概要情報
事件番号・通称事件名 |
中労委令和4年(不再)第9号・第10号
タイコー不当労働行為再審査事件 |
再審査申立人 |
Y会社(「会社」)(9号)、X1組合・X2組合(「組合ら」)(10号) |
再審査被申立人 |
X1組合・X2組合(「組合ら」)(9号)、Y会社(「会社」)(10号) |
命令年月日 |
令和6年11月20日 |
命令区分 |
一部変更 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、会社が、①X1組合に対し、平成30年5月15日分以降の労供組合員の供給を依頼しなかったこと(「本件供給依頼停止」)、②申立外2社(X1組合と労働者供給契約を締結し日々雇用組合員の供給を受けるとともに、正社員全員がX2組合に所属)との運送委託契約を解除したこと、③X2組合が本件供給依頼停止等について平成30年6月7日付けで申し入れた団体交渉(「本件団交申入れ」)に応じなかったことが不当労働行為であるとして、X1組合及びX2組合(併せて「組合ら」)が大阪府労働委員会に救済申立てをした事件である。
2 大阪府労働委員会は、会社の上記1①の行為は労働組合法(「労組法」)第7条第3号の不当労働行為に、上記1③の行為は同条第2号の不当労働行為に該当すると判断し、会社に文書交付を命じ、組合らのその余の申立てを棄却したところ、会社及び組合らは、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てた。
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命令主文要旨 |
(1)会社の再審査申立てに基づき、初審命令を次のとおり変更する。
ア上記1③に関する文書交付
イ組合らのその余の救済申立てを棄却
(2)組合らの再審査申立てを棄却
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判断の要旨 |
(1)会社は労供組合員の労組法第7条の使用者に当たるか
ア 会社には、平成30年5月14日までX1組合のA1センターから供給されて日々雇用として就労する労供組合員がいたが、同月15日分以降、会社は供給依頼を行っておらず、したがって、同センターに所属する労供組合員と会社との間に日々雇用の労働契約は存在せず、会社は労供組合員の労働契約上の雇用主ではない。
労組法第7条の使用者は、原則として、労働契約上の雇用主であるが、労働契約成立前であっても、近い将来において労働契約関係が成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者も含まれる。また、組合員と雇用主との間に近い過去に労働契約関係が存在し、組合若しくは組合員又はその両者がその労働契約の終了を争っている場合にも、当該雇用主は労組法第7条の使用者に該当し得る。
イ 労供組合員についてみると、A1センターからの供給によって誰かの日々雇用が短い間隔を置きつつ断続的に行われており、このような労供組合員を集団(「労供組合員集団」)としてみると、この集団に属することによって日々雇用がA1センターの供給により継続していた。A1センターからの供給によって会社に日々雇用されたことのある労供組合員集団は、これまで同様、近い将来においても、そのうちの誰かと会社との間で日々雇用の労働契約が短い間隔を置きつつも成立することにより、継続して就労ができる現実的かつ具体的な可能性を有しているということができる。また、本件供給依頼停止によって労供組合員の日々雇用が行われなくなったことは、労供組合員集団との関係でみると、同集団に属する労供組合員と会社との間に近い過去に存在していた日々雇用の労働契約関係の終了とみることができるところ、組合らはその終了を争っているのである。このように、本件では、労働契約関係に隣接する関係が認められるから、会社は労供組合員集団に属する労供組合員との関係において労組法第7条の使用者に当たる。
(2)会社は申立外2社で就労する労供組合員の労組法第7条の使用者に当たるか
A1センターからの労働者供給により申立外2社で就労する労供組合員と会社との間には労働契約関係は存在せず、会社はこれらの労供組合員の労働契約上の雇用主ではない。
また、会社が申立外2社で就労する労供組合員の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、会社は、申立外2社で就労する労供組合員との関係で労組法第7条の使用者に当たるとはいえない。
(3)本件供給依頼停止は、組合員に対する労組法第7条第1号及び組合らに対する同条第3号の不当労働行為に当たるか
ア 本件供給依頼停止は労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか
平成29年12月12日からX2組合が争議行為(「本件ゼネスト」)を行った当時、会社は、民事再生手続によって失った会社の信用回復を図る必要に迫られていた。
本件供給依頼停止に至る経緯として、①X2組合が本件ゼネストを行った際、A1センターが会社に対しその期間中労働者供給を停止したこと、②会社社長は、会社の信用の回復を図る必要があったことなどから、A2委員長にストライキの中止等を要請したが断られ、会社は、2日間にわたって生コンの出荷ができず、信用が毀損されるなどの被害を被ったこと、③会社社長は平成30年1月に再度同様のストライキが行われるかもしれないと危惧していたこと、④そこで、会社は、組合らとの信頼関係は失われたと判断し、再度同様のストライキが行われることも危惧されたことから、組合ら及びその関連する運送会社との関係を徐々に解消していくことを決定し、X2組合らに対し、文書によってこのような会社の意思を伝えたこと、⑤その後、会社は、C協同組合から、組合らと関連する業者の使用を差し控えること等の要請を受け、早急に組合ら等との関係を解消することとし、その一環として本件供給依頼停止を行ったことが認められる。
しかるに、民事再生手続により喪失した会社の信用の回復を図る必要に迫られ、生コン製造事業者として需要者への安定的な生コン供給体制の確保を重要課題と考える会社が、本件ゼネスト等によって組合らとの信頼関係が失われたと判断し、A1センターの労働者の安定供給に不安を抱き、本件供給依頼停止を行ったことには相応の合理性が認められる。
また、組合らとの接触禁止等を内容とするC協同組合の理事会決議等は組合らを嫌悪し又は組合らを組合員企業から排除すること若しくは組合らの弱体化を意図して行われたものではないから、会社が行った本件供給依頼停止は、組合らを嫌悪し又はその弱体化等を意図したC協同組合の要請を契機としてされたものということもできない。
以上のとおりであるから、会社が行った本件供給依頼停止には相応の合理性があり、組合らを嫌悪し又は組合らを会社から排除すること若しくは組合らの弱体化を意図して行われたものではなく、労組法第7条第3号の支配介入に当たらない。
イ 本件供給依頼停止は労組法第7条第1号の不当労働行為に当たるか
上記アで述べたとおり、会社が行った本件供給依頼停止には相応の合理性があり、組合らを嫌悪しあるいは組合らの弱体化等を意図して行われたものではなく、労供組合員集団に属する労供組合員が組合らの組合員であることを理由に行われたものとはいえない。したがって、本件供給依頼停止は、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たらない。
(4)本件団交申入れに対する会社の対応は労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか
上記(1)のとおり、本件において会社は労供組合員集団に属する労供組合員の労組法上の使用者に当たる。また、本件団交申入れ時においてX2組合は労組法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」に当たる。
そして、本件団交申入れにおける団交議題は、団交申入書に、会社が一方的に行った労働者供給契約の解除について、早急に契約を戻すことと記載されているところ、これは、本件供給依頼停止を早急に止めて、A1センターへの労働者供給依頼を再開することを求める趣旨と認められる。この議題は、労供組合員集団に属する労供組合員の労働条件その他の待遇に関する事項で、かつ、会社に処分や説明が可能なものであるから、義務的団交事項に当たる。
会社は、本件ゼネストの違法性は著しく、本件ゼネストによって会社と組合らの信頼関係は完全に破壊されたことなどからすれば、X2組合には労組法第7条が保護しようとした正当な利益はないから、本件団交申入れに応じなかったことには正当な理由がある旨主張する。しかしながら、本件ゼネストに関して会社が主張するような事情があるとしても、X2組合に労組法第7条第2号が保護しようとする正当な利益がないとはいえない。
したがって、本件団交申入れに会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否であり、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たる。 |
掲載文献 |
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