概要情報
事件番号・通称事件名 |
中労委令和5年(不再)第14号
東京芸術大学不当労働行為再審査事件 |
再審査申立人 |
Y法人(「法人」) |
再審査被申立人 |
X組合(「組合」) |
命令年月日 |
令和7年1月22日 |
命令区分 |
一部変更 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、非常勤講師の無期転換や組合員Aの雇用問題などを議題とする組合の①平成31年3月13日付け、②同月26日付け及び③令和元年11月7日付けの団体交渉申入れ(「1.11.7団体交渉申入れ」)に対する法人の対応が、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、組合が、令和2年10月30日に救済申立てを行い、その後、組合が、④令和2年12月14日以降の団体交渉における法人の対応が同条第2号及び第3号に該当するとして、また、上記①から③に対する法人の対応が同条第3号にも該当するとして、令和3年7月16日に追加申立て(「3.7.16追加申立て」)を行い、さらに、上記④の法人の対応が同条第1号にも該当するとして、同年9月10日に追加申立てを行った事案である。
2 初審神奈川県労委は、上記1のうち、③に対し、法人が団体交渉ではなく話合いとして応じるとする態度を示したことは、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に該当すると認め、法人に対し文書手交を命じ、①及び②に係る申立てを却下し、④に係る申立てを棄却したところ、法人はこれを不服として再審査を申し立てた。 |
命令主文要旨 |
初審命令を変更し、法人に対し、1.11.7団体交渉申入れに対する法人の対応は労組法第7条第2号に該当する旨、組合への文書交付を命じる。 |
判断の要旨 |
(1) 非常勤講師の無期転換を議題とする1.11.7団体交渉申入れに対する法人の対応が労組法第7条第2号に定める不当労働行為に当たるか否か。また、同時に、同条第3号に定める不当労働行為に当たるか否か。
ア 非常勤講師は労働者であるとして団体交渉を求めた組合の申入れに対する応答において、法人は、非常勤講師が業務委託契約であることのみを論拠として、任意の交渉として話合いは行うが団体交渉には応じないと述べるにとどまり、それ以外に労働者性を否定する理由を説明せず、実質的に団体交渉と同様に誠実な対応を行うとの態度も表明していない。
組合が申し入れた議題についても、令和元年12月4日の話合い(「1.12.4話合い」)において、組合が、8か月余り前の話合いを受けて検討状況の具体的な説明を求めても、1.12.4話合いは任意の交渉であって団体交渉ではないという立場を示した上で、検討の進展等について具体的な説明をしなかった。法人は、組合の要求に対して論拠を示して自らの主張を説明したとも、要求内容に応じた誠実な回答を行ったともいえないうえ、労働組合との間で誠実に団体交渉を行ったものとは同視しがたい態度も示しているのであり、誠実な交渉態度であったとはいえない。
したがって、法人の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
イ 法人は、非常勤講師に労働者性はないと主張しながらも、非常勤講師をめぐる組合との任意の交渉に複数回応じ、1.12.4話合いにおいても、組合との協議そのものは継続する態度を示していた。また、理由の説明は求められるとしても労組法上の労働者性に関して自らの主張を述べること自体は妨げられるものではないことや、法人はその後の団体交渉で、非常勤講師の労組法上の労働者性を認める対応に改めていることからすると、法人の対応は、組合を弱体化させたり、その運営や活動の妨害を図る行為とまではいえず、労組法第7条第3号には該当しない。
(2) 組合員Aの雇用契約終了を議題とする1.11.7団体交渉申入れに対する法人の対応が労組法第7条第2号に定める不当労働行為に当たるか否か。また、同時に、同条第3号に定める不当労働行為に当たるか否か。
ア 1.12.4話合いにおいて、組合は、法人が組合員Aとの契約を更新せず雇用を終了させた理由を問い、その撤回ないし再雇用を求めたのに対し、法人は、組合員Aの雇止めは違法ではないという自己の見解を繰り返し述べるのみで、契約を更新しなかった理由や検討過程を説明することはなかった。
法人の対応は、組合の要求に照らし、組合が理解し納得することを目指し、自らの主張の論拠を示し説明するなどして組合との合意達成の可能性を模索するという、誠実な団体交渉であったと評価することはできず、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
イ 法人は、不十分ではあるが、回答及び雇止めが違法ではないと考える自己の見解を一応は述べているほか、法人は団体交渉ではなく話合いとして応じているとの組合の抗議に対し、その場で従前の発言を訂正していることに照らすと、法人の対応は、組合を弱体化させたり、その運営や活動の妨害を図る行為とまではいえず、労組法第7条第3号には該当しない。
(3) 本件再審査の範囲
法人は、(1)及び(2)の再審査の対象は「団体交渉ではなく話合いとして応じる」とする態度を示したことのみであり、交渉の不誠実さは対象にならないと主張する。しかし、組合は1.11.7団体交渉申入れに対する法人の一連の対応全体について、実質的な団体交渉拒否又は不誠実な交渉であると主張しており、再審査の範囲は、審査の対象として申立人が設定した申立事実を基準に判断すべきものであって、法人の主張は採用することができない。
(4) 非常勤講師の無期転換及び組合員Aの雇用契約終了を議題とする1.11.7団体交渉申入れに対する法人の対応が労組法第7条第3号に定める不当労働行為に当たるとする組合の3.7.16追加申立てにつき、同法第27条第2項により申立てを受けることができないか否か。
組合による当初の救済申立て及び3.7.16追加申立てに係る申立事実(申立事実の範囲とは、申立人が不当労働行為と主張する使用者の行為を指す)は、いずれも1.11.7団体交渉申入れに対する法人の対応であり、組合の主張を前提とする限りは、単に適用法条を異にするのみで、主張される事実としては同一というべきであるから、労働委員会は3.7.16追加申立てを受けることができる。 |
掲載文献 |
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