概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
中労委令和元年(不再)第55号
筑波大学不当労働行為再審査事件 |
| 再審査申立人 |
X1組合(「組合」)、個人X2(併せて「組合ら」) |
| 再審査被申立人 |
Y法人(「法人」) |
| 命令年月日 |
令和8年2月18日 |
| 命令区分 |
棄却 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
1 本件は、法人が、①法人の准教授で組合の組合員である個人X2に対し停職7日間の懲戒処分(「本件懲戒処分」)を行ったこと、②組合の平成28年12月22日付け、平成29年3月6日付け及び同年5月26日付けの団体交渉(「団交」)申入れに対し、必要以上に事前折衝(「予備交渉」ということもある。)を要求する等したこと、③同年4月26日に開催された団交(「第4回団交」)において具体的な回答を行わなかったことが不当労働行為であるとして、茨城県労働委員会(「茨城県労委」)に救済申立てがなされた事案である。
2 初審茨城県労委は、上記1のうち平成28年12月22日付け及び平成29年3月6日付けの団交申入れに対する法人の対応が労働組合法(「労組法」)第7条第2号の不当労働行為であるとして、法人に対し、議題に係る根拠資料や予備交渉を必要以上に要求する等して団交の開催を遅延又は拒否することなく、誠実に団交に応じることを命じ、その余の救済申立てを棄却したところ、組合らは、これを不服として、再審査を申し立てた。
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| 命令主文 |
本件再審査申立てを棄却する。 |
| 判断の要旨 |
(1) 争点1(本件懲戒処分は、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか。)について
組合らは、X2の行為は懲戒事由に該当せず、懲戒処分の手続や量定は不当であり、本件懲戒処分は不当労働行為意思に基づきなされたものであると主張するので、以下、判断する。
ア 法人の元准教授であった申立外C1(「C1」)は、法人を既に退職していたが、自身が法人において平成28年6月1日からC2国陸軍研究所の助成する研究を行うため、法人に無断で法人とC2国軍との間の契約を締結した。X2は、客員教員の配置について決定したり、法人を代表して外部組織に対して正式に回答したりする権限はないにもかかわらず、法人におけるC1の客員教授のポジションが同日までに有効になると期待されるなどという根拠のない情報を記載した文書を、あたかも法人の正式な文書であるがごとく体裁を整えた上で、同年5月19日付けで、法人に無断でC2国軍関係者に送付した(「本件文書の作成送付」)。本件文書の作成送付により、C2国軍及び法人の業務に混乱を与えたことは明らかであり、法人の信用が大きく損なわれる可能性があったこと等の事情に照らせば、X2による本件文書の作成送付は、法人就業規則に定める懲戒事由に該当するものと認められる。
また、X2は、自身が研究指導教員として指導していた留学生の博士学位論文を、膨大な盗用に気づかないまま、学位論文審査委員会に提出させ(「本件論文の指導懈怠」)、同論文は不合格となった。X2は、研究指導教員として行うべき論文精査の義務を全うしたとはいえず、職務上の義務違反があったといえる。そして、膨大な盗用を含む論文に基づき博士の学位が授与された場合、法人における研究の公正さが疑われ、法人の研究指導体制に対する信用が大きく損なわれるリスクも内在していたことに鑑みれば、本件論文の指導懈怠は、法人就業規則に定める懲戒事由に該当するものと認められる。
イ 法人は、本件懲戒処分に当たり、所定の懲戒手続に則り、調査及び審査を行い、十分な弁明の機会を付与した上で、本件懲戒処分を決定したものと認められ、本件懲戒処分の手続が相当性を欠くものであったとはいえない。
ウ 本件文書の作成送付と本件論文の指導懈怠を合わせて停職7日間の懲戒処分としたことが、重きに失し、相当性を欠くものであったとはいえない。
エ 法人は、団交において組合の主張するような不誠実な対応をとったとは認められない。その他、本件懲戒処分に関して、法人の不当労働行為意思を推認させる事情は認められない。
オ 以上のとおり、本件文書の作成送付及び本件論文の指導懈怠は、それぞれ懲戒事由に該当するものと認められ、懲戒の手続及び処分の量定についても相当性を欠くとはいえず、本件懲戒処分に関して、法人の不当労働行為意思を推認させる事情は認められない。したがって、本件懲戒処分は、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当せず、また、組合の運営に支配介入するものともいえないから、同条第3号の不当労働行為にも該当しない。
(2) 争点2①(平成29年1月11日、法人が、平成28年12月22日付けで組合が申し入れた団交の議題は、予備交渉で確認されていないので団交はできかねる等と回答したことは、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に該当するか。同条第2号に該当する場合、初審命令の救済方法は妥当であるか。)について
法人は、X2及びC1が教授昇任候補に一度も推薦されていないこと(「教授昇任問題」)について、別組合と2回の団交を行い、それらを引き継ぐ形で、組合とも3回の団交を行っており、組合との間で開催された第2回目の団交及び第3回目の団交では、既に同じやり取りが繰り返される状況になっていたこと等からすると、法人が、組合からさらに協議すべき具体的な項目・内容が明らかにされなければ、新たな団交を行う必要性がないと考えるのも無理からぬところである。また、平成28年11月28日に法人と組合が受け入れた茨城県労委のあっせん案等の記載や、その他の法人の対応を併せ考えると、法人が、平成29年1月11日、団交の議題は予備交渉で確認されていないので、団交はできかねる等と回答したことは不誠実な対応とはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しないし、組合の運営に支配介入するものであるともいえず、同条第3号の不当労働行為にも該当しない。
(3) 争点2②(平成29年3月16日、法人が、組合の同月6日付けの団交申入れに対し、交渉議題に関する疑義を払拭するため事前折衝が必要であり、組合の団交申入れ期日である同月29日は事前折衝としたいと回答したことは、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるか。同条第2号に該当する場合、初審命令の救済方法は妥当であるか。)について
法人が、平成29年1月11日、予備交渉で確認されていない交渉議題では団交ができかねる旨回答したことは、上記(2)で判断したとおり、不誠実な対応であったとはいえない。そして、法人と組合の同日より後のやり取りをみても、法人が、同年3月16日、再度の事前折衝が必要であり、同月29日は事前折衝としたいと回答したことは、同じやり取りの繰り返しを回避し、交渉を実質的に進展させるためとみるのが相当である。そうすると、かかる法人の回答は不誠実な対応とはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しないし、また、組合の運営に支配介入するものであるともいえず、同条第3号の不当労働行為にも該当しない。
(4) 争点2③(平成29年6月13日、法人が、組合の同年5月26日付けの団交申入れに対し、「第4回団体交渉時の確認事項について」と題する文書(「第4回団交時確認事項書」)を組合に送付し、予備交渉において確認事項に係る資料を提供し又は回答することを求めたことは、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるか。)について
第4回団交時確認事項書で組合の確認事項とされた項目は、組合らが確認ないし調査を行い、回答することを自ら了解していたものといえ、法人が、組合に対し、当該項目について回答やその根拠となる資料の提供を求めることは何ら不自然ではないし、次回団交に先立つ予備交渉の場でかかる回答や資料提供を行うよう求めることは、次回団交に向けて適切に準備し、実りある団交を行うためには必要なことであったと考えられる。そうすると、かかる法人の対応は不誠実とはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為には該当しないし、また、組合の運営に支配介入するものともいえず、同条第3号の不当労働行為にも該当しない。
(5) 争点3(平成29年4月26日の第4回団交において、法人が、ハラスメント防止対策委員会の調査方法等について具体的な説明を行わなかったこと等は、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるか。)について
法人は、既に過去の団交において、ハラスメント防止対策委員会の具体的な調査方法や内容を明らかにできない理由を説明しているのであるから、法人が第4回団交において、それ以上の説明を行わなかったとしても、法人の対応が不誠実であるとはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為には該当しないし、また、組合の運営に対し支配介入するものともいえず、同条第3号の不当労働行為にも該当しない。
(6) 結論
以上によれば、本件救済申立てにはいずれも理由がなく、棄却されるべきところ、初審命令は、平成29年1月11日及び同年3月16日の法人の対応が、それぞれ労組法第7条第2号の不当労働行為に該当すると判断し、誠実団交応諾を命じており、当該初審の判断は失当といわざるを得ない。しかしながら、組合らのみが、労組法第7条第2号に該当するだけでなく同条第3号にも該当するとして、また、初審の命じた救済方法が不十分であるとして、再審査を申し立てていることからすると、労働委員会規則第55条第1項ただし書が再審査における不利益変更を禁止していることに鑑みて、上記誠実団交応諾命令は取り消さないものとする。
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| 掲載文献 |
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