に患者さんから2次利用まで含めてICを取得することで、企業がC-CATのデータにアクセスして、治療薬がないがんに対しての治療薬を開発できる。ないしは、がん患者をより効率的に診断できるバイオマーカーを見つけることができる、そういった枠組みにはなろうかと思います。
したがいまして、ICを取得する際に、患者さんが2次利用まで同意できるようなインセンティブを高めるような啓発活動も含めて、ぜひ本件については前向きに取り組んでいただければ非常にありがたいなと思います。
(北野座長)他にご質問がある方いらっしゃいますか。山本さん。
(山本構成員)山内構成員もおっしゃいましたけれども、AIの1つ1つの技術は重要だと思うんですけれども、それをどれだけ簡単に使えるようにするかというところも一緒に考えるべきだと思っています。
例えば、うちはリハビリに福祉機器型のHALというロボットスーツを導入しています。あれ自身はいいんですけれども、それを着けるために10分、20分かかってしまって、それに手を取られるので、結局PTさんの仕事が増えてしまって、PTが疲弊する状況が生まれています。どれもそういうことがあって、SFであるような、パタッと入るとそこにパシッとHALがつくようなところまでやっていただかないと、介護現場で使えないという状況がありますので。
それと、私は特に医療のほうで、電子カルテですね。電カルは今あまりに複雑になって使えないです。タブが横に10個ぐらいあって、縦に30個ぐらいあって、1つ1つの画面に階層が2つか3つあるので、分からないです。特に救急の現場とか、1つの処方をして、医者が処方を切って、それを薬剤部が受けて処方を出して、それを、この患者さんにこれをいくらいくら、いついつ入れてくださいという指示を出して、その指示を看護師が受けましたという入力をして、そして、それを実行しましたという入力をしないといけない。
そんなもの救急医療でやってられないというのがあるので、現実にどうしてるかといったら、全部やってから入れるか、やる前に全部入れてからやるというようなことになっていて、それがまた医療事故を生むというようなことが起こっているわけです。
先ほど音声認識がまだ悪いというのを聞いてがっくりしたんですけれども、入力のところをAIを使うとか、ある程度バラエティのある入力があったとしても、それがAIを使ってうまく標準化されるとか、真にインターフェースが簡単になるというところの解決まで、技術を作っていく時にそこまで考えてやっていただくというところまで、提言していきたいなと思いました。
(羽鳥構成員)間野先生のIBM、富士通で入力していくと、C-CATにうまく取り込まれるというお話は感銘を受けたんですけれども、厚労省にもぜひお願いしたいんですけれども、開業医版の電子カルテも完全にガラパゴスになってしまったんですが、今からでも遅くないので、最低限入れなきゃいけない項目、例えば家族歴とかワクチン歴とか既往歴とか、遺伝子情報も入ってもいいかもしれませんけれども。
例えば10項目とか15項目入れなかったら電子カルテとしては認めないとか、あるいはそういうことを入れる医療機関は+1点するとか、何か工夫して、開業医のデータもきちんと集められるような仕組みを。
今からでも遅くないので、ぜひ間野先生にならって今から組んでいただけると、宮田先生にもお手伝いしていただいている日本医師会でやっているJ-DOMEの事業もきっと進むと思うので、ぜひよろしくお願いします。
(北野座長)ありがとうございました。時間となりましたので、今日の議論はここまでにしたいと思います。事務局から次の予定等をお願いします。
(事務局)次回の日程でございますけれども、3月20日の水曜日、2時から開催を予定しております。詳細につきましては、追ってご連絡をさせていただきたいと思っております。また、本日の資料の準備の関係で、動画の再生の部分、うまくコミュニケーションがとれなかった関係で準備することができませんでした。次回はそういったことがないようにしっかりと対応したいと思います。以上でございます。
(北野座長)ありがとうございます。本日はご苦労さまでした。ありがとうございました。

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