労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  茨城県労委平成29年(不)第1号・30年(不)第2号
(大)筑波大学不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(「組合」)・X2(個人) 
被申立人  法人Y(「法人」) 
命令年月日  令和元年9月19日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合の組合員であるX2の教援昇任問題に係る組合との団体交渉をする一方で、X2に対する懲戒準備手続を行う法人の団体交渉についての対応が労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるとして平成29年9月6 日、救済が申し立てられた。 
 さらに、30年1月22日、組合らは、法人によるX2に対する懲戒手続が労組法第7条第1号及び第3号の、団体交渉事項について必要以上に事前折衝を要求し、団体交渉に応じても具体的に説明する等しないことが労組法第7条第2号及び第3号の、それぞれ不当労働行為に当たるとして、請求する救済の内容を補充・追加した。
 その後、同年3月13日に法人がX2に対し、不適切な文書作成送付と担当学生に対する指導懈怠を理由とする停職7日間の懲戒処分(「本件懲戒処分」)を行ったことから、組合らから同年4月19日、懲戒手続の終了に係る救済申立ての取下げと、本件懲戒処分が労組法第7条第1 号及び第3号の不当労働行為に当たるとしてその取消しに係る救済申立てがあった事件である。
 茨城県労働委員会は、法人に対し、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するとして誠実な団交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、申立人組合から団体交渉の申入れがあった場合、議題に係る根拠資料や予備交渉を必要以上に要求する等して団体交渉の開催を遅延又は拒否することなく、誠実にこれに応じなければならない。
2 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件懲戒処分が、労組法第7条第 1号及び第3号の不当労働行為に当たるか。(争点1)
ア 手続き上の問題
 法人の懲戒手続きが不適切であったとは言えない。
イ 懲戒理由(懲戒事実とその評価)
 X2の行為は、法人の就業規則第95条第1号に規定する法人規則等違反及び第2号に規定する職務を怠った場合に該当するものと認められる。
ウ 懲戒処分の量定及び不当労働行為意思
 これまでの法人の処分例から見て、懲戒事由との関係で均衡を失し社会通念に照らして合理性を欠くものとまでは言えず、懲戒処分の裁量権の範囲内のものであり、量定をもって法人の組合に対する不当労働行為意思を推認させるほどのものとは言えない。
 確かに、組合らの主張するように、本件懲戒処分に至る調査は団体交渉と並行して行われ、28年6月6日の第2回団体交渉申入れの1週間後の同月13日に、B1副学長のB2委員長へのコンプライアンス調査の依頼がなされるなど、時間的には近接していると言えるが、それをもって関連性があるとまでは言えない。
 また、懲戒審査委員会は、組合との団体交渉に当たっていたB1副学長以外に、別の副学長、人文社会系長、図書館メディア研究科長、体育専門学薄長の計5名の委員で構成されて、X2以外の関係者に対する事情聴取も行われ、本件処分も教育研究評議会の議を経て実施される等、手続の公正さも担保されていることから見れば、法人において団体交渉に関与していた者からの組合に対する嫌悪から本件処分が行われたとは言い難い。
エ 以上のことから、本件懲戒処分は、労組法第7条第1号及び第3号該当の不当労働行為とは言えない。

2 組合の団体交渉申入れに対する法人の29年1月11日、同年3月16日及び同年6月13日の対応が、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるか。(争点2ーア)
ア 29年1月11日の対応
 法人は、それまで同一の内容で組合と3回の団体交渉を重ね、その意図するところを承知していながら、議題とする標題の文言が予備交渉で合意したものと一致しないことを理由に、あたかも初見であるかのごとく何を交渉事項とするのかの具体的な項目と内容が示されない限り団体交渉に応じられないとの態度に終始しており、これは誠実な交渉態度とは言えない。
イ 29年3月16日の対応
 法人は、「ア」のとおり、組合の意図するところを承知していたものと認められる。
 また、そもそも予備交渉(ないし事前折衝)とは、両当事者の代表が団交に先立って「議題、時間、場所その他必要な事項をあらかじめ取り決め」るものにすぎず、実質的な交渉の場ではないのである。
 しかも、当委員会事務局が発出したメールの文言を団交に応じない根拠として用い、予備交渉を執拗に要求することは、あっせんの成果を歪曲する行為とも言えるものであり、その結果として団体交渉の開催があっせん終結から5か月後に至ってしまったことは、団体交渉の先延ばしを図つたと取れるもので、法人の対応は誠実なものとは言えない。
ウ 29年6月13日の対応
 同団体交渉の議事録を見る限り、組合の主張するように、その最後で相互に確認事項の合意をとっている形跡はなく、時間切れのような形でまとまりなく終了している。
 であればなおさら、確認の場を予備交渉としたことの是非を別とすれば、議論の操り返しや後戻りで次回の団体交渉において、これまでの議論の結果を無にすることにならないよう、法人があっせん合意文の第2に従い、前回の団体交渉で話し合われた課題や相互に調査回答するとした事項がいかなるものであったかをあらかじめ明確にさせることを目的として「第4回団体交渉時の確認事項について」を送付した対応は理解でき、不誠実なものであったとまでは言えない。
エ 以上のとおり、組合の団体交渉申入れに対する法人の29年1月11日、同年3月16日の対応は不誠実なものと認められ、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するが、法人は組合の申入れを無視ないし軽視しているわけではなく一応の対応をしていることから第3号の不当労働行為には該当しない。

3 同年4月26日の第4回団体交渉での法人の組合らに対する対応が、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるか。(争点2-イ)
ア 法人のハラスメント委員会の調査方法や内容について
 ハラスメント委員会に守秘義務を課している所以は、委員会の認定判断の客観性・信頼性を確保するためには、自由な発言・討議が保障される必要があり、関係者のプライバシー・人格権保護のためにも秘密性が欠かせないからである。
 法人がX2に対し、団体交渉の場でその開示を法人に求めても開示されないとして、「答えられない」と回答したことをもって、それを不誠実な対応とすることはできない。
イ 法人の実施する業績評価と教授選考について
 そもそも、大学での教授その他教員の任用人事については、大学における自治として教授会が専権的に行うものである。これに対し、組合が、X2の教授昇任問題として団交事項とし、大学管理部門と団体交渉することの是非はともかく、法人は、教授選考の基準や審査方法等の制度情報、24年度以降の教授昇任数等、管理部門として回答できる範囲の情報は組合らに提供しているのであり、組合らの求める具体的な選考過程について、法人が教授候補者の「データをどういうふうに人事上使っているかというようなのは人事に関する問題だから、それは出せない。」としたことをもって、それを不誠実な対応とすることはできない。
ウ 法人における自己推薦制度の存在について
 第4回の団体交渉に至ってようやく、B1副学長がX2の言う「自己推薦」の意味するところを理解し、X2にその言わんとするところを確認した上で、「あり得ない」と回答しているのであり、その言い方のぞんざいさに問題はあるにせよ、このことのみをもって不誠実な対応とすることはできない。
エ 指導留学生Cに関する被申立人の対応について
 法人が指導留学生Cに対し帰国誓約書を提出するよう求めた件を団交事項とすることの必要性には疑問を抱かさるを得ないが、X2の質問事項についてB1副学長は逐次回答しており、組合らの主張するように、合理的な理由の説明を求めたのに、法人から何らの説明もなかったとは言えず、法人の対応を不誠実なものとすることはできない。
オ 以上のことから、29年4月26日の第4回団体交渉での法人の組合らに対する対応を労組法第7条第2号及び第3号該当の不当労働行為とすることはできない。 
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約526KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。