労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  山口県労委令和2年(不)第1号
下関市立大学不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(C市立大学。法人) 
命令年月日  令和4年1月31日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①理事会規程について組合に事前提示することなく、また、教員人事評価委員会規程など3規程については提示したものの、内容の説明に応じることなく、それぞれ制定したこと、②住居手当及び通勤手当の額の改定に係る団体交渉における、組合からの法人の業務実績や他法人の給与等の考慮に係る要求に応じることなく、これら手当に係る規程を改正したこと、③外国研修担当教員に対する調査に係る団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 山口県労働委員会は、いずれも労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(i)理事会規程など4規程についての誠実な団体交渉、(ⅱ)右団体交渉については、誠実に交渉を尽くしてその終結に至るまで、組合員に対して規程の適用がなかったものとした上で、行わなければならないこと。なお、その扱いにより組合員の既得権益を侵害してはならないこと、(ⅲ)住居手当及び通勤手当並びに外国研修担当教員に対する調査に関する誠実な団体交渉、(ⅳ)文書交付及び掲示を命じた。
 
命令主文  1 法人は、理事会規程、教員人事評価規程、教員懲戒委員会規程及び事務職員懲戒委員会規程について、本命令書受領後2週間以内に、組合と誠実に団体交渉を行うこと。
2 法人は、前項の団体交渉については、誠実に交渉を尽くしてそのその終結に至るまで、組合の組合員に対して、同項の規定の適用がなかったものとした上で、行わなければならない。なお、同項の規定の適用がなかったものとして扱うことにより組合員の既得権益を侵害してはならない。
3 法人は、住居手当及び通勤手当並びに外国研修担当教員に対する調査に関して、本命令書受領後2週間以内に、組合と誠実に団体交渉を行うこと。
4 法人は、本命令書の受領後2週間以内に、日本産業規格A列4番以上の大きさの白紙に下記の文書を記載し、組合に対して交付するとともに、教職員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
令和 年 月 日
 X組合
 執行委員長 A様
Y法人      
理事長 B
 当法人が行った下記行為は、山口県労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 当法人がこのような行為をしたことについて、今後、同様の対応を繰り返さないことを誓います。
1 理事会規程、教員人事評価規程、教員懲戒委員会規程及び事務職員懲戒委員会規程に関する事項は義務的団交事項であるにも関わらず、貴組合の提示を要求する当規程及び当規程の作成状況を示さずに形式的に団体交渉を行ったのみで、貴組合との誠実な交渉を経ることなく一方的に当規程を施行したこと。
2 住居手当及び通勤手当の改定に係る交渉において、C市の取扱いに準拠することや変更期日に合わせることに固執し、貴組合の要求・主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどして貴組合の理解を得るよう努力せず、誠実な対応をしなかったこと。
3 外国研修担当教員に対する調査は義務的団交事項であるにもかかわらず、貴組合と交渉を行わなかったこと。 
判断の要旨  1 争点1について
(本件規程の制定・改定に係る法人の対応は、労組法第7条第2号に該当するか)

ア 義務的団交事項
 法人は、理事会規程、教員人事評価委員会規程、教員懲戒委員会規程及び事務職員懲戒委員会規程(以下「本件規程」)はそれぞれの組織を定めた規程であって、人事や懲戒の基準、手続を定めたものではないため、義務的団交事項には該当せず、これらに該当するものとしては、教員昇任選考規程や教員懲戒手続規程、事務職員懲戒手続規程などがある旨主張する。
 そこで、これら3つの規定についてみると、確かに当規程には、昇任の実施や懲戒処分の発令までの流れが規定されており、人事の手続を定める規程であることは容易に理解できる。
 一方、本件規程は、理事会、教員人事評価委員会、教員懲戒委員会及び事務職員懲戒委員会の組織及び運営について、それぞれ定めるものであるが、法人が、いかなる組織を設置し、その役割、権限等をどのようにするか、こうした組織の設計に関する事項は、一般的には労働条件その他の待遇に関するものとはいえない。
 しかしながら、本件規程には、それぞれの組織が人事に関する事項について決議、審議、検討等を行う旨規定されている。これらの規定の内容は、採用や昇任、評価、懲戒処分といった人事の手続の一環と認められるものであることから、これらの規定を含む本件規程に関する事項は、労働条件その他の待遇に関するものであり、義務的団交事項に当たる。
 なお、法人が主張する「本件規程は組織規程である」ということの意味するところが、法人組織の設計や改廃は法人の経営権に属する事項であって、そうした法人の組織を定める規程は人事の手続に関するものではないということであるとしても、それが労働条件その他の待遇と関連を有する場合は義務的団交事項となるところ、理事会、教員人事評価委員会、教員懲戒委員会及び事務職員懲戒委員会は、それぞれ採用や昇任、評価、懲戒処分などの人事の手続を行うこととされているため、その組織を定める本件規程は、労働条件その他の待遇に関するものであるから、法人の主張は採用できない。

イ 法人の対応
 理事会規程が制定されるまでの法人の対応について、法人は、組合との間で、義務的団交事項の解釈に隔たりがあることを認識していたと認められるのであるから、本来であれば、双方の隔たりを解消するよう努めるべきであったところ、法人は自己の主張やその根拠を具体的に説明したり、組合が提示を要求する規程及びその作成状況を全く示すことなく一方的に義務的団交事項である理事会規程を制定した。
 理事会規定が制定された後の法人の対応について、法人は、理事会規程に関して、施行までの間、一度も組合に提示せず、義務的団交事項に該当しないという自己の見解に固執し、組合に対して誠実に対応しようとする努力も認められず、結局のところ理事会規程は、組合との実質的協議を経ることのないまま施行された。
 義務的団交事項である教員人事評価委員会規程他2規程については、その施行が間近に迫る中、法人は、ようやく組合に提示したものの、これらの規程の改正は義務的団交事項には該当しないと一方的に思い込み、しかも、組合の要求に対しては期日までに答えることなく、自己の見解を施行日前日になって初めて組合に回答するなど、余りにも不誠実な対応に終始した。
 この結果、組合は、法人との交渉の機会を失い、規程の趣旨説明すら受けることのないまま教員人事評価委員会規程他2規程は施行されたのであって、このような事態を招いた法人の一連の対応は、極めて不誠実な交渉態度であると認められるので、労組法第7条第2号に該当する。

2 争点2について
(住居手当及び通勤手当の改定に係る法人の対応は、労組法第7条第2号に該当するか)

ア 組合の対応
 法人は、住居手当及び通勤手当(以下「本件手当」)の改定に関して、団体交渉の実施を再三呼びかけたものの、組合は「条件を提示した」と述べるのみで交渉に応じる姿勢を見せなかった旨主張する。
 労働関係も信義誠実の原則の適用を受けるものである以上、組合としても団体交渉の申入れがあった場合、誠実に団体交渉を行う必要がある。組合が法人の呼びかけに応じていれば、交渉の場において組合の要求事項を実現できる可能性があったことは否めないところであり、そうしたことも考えると、組合の対応にはいささか頑なな面もある。
 しかしながら、過去の労使交渉を見るに、組合が当提案事項について交渉を行っても、法人は「社会一般の情勢に適合したものとする」ためC市の取扱いに準拠する必要があるとの主張を繰り返していた。平成30年度の通勤手当の改定に関する交渉の例を見ても、法人はC市の取扱いに準拠することのみを念頭に置いて組合と団体交渉を行っていたものと認められる。
 また、法人は、地方独立行政法人法において考慮すべき事項が考慮されていないことや、経営陣の給料削減するなど自らが身を切る姿勢を示すことが必要であるとの組合の指摘に対して何ら反論もせず、同一内容の提案をし続けたこと等の事情を考慮すると、法人からの具体的な応答が書面でなされるまで、交渉に応じられないとした組合の態度はやむを得ないものであったというべきであり、不誠実な対応とまではいえない。

イ 法人の対応
 法人は、C市の取扱いに準拠する旨をことさらに強調するが、本件手当の改定は不利益変更であり、特に、その必要性や合理性についての説明や代償措置の検討などが求められるところ、そうした点に関して、組合の理解と納得が得られるよう十分な説明を尽くしたという事実は見当たらない。
 また、法人は、交渉開始当初からC市の取扱いに準じて法人職員の本件手当を削減し、施行期日も合わせるという方針を固めていたものと推認できる。
 法人には、組合との合意達成の可能性を模索する義務があるにもかかわらず、当初から同じ回答に終始し、組合から指摘や要求を受けても、これを真摯に受け止め検討しようとする努力も見られず、その交渉態度は極めて不誠実なものといわざるを得ない。

ウ 本件手当の改定において法人が依拠する地独法の見解
 法人は、本件手当の改定に当たっては、地独法の規定に基づき、設立団体であるC市の変更に合わせるべきであるとしている。すなわち、同法第57条第3項では、①同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員の給与等、②民間企業の従事者の給与等、③当該一般地方独立行政法人の業務の実績、④職員の職務の特性及び雇用形態、⑤その他の事情が〔給与等の支給基準を定める際の考慮事項として〕列挙されているところ、公立大学法人という公共性に鑑み、当考慮事項のうち①を最大限考慮すべきであるから、本件手当の改定はC市の取扱いに準拠するという理由には合理性がある等と主張する。
 しかしながら、上記の考慮事項については、どのような事情をどのように考慮するかは、あくまで労使交渉により決めるべきものであって、ここでの問題は、法人が、合理性があるとする判断の根拠をどのように組合に説明し、組合の理解と納得が得られるように誠実に対応したのかということである。
 そこで、本件手当の改定における交渉状況を見ると、法人は自己の見解に固執し、組合が法人の業績や他の公立大学法人の労働者の給与等が考慮されていないとの指摘をするも、これを真摯に受け止め検討しようとせず、何らの回答もしなかったことが認められる。
 以上のとおり、本件手当の交渉における法人の対応は、極めて不誠実な交渉態度であるといわざるを得ず、労組法第7条第2号に該当する。

3 争点3について
(外国研修担当教員に関する調査に係る令和2年11月6日及び11月13日の団体交渉申入れに法人が応じないことに正当な理由があるといえるか)

 外国研修担当教員に関する調査(以下「本件調査」)により、担当教員の授業コマ数への割付けや引率業務のあり方などについて、事実確認がなされ、今後改善に取り組むこととされたところであるが、教員にとって、授業の担当の有無や授業コマ数は、その労働内容として重要なものであり、また、引率業務についても、今後の見直しにより、担当する教員の働き方に影響を及ぼす可能性があることから、本件調査に関する事項は、明らかに義務的団交事項に該当する。
 したがって、法人が本件調査について、団体交渉を拒否することに正当な理由があるとはいえず、労組法第7条第2号に該当する。

4 救済方法
 法人の交渉態度に加え、本件における審問の状況や本件に限らず過去の交渉経緯も踏まえると、法人による不当労働行為が繰り返される蓋然性が高く、労使が対等な立場に立って交渉できる状況が見込めないため、正常な集団的労使関係秩序の回復を図るためには、組合に対して本件規程が適用されていない状態に回復させた上で、すなわち、その時点に遡って、本件規程について誠実な団体交渉を促すことが必要である。
 ただし、本件規程の適用がなかったものとして扱うことにより組合員の既得利益を侵害してはならず、また、本件規程に基づき、決議、審議、検討等が行われた人事に関する事項については、本命令による団体交渉の結果に基づく手続を経て改めて決定されるべきである。
 そうした点に十分留意し、組合の意見を聴くなどして具体的な対応を決定する必要がある。 
掲載文献   

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