労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和5年(不)第67号
不当労働行為審査事件 
組合  X組合(組合) 
法人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年3月10日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、組合員Cの解雇撤回等を議題とする団体交渉において、決定権限を持たない者を出席させ、解雇が覆ることはない旨宣言し、要求を全て持ち帰り検討するとの答弁を繰り返し、誠実に対応しないこと、②組合が資料の請求及び代表取締役の出席を書面で求めたところ、当該書面が事実の歪曲及び誹誇中傷であるとし、次回団体交渉を拒否したことがそれぞれ不当労働行為であるとして救済申立てがなされた事案件である。
 大阪府労働委員会は、①②のいずれも、労働組合法(「労組法」)第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)誠実団体交渉応諾、(ⅱ)文書手交を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和5年9月19日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
年 月 日
X組合
執行委員長A
Y会社      
代表取締役B
 当社が、令和5年10月18日に開催された団体交渉において誠実に対応しなかったこと並びに同月23日付け及び同月30日付けの回答書により団体交渉に応じられない旨を回答したことは、大阪府労働委員会(において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  1 令和5年10月18日団体交渉(「10.18団交」。以下、他の日付のものについても同様に表す。)における会社の対応は、不誠実団交に当たるか。(争点1)

(1)10.18団交は、令和5年9月19日付団体交渉申入書(「9.19団交申入書」。以下、他の日付のものについても同様に表す。)に基づき行われたことが認められる。そこで、9.19団交申入書の要求事項が、義務的団交事項に当たるかについてみる。
 9.19団交申入書の要求事項は、①組合員Cに対する令和5年9月14日付解雇予告通知(「9.14解雇予告通知」)を撤回し、正社員として雇用すること、②就業規則を事前にファクシミリ等で送付すること、③組合加入や組合活動を理由として不利益取扱いを行わないこと、④合意内容を協定化すること、の4点であったことが認められ、9.19団交申入書の要求事項は、労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係に関する事項であって、会社の処分可能なものに当たり、義務的団交事項に当たるといえる。
 そうすると、使用者は、誠意をもって団交に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、また、結果的に譲歩できないとしても、その論拠を示して反論するなどの誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があり、これを果たさずに、実質的な団交に応じなければ、不誠実団交に当たる。

(2)10.18団交における会社の対応についてみると、組合は、①決定権限のある者を参加させず、②団交冒頭から解雇が覆ることはない旨宣言し、すべて持ち帰って検討して回答するとの答弁を繰り返し、具体的かつ正当な理由も述べずに組合側の理解を得る努力を怠るといった誠実さからはかけ離れた攻撃的な答弁を終始繰り返し、書面でのやり取りを希望する旨の発言を繰り返し、面談での団交そのものを否定したことが不誠実団交に当たる旨主張する。
ア まず、組合の主張①についてみる。
交渉担当者は、団交を円滑に進めるため、当該交渉事項に関する知識、経験等合意達成に向けて誠実に協議できる能力・権限を持つ必要はあるが、交渉の妥結権限、協約締結権限まで持つ必要はない。
本件団交における唯一の会社側出席者である会社代理人弁護士(「代理人」)は、自ら決定権限がないことを認めているが、このことのみをもって直ちに会社の対応が不誠実であったとはいえない。
イ 次に、組合の主張②についてみる。
代理人は、団交の冒頭から、会社としては、組合員Cの正社員としての雇用はもうしない旨を述べるのみで、組合の要求について、譲歩ができない根拠を示すなどして説明しようとしておらず、組合がこの団交は意見を聞くだけなのかとの問いに対しそうである旨述べるなど、そもそも、会社として団交において組合と協議を行う意思があったのか疑問であると言わざるを得ない。
また、その後も、団交の場では意見を聞くだけであるとか、持ち帰って検討して回答するというのも交渉であると思っている旨述べるにとどまり、団交において組合の要求事項について、具体的に根拠を示し、説明をしようとしていない。
さらに、組合が、令和5年9月19日付解雇理由書(「9.19解雇理由書」)や令和5年10月5日付会社回答書(「10.5会社回答書」。以下では、他の日付のものについても同様に表す。)の内容について事実と違う点などについて意見を述べた際も、代理人は、持ち帰って録音を頼りに回答するとし、聞取りを行っているのみで、団交の場で、合意形成に向けて誠実に協議に応じているとはいえない。
したがって、10.18団交において、代理人は、組合の要求に対し、根拠を具体的に説明せず、譲歩できないと述べるのみで、その論拠を示して反論するなどの努力をしているとはいえず、合意達成の可能性を模索しているとはいえないのであるから、実質的に団交に応じているとはいえない。

(3)以上のとおりであるから、10.18団交における会社の対応は、不誠実団交に当たり、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

2 会社の10.23会社回答書及び10.30会社回答書による回答は、正当な理由のない団交拒否に当たるか。(争点2)
(1)10.18団交において、次回団交の期日が令和5年11月7日と決定されたが、会社は、10.23会社回答書及び10.30会社回答書により、団交に応じることができなくなった旨、組合に通知し、団交が開催されていない。
前記1(1)のとおり、当該団交の要求事項は、義務的団交事項に当たるから、会社が正当な理由なく団交に応じなかった場合、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為となる。
そこで、会社が、今後の団交の出席を拒否したことに正当な理由があるかについてみる。

(2)この点会社は、①10.18団交において、組合と組合員Cにより、2時間もの長きにわたり行われた定義の押し付け、攻撃的言動、潮笑、非礼、卑下、蔑み、犯罪行為を行ったこと、②組合が、令和5年10月21日付組合請求(「10.21組合請求書」。以下、別の日付のものについても同様に表す。)及び10.25組合請求書等で誹誇中傷及び人格非難を行ったことにより、交渉継続は不可能な状態となったのであり、会社が、団交継続が不可能であることを告げたこは、正当なものである旨主張する。
ア まず、会社の主張①についてみる。
団交における組合の言動について、乱暴な言動によって威圧しながら、容易に代表者を解放しない等、社会的相当性を超える態様で交渉を行う蓋然性が高い場合や、粗暴な脅迫的言動を繰り返すなど、使用者が団交の場で組合と正常な協議ができない状況であると考えたことに合理的な理由があるといえる場合には、正当な理由があると解される。
(ア)10.18団交における組合の言動についてみると、代理人に対する組合の発言については、一部、笑いながら発言したり、代理人が社長と似ている旨発言するなど、団交議題に直接関係がない上、適切さを欠いた対応や発言があったといえるものの、実際に、当該発言が原因で代理人が,全く発言することができなくなったであるとか、団交を中断せざるを得なくなった事実は認められず、正常な協議ができない状況であったとまではいえない。
また、「無理矢理監禁するわけにいかへんわ」との組合の発言については、監禁という言葉から、脅迫的な言動ととらえ、会社が、組合の対応を問題視すること自体は、一定理解できるものの、両者の前後のやり取りから、代理人が提案した2週間後という次回団交期日について、組合員Cの納得できないような様子に対し、組合が仕方がないとなだめるやり取りの中のことであるといえ、代理人に直接的な危害を加える意図で発言されたものとは評価できない。さらに、少なくとも10.18団交の終了時は、次回の団交期日の日程調整が行われたことが認められ、交渉の継続が困難な状況に陥っていたとはいえない。
以上のことからすれば、10.18団交における組合の発言や対応に問題がなったとはいえないものの、社会的相当性を超える態様で交渉を行う蓋然性が高い状況や粗暴な脅迫的言動を繰り返すなど正常な協議ができない状況にあったとはいえず、その後の団交の継続を困難にするものであったとはいえないことから、会社の主張①は採用できない。
イ 次に、会社の主張②についてみる。10.21組合請求書及び10.25組合請求書の記載内容には、代理人が誹誇中傷を受けたと被害妄想に陥っているなど、一部、適切さを欠いた表現が含まれていたといえ、また、10 23会社回答書は、項目1以外は、全て代理人の個人的感情によるものではないかと推測しているとの記載があるなど、代理人にとって不快な記載があるとみることができる。しかしながら、これら書面の記載内容を総合的にみると、10.18団交において組合が代理人の対応及びそれにより受けた印象を踏まえ、組合が会社の姿勢や行動に抗議する意図で記載されたものであるとみることができ、団交における組合の対応として、社会的相当性を逸脱しているとまではいえない。したがって、会社の主張②は採用できない。

(3)以上のとおりであるから、10.23会社回答書及び10.30会社回唇書による会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
 

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