労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡県労委令和2年(不)第8号
江藤運輸不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年11月19日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、始業前の残業手当として、組合員A1及びA2以外の乗務員には2年間分を支払い、両名には1年間分だけしか支払わなかったこと、②会社が、A2に対し、注意書を通知したこと、③会社が、A1に対し、減給処分や出勤停止処分を行ったこと、④令和2年度の賃上げ交渉において、会社の組合への賃上げ回答が2年7月1日になったこと、⑤会社が、A2とA3に対し、時季変更権を行使し、年次有給休暇申請日の年休を認めなかったこと、⑥A1及びA2に対し、C営業所の他の従業員と比較して普通残業手当、深夜残業手当、距離手当及び乗換手当を平等になるよう配車しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 福岡県労働委員会は、申立てを棄却した。
 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 A1及びA2に対する始業時刻前の業務に対する残業代の支払いについて
 会社は、始業前の時間外勤務について、組合員A1及びA2に平成29年6月21日からの1年間分、他のローリー運転手には、平成29年12月21日からの2年間分の未払い残業代を支給しているところ、①A1及びA2の支払対象期間を1年間としたことは両名が平成30年6月7日以降に点検、点呼等の始業開始前の業務を行っていなかったことを会社が把握したためであること、②A1ら以外のローリー運転手に対しては、労基署の是正勧告を受けたのが元年12月であるので、当月から2年間遡及したものと認められる。
 これらのことからすると、会社の対応は、組合員であること又は組合の正当な行為を理由としてなされたものとは認められないので、労組法7条1号の不利益取扱いに該当せず、また、組合に対する干渉とも認められないので、同条3号の支配介入にも該当しない。

2 A2に対する2年5月1日付け注意書について
(1)会社は、取引先との信頼関係を損なわないためにも、目的地到着遅延時の連絡を乗務員へ徹底させる業務上の必要性があったことが認められる。また、会社が荷主の意向に従って到着遅延時の連絡徹底を行っている中、A2は、二度続けて無連絡の遅刻を行っており、2年4月1日付通知書で注意喚起を行った後も、無連絡の遅刻を行ったという状況から、会社が書面により注意したことはやむを得ないと思料する。したがって、A2に対する注意書の交付には理由があったといえる。
 このほか、会社は、無連絡の遅刻をなくすため、2年4月1日通知書を発し、この中で、前例にかかわらず本通知の趣旨に沿って指導や処分を行う旨を述べており、A2に対する注意書の交付は、この通知後の事案であることから、同通知書に基づいて発出されたに過ぎない。実際に、同通知書発行後に初めて無連絡の遅刻を行った乗務員1名に対しても、A2と同様に注意書交付を行っていたことからすると、組合員のみ不当に取り扱っているとはいえない。

(2)これらのことから、会社は、A2が組合員であるが故に2年5月1日付け通知書を交付したとはいえず、会社の不当労働行為意思を見出すことはできない。
 よって、労組法7条1号の不利益取扱いに該当せず、また、組合員を狙ったものとはいえず、組合に対する弱体化行為とも認められないから、同条3号の支配介入にも該当しない。

3 A1に対する2年6月15日付減給処分について
 A1に対する減給処分が不当労働行為に該当するか否かの判断に当たり、当該行為の懲戒事由該当性及び処分の合理性、相当性について、処分事由ごとに検討する。

(1)懲戒事由の該当性について
ア 処分理由①(遠回りを行ったこと)について、A1は、正当な理由なく遠回りを行ったものであり、荷主からも指摘を受けていることからも、就業規則68条6号に該当する。
イ 処分理由②(遠回りを行ったことを配車責任者へ報告を怠ったこと)について、2年4月1日通知書では、「合理性のあるルートを外れて走行する場合は事前に会社責任者へ連絡を行うこと」が掲げられ、従わなかった場合は、指導や処分の対象となり得るので、就業規則69条3号に該当する。
 同条は、諭旨退職又は懲戒解雇を行う場合の根拠規定であり、減給処分の事由ではない。しかし、これは、諭旨退職又は懲戒解雇の懲戒事由の存在を前提に、処分を軽減して減給処分としたものであると解することもできる。
 したがって、遠回りを配車責任者に報告しなかったことが減給処分の事由に該当しないとはいえない。
ウ 処分理由③(遠回りを行ったことについて虚偽の説明を行い、理由書の提出を命じられたにもかかわらずこれに従わなかったこと)について、車が多かったとするA1の説明は、就業規則69条8号に該当し、また、業務命令としての理由書の提出指示に対して、これに応じる条件として搬送道路の指定を一方的に提示し、結局は理由書を提出しなかったことは、同条3号に該当する。
 就業規則69条は、諭旨退職及び懲戒解雇を行う場合の根拠規定であるが、前記イ同様、このことをもって直ちに減給処分の事由に該当しないとはいえない。

(2)懲戒処分の相当性について、会社は、遠回りをしないことを全従業員に対し2年3月31日に説明会を開催した上で2年4月1日通知書で周知しており、会社が違反に対し厳しい態度で臨むのは仕方がないことであるといえる。また、A1が配車責任者に遠回りしたことを報告しなかったことや理由書提出に応じなかったことも、情状を酌むべきところがないものといえ、A1のこれまでの処分歴からしても減給処分はやむを得なかったものといえる。したがって、A1に対する減給処分は、社会通念上相当であると認められないとはいえない。

(3)不当労働行為の成否について、会社のA1に対する減給処分は、客観的に合理的な理由があって社会通念上相当なものであり、会社の不当労働行為意思も認められない。したがって、労組法7条1号の不利益取扱いに該当せず、また、組合員を狙ったものとはいえず、組合に対する弱体化行為とも認められないので、同条3号の支配介入にも該当しない。

4 A1に対する2年6月25日付出勤停止処分について
(1)懲戒事由の該当性について、A1が、適切な監視を怠った結果、過充填を引き起こし、仕入先の担当者から通報を受けたことは、就業規則68条6号に該当する。また、会社は、重大な事故等を引き起こす可能性もある液体ガスの過積載を防止するため、ガス充填時の監視業務を最重点項目の一つとして毎年講習を行っており、A1が引き起こした過充填は、こうした会社の講習に従わなかった結果であるので、同条8号に該当する。

(2)懲戒処分の相当性について、A1は、過去にも過充填を起こしているほか、平成30年12月にも、充填の際にスマートフォンを扱い、計器の監視を怠ったために客先から通報され出勤停止処分を受けている。これらからすると、今回のA1に対する出勤停止処分が過重であるとはいえず、また、これまでの処分歴からしても出勤停止処分はやむを得なかったものといえる。したがって、A1に対する出勤停止処分が社会通念上相当であると認められないとはいえない。

(3)会社がA1のみに対し不当に重い処分を科したとはいえず、他に会社の不当労働行為意思を推認される事実も認められないことから、会社がA1に対し出勤停止処分を行ったことは、労組法7条1号の不利益取扱いに該当しない。また、組合員を狙ったものとはいえず、組合に対する弱体化行為とも認められないため、同条3号の支配介入にも該当しない。

5 会社による2年7月1日の賃上げ回答について
 会社は2年7月1日に組合への賃上げ回答をしており、他の組合よりも遅い回答期日となっていることが認められる。しかしながら、組合は、本来ならば他組合よりも早い3月23日に賃上げ回答を得られた可能性があったところ、事前に会場の提示を受けていたにもかかわらず、団交15分前に駐車場代がかかることを理由として、団交延期を組合が一方的に申し入れて団交が延期されたことが認められる。その後、組合は6月19日まで団交を申し入れておらず、団交申入れ義務がない会社としては、回答を団交で提示することを求められている中、組合からの団交申入れを待つほかなく、この間組合が賃金回答を得られなかったことは、組合の対応によるところが大きいといわざるを得ない。よって、会社からの賃上げ回答が2年7月1日になったことについては理由があったと認められる。
 上記のとおり、組合に対する会社の賃上げ回答が2年7月1日となったことは、労組法7条1号の不利益取扱いには該当せず、また、組織の弱体化を狙った干渉行為とも認められず、同条3号の支配介入にも該当しない。

6 A2及びA3に対する時季変更権の行使について
 会社が時季変更権を行使して組合員らの年休を認めなかったことの理由等についてみるに、本件の経緯からすると、会社は組合員4名の年休申請について、年休を取得できるよう納入先の日程調整等を行った上で、うち2名についてやむを得ず時季変更権を行使したものといえる。
 以上のとおり、会社がA2とA3に対し時季変更権を行使したことには不当労働行為意思が認められず、会社が組合員らの年休取得申請日の年休の一部を認めなかったことは、労組法7条1号の不利益取扱いに該当しない。
 また、年休取得申請をした組合員4名のうち、2名には申請したすべての年休取得を認めていることからも組織の弱体化の意図があったとは認められないため、同条3号の支配介入にも該当しない。

7 A1及びA2に対する配車について
(1)まず、配車に差があるのかについて、残業手当、距離手当、乗換手当の3つの手当で比較するに、A1及びA2への三つの手当の支給総額は、他のローリー運転手へ支払われた支給総額で比較した場合、2年度は4,482円下回っているが、元年度は5,660円上回り、著しく差が生じているとはいえない。このように、各手当の支給総額では配車に差がないように実質的に調整されていたものと評価できる。

(2)各手当の金額等について
ア 残業手当については、A1及びA2への平均支給金額は元年度は他のローリー運転手への平均支給金額を上回り、2年度は差がほとんどないことが認められる。また、乗換手当については、ほぼ同額あるいはそれを上回る支給金額を受けており、A1及びA2よりも低い支給金額のローリー運転手がいたことから、配車に差があったとはいえない。 
イ 一方、距離手当及び(残業手当のうち)深夜残業手当の支給金額について、A1及びA2と他のローリー運転手との間に差があるのは、もっぱら①深夜残業を多く含む炭酸納入業務やD離島行きを拒否したこと、②スポット指示を拒否したこと及び③土日出勤も拒否したことに起因するものである。したがって、会社はC営業所の他のローリー運転手と比較して、距離手当及び深夜残業手当は平等となるように配車しなかったとは認められない。

(3)不当労働行為の成否について
 以上のとおり、会社は、A1及びA2に対し、普通残業手当、深夜残業手当、距離手当及び乗換手当を他の乗務員と平等になるように配車していないとはいえないため、その余の点を判断するまでもなく、会社の配車は、労組法7条1号の不利益取扱いに該当せず、同条3号の支配介入にも該当しない。
  
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