労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和5年(不再)第28号
ワゲン福祉会不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Y法人(「法人」) 
再審査被申立人  X組合(「組合」) 
命令年月日  令和7年7月2日 
命令区分  一部変更 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、①A組合員を定年後に再雇用しなかったこと、②組合が提出した本件告発書に関する団体交渉等において不誠実な対応をしたこと、③団体交渉において組合の成立要件に言及したこと、④団体交渉において組合員のうち法人に在籍している職員の人数を理由に団体交渉を打ち切ったこと、⑤組合に対し、組合が配布した本件ビラの内容に虚偽記載があるとして同文書に対する組合の回答次第で執行委員長に対する懲戒処分を行わざるを得ない旨通知した(「3.7.5要求書」)こと、⑥組合に対し、法人の職員以外の組合員が今後法人が運営する本件病院の敷地及び建物に立ち入った場合には、会議室の貸与を行わないとしたことに加えて、執行委員長に対する懲戒処分を検討する旨通知した(「4.5.9警告書」)ことが、それぞれ不当労働行為であるとして神奈川県労委に救済申立てがあった事案である。

2 初審神奈川県労委は、本件申立てのうち、上記1の②及び④の行為は労組法第7条第2号の不当労働行為に、③、⑤及び⑥の行為は同条第3号の不当労働行為に該当するとして、法人に対し、団体交渉において本件告発書に関する調査の経過及び内容を説明すること及び組合の組合員のうち法人に在籍する職員が1名であることを理由に団体交渉を拒否しないことを命ずるとともに、②ないし⑥の行為に係る文書交付を命じ、その余の申立てを棄却する旨の初審命令を交付したところ、法人は、これを不服として、再審査を申し立てたものである。 
命令主文要旨  初審命令を変更し、法人に対し、上記1②ないし⑥の行為に係る文書交付のみを命じる。 
判断の要旨  (1) 争点1(第2回団体交渉、第3回団体交渉及びその後の経過における、法人の本件告発書に対する説明は、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか)について
 第1回団体交渉において、本件告発書に関して調査を行いその結果を回答してほしいという組合の要求に対し、法人が調査し回答する旨述べていたにもかかわらず、法人は、本件告発書のすべての項目に回答する必要はないと述べたり、いつ回答できるかは答えられない旨繰り返し述べたりするのみで具体的な回答をせず、その後、本件当初申立てまでの間、本件告発書に係る調査結果について組合に説明をしていないのであるから、組合の要求に誠実に対応するという姿勢に欠けていたといわざるを得ず、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

(2) 争点2(第2回団体交渉及び第3回団体交渉において、法人が組合の成立要件について言及したことは、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。また、第3回団体交渉において、法人が、組合員のうち法人に在籍している職員の人数を理由に団体交渉を打ち切ったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか)について
ア 法人が、第2回団体交渉において、組合員名簿を提出するよう発言したことは、一般に公然化されていない組合員の存在を明らかにするよう求める行為であり、また、第3回団体交渉において、退職したA組合員も組合員であるとの説明を組合から受けた後も、団体交渉は成立していないなどと発言したことは、組合の組合員の範囲に係る自主的決定を否定し組合の内部関係に干渉する言動であるとともに、組合のその後の組合活動を妨げるものである。そして、上記発言の内容に照らせば、法人は、そのことを認識、認容していたものと認められ、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
イ 組合が法人を退職したA組合員も組合員であり、組合に団体性があることを法人に説明していたにもかかわらず、法人が在籍している職員の人数が1名であることを理由に団体交渉を打ち切ったことに、正当な理由があるとは認められず、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

(3) 争点3(法人が、組合に対し、3.7.5要求書で、本件ビラの内容に虚偽記載があるとして同文書に対する組合の回答次第で執行委員長に対する懲戒手続を行わざるを得ない旨通知したことは、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか)について
 本件ビラの主眼は、法人が団体交渉を拒否したことを批判することにあるのは明らかであるから、組合による本件ビラの配布は正当な組合活動の範囲内のものであったというべきである。
 法人は、3.7.5要求書を送付したことが今後の組合活動を萎縮させ、組合の弱体化につながるものであることについての認識、認容があったと認められ、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(4) 争点4(法人が、組合に対し、4.5.9警告書で、法人の職員以外の組合員が今後、本件病院の敷地及び建物に立ち入った場合には、会議室の貸与を行わないとしたことに加えて、執行委員長に対する懲戒処分を検討する旨通知したことは、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか)について
 法人が組合に、法人の職員以外の組合員が今後本件病院の敷地及び建物に立ち入った場合には会議室の貸与を行わないと通知したことや、法人が執行委員長に対する懲戒処分も検討する旨通知したことは、組合活動に抑止効果を生じさせるものといえ、また、執行委員長に対する懲戒処分の警告には相当性が認められない。
 法人の、4.5.9警告書の送付は、組合の活動が制限され、組合が弱体化することを意図して行ったものと認められ、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(5) 救済利益及び救済方法
ア 法人は、現時点においても、いずれも不当労働行為に当たることを否定していること、組合は、適切な時期に調査結果の回答を得られず、団体交渉をする機会を失ったこと、その他上記(1)ないし(4)で指摘した諸般の事情に照らすと、本件において救済の利益は失われていないものと認められる。
イ 法人は、初審の結審後ではあるものの、本件告発書に関する調査を実施し、組合に文書を交付した上で、団体交渉において調査の経過や結果を報告するなど、本件告発書に関する調査について相応の説明を行っていること、また、法人は、団体交渉において、法人に在籍している組合員の数を特に問題としていないことから、現時点において、団体交渉において本件告発書に関する調査の経過及び内容を説明することや、組合の組合員のうち法人に在籍する職員が1名であることを理由に団体交渉を拒否しないことを命ずる必要性は存しない。他方で、上記(1)ないし(4)で指摘した諸般の事情に照らすと、本件の不当労働行為に関する法人の責任を明確にした上で、今後、本件と同様の行為の再発を防止するためには、法人に対して、本命令の主文記載の文書の交付を命ずるのが相当である。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委令和3年(不)第25号 一部救済 令和5年7月28日
 
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