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「異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針」に基づく3T3J2株及び3T3NIH株をフィーダー細胞として利用する上皮系の再生医療への指針


別添

「異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針」に基づく3T3J2株及び3T3NIH株をフィーダー細胞として利用する上皮系の再生医療への指針




平成15年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業

主任研究者  吉倉 廣(国立感染症研究所 所長)


「異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針」に基づく3T3J2株及び3T3NIH株をフィーダー細胞として利用する上皮系の再生医療への指針

前書き
 平成13年度厚生科学研究費厚生科学特別研究事業で策定された「異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針」(以下、「異種移植指針」という。)は、再生医療分野でフィーダー細胞として異種動物の細胞を使用する場合も適用範囲としているところである。同研究事業において平成15年度は中でも3T3J2株及び3T3NIH株をフィーダー細胞として利用する上皮系の再生医療を行う場合について、「異種移植指針」の適用条項について再検討を行い、それらの条項について必要な改正を行うべき検討を行った。本指針は、現場の利便を考え「異種移植指針」の適用条項について抜き出したものである。
 また、本指針も異種移植そのものの有効性、倫理性等の確保及び移植患者における感染症一般の予防を目的とするものではないことは「異種移植指針」と同様である。そのため、臨床研究一般の指針である「臨床研究に関する倫理指針」(平成15年7月30日医政発730009号)を併せて用いることが重要である。

1.総則

1.1 目的
 公衆衛生学的な観点から、異種移植に起因する未知の感染症に対して、感染及びその拡大を防止することを目的とする。
 指針に示された方法以外の方法であって、公衆衛生上、指針に示された方法よりも感染症予防の観点から科学的に妥当なものがある場合には、その根拠を示した上で、その方法を採ることができる。

1.2 定義
 1.2.1 異種移植
  (1) 本指針において、異種移植とは、次に掲げることをいう。
 ヒト以外の動物に由来する生きた細胞、組織又は臓器をヒトに移植、埋め込み又は注入すること。
 体外において、ヒト以外の動物に由来する生きた細胞、組織又は臓器に接触したヒトの体液、細胞、組織又は臓器をヒトに移植、埋め込み又は注入すること(接触には、共培養による間接的な接触を含む。)。
  (2) 従って、動物由来のものであっても、それ自身が生きていない物、例えば、心臓弁、インスリン、血清アルブミン等の材料又は薬剤をヒトに使用することは、異種移植に含めない。

 1.2.2 フィーダー細胞
 ヒト由来の細胞を増殖させるために共培養される異種細胞をいう。

 1.2.3 培養組織
 ヒトに移植するため、ヒト由来の細胞をフィーダー細胞との混合培養により増殖させた組織をいう。

 1.2.4 微生物学的監視
 ドナー動物、移植患者及び医療従事者等に対して、血清学的検査等適切な方法を用いて、感染性病原体の感染の有無を継続的に調べることをいう。

 1.2.5 医学的記録
 移植患者についての、異種移植実施前後における健康状態及び微生物学的監視の結果を記録したものをいう。

 1.2.6 マスターセル
 実際のフィーダー細胞を作成するための元となる細胞をいう。

 1.2.6 ワーキングセル
 マスターセル由来の、実際にフィーダー細胞を培養するために使用される培養された細胞をいう。

1.3 基本原則
 1.3.1 異種移植を実施する前提
 ヒトの細胞、組織又は臓器を患者に移植する同種移植は、既に臨床の場で定着しているが、その需要に対して供給がはるかに少ない。そのような問題を背景に、異種移植についての研究が進展してきたところである。
 しかし、異種移植については、フィーダー細胞に由来する病原体の移植患者への感染及び伝播による公衆衛生学的な危険性を、現在の医学では完全には排除し得ないおそれがあるため、サーベイランス等感染症対策を十分に行うことができることが実施の前提となる。

 1.3.2 薬事法との関係
 薬事法の対象となる場合には、これに従うこと。薬事法に規定されない部分等については、本指針を参照されたい。

 1.3.3 その他の指針
 薬事法及び遺伝子治療臨床研究に関する指針の他、遵守するべき指針等がある場合、当然のことながらそれらに従うこと。

 1.3.4 個人情報の保護
 異種移植に関係する者は、取り扱う際に知り得た移植患者に関する個人情報を漏らしてはならない。また、その職務を離れた後でも同様である。

1.4 指針の見直し
 本指針は、科学技術の進歩、フィーダー細胞等の取扱いに関する社会情勢の変化等を勘案して、必要に応じて適切な場で見直すことが必要である。

2.培養組織

2.1 確認試験
 培養組織にフィーダー細胞が存在するか否かの確認試験を実施すること。

2.2 試料の保存
 培養組織の試料を30年間、冷凍保存すること。

3.インフォームド・コンセントの方法及び内容

3.1 インフォームド・コンセントの方法
 異種移植の実施にあたっては、予測される医療上の利益や危険性、移植患者の医学的記録や管理、個人情報の保護等について、ヘルシンキ宣言(2000年10月エジンバラ修正)及び本指針の趣旨を踏まえ、次項に示した内容を含めて、移植患者に文書を用いた適切な説明を行い、移植実施及び関連する事項について文書による同意を受けること。

3.2 インフォームド・コンセントの内容
 移植患者に対する説明事項のうち、異種動物由来感染症に関する事項として、少なくとも以下の事項を含めること。
(1) フィーダー細胞に由来することが判明している病原体による感染の可能性。

(2) 現在まで報告が無いものの、フィーダー細胞由来の未知の病原体の感染の可能性を理論的には否定出来ず、その症状や発病時期についても予測出来ないこと。

(3) 上記病原体は、移植患者に接触する家族や性的交渉相手等体液に接触する可能性のある者に感染する可能性を完全には否定できないこと。

(4) 移植患者に異種動物由来の感染がもしも成立すれば、例えば、無防備な性的交渉、授乳、同じ注射針を用いての薬の使用等血液又は体液への接触を伴う行為により他の人に感染させる可能性があること。 また、移植患者又は接触者に原因不明の症状が見られた場合、移植実施施設の担当医に直ちに報告する必要があること。

(5) 必要に応じて組織や血清を採取して検査を行う必要があること。

(6) 採取された試料及び医学的記録は移植実施後30年間保管し、診療、研究及び感染症の原因究明の目的での使用に備えること。

(7) 移植患者は、当該移植の感染症に関する公衆衛生上の安全性が確立する迄、移植後全血、血清、血球、骨髄液、さい帯血、臓器、組織、乳汁、卵子、精子、その他身体の部分についてヒトへの使用を目的として提供する場合は、感染のリスクについて医療従事者、被移植者等に伝えるとともに、その必要性と安全性について関係者と十分に検討した上でのみ提供し得ること。

(8) 将来、出産する場合は、受胎から発育期間、出産及び授乳の際に、子供に異種動物由来感染症が生じることを否定できないこと。

(9) 長期間の健康管理のために、移植患者は、住所、電話番号等の変更があった場合、必ず移植実施施設の担当医に連絡する必要があること。

(10) 移植による感染が疑われる場合、死後、剖検を実施し、臓器等が採取・保存され、研究及び感染症の原因究明の目的で使用されること。また、剖検を実施する必要性を、家族に伝えておくこと。

(11) すべての医学的記録は、要請があった場合には関係する公衆衛生機関(厚生労働省、国立感染症研究所、保健所、関係する医療・研究機関)に開示する必要があること。ただし、移植患者のプライバシーは最大限守られること。

4.フィーダー細胞

4.1 マスターセルの品質管理
 各移植実施施設は、マスターセルについて別添1に掲げる品質管理を実施し、病原体に感染していないことを確認すること。

4.2 ワーキングセルの品質管理
 ワーキングセルについても、必要な検査を行うこと。

4.3 継代培養
 マスターセル及びワーキングセルの継代は最小限とし、細胞株の同一性を確認すること。

4.4 その他
 その他、汚染等を防ぐための品質管理を厳重に行うこと。また、以上を全て研究計画書で規定すること。

5.移植患者

5.1 移植患者の微生物学的監視
 一般に移植患者の移植後の微生物学的監視は、異種動物由来感染性病原体の一般への伝播及び遺伝子を介した伝播を監視する上で重要である。この微生物学的監視の実行と記録作製は移植実施施設の長の責務であり、移植患者の一生涯にわたって続けられなければならない。以下に、適切な監視方法を述べる。
(1) 共培養するフィーダー細胞又は培養組織にフィーダー細胞由来病原体の存在が判明した時又はそれが疑われた時には、移植した組織中に存在し得ることが判明した病原体の検索を、移植患者の血清、末梢単核球又は組織について移植後定期的に行わなければならない。微生物学的監視は、術直後にはより頻回(例えば術後2、4、6週間目)に行う必要があるが、その後臨床症状が認められなければ頻度を減らすことができる。対象とする異種動物由来ウイルスと同等のウイルスがヒトにも存在する場合、両者を区別する検査法を採用しなければならない。移植患者の免疫抑制状態によっては血清学的検査が信頼できないこともあり、共培養法など適切な検査法と組合せて実施することも考慮する。判定には、検査法の感度、特異性及び精度の考慮が必要である。

(2) 当該移植実施施設において、移植患者からの報告を受けることが可能な体制を整備しておくこと。報告を受ける体制の整備ができなくなる場合には、別の医療施設において実施するよう措置すること。なお、引き継ぐ医療施設は、検査及び試料の保存、施設内の感染対策等移植後の感染対策について移植実施施設と同等の対応を実施できる施設でなければならない。

5.2 移植患者等の記録
 5.2.1 記録の保存
 移植実施施設の長は、次に掲げる記録を移植実施後30年間保存し、管理すること。これらの記録は必要に応じ、正確に相互照合ができるものでなければならない。系統的にデータを維持することは、有害事象が発生した際にその原因を疫学的に究明する上で役立つ。
(1) 当該移植のすべての過程を記した移植記録責任者、共培養に用いた細胞と共培養に関する記録、調製施設、移植の日付と方法、移植患者とその臨床経過の要旨、培養及び移植手術に関与した医療従事者について記載すること。

 5.2.2 保存施設の変更
 何らかの理由により、移植実施施設において、前項に掲げる記録の保存ができなくなる場合には、別の医療施設において実施するよう措置すること。なお、引き継ぐ医療施設は、記録の保存に関して移植実施施設と同等の対応を実施できる施設でなければならない。

6.感染症発生時の報告
 異種動物由来感染症、同種移植で予期できない感染症又は公衆衛生学的に問題となり得ると思われる感染症が疑われる時には、診断及び適切な感染防御に務めるとともに、速やかに厚生労働省医政局研究開発振興課に報告すること。 なお、同部署への報告のほか、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)において求められている報告が必要な場合は、別途同法に従った報告を行うこと。


別添1
3T3細胞の品質管理


I 定義
種細胞株:フィーダー細胞に用いる3T3細胞株。
マスター・セル・バンク:種細胞株を一定の培養条件下で最低限の継代数を経て増殖させ,複数のアンプルに分注したもの。
ワーキング・セル・バンク:マスター・セル・バンクの一個又は複数個のアンプルをプールして得た細胞浮遊液を一定条件下でさらに増殖させ,複数のアンプルに分注したもの。

II 記録
 種細胞株の由来,継代歴等に関する情報、マスター・セル・バンクの調製・保存方法及びその管理方法、製造用細胞バンクの調製・保存方法及びその管理方法を記載した記録を保存すること。

III 試験
A.マスター・セル・バンクの細胞に行う試験
1. 細胞の同定試験(アイソザイムやゲノム分析など)によって種細胞と同一であることを確認する。

2. 細菌・カビ・マイコプラズマ否定試験を行う。

3. ウイルス否定試験を行う。
(1)MRC-5(human diploid lung cells)、Vero(African green monkey kidney cells)等のインジケーター細胞に細胞溶解液を接種し、CPEの出現を観察する。さらにchicken、guinea pig、rhesus monkeyの赤血球の凝集試験、吸着試験を行う。
(2)adultおよびsuckling mice、guinea pigに細胞溶解液を接種し、adult miceとguinea pigは28日後、suckling miceは14日後に安楽殺して臓器を回収する。臓器のホモジネートを再度suckling miceに接種し、14日間観察する。発育鶏卵のallantoic cavityに細胞溶解液を接種し、allantoic fluidのHA試験(chicken、guinea pig、人O型赤血球)を行う。発育鶏卵のyolk sacに細胞溶解液を接種し10日観察する。必要に応じ、さらにyolk sacでpassageを繰り返す。
(3)Xenotropicマウスレトロウイルスの有無を延長S+L- focus assay(mink S+L- cells)で、Ecotropicマウスレトロウイルスの有無を延長XC plaque assay(SC-1細胞)で調べる。細胞を透過型電子顕微鏡で観察し、レトロウイルス様粒子の有無を観察する。細胞溶解液の逆転写酵素活性を測定する。
(4)その他の感染性微生物の否定試験を行う。細胞溶解液をmouseに接種する。血清ないし血漿のlactic dehydrogenase活性を測定し、高ければlactic dehydrogenase virusの感染を疑う。細胞溶解液を接種したmouseにLymphocytic Choriomeningitis Virus(LCMV)を接種する。抗体が無ければ感染で死亡する。細胞溶解液を接種したmouseから28日後に血清を回収しELISA、HI、IndirectFAで既知の齧歯類ウイルスに対する抗体の有無を調べる。対象となるウイルスはEctromelia、GDVII、LCMV、Hantaan Virus、Minute Virus of Mice、Mouse adenovirus、Mouse Hepatitis Virus、Pneumonia Virus of Mice、Polioma Virus、Repvirus Type3、Epizootic Diarrea of Infant Mice、Mouse Salivary Gland Virus(Mouse Cytomegalovirus)、K Virus、Mouse Thymic Virus、Sendai Virus。
(5)培養にウシ血清を使う場合は、ウシウイルスの否定試験を行う。bovine turbinate cellをインジケーター細胞とし、細胞溶解液を接種後、14日間CPEを観察する。CPEが出現したら、細胞を固定しIndirectFAによってウイルス抗原を調べる。対象はBovine Viral Diarrhea Virus、Bovine Adenovirus Type3、Bovine Parvovirus、Infectious Bovine Rhinotrachetist Virus、Bovine Parainfluenza Virus Type3。

4. 細胞に腫瘍原性の無いことを確認する。細胞をsoft-agar mediumで培養し、コロニー形成を調べる。

B.ワーキングセルバンクの細胞に行う試験

1. 細菌・カビ・マイコプラズマ否定試験を行う。

2. ウイルス否定試験のうち、上記 (1)及び(2)を行う。

3. 細胞に腫瘍原性の無いことを確認する。

C.フィーダー細胞に行う試験

1. レトロウイルス活性化の有無を調べるため、放射線照射やIudR、BudR等で処理したフィーダー細胞について、ウイルス否定試験のうち、上記 (3)を行う。

2. 培養組織を取り外した後に、培養器に残存するフィーダー細胞の染色体数と腫瘍原性について(例えば寒天内コロニー形成能、単層増殖を維持しているかなど)検討する。

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