労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和3年(不)第25号
ワゲン福祉会不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和5年7月28日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、法人に対して、法人におけるパワーハラスメント及び不適切な医療行為(以下「パワハラ等」)を議題とする団体交渉を申し入れたところ、法人が、①団体交渉において組合への加入を公然化した組合員A2の定年後再雇用を拒否したこと、②第1回団体交渉で、組合が提出したパワハラ等に関する告発書(以下「本件告発書」)に対して、第2回団体交渉、第3回団体交渉及びその後において、誠実に対応しなかったこと、③a第2回団体交渉及び第3回団体交渉において組合の成立要件に言及したこと、また、b第3回団体交渉において組合員のうち法人に在籍している職員の人数を理由に団体交渉に応じなかったこと、④組合刊行物に組合が虚偽の記載を行ったとして、執行委員長A1に対する懲戒処分を示唆したこと、⑤法人の職員以外の組合員が、今後、法人が運営するC病院に立ち入った場合には、会議室の貸与を行わないとしたことに加えて、執行委員長A1に対する懲戒処分を示唆したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、②及び③のbについて労働組合法第7条第2号、③のa、④及び⑤について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)組合に対し、本件告発書に関する調査について、その経過及び内容を示し説明しなければならないこと、(ⅱ)組合員のうち法人に在籍している職員が1名であることを理由に、組合が申し入れた団体交渉を拒否してはならないこと、(ⅲ)文書の交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、組合に対し、令和3年3月2日に行われた団体交渉において組合が提出した告発書に関する調査について、その経過及び内容を示し説明しなければならない。

2 法人は、組合の組合員のうち法人に在籍している職員が1名であることを理由に、組合が申し入れた団体交渉を拒否してはならない。

3 法人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に交付しなければならない。
 当法人が、令和3年3月2日に行われた団体交渉において、貴組合から提出された告発書に関して不誠実な説明をしたことは労働組合法第7条第2号に、同年3月26日及び4月28日に行われた団体交渉において、貴組合の成立要件に言及したことは同条第3号に、同年4月28日に行われた団体交渉において、貴組合員のうち当法人に在籍している職員の人数を理由に団体交渉を打ち切ったことは同条第2号に、同年7月5日付け文書で、貴組合の同年6月15日付け刊行物の内容に虚偽記載があるとして同文書に対する貴組合の回答次第で貴組合の執行委員長に対する懲戒手続を行わざるを得ない旨通知したことは同条第3号に、令和4年5月9日付け文書で、当法人の職員以外の貴組合員が今後、当法人の運営する病院の敷地及び建物に立ち入った場合には、会議室の貸与を行わないとしたことに加えて、貴組合の執行委員長に対する懲戒処分を検討する旨通知したことは同条第3号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
令和 年 月 日
 X組合
  執行委員長 A1殿
Y法人     
理事長 B1

4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人が、組合員A2を定年後に再雇用しなかったことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。(争点①)

 法人は、令和2年12月10日の経営会議で、A2の再雇用を保留扱いとし、人員が不足する場合には再雇用する旨の方針を決定し、その後、令和3年3月2日の第1回団体交渉において、同人が組合に加入したことを知った。そして、法人は、外来のパート職員の採用により人員を確保したため、同年3月11日の経営会議で、A2の再雇用を見送ることを決定している。
 以上からすれば、組合が、A2の組合加入を明らかにする前に、法人は同人の再雇用について方針を決定し、その方針に従って、同人の再雇用の可否を判断したものといえる。
 これらのことから、A2が組合員であるが故に再雇用されなかったとはいえないから、法人が、同人を再雇用しなかったことは、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。

2 第2回団体交渉、第3回団体交渉及びその後の経過における、法人の本件告発書に対する説明は、不誠実な交渉態度に当たるか否か。(争点②)

(1)第2回団体交渉で、組合が、法人に、本件告発書〔注 A2が経験したパワハラや同人が問題だと考える不適切な医療行為について記載〕の調査結果の回答を求めたところ、法人は、調査中である旨回答した。組合は、調査結果の回答はいつになるのか繰り返し質問したが、法人は、いつ回答できるかは答えられないと繰り返し、本件告発書に記載された項目すべてに回答する必要がない旨を述べた。また、第3回団体交渉で、組合は、改めて法人に本件告発書の調査結果を回答するよう求めたが、法人は、未だ調査中であり、いつ回答できるかは答えられない旨及び調査が終わり次第回答する旨など第2回団体交渉と同じ回答を繰り返した。
 また、法人は、弁護士に本件告発書の内容に関する法律的な判断を依頼しているものの、弁護士に対し、調査のスケジュールや依頼に係る期限を示していない。加えて、第3回団体交渉において、法人は、本件告発書に関する調査が終わり次第、法人から組合に対して、団体交渉を申し入れ、結果について文書で回答する旨述べたにもかかわらず、本件告発書に関して専門家に相談していると組合に述べた令和3年3月26日の第2回団体交渉から本件申立てに係る第1回審問期日の令和4年11月16日まで、法人が、組合に、本件告発書に係る調査結果を回答した事実は認められない。

(2)このように、法人の本件告発書に関する対応については、法人に、計画的に調査を行う意思がなかったものと認められる。また、法人が、回答する必要がないと判断した項目に係る説明を行わないと述べていることは、本件告発書について、調査し、回答すると述べたことを覆すものであったといえる。さらに、組合の再三の要求に対して、調査の経過を説明せず、回答時期を明らかにすることなく回答を引き延ばしたこと及び本件申立てに係る第1回審問期日に至るまで、本件告発書についての回答を行っていないことも認められる。

(3)以上のことから、組合が第2回団体交渉、第3回団体交渉及びその後の経過において、本件告発書の調査に係る回答を法人に要求したことに対する法人の本件告発書についての説明は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

3 第2回団体交渉及び第3回団体交渉において、法人が組合の成立要件について言及したことは、不誠実な交渉態度及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。また、第3回団体交渉において、法人が組合員のうち法人に在籍している職員の人数を理由に団体交渉を打ち切ったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点③)

(1)第2回団体交渉及び第3回団体交渉において、法人が組合の成立要件に言及したことは組合の運営に対する支配介入に当たるか否か

 組合がいかなるものを組合員とするかは、組合が自主的に決定すべき事項であるところ、組合が出席者であるA2は組合員であると説明しているにも関わらず、組合に対して組合員名簿を提出するよう発言したことや、組合が労働組合として団体交渉の相手方にならない旨発言したことなど組合の人数にこだわり、法人が組合の成立要件について言及したことは、組合の運営に対する支配介入というべきであり、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(2)第2回団体交渉及び第3回団体交渉において、法人が組合の成立要件について言及したことは、不誠実な交渉態度に当たるか否か

 法人が組合の成立要件について言及したことは、組合の運営に対する支配介入であり、労組法第7条第3号に該当するものの、法人が組合の成立要件について言及したことのみをもって、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。ただし、第2回団体交渉、第3回団体交渉及びその後の経過における本件告発書に対する法人の説明が、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当することは前記2で判断したとおりである。

(3)第3回団体交渉において、法人が組合員のうち法人に在籍している職員の人数を理由に団体交渉を打ち切ったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か

 法人は、法人の退職者は組合員ではないとの認識を前提に、組合員は執行委員長A1の1名であり、組合に団体性がないと判断した旨主張する。しかし、法人を退職したA2も組合員であると認められること、すなわち、組合に団体性があることは明らかであるから、法人の主張は採用できない。
 したがって、法人が組合員のうち法人に在籍している職員の人数を理由に団体交渉を打ち切ったことに正当な理由は認められず、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

4 法人が、組合に対し、令和3年7月5日付け文書(以下「3.7.5要求書)で、組合の同年6月15日付け刊行物の内容に虚偽記載がある旨及び同文書に対する組合の回答次第で執行委員長A1に対する懲戒手続を行わざるを得ない旨通知したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点④)

(1)本件ビラは、法人が、組合員のうち法人に在籍している職員の人数を理由に、第3回団体交渉を打ち切ったことから、組合が法人へ提出した本件告発書に対する調査についても法人が実施せずに終わらせようしていると批判するものである。したがって、本件ビラの配布は、本件告発書に対する法人の対応を批判し、誠実な団体交渉の実現及び労働環境の改善等の対応を求めるものであるといえ、組合活動として正当な目的のもとに行われたといえる。

(2)また、本件ビラは、本件病院の職員に対して、勤務時間外に、本件病院の前で配布されており、法人の業務に支障を来したり、当該配布場所の平穏を害したりするなどの事態が生じたことをうかがわせる事情は、証拠上認められない。

(3)法人は、本件ビラに、法人が本件病院で「患者のためにならない『医療行為』」を行っており、法人がそれを認識しながら、秘匿又は放置していると解される記載があり、事実に反するものであると主張するが、本件ビラの本件病院で「患者のためにならない『医療行為』」が行われているという旨の記載は本件告発書の内容に係るものであり、同告発書はA2が自身で経験したことを基に作成したものであるため、同記載には、組合が真実であると信じる相当な理由があり、不当なものとまではいえない。

(4)以上によれば、本件ビラを配布したことは、正当な組合活動と認められるところ、法人が、3.7.5要求書において、本件ビラに虚偽記載があるとして、組合の回答次第で組合員に対して懲戒手続を行わざるを得ない旨通知したことは、正当な組合活動である組合のビラの配布に対して、今後の組合活動を委縮させ、組合の弱体化に繋がるおそれのあるものであるから、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

5 法人が、組合に対し、令和4年5月9日付け文書(以下「4.5.9警告書」)で、法人の職員以外の組合員が今後、本件病院の敷地及び建物に立ち入った場合には、会議室の貸与を行わないとしたことに加えて、執行委員長A1に対する懲戒処分を検討する旨通知したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点⑤)

(1)組合事務所の貸与について、労使間で合意に至らなかったため、組合が仮の事務所を使用していること、組合の会議のために、組合が法人施設内の会議室を複数回使用していることからすると、法人は、組合にとって、会議室の貸与が、相応の重要性を有することを認識していたといえる。

(2)法人は、地域のボランティア団体など職員以外の者に対しても本件病院の会議室を貸与しているから、法人が、施設内の衛生管理、病院職員の安全確保又は個人情報の保護の観点から、一律に第三者の法人施設内への立入りを禁止しているとはいえない。会議室の貸出しに関する法人のこのような対応からすると、法人が4.5.9警告書を送付した理由が、もっぱら法人施設内への第三者の立入りを防ぐためのみであったとは認められない。

(3)4.5.9警告書は、組合の代表者である執行委員長A1に対して、「責任があることが明らかになった場合には」と条件を付してはいるものの、組合活動を理由として、法人の従業員としてのA1の身分にかかわる懲戒処分を行う旨を警告するものであり、同警告書を発することによって、組合活動に抑止効果を生じるおそれがあるものといえる。

(4)これらのことからすれば、法人は4.5.9警告書を組合に対して送付することによって、組合の活動が制限されることを通じて、組合の弱体化ないし反組合的な結果を生じ、または生じるおそれがあることの認識、認容があったと認められる。
 したがって、法人の行為は、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。 

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