概要情報
事件番号・通称事件名 |
神奈川県労委令和2年(不)第24号
東京芸術大学不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y法人(法人) |
命令年月日 |
令和5年2月3日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①法人が、組合員の無期転換や雇用終了などを議題とする組合からの平成31年3月13日など3回の団体交渉申入れに対し、団体交渉ではなく話合いとして応じるなどしたこと、②これら議題に係る令和2年12月14日など3回の団体交渉における法人の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
神奈川県労働委員会は、①のうち、令和元年11月7日付け団体交渉申入れに係るものについて労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し文書手交を命じ、平成31年3月13日及び26日の団体交渉申入れに係るものについて除斥期間を徒過したものとして却下するとともに、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 法人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を組合に手交しなければならない。
記
当法人が、貴組合からの令和元年11月7日付け団体交渉申入れに対して、団体交渉ではなく話合いとして応じるとする態度を示したことは、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると、神奈川県労働委員会において認定されました。
今後このようなことがないようにいたします。
令和 年 月 日
X組合
委員長 A1殿
Y法人
学長 B1
2 平成31年3月13日付け団体交渉申入れ及び平成31年3月26日付け団体交渉申入れに係る申立てを却下する。
3 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 非常勤講師の無期転換を議題とする平成31年3月13日付け団体交渉申入れ及び令和元年11月7日付け団体交渉申入れに対し、法人が団体交渉ではなく話合いとして応じたこと等が労組法第7条第2号に定める不当労働行為に当たるか否か。また、同時に、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点1)
(1)除斥期間について
ア 平成31年3月28日の話合いから令和3年4月26日の団体交渉(以下「3.4.26団交」)までの法人の対応は、各話合い及び団体交渉における法人の対応としていずれも一個の行為として完結しているから、「継続する行為」に当たらない。よって、平成31年3月13日要求書に対する法人の対応に係る〔労組法第7条第2号に当たるとする〕令和2年10月30日申立て(以下「本件申立て」)及び〔支配介入に当たるとする〕同3年7月16日追加申立て(以下「3.7.16追加申立て」)は、いずれも労組法第27条第2項に定める除斥期間を徒過しているから却下する。
イ 他方、令和元年11月7日要求書(以下「1.11.7要求書」)に対する法人の対応については、これが組合の運営に対する支配介入に当たるとする3.7.16追加申立てがなされているところ、当該申立事実は、令和元年12月4日の話合い(以下「1.12.4話合い」)における法人の対応が労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるとする本件申立ての申立事実と同一性があるといえる。よって、当該追加申立ては、除斥期間を徒過したものとはいえない。
(2)1.11.7要求書に対する法人の対応は労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか否か。また、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
ア 組合が団体交渉に応じるよう求めたのに対して、法人は、令和元年11月13日回答メール(以下「1.11.13回答メール」)の記載〔注〕及び1.12.4話合い中の発言を通じて、話合いには応じられるが団体交渉には応じられないとする態度を重ねて示したものといえる。かかる態度は、団体交渉の相手方となるべき労働組合の存在そのものや団体交渉の意義を否定ないし軽視したものであり、労組法第7条第2号にいう不当労働行為に当たるとともに、組合の運営に対する支配介入に該当する。
〔注〕「なお、本学では非常勤講師は業務委託としておりますので、当大学としては、労働組合法上のいわゆる団体交渉ではなく、任意の交渉として話し合いをさせていただきますので、その旨予めご了承ください。」
イ 法人は、呼称はともかくとしても、組合との交渉そのものを拒絶してはおらず、根拠を示しながら回答するなどしているとして、団体交渉拒否ないし不誠実団体交渉に当たるものではないと主張する。しかし、組合が団体交渉の相手方となるべき労働組合であることや団体交渉の意義を法人は否定ないし軽視したものであるから、その後の協議内容の如何に関わらず、団体交渉の相手方としての組合の存在は、なお否定ないし軽視された状況にあると言わざるを得ない。よって法人の主張は採用することができない。
2 A2の雇用終了を議題とする平成31年3月26日付け団体交渉申入れ及び令和元年11月7日付け団体交渉申入れに対する法人の対応が労組法第7条第2号に定める不当労働行為に当たるか否か。また、同時に、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点2)
(1)31.3.26申入れに対する法人の対応に係る本件申立てについては、除斥期間を徒過しているから却下し、1.11.7要求書に対する法人の対応の不当労働行為該当性について検討する。
(2)1.11.7要求書に対する法人の対応について
ア 上記1の(2)のアと同様の理由により、法人の態度は、労組法第7条第2号に定める不当労働行為に当たるとともに、組合の運営に対する支配介入に該当する。
イ なお、法人は、根拠を示しながら回答し、組合の提案に対し再検討する約束もしているとして、不誠実交渉に当たるものではないと主張する。しかし、法人は、労働組合の存在そのものや団体交渉の意義を否定ないし軽視する態度を重ねて示しているのであるから、その後の協議内容の如何に関わらず、団体交渉の相手方としての組合の存在は、なお否定ないし軽視された状況にあると言わざるを得ない。したがって、法人は、組合の主張に応じる形で、話合いであることを訂正し、A2の雇用終了に係る交渉事項との関係では団体交渉であることを認めてはいるものの、この訂正が1.12.4話合いの終盤でなされている以上、法人の主張は採用することができない。
3 非常勤講師の無期転換を議題とする令和2年12月14日団体交渉、令和3年3月9日団体交渉及び同年4月26日団体交渉における以下①及び②に関する法人の対応が、不誠実な交渉態度に当たるか否か。また、同時に、組合の運営に対する支配介入及び組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。(争点3)
①非常勤講師の無期転換やコマ数に関する説明の内容・態様
②組合員に生じた不利益の是正に向けた法人からの提案の状況
(1)不誠実な交渉態度に当たるか否か
ア 法人は、組合の要求の程度に応じて、①非常勤講師の無期転換について、(非常勤講師が令和3年4月以降、業務委託契約又は雇用契約のいずれかを選択可能となる制度を創設し、就業規則に規定した旨などを説明の上)非常勤講師は同月以前には業務委託契約に基づき業務に従事しているのであり、労働契約法上の労働者には当たらない旨など、②コマ数について、カリキュラム編成上の問題であり、また、金銭の支出には根拠が必要である旨など、自己の主張及びその根拠を説明しているものといえるから、不誠実な交渉態度に当たるとはいえない。
イ 法人が令和2年12月14日の団体交渉(以下「2.12.14団交」)において、令和3年4月以前に非常勤講師は労働者に該当しないことにつき「もう主張は変えませんので」、「平行線ですので」などと発言したことについて、いずれも、譲歩を要求する組合に対して、応じられない旨の法人の見解を表明するものにすぎず、法人は組合の要求に応じ回答し、自身の見解についてその根拠を説明していることなどを併せ考えれば、不誠実な交渉態度に当たるとはいえない。
ウ 法人が、組合と音楽学部との交渉を拒否したことが不誠実な交渉態度に当たる旨の組合の主張について、確かに、法人は、〔非常勤講師〕A3のコマ数については、音楽学部に確認しなければ答えられない旨回答しているが、事務局長B2は、組合の求めに応じて具体的に説明しようとする姿勢を見せており、団体交渉を拒否したとまではいえない。
法人がA3のコマ数削減を、カリキュラムの必要性に基づくものだとしか説明しないことが不誠実な交渉態度に当たる旨の組合主張について、組合は、カリキュラム編成上の必要性について具体的な内容を説明することは求めておらず、また、法人は、音楽学部への確認を通じて具体的事実関係について説明する意向は示していたといえることから、主張は採用できない。
エ 法人が〔非常勤講師〕A4及びA3に生じた不利益の是正に向けた提案を行わなかったことが、不誠実な交渉態度に当たる旨の組合主張について、使用者は、団体交渉において、労働者に対する譲歩や提案を義務付けられるものではないから、直ちに不当労働行為に当たるとはいえない。
(2)支配介入に当たるか否か
組合は、法人が、不誠実な交渉態度により団体交渉を無意味化してきたことが、組合の運営に対する支配介入に当たると主張する。しかしながら、法人の対応は不誠実な交渉態度に当たるとはいえないから、支配介入に当たるとはいえない。
(3)不利益取扱いに当たるか否か
法人が団体交渉において不誠実な交渉態度をとったことにより、A4及びA3の不利益を是正するための提案がなされなかったとの組合主張について、法人の対応は、不誠実な交渉態度に当たるとはいえず、また、使用者は、団体交渉において、譲歩や提案を義務付けられるものではないから、法人が是正のための提案をしなかったことをもって、直ちに不利益取扱いに当たるとはいえない。
4 A2の雇用終了を議題とする令和2年12月14日団体交渉、令和3年3月9日団体交渉及び同年4月26日団体交渉における以下①及び②に関する法人の対応が、不誠実な交渉態度に当たるか否か。また、同時に、組合の運営に対する支配介入及び組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。(争点4)
①A2の雇用終了に関する説明の内容・態様
②組合員に生じた不利益の是正に向けた法人からの提案の状況
(1)不誠実な交渉態度に当たるか否か
ア 法人は、A2の雇用終了原因について〔あくまでも期間満了により終了したのであって、勤務状況に問題があったとの事実は雇止めの理由ではないなどと〕繰り返し説明している他、〔5年間の更新上限の存否や和解に係る〕両者の主張は平行線を辿っている。また、法人は、組合からの新たな要求に応じる形で、必要な回答や説明をしているものといえるから、不誠実な交渉態度に当たるとはいえない。
イ 組合は、法人が、A2の勤務状況等に問題があったことが雇止めの原因である旨の主張を後出しで行ったとして、法人のかかる対応が不誠実な交渉態度に当たる旨主張するが、法人による当該主張は、雇用終了の理由を追加したものとはいい難いから、組合の主張は採用できない。
ウ 組合は、法人が、A2に生じた不利益の是正に向けた提案を行わなかったことが、不誠実な交渉態度に当たる旨主張するが、団体交渉における使用者は、譲歩や提案を義務付けられるものではないから、主張は採用できない。
(2)支配介入に当たるか否か
組合は、法人が、不誠実な交渉態度により団体交渉を無意味化させてきたことが、組合の運営に対する支配介入に当たると主張するが、法人の対応は不誠実な交渉態度に当たるとはいえないから、組合の主張は採用できない。
(3)不利益取扱いに当たるか否か
組合は、法人が団体交渉において不誠実な交渉態度をとったことにより、A2の不利益を是正するための提案がなされなかったと主張するが、法人の対応は、不誠実な交渉態度に当たるとはいえず、また、使用者は、団体交渉において、譲歩や提案を義務付けられるものではないから、法人が是正のための提案をしなかったことをもって、直ちに不利益取扱いに当たるとはいえない。
5 救済の方法等
法人が、非常勤講師の無期転換及びA2の雇用終了を議題とする令和元年11月7日付け団体交渉申入れに対し、団体交渉ではなく話合いとして応じたことは、いずれも、労組法第7条第2号及び同条第3号の不当労働行為に該当する。
しかし、法人は2.12.14団交の開催以降においては、組合の団体交渉申入れに対して、団体交渉であることを否定していないから、団体交渉として応じるよう命じる必要はないといえる。他方で、法人が団体交渉の相手方となるべき労働組合の存在そのものや団体交渉の意義を否定したことにより、労使の信頼関係は損なわれたといえる。したがって、今後の労使関係の安定を図るため、主文のとおり命じることとする。 |
掲載文献 |
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