概要情報
事件番号・通称事件名 |
中労委令和3年(不再)第47号
江藤運輸不当労働行為再審査事件 |
再審査申立人 |
X組合(「組合」) |
再審査被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
令和7年1月8日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、会社が、①過去の早出手当の未払分を支払う際に、組合員A1、A2以外の者には2年間分を支払い、両名に対しては1年間分しか支払わなかったこと、②組合員A1に注意書による注意をしたこと、③組合員A2に減給処分を行ったこと、④組合員A2に出勤停止処分を行ったこと、⑤令和2年度の賃上げ交渉について、他の組合より遅い時期に組合に回答したこと、⑥組合員A1、A3に対し、年次有給休暇の時季変更権を行使し休暇を取得させなかったこと、⑦組合員A1、A2に対し、各種手当が他の乗務員と比較して平等になるよう配車しなかったことが不当労働行為に該当するとして、組合が福岡県労働委員会に救済申立てをした事件である。
2 初審福岡県労働委員会は、組合が申し立てる上記①から⑦の各行為は、いずれも労働組合法(労組法)第7条第1号及び同条第3号の不当労働行為には当たらないとして、組合の救済申立てを棄却したところ、組合は再審査を申し立てた。 |
命令主文 |
(1) 初審命令主文中、平成31年1月から令和元年11月までに支給された普通残業手当、深夜残業手当、距離手当及び乗換手当に係る配車を対象とする救済申立てに係る部分を取り消し、同部分に係る救済申立てを却下する。
(2) その余の本件再審査申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
(1) 会社が、早出手当として、組合員A1及びA2以外の乗務員には2年間分を支払い、組合員A1及びA2には1年間分しか支払わなかったことは、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
会社が、組合員A1及びA2とその他の乗務員とで、未払であった早出手当の支払対象期間について異なる取扱いをしたのは、所定始業時刻前に業務をしていた期間が異なっていたと判断したからであって、その判断が不合理なものとはいえず、会社が、組合の組合員間で差別をし、あるいは労働組合間で差別をしたとはいえないから、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たらない。
(2) 会社が、組合員A1に対し、注意書による注意をしたことは、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
組合員A1は、客先への到着が遅れる場合は会社に連絡するようにとの会社の指示に従わず、連絡なく遅刻したのであり、会社が、組合員A1に対し、無連絡遅刻を理由として注意書による注意をしたことには、合理的な理由があったといえるし、これが不相当に重いものであったということもできず、組合員A1が組合の組合員であること等の故をもってなされたものとはいえないし、組合を弱体化させるなどの意図に基づいてなされた特に重いものであるともいえないから、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たらない。
(3) 会社が、組合員A2に対し、減給処分を行ったことは、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
組合員A2は、合理性のあるルートを外れて走行する場合に求められていた会社への事前連絡を行わずに遠回りをして、事後の連絡もしなかったのであり、会社が、組合員A2に対し、減給処分をしたことには、合理的な理由があったといえるし、これが不相当に重いものであったということもできず、本件減給処分が、組合員A2が組合の組合員であること等の故をもってなされたとはいえないし、組合を弱体化させるなどの意図に基づいてなされた特に重い処分であるともいえないから、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たらない。
(4) 会社が、組合員A2に対し、出勤停止処分を行ったことは、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
組合員A2は、タンクローリー車のタンクにガスを充填する作業の際に必要とされる計器等の監視業務を怠り、過充填を発生させたのであり、会社が、組合員A2に対し、本件出勤停止処分をしたことには、合理的な理由があったといえるし、これが不相当に重いものであったということもできず、組合員A2が組合の組合員であること等の故をもって本件出勤停止処分をしたとは認められないし、組合を弱体化させるなどの意図に基づき特に重い処分をしたとも認められないから、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たらない。
(5) 令和2年度の賃上げ交渉において、会社の組合への賃上げ回答が他の労働組合とは異なり2年7月1日になったことは、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
2年度の賃上げ交渉において、会社の組合への回答が他の労働組合と異なり2年7月1日になったのは、組合が、2年度の賃上げ等を議題とする団体交渉について、その開始時刻の直前になって突然延期の申入れをし、その後同年6月に至るまで改めて団体交渉を申し入れず、同年7月1日の団体交渉において賃上げに関する交渉が行われるに至ったことによるものであって、会社が、組合を差別する、あるいは組合を弱体化させるなどの意図に基づき、組合への回答を遅らせたとはいえないから、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たらない。
(6) 会社が、組合員A1及びA3に対し、年次有給休暇の時季変更権を行使し、年休を認めなかったことは、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
会社による時季変更権行使は、乗務できる乗務員を適切に確保する必要があったことからなされたもので、不合理であるとはいえないし、組合の組合員が申請どおり年休を取得できるよう配慮もなされていたのであるから、会社に、組合の組合員の年休取得を不当に制限しようなどという意図があったとはうかがわれない。会社が組合員A1及びA3の年休取得申請に対し時季変更権を行使したことが、組合の組合員であること等の故をもってなされたとは認められず、組合を弱体化させるなどの意図に基づくものであったとも認められないから、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たらない。
(7) 会社は、組合員A1及びA2に対し、営業所の他の乗務員と比較して各種手当を平等になるよう配車しなかったといえるか。いえる場合、そのことは労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
ア 申立期間の制限(労組法第27条第2項)について
本件では、会社による手当の支給の時から1年以内になされた救済申立てについては、労組法第27条第2項が定める申立期間内になされた適法な申立てであるのに対し、支給の時から1年を超えてなされた救済申立てについては、申立期間を徒過した不適法な申立てとなるところ、組合は、2年12月8日付けで本件申立てを行っている。組合の救済申立ては、元年12月27日が支給日であった各種手当に係る配車を申立ての対象とする限度で適法であるが、これより前、すなわち平成31年1月から元年11月までに支給された各種手当に係る配車を対象とする部分については、不適法な申立てである。
イ 配車における組合間の差別について
各種手当の支給額の算定の基礎となった普通残業時間、深夜残業時間、走行距離及び乗換回数について、組合員A1及びA2の平均と、別組合の組合員の平均を比較しても、労働組合間の差別があったとは認められない。元年12月に支給された各種手当に係る配車について、会社が労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為をしたとはいえない。 |
掲載文献 |
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