労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和4年(不再)第23号
不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  X組合(「組合」) 
再審査被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  令和7年3月19日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①法人が組合と協議中の新就業規則を全学ポータルに掲載して周知したことが労組法第7条第3号に、②新就業規則に係る継続協議事項(一般職給料表(1)の切替及び課長代理級職員の非管理監督者化)を議題とする令和2年3月25日及び同年10月14日の団体交渉(以下、両団交を併せて「本件団交」という。)における法人の対応が同条第2号に、それぞれ該当する不当労働行為であるとして、大阪府労働委員会に救済申立てがあった事件である。

2 大阪府労働委員会は、上記1記載の法人の行為はいずれも不当労働行為に当たらないとして、申立てを棄却したところ、組合は、これを不服として、再審査を申し立てたものである。 
命令主文  本件再審査申立てを棄却する。 
判断の要旨  (1) 法人が、令和元年11月28日、組合と協議中の新就業規則を全学ポータルに掲載して周知したことは、組合に対する支配介入に当たるか
ア 就業規則を労働者に周知することは労基法第106条第1項により使用者に義務づけられているが、本件で周知の対象となった新就業規則は、一般職給料表(1)の変更及び課長代理級職員の給与という、賃金額に直結する重要な労働条件の変更を含んでおり、その変更に関し組合との間で交渉が継続中だったのであるから、組合と妥結に至っていない事項を含む新就業規則を周知した法人の対応が、組合の団体交渉機能を軽視し又は阻害するような行為と認められる場合は、組合に対する支配介入に該当し得る。
イ 法人は、①令和元年9月9日頃までは、組合と内容について合意し、組合の意見書を添付した新就業規則の労基署への届出及び同規則の周知をすることを目指しており、組合に対し二度にわたって大幅な譲歩案を提示した上で新就業規則全体としての総合判断を求めてきたこと、②同年10月末には、合意に至ることは難しいとしても近々組合から意見書の提出を受けることができるものと認識するに至ったが、同年11月11日に労基署から就業規則の未周知につき同月18日を期限とする是正勧告を受けたこと、③是正期限までに組合の意見書が提出される見込みがなく、意見書がない状態で就業規則を周知せざるを得ない状況になっていたこと、が認められる。これらの事情からすれば、法人が、違法状態の解消を優先し、新就業規則を周知した上で引き続き継続協議事項につき組合と協議して合意を目指すとの考えで、同日に新就業規則を周知するとの判断をしたとみることができる。
ウ 法人は、新就業規則を周知するまで約1年7か月もの相当期間にわたり、組合と頻繁に交渉を重ねて継続協議事項につき相応の説明をしていた。それに対し組合も一定の評価をし、是正勧告の前までは、法人が組合の意見書を添付した新就業規則の届出及び同規則の周知をすることに理解を示していた。また、法人は、新就業規則の周知後も、継続協議事項に係る交渉を継続しており、周知済みであることを理由に協議を打ち切ったことはなかった。
エ 上記イ及びウの諸事情に照らせば、新就業規則について組合との間で交渉が継続中であったことを踏まえても、法人が、令和元年11月18日に新就業規則を周知したことが組合の団体交渉機能を軽視し又は阻害するような行為であったと認めることはできないし、法人に支配介入意思があったともいえない。

(2) 本件団交における継続協議事項に係る法人の対応は、不誠実団交に当たるか。
ア 使用者には、誠実に団体交渉に当たる義務があるから、使用者は、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示したりするなどの努力をすべきであって、労働組合の要求や主張に応じて、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務を負う。そして、この義務は、交渉相手である労働組合の交渉過程での要求内容や態度の変化によってその内容が影響を受ける流動的・相対的なものである。
イ 法人は、本件団交で、一般職給料表(1)の切替の理由について、大阪府・市、他大学等との均衡や、年功的な給与上昇の抑制を考慮したこと、切替前の給料より下がる場合は現給保障をすること等を一貫して説明し、現給保障をすることを踏まえると大きな変更とは考えていないこと、新就業規則の他の部分で大きな譲歩をしたので一定の現給保障をすることで理解してほしい旨述べている。また、本件団交に至る交渉の過程で、制度変更による標準昇格モデルの試算表を提示した上で、定年まで勤務した場合に退職手当も含めた生涯賃金では不利益は生じないこと、不利益が出るような短い勤続年数で退職する者は少ないと考えていること等を説明した。さらに、技術職員や司書は係長ポストが限られており、係長に昇任しないで退職を迎え生涯賃金が下がる職員の比率が高い旨の組合の指摘について、本件団交では、引き続き協議をする姿勢をみせていた。
 これらの経過からすれば、法人は組合に対し、交渉の経過を踏まえ、一般職給料表(1)の変更について提案の理由を説明し、引き続き組合との協議に応じる姿勢を示していたのであるから、合意達成の可能性を模索する相応の努力を行っていたということができる。
ウ 法人は、本件団交で、課長代理級職員の非管理監督者化の理由について、大阪府・市、他大学等の取扱いを考慮したこと、一定期間の激変緩和措置を設けたこと等を説明した。また、交渉の過程で、組合が、問題視しているのは課長代理級職員を非管理監督者化したこと自体ではなく、従前と同じ業務についていることである旨、組合としても継続協議事項の両方について組合の意向を100%反映した回答が得られるとは思っておらず、一般職給料表(1)の方を重視している旨述べ、法人も、一般職給料表(1)の方で何とかできないか考えていると述べた。実際に、一般職給料表(1)の切替の関係では、上記イのとおりの協議が続けられ、本件団交においても、法人は引き続き組合と協議する姿勢を示していた。
 以上からすれば、法人は組合に対し、交渉の経過を踏まえて課長代理級職員を非管理監督者化する理由や給与が減額する場合の対応策等を説明し、引き続き組合との協議に応じる姿勢を示していたのであり、合意達成の可能性を模索する相応の努力を行っていたといえる。
エ 以上のとおりであるから、本件団交における継続協議事項に係る法人の対応は不誠実であるとは認めらない。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委令和2年(不)第45号 棄却 令和4年5月16日