概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
中労委令和4年(不再)第3号
下関市立大学不当労働行為再審査事件 |
| 再審査申立人 |
Y法人(「法人」) |
| 再審査被申立人 |
X組合(「組合」) |
| 命令年月日 |
令和7年11月5日 |
| 命令区分 |
一部変更 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
1 本件は、組合が定款変更に伴い、制定・改定を要する規程のうち、労働条件を定める規程について協議を求めていたところ、法人が、組合に事前に提示することなく理事会規程を制定したこと並びに教員人事評価委員会規程、教員懲戒委員会規程及び事務職員懲戒委員会規程(以下、併せて「本件3規程」といい、それぞれの委員会を併せて「本件各委員会」という。)を組合からの説明要求に応じることなく制定したこと等が労働組合法(以下「労組法」という。)7条2号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。
2 初審山口県労委は、上記1の行為が不当労働行為であるとして、誠実団体交渉応諾(主文第1項)、誠実団体交渉の終結に至るまで組合の組合員に対する理事会規程及び本件3規程の適用がなかったものとしての取扱い(同第2項)、上記1の行為が不当労働行為と認定された旨の文書の交付及び掲示(同第4項)を命じたところ、法人は、理事会規程に関する初審命令の救済部分の取消し及びこれに係る救済申立ての棄却を求め、かつ同第2項の救済方法を不服として、再審査を申し立てた。 |
| 命令主文要旨 |
(1) 初審命令主文第1項、第2項及び第4項の理事会規程に関する部分の取消し及びこれに係る救済申立ての棄却
(2) 初審命令主文第2項中の本件3規程に関する部分の取消し |
| 判断の要旨 |
(1) 争点1-1(理事会規程の制定・改定に関する事項は、義務的団交事項に当たるか)について
ア 理事会規程の各規定の内容をみても、理事会の組織及び運営に関する事項を定めたものであって、同規程には義務的団交事項である人事の基準や手続を直接定めた規定は含まれていない。
したがって、理事会規程は、義務的団交事項である労働者の労働条件その他の待遇を定めたものではない。
イ 組合は、理事会規程単一で判断するのではなく、理事会規程により、人事評価及び懲戒について、新たに本件各委員会が諮問機関と位置づけられ、その運用規程である本件3規程において、手続、委員の氏名の公表や委員の構成が変更されたのであるから、本件3規程の内容を踏まえて判断すべきである旨主張する。
(ア) 変更後の定款及び理事会規程により、職員の人事及び評価に関する事項が理事会の審議事項とされ、本件各委員会がその諮問機関として位置づけられた上で、本件3規程によって、教員の人事評価又は職員の懲戒に関係する本件各委員会の委員の構成、会議の運営方法、委員以外の者からの意見の聴取等について定められた。そうすると、本件3規程中のこれらの規定は、教員の人事評価又は職員の懲戒などの人事の基準や手続の一部を成しているから、本件3規程の制定・改定に関する事項は労働者の労働条件その他の待遇に関する事項に当たるので、義務的団交事項に該当する。
(イ) もっとも、そもそも理事会規程は本件3規程とは別個独立した規程であるから、本件3規程に人事の基準や手続が定められているとしても、理事会規程が義務的団交事項である人事の基準や手続を含むことにはならない。
また、理事会規程において、職員の人事及び評価に関する事項が理事会の審議事項とされているものの、本件各委員会において具体的な評価や懲戒に係る審議が行われ、実質的には本件各委員会の審議結果が重視されるといえるから、このような審議の過程を踏まえても、本件3規程が理事会規程と独立して教員の人事評価又は職員の懲戒に関する基準や手続を定めたものといえ、理事会規程において、本件各委員会に諮問するとの規定があることをもって、理事会規程が人事の基準や手続に関する事項を含むとはいえない。
したがって、組合の主張を採用することはできない。
ウ 以上から、理事会規程は、労働者の労働条件その他の待遇について定めたものではないから、理事会規程の制定・改定に関する事項は義務的団交事項に当たるとはいえない。
(2) 争点1-2(法人が理事会規程の制定・改定に係る団体交渉に応じなかったことは、労組法7条2号の正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか)について
上記(1)のとおり、理事会規程の制定・改定に関する事項は義務的団交事項に当たるとはいえないから、法人がこれに係る団体交渉に応じなかったこと、すなわち組合に事前に提示することなく理事会規程を制定したことは、労組法7条2号の団体交渉拒否に当たらない。
(3) 争点2(法人が本件3規程の制定・改定に係る団体交渉に応じなかったことに関する初審命令主文第2項の救済方法は適当か)について
ア 初審命令主文第2項は、本件3規程に即して言い換えると、「本件3規程に係る団体交渉については、誠実に交渉を尽くしてその終結に至るまで、組合の組合員に対して、本件3規程の適用がなかったものとした上で、行わなければならない。なお、本件3規程の適用がなかったものとして扱うことにより組合員の既得権益を侵害してはならない。」と命じている。
イ 初審命令主文第2項は、理由中の説示を併せ読んでも、内容が明確であるとはいえない。
また、同項を組合員との関係で、本件3規程の執行を停止するとともに、本件3規程に基づいて行われた議決等の効力を遡って失わせると解すると、大学運営に支障を来すことになり、法人が著しい不利益を被ることになるのは明らかである。
組合の団体交渉申入れに対する法人の対応等の事情に照らせば、法人に対して団体交渉応諾並びに文書の交付及び掲示を命ずるのが相当であり、かつそれで足りる。
以上の諸事情に照らせば、同項の救済方法は適当とはいえない。 |
| 掲載文献 |
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