労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委平成31年(不)第4号
不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合・X2組合(組合ら) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年3月18日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①X1組合に対し、平成30年5月15日分以降の日々雇用労働者の供給を依頼しなかったこと、②申立外C1会社及びC2会社との運送委託契約を解除したこと、③X2組合が平成30年6月7日付けで申し入れた団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号、③について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、X1組合及びX2組合に対する文書交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、X1組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
X1組合
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)貴組合に対し、平成30年5月15日分以降の日々雇用労働者の供給を依頼しなかったこと(3号該当)。
(2)X2組合が平成30年6月7日付けで申し入れた団体交渉に応じなかったこと(2号該当)。
2 会社は、X2組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
X2組合
 執行委員長 A2様
Y会社        
代表取締役 B
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)X1組合に対し、平成30年5月15日分以降の日々雇用労働者の供給を依頼しなかったこと(3号該当)。
(2)貴組合が平成30年6月7日付けで申し入れた団体交渉に応じなかったこと(2号該当)。
3 組合らのその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社は、X1組合のSセンターを通じて、労働者供給事業により就労する組合員の労働組合法上の使用者に当たるか(争点1―1)

(1)労働契約上の雇用主以外の者であっても、例えば、当該労働者の基本的な労働条件等に対して、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有しているといえる者や、当該労働者との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が存する者等もまた雇用主と同視できるものであり、労働組合法第7条の「使用者」と解するべきである。

(2)労供組合員(労働者供給事業により供給される組合員をいう。)の供給依頼は、組合員の基本的な労働条件等に係る事項であり、X2組合と会社とは、労働者供給契約を締結し、少なくとも30年以上にわたり継続し恒常化した労働者供給の実態がある中で、労供組合員にとっても、近い将来において会社での就労の機会を得ることについて、いずれの労供組合員であるかは特定できないものの、集団として、労働者供給契約に基づく会社における就労への期待権が発生していたといえる。
 そして、会社が労供組合員の供給の依頼をしなくなったことにより、X1 組合は、自らが運営する労働者供給事業に影響を受け、これら労供組合員はX2組合の組合員でもあることから、X2組合も組合活動に影響を受け、そのことについてX 2組合も団交を申し入れているのであるから、職業安定法により、労働組合、職員団体等に限り労働者供給事業が認められているという法の趣旨も踏まえると、本件の状況下においては、組合ら及びその構成員である労供組合員と会社との間に、労働者供給事業の実施に関わる限りにおいて、労使関係が成立しているといえ、その範囲内において、会社は、労供組合員の労働組合法上の使用者に当たるといえる。

2 会社は、X1組合のSセンターを通じて労働者供給事業によりC会社で就労する組合員の労働組合法上の使用者に当たるか(争点1-2)
 X2組合に対する平成23年2月10日付け会社回答書に、運搬者が不足した場合にC会社他を使用する旨の記載があったことをもって、会社がC会社への発注を約束し、組合員の雇用を保証したということはできず、また、会社を退職後にC会社に雇用された者がいたとしても、そのことをもって、会社が労働者供給事業によりC会社で就労する組合員の雇用を保証していたとみることはできず、組合等の主張はいずれも採用できない。
 以上のことから、会社は、X1組合の労働者供給事業によりC会社で就労する組合員の労働組合法上の使用者に当たるとはいえない。

3 会社は、X1組合のSセンターを通じて労働者供給事業によりD会社で就労する組合員の労働組合法上の使用者に当たるか(争点1-3)
 X2組合と会社との24年11月24日付け協定書には、生コンの輸送台数の約50%の輸送をD会社に発注する旨の取り決めがあったことは認められるものの、会社とX2組合との間で交わされた労使関係に関する合意事項が、名称の如何を問わず全て失効している旨記載されており、同協定書をもって、会社が組合員の雇用を保証していたとみることはできない。これらのことから、会社は、X1組合の労働者供給事業によりD会社で就労する組合員の労働組合法上の使用者に当たるとはいえない。

4 会社が、X1組合に対し、平成30年5月15日分以降の日々雇用労働者の供給を依頼しなかったことは、組合員である故の不利益取扱いに当たるとともに、組合らに対する支配介入に当たるか(争点2)

(1)組合員である故の不利益取扱いに当たるか
 平成23年5月17日付けX2組合と会社の覚書に記載のある、「8名分については13日保証を行う」という取決めは、会社の民事再生手続の際、会社又はK会社〔注.会社のグループ会社で、23年5月頃廃業〕を退職した個別具体的な組合員8名の生活の保証をするものとして締結されたものとみるのが相当であるところ、会社がX1組合に労供組合員の供給を依頼しなくなる前の平成30年5月14日時点で、退職した8名の組合員は、既に会社での就労実績はなく、また、これら8名の供給がなくなって以降当日までの間、X1組合から会社に対し、一定の労供組合員が供給されている実績はあったものの、これら労供組合員が「枠」として供給されているとの取決めが会社との間にあったとの疎明はなく、組合の主張は採用できない。
 また、仮に「枠」があったことをもって、組合等に集団としての期待権があったとしても、そのことをもって、直ちに、組合らの組合員が全員、個々に、継続して会社に供給され、日々雇用されるという個別具体的な期待権を有していたとみるべきではなく、就労実態など、各組合員の個別具体的な事情を考慮して、個々の組合員ごとに判断されるべきであるところ、平成30年5月14日時点で、就労していた個々の労供組合員に、会社に対し将来にわたり雇用継続を期待できる特段の事情があったとはいえない。
 これらのことから、会社がX1 組合に対し、平成30年5月15日分以降の労供組合員の供給を依頼しなかったことにより、労供組合員が不利益を被ったとはいえない。したがって、その余を判断するまでもなく、会社がX1組合に対し、同日分以降の日々雇用労働者の供給を依頼しなかったことは、組合員に対する不利益取扱いには当たらない。

(2)支配介入に当たるか
ア X1組合に対する支配介入に当たるか
 平成30年5月15日分以降、会社がX1組合に対し、労供組合員の供給を行なっていないことが認められるところ、その理由や組合活動に与える影響によっては、支配介入に当たるというべきである。
 そこで、会社がX1組合との労働者供給契約を解約した理由についてみるに、会社の、組合らに労働者供給契約を継続しがたい信頼関係破壊行為があったとの主張には疎明がなく、その他に労働者供給契約を解約した理由もないのであるから、会社は、X1組合との労働者供給契約を合理的な理由なく一方的に解約して、平成30年5月15日分以降、労働者供給契約に基づき労供組合員の供給を依頼しなかったといえ、かかる会社の対応は、X1組合が運営している労働者供給事業に影響を与え、組合を弱体化させるものといえるのであるから、X1組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

イ X2組合に対する支配介入に当たるか
 X1組合のSセンターを通じて会社に供給されていた労供組合員は、X1組合に加入しているX2組合のS分会員でもあること等からすると、平成19年6月1日付け労供契約に基づく労供組合員の依頼が行われなくなれば、X2組合の組合活動にも影響を与えることは明らかである。そして、会社が、本件労働者供給契約に基づく労供組合員の供給を依頼しなかったことにつき、合理的な理由が認められないことは前記判断のとおりである。
 したがって、会社が、X1組合に対し労働者供給契約に基づく労供組合員の供給を依頼しなかったことは、会社による、X2組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3項に該当する不当労働行為である。

5 会社が、平成30年5月11日頃にC会社/D会社との運送委託契約を解除したことは、組合員である故の不利益取扱いに当たるとともに、組合等に対する支配介入に当たるか(争点3―1/争点3―2)
 会社が、X1組合の労働者供給事業によりC会社及びD会社で就労する組合員の労働組合法上の使用者に当たらないことは、前記1及び2の判断のとおりであるから、これらの点に係る組合らの申立ては、その余を判断するまでもなく、いずれも棄却する。

6 30.6.7団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点4)
 X2組合と会社との間で、労働者供給事業の実施に関わる限りにおいて、労使関係が成立しており、その範囲内において、会社は、労供組合員の労働組合法上の使用者に当たることは、前記1判断のとおりである。
 X2組合の30.6.7団交申入れにおける団交議題は、30.5.15団交申入書の議題等であり、同申入書には、団交議題として、会社が一方的に行った労働者供給契約の解除を元に戻す旨等の記載があることが認められ、30.6.7団交申入れにおいてX2組合が申し入れた要求事項は、集団的労使関係の運営に関するものであり、義務的団交事項に当たるといえる。
 会社は、団交に応じる義務があるにもかかわらず、正当な理由なく30.6.7団交申入れに応じておらず、かかる会社の対応は、正当な理由のない団交拒否であり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 
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