労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第45号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年5月16日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①C大学とD大学を消滅法人とする新設合併により設立された法人が、その設立に伴う新たな就業規則について、組合と合意していないにもかかわらず、法人組織内ウェブサイトに掲載し、周知を行ったこと、②団体交渉における法人の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てをいずれも棄却する。 
判断の要旨  1 法人が、令和元年11月18日、本件就業規則をC大学のウェブサイトに掲載したことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点1)
(1) 法人は、労働基準監督署(以下「労基署」)から令和元年11月18日を期限とする就業規則の周知に関する是正勧告を受け、これに対応する必要があった旨主張するので、検討する。

ア 令和元年9月9日の団交(以下「1.9.9団交」)において「大綱合意」と称する合意があったことに争いはない。そこで、その内容についてみるに、同団交における組合の発言から、継続して協議する事項があることは明らかであり、それら発言のみをもって、法人と組合が就業規則全般について合意に至ったとはみることはできない。
 しかしながら、同団交に至る経緯についてみると、法人は、Y法人教職員就業規則、C大学附属病院職員就業規則及びこれらの関連規程(以下「本件就業規則」)の周知・届出を行うために再提案をし、そのことを組合に対して繰り返し伝えていたといえる。そうであれば、同団交における「大綱合意」は、本件就業規則を周知することを前提になされたものであることを組合も容易に認識できたといえるのであるから、かかる「大綱合意」がなされた状況において、法人が、本件就業規則をウェブサイトに掲載したことが、不合理であったとはいえない。

イ 次に、1.9.9団交後、令和元年11月18日のウェブサイト掲載までのやり取りをみるに、組合も、法人が提案する就業規則の届出に係る意見書を書くこと自体は拒否しておらず、また、同月12日の事務折衝の段階では、周知の時期については猶予を求めているものの、法人が提案する就業規則の周知そのものに対してまで反対しているとはいえない。

ウ 以上の経緯を併せ考えると、合意には至っていないものの、法人が、本件就業規則をウェブサイトに掲載したことは、無理からぬところであったといえる。

エ この点について、組合は、①今後も労使間で合意に向けた継続協議を行なっていくとの労使確認を反故にする就業規則の一方的な作成・周知であり、労働協約等に反する行為である旨、②労基署からの是正勧告に対しては、旧就業規則を再度掲載すれば足りる旨などを主張する。
 しかし、①の主張について、組合が 1.9.9団交での「大綱合意」以降も継続協議を行なっていくことを求めていることは明らかであるが、ウェブサイト掲載後も、令和2年3月25日の団交(以下「2.3.25団交」)及び同年10月14日の団交(以下「2.10.14団交」)において一般職給与表(1)の切替や課長代理級職員に対する協議が継続して行われており、しかも、これら団交における法人の対応が不誠実団交に当たらないこと(後述2)、「大綱合意」は、本件就業規則を周知することを前提になされたものであることを組合も容易に認識できたといえること(前述ア)を考え合わせると、ウェブサイト掲載は、労使確認を反故にしたものとまではいえない。
 次に、②の主張について、労基署から「C大学」における就業規則未周知に係る是正勧告があった時点では、既に法人の他の事業場ではY法人教職員就業規則及び関連規程が適用されていたことになる状況において、組合の主張のとおり旧就業規則を掲載すると、同一法人でありながら事業所により適用される就業規則が異なることになるのであるから、法人が、他の事業場に係る対応との平仄を踏まえ、本件就業規則をC大学のウェブサイトに掲載したことが、不合理であったとまではいえない。
 また、組合は、労基署に問い合わせ、旧就業規則を掲載すれば足りること等を確認し、法人に伝えていた旨主張する。しかしながら、法人は、必ずしも、組合の提案する方法を取る必要まではなく、他の方法で就業規則の未周知の状態を是正することも許されるというべきであり、加えて、法人は、組合に本件就業規則を掲載する理由を説明していることなどからすると、法人の対応が不当なものであったとまではいえない。

オ 組合は、そもそも法人が設立された際に、旧就業規則をC大学のウェブサイトから削除する必要はなかった旨、これが、後日の新就業規則の押し付けを予定した準備行為であった旨主張するところ、法人は、平成31年4月1日に旧就業規則をC大学のウェブサイトから削除したこと、これ以降、令和2年11月18日までの間、就業規則が掲載されていなかったことが認められ、問題があったといわざるを得ない。
 もっとも、法人の設立と同時にC大学法人は消滅しているのであるから、未掲載の期間があった後、消滅している旧法人の就業規則を掲載することに違和感を覚えたとの法人主張は、一定理解できるところではある。また、法人は削除した後も、組合との協議を継続しており、さらに互助制度への加入、給料表の切替、住居手当及び再雇用職員制度などについては再提案を行い、組合の要求に応じて譲歩する姿勢を見せていることを考え合わせると、後日の就業規則の押し付けを予定した準備行為であったとまではいえない。

カ 以上のことからすると、法人が、労基署からの是正勧告への対応として、本件就業規則をC大学のウェブサイトに掲載したことは、やむを得ないものであったといえる。

(2)次に、本件就業規則を掲載したことによる組合の影響についてみるに、法人の対応によって、就業規則の協議について、一般組合員と組合執行部との信頼関係に一定影響を与えたことは否定できない。
 もっとも、組合は、就業規則に関して、法人から一定の譲歩を引き出したともいえる。また、掲載後も、団交において一般職給料表(1)の切替や課長代理級職員に関する協議が行われており、かつ、これらの団交における法人の対応が不誠実団交に当たらないこと(後述)からすると、就業規則を巡る協議自体に著しい影響を与えたとまではいえない。

(3)以上のことを総合して判断すると、法人の対応は、労基署からの是正勧告に対応するためのやむを得ない措置であったといえ、また、組合は、就業規則に関して法人から一定の譲歩を引き出しており、就業規則を巡る協議自体には、著しい影響を与えたとまではいえないことからすると、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たるとまではいえない。

2 2.3.25団交及び2.10.14団交における以下の事項に係る法人の対応は、不誠実団交に当たるか。①一般職給料表(1)の切替、②課長代理級職員の非管理職者化に伴う給与減額(争点2)

(1)一般に、使用者が誠実に団交に当たったかどうかは、他方当事者である労働組合の合意を求める努力の有無・程度、要求の具体性や追求の程度、これに応じた使用者側の回答又は反論の提示の有無・程度、その回答又は反論の具体的根拠についての説明の有無・程度、必要な資料の提示の有無・程度等を考慮して、使用者において労働組合との合意達成の可能性を模索したといえるかどうかにより決せられ、使用者の誠実交渉義務の具体的内容も、これらの具体的事情により定まるというべきである。

(2)一般職給料表(1)の切替について

ア 法人は、一般職給料表の設計に当たっての考え方(大阪府、大阪市、国や他の国立大学との均衡を考慮しながら年功的な給与上昇を抑制していくという、昇給カーブのフラット化を図ることなど)や切替に当たっての不利益が生じる場合の緩和措置(切替前の給料を上回るまでの間、現給保障をすること)について説明するとともに、組合がなお納得していない部分については、引き続き協議を行う姿勢を見せており、かかる法人の対応が不誠実であったとはいえない。
 この点について、組合は、法人の説明は、単なる制度設計の説明に過ぎず、なぜ不利益に変更するかの説明になっていない旨主張する。しかし、法人は同給与表の設計に当たっての考え方について説明しており、また、年功的な要素を除いていく方向で制度を作った旨答えていることなどから、不利益変更の理由を説明していないとまではいえない。

イ 組合は、2.3.25団交において、不利益が出ることを指摘したのに対し、法人が、業務執行体制を含めて検討する必要があると考えている旨、引き続き、協議していきたい旨述べたことを問題視する。しかしながら、労働組合からの要求に対し、使用者がその場で応じなければならない義務があるとはいえず、引き続き協議をしていくとの姿勢を見せたことをもって不誠実な対応であったとはいえない。
 さらに、組合は、不利益変更を回避した教育職との違いは何かとの質問に対して、法人が、程度の問題である旨回答したことを問題視するが、そもそも、労働組合からの要求に対し、必ずしも使用者が応じなければならない義務はないのであり、労働者が被る不利益の程度を考慮して制度設計をすることも、使用者の対応として許容されるというべきである。

ウ 組合は、法人がD大学法人に合わせた給与表の統合が必要であった理由として「経営・財政的観点」であると説明するが、事務折衝や団交の中でこのような説明を受けたことがない旨主張する。しかし、確かに、「経営・財政的観点」との文言は用いていないものの、法人は、人件費総額も考慮して制度設計を行ったことを説明しているのであるから、事務折衝や団交の中で「経営・財政的観点」が理由であるとの説明をしていなかったとまではいえない。
 また、組合は、仮に人件費総額が問題になるのであれば、人件費総額の見通しなど詳細な資料等をもって組合に説明されてしかるべきであるが、そのような資料が提示されることはなかった旨主張する。しかしながら、2.3.25団交及び2.10.14団交以前に組合がこれらの資料の提示を求めたとの疎明はないし、また、法人は人件費総額も考慮して制度設計を行ったことを説明しているのであり、組合がそのような資料の提供を求めることは不可能であったとまではいえないことなどから、法人が、これらの資料を提示しなかったことをもって不誠実な対応であったとはいうことはできない。

(3)課長代理級職員の非管理監督者化に伴う給与減額について

ア 法人は、課長代理級職員を労基法上の管理監督者から除いた理由を説明するとともに、その結果、管理監督者としての管理職手当を支給すべきではないとの取扱いとなったこと、また、激変緩和措置を設けていることを説明しており、かかる法人の対応が不誠実であったとはいえない。

イ この点について、組合は、従前と同様の業務内容と責任が求められているのに、管理職手当の支給分を削減する理由が説明されていない旨主張する。しかし、法人は、設立団体の動向や、設立団体に法人の給与制度について理解を得る必要がある旨述べているのであるから、理由について説明していないとまではいえない。
 また、組合は、管理職手当相当分の減給について、就業規則による労働条件の不利益変更になるのであり、そのような不利益を労働者に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであることを組合に説明しなければならなかった旨主張する。しかしながら、課長代理級職員にとって不利益変更となることは否定できないことを考慮してもなお、法人は、管理職手当の支給分を削減する理由について、一定説明を行っているといえ、法人の対応が不誠実であったとまではいえない。加えて、法人は2.10.14団交以降も、協議を続けていく姿勢を見せている。

ウ 以上のことからすると、2.3.25団交及び2.10.14団交における、課長代理級職員の非管理職化に伴う給与減額に係る法人の対応は、不誠実団交に当たるとまではいえない。

(4)以上のとおりであるから、2.3.25団交及び2.10.14団交における法人の対応は、不誠実団交に当たるとはいえず、この点に関する組合の申立てを棄却する。 
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