労働委員会裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件番号・通称事件名  大阪地裁令和7年(行ウ)第22号
労働委員会救済命令取消請求事件 
原告  X会社(「会社」)
 
被告  大阪府(処分行政庁 大阪府労働委員会(「府労委」)
 
被告補助参加人  Z組合(「組合」)  
判決年月日  令和8年1月15日 
判決区分  却下、棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①会社が、組合員A1の解雇撤回等を議題とする団体交渉において、決定権限を持たない者を出席させ、解雇が覆ることはない旨宣言し、要求を全て持ち帰り検討するとの答弁を繰り返し、誠実に対応しないこと、②組合が資料の請求及び代表取締役の出席を書面で求めたところ、会社が、当該書面が事実の歪曲及び誹誇中傷であるとし、次回団体交渉を拒否したことがそれぞれ不当労働行為であるとして救済申立てがなされた事案である。

2 府労委は、①②のいずれも、労組法7条2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)誠実団体交渉応諾、(ⅱ)文書手交を命じた(「本件救済命令」)。

3 会社は、これを不服として大阪地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社の請求を却下、棄却した。
 
判決主文  1 本件訴えのうち、大阪府労働委員会が、同委員会令和5年(不)第67号事件について、令和7年3月10 日付けでした命令の主文第1項の取消しを求める部分を却下する。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 本件訴えの利益について
⑴ 判断枠組み
 使用者が、労働委員会の救済命令の取消訴訟を提起している場合において、救済命令の発令後に事情の変更があり、救済命令の履行が客観的に不可能となったときや、救済命令が救済の手段方法としての意味を失ったことが客観的に明白となったときは、当該救済命令はその効力を喪失し、当該救済命令の取消しを求める訴えの利益は消滅すると解される(最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決・民集66巻6号3000頁参照)。

⑵ 本件救済命令主文第1項の取消しを求める部分について
 本件救済命令主文第1項は、組合の以下の要求事項①~⑤に係る団体交渉の申入れに応じることを命ずるものである。しかるに、要求事項①(解雇の撤回・正社員としての雇用継続)及び要求事項⑤(社会保険の被保険者としての延長)は、いずれもA1が会社の従業員であることを前提とするものであることが明らかである。また、要求事項③(組合加入等を理由とする不利益取扱いをしないこと)も、A1が組合に加入したことを契機として、A1に対する不利益取扱いをしないように求めるものであり、A1が会社の従業員であることを前提としているものと解される。そうすると、上記各要求事項については、別件和解によってA1が会社を退職したことが最終的に確定した後においては、団体交渉の意義が失われたといえる。さらに、要求事項②(就業規則の事前交付)は、団体交渉に先立ち資料の提出を要求するもの、要求事項④(合意内容の協定書化)は、団体交渉により合意が成立した場合の合意内容を書面とするよう要求するものであって、他の要求事項について団体交渉を行う意義が失われた以上、組合の会社に対する要求として意味があるものとはいえない。

 したがって、組合の要求事項①~⑤のいずれについても、別件和解によりA1の退職が確定したことによって、団体交渉を行う意義が失われており、これを命ずる本件救済命令主文第1項は、救済の手段方法としての意味を失ったことが客観的に明白であるから、その効力を失ったというべきである。
 よって、本件訴えのうち、本件救済命令主文第1項の取消しを求める部分は、訴えの利益を欠くに至ったものであって、不適法なものとして却下を免れない。

2 争点⑴(不当労働行為該当性)について
⑴ 争点⑴ア(第1回団体交渉での対応が不誠実団交に当たるか)について
 労組法7条2号は、使用者がその雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことを不当労働行為として禁止するところ、使用者は、必要に応じてその主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示するなどして、誠実に団体交渉に応ずべき義務(誠実交渉義務)を負い、この義務に違反することは、同号の不当労働行為に該当するものと解される(最高裁令和4年3月18日第二小法廷判決・民集76巻3号283頁)。
 そして、第1回団体交渉には会社側からは会社代理人のみが出席し、会社代理人は、自身にはA1の解雇を撤回する決定権限はないから会社から聞いた話を持ち帰るとの形式的な対応に終始し、実質的な交渉を拒否している。また、会社代理人は、組合に対し、A1を正社員として雇用継続できない理由を、口頭で具体的に説明したり、その根拠資料を席上で示したりすることも一切なく、会社の見解につき、相手方である組合の納得が得られるよう努める姿勢もうかがわれない。このように、第1回団体交渉における会社及び会社代理人の対応は、誠実性を著しく欠くものであって、誠実交渉義務に違反したものといわざるを得ない。

 この点、会社は、①第1回団体交渉に先立ち、組合に対し、事前に書面を送付して回答を行っているから、第1回団体交渉において口頭で確認をするのは時間の浪費にほかならない、②A1の問題行動が多岐にわたるため、口頭でやり取りを行っていては口論になるだけであるなどと主張する。しかしながら、労使双方が相互の意思疎通を図るには、直接話し合う方式によるのが最も適当であり、その際、団体交渉事項に関する使用者の見解の要旨を口頭で説明し、詳細は書面に譲るなど、書面を補充的な手段として用いることは許されるとしても、会社が主張するような専ら書面の交換による方式は、上記直接話し合う方式に代わる機能を有するものではないから、労組法が予定する団体交渉の方式ということはできない。また、組合が、会社の書面による説明のみで十分であると同意した事実も認められない。

 会社は、組合から第1回団体交渉の場で出てきた反論については、持ち帰って事実確認をせざるを得ないとも主張しているが、組合の主張に関して持ち帰って事実確認をせざるを得なかったのは、会社が第1回交渉に実質的な協議をすることができる者を出席させなかったことが原因であるから、事実関係を十分に把握していない会社代理人がその場で回答することができないため持ち帰らざるを得なかったことは、第1回団体交渉における会社及び会社代理人の対応が誠実性を著しく欠くとの評価を左右するものではない。
 したがって、会社の上記主張には理由がないから、会社代理人の令和5年10月18日の第1回団体交渉における対応は、誠実交渉義務に反するものであって、労組法7条2号の不当労働行為に当たる。

⑵ 争点⑴イ(第2回団体交渉に応じなかったことに正当な理由がないか)について
ア 第1回団体交渉での言動について
 第1回団体交渉において、委員長及びA1が、時折、会社代理人を笑ったり、会社代理人が会社代表者と似ているなどと団体交渉に関係のない話題を出したりしたことが認められるが、これらの組合側の言動の後も、会社代理人は対話を続け、第2回団体交渉の日時の決定に至っていることからも明らかなとおり、これらの言動が組合との正常な団体交渉の実施を困難にする事情とはいい難い。
 また、第1回団体交渉の終了に当たって、会社側の書面での回答期限を設定する場面において、委員長が「無理やり監禁するわけにいかへんわ」との発言をしているが、上記発言は、次回の団体交渉の日程を2週間後とすることを不満とするA1に対し、相手方が同意しない以上2週間後の期限設定がやむを得ないとA1を説得する趣旨でなされたものであり、会社代理人に対し、危害を加える趣旨ではないことは明らかである(現に、この発言を聞いた会社代理人も、上記発言につき何ら抗議をしていない。)。以上の検討を踏まえると、委員長の上記発言は、第2回団体交渉の実施を困難ならしめるような事情であると評価することはできない。
 したがって、第1回団体交渉における組合側の言動が、会社・組合間の正常な団体交渉を阻害するものとは認められない。

イ 第1回団体交渉後の組合の書面の記載について
(ア) 組合が令和5年10月21日付けで会社に対して送付した文書には、要旨、会社代理人は誠実さからかけ離れた攻撃的な言動を終始繰り返してきた旨の記載がある。しかしながら、「攻撃的な言動」との表現を用いることが適切であったかは問題となり得るとしても、上記⑵で説示したとおり、会社代理人の第1回団体交渉での対応は誠実交渉義務に反するものであって、会社代理人は誠実さからかけ離れているという組合の批判を受けてもやむを得ないものであり、上記記載は会社代理人の対応に対する抗議として許容される範囲を著しく逸脱したということはできない。そうすると、同日付け文書に上記記載があったことは、その後の団体交渉を困難にするほどの事情とはいい難く、会社が団体交渉に応じない正当な理由に当たるとはいえない。

(イ) 組合が令和5年10月25日付けで会社に対し送付した文書には、会社代理人が誹謗中傷を受けたとの被害妄想に陥っているとの記載がある。この記載は、組合が同月21日付け「資料請求」と題する文書において、会社代理人の第1回団体交渉における対応について、「要求を断る場合であっても具体的な理由を説明したり資料の提示をしたりもせず」「組合側の理解を得る努力を怠るといった誠実さからかけ離れた攻撃的な言動を始終繰り返していた」と記したことに対し、会社代理人が同月23日付け回答書において、会社代理人に対する単なる誹謗中傷であると記したことを受けて、上記記載は会社代理人に対する誹謗中傷には当たらないとの趣旨で記したものであると認められる。そして、会社代理人の第1回団体交渉における対応が、著しく誠意に欠けるものであることは、上記⑴で説示したとおりである。そうすると、組合の同月25日文書における上記記載は、表現ぶりに穏当さを欠くところがあるとしても、会社代理人からの誹謗中傷である旨の批判に対して反論すること自体は理由があるものであり、会社代理人の対応に対する抗議として許容される範囲を著しく逸脱したものということはできず、その後の団体交渉を困難とする事情と評価することもできない。したがって、同文書の記載をもって、会社が組合との団体交渉を拒絶することに正当な理由があるとはいえない。

ウ 以上の検討結果によれば、会社が第2回団体交渉に応じなかったことについて正当な理由があるとはいえない。

⑶ 小括
 したがって、会社が、令和5年10月23日付け及び同月30日付けの回答書により団体交渉に応じられない旨を回答し、第2回団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否に当たり、労組法7条2号の不当労働行為に当たる。

3 争点⑵(本件救済命令の主文で「団体交渉に誠実に応じなければならない」としたこと等の違法性)について
⑴ 労働委員会は、救済命令を発するに当たり、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという救済命令制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱することは許されないが、その内容の決定について広い裁量権を有するのであり、救済命令の内容の適法性が争われる場合、裁判所は、労働委員会の上記裁量権を尊重し、その行使が上記の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない(最高裁昭和52年2月23日大法廷判決・民集31巻1号93頁参照)。使用者が誠実交渉義務に違反した場合、労働者は、当該団体交渉に関し、使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができず、誠実な交渉を通じた労働条件等の獲得の機会を失い、正常な集団的労使関係秩序が害されることとなるが、その後使用者が誠実に団体交渉に応ずるに至れば、このような侵害状態が除去、是正され得るものといえる。そうすると、使用者が誠実交渉義務に違反している場合に、これに対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命じるとともに、労働委員会から団体交渉に誠実に対応しなかったこと等が不当労働行為であると認められたこと及び不当労働行為を繰り返さないことを内容とする文書の交付を命ずる旨の救済命令を発することは、一般に、労働委員会の裁量権の行使として、救済命令制度の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるものではないというべきである(前掲最高裁令和4年3月18日第二小法廷判決参照)。

⑵ 会社は、本件救済命令主文第2項は、本件文書に「誠実に対応しなかったこと」を記載するように命じているところ、いかようにも解釈できる「誠実」という文言を用いている点で、本件救済命令主文第2項には裁量権の逸脱があり、違法である旨を主張する。
 しかしながら、労働組合から団体交渉を求められた使用者が誠実交渉義務を負っていることは、前記2⑴で説示したとおりであり、本件救済命令主文第2項は、会社に対して、会社が将来組合と団体交渉をする場合には誠実交渉義務に従って団体交渉をすることを約した書面を手交すべきことを命ずるものであって、その内容は不明確であるとはいえないから、本件救済命令主文第2項が裁量権の逸脱に当たるとはいえず、会社の主張には理由がない。

4 争点⑶(救済命令の必要性)について
 会社は、別件訴訟の方が、はるかに適切な紛争解決となることは明らかであり、本件救済命令主文第2項には必要性がない旨主張する。しかしながら、別件訴訟係属中はもとより、別件訴訟における別件和解によって、A1と会社との間の個別的労働紛争は解決したものの、組合は正常な集団的労使関係秩序を回復・確保するため救済を受けるべき固有の利益を有しており、そのため本件文書の交付を受けることによる救済の必要性は残存している(最高裁昭和61年6月10日第三小法廷判決・民集40巻4号793頁参照)。したがって、会社の上記主張は理由がない。

5 結論
 よって、本件訴えのうち、本件救済命令主文第1項の取消しを求める部分は、不適法であるから却下し、会社のその余の請求は理由がないから棄却する。 
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委令和5年(不)第67号 全部救済 令和7年3月10日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約271KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。