概要情報
事件番号・通称事件名 |
中労委令和4年(不再)第29号
不当労働行為再審査事件 |
再審査申立人 |
Y法人(「法人」) |
再審査被申立人 |
X組合(「組合」) |
命令年月日 |
令和6年10月16日 |
命令区分 |
一部変更 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、法人が、札幌地方裁判所の緊急命令を受け、組合のA2書記長を法人が経営する救護施設の生活支援員から生活相談員に戻す代わりに、令和元年6月4日付けで、組合の執行委員長であるA1委員長を主任生活相談員から生活支援員に配置転換したこと(本件配置転換)が不当労働行為に該当するとして、組合が北海道労働委員会に救済申立てをした事案である。
2 北海道労働委員会は、本件配置転換は労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当すると認め、法人に対し、①A1委員長に生活支援員への配置転換を命じるという不利益取扱いの禁止、②A1委員長の主任生活相談員への復帰、③A2書記長を生活相談員に戻す代わりにA1委員長を生活支援員に配置転換し組合の運営に支配介入することの禁止及び④これらに係る文書掲示を命じたところ、法人はこれを不服として再審査を申し立てた。 |
命令主文要旨 |
初審命令を変更し、法人に対し、組合への文書交付を命じる。 |
判断の要旨 |
(1) 本件配置転換は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たるか
ア 本件配置転換は、労働組合法第7条第1号にいう「不利益な取扱い」に当たるか
本件配置転換は、長く主任生活相談員であったA1委員長を、実質的に降格し、これまで経験がなく、救護施設における事業運営上の基幹的業務とはいえない業務を担当させるものであるから、職務上の不利益及びこれに伴う精神上の不利益を与えるものといえる。さらに、宿直勤務のある生活支援員への配置転換は、持病に対する適切な服薬や治療を困難にさせるもので、身体上の不利益を与える取扱いでもあったというべきである。
イ 本件配置転換は、組合の組合員であることの「故をもって」行われたものといえるか
組合と法人は、遅くとも平成25年頃から、団体交渉の方法やA2書記長の配置転換等をめぐって厳しい対立状況にあり、その中で、施設長は組合やA2書記長を敵視する発言を行っていたほか、団体交渉拒否の禁止などを命じる命令が発出されても法人は命令を履行する考えはないとして団体交渉拒否を続けていた。
こうした経緯に照らせば、本件配置転換の当時、法人は、組合嫌悪の念を抱いていたと認められるところ、組合の幹部であるA2書記長に対する不利益取扱いにつき札幌地方裁判所から緊急命令が発せられるや、命令の趣旨を踏まえて十分に選択肢を勘案することや、組合やA1委員長に対する説明・協議を行うこともなく、同命令を履行するためであるとして、A2書記長を生活相談員に復帰させる一方で、組合の代表者であるA1委員長に対して、A2書記長に対して行ったのと同様の、生活相談員から生活支援員への配置転換という不利益な取扱いを性急に行い、生活相談員であった組合役員が生活支援員に配置転換されている状態を継続させたものであり、このような態様でなされた本件配置転換は、組合嫌悪の念を抱いていた法人が、A1委員長が組合の組合員であることの故をもって行ったものとみざるを得ない。
ウ 以上のとおり、本件配置転換は、A1委員長にとって不利益な取扱いであり、かつ、組合の執行委員長であるA1委員長に対し、組合の組合員であることの故をもって行われたものであるといえるから、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たると認めるのが相当である。
(2) 本件配置転換は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たるか
本件配置転換は、客観的にみて、組合の組合員に、組合活動を熱心に行えば自身も何らかの不利益な取扱いを受ける可能性があると認識させ、組合活動を行うことを萎縮させて抑止する効果が大きいもので、組合を弱体化させる行為であるというべきである。しかも、本件労使関係の下では、法人としてもそのような効果を持つ行為であることは十分認識し、その上で本件配置転換を行ったとみられるから、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するものである。
(3) 本件配置転換についての救済利益は失われたか
A1委員長は、令和6年1月9日付け辞令により、同年2月1日以降、本件配置転換前に主任生活相談員として行っていた業務と同じ業務に復帰した。しかし、同復帰は、本件救済申立てから約4年8か月後に、生活相談員であった課長の退職を機にようやく行われたものであり、法人が、その際に、不当労働行為たる本件配置転換の是正措置として、A1委員長の復帰を検討したり、その旨を同人や組合に説明したりした形跡はないし、復帰に当たり、組合と協議するなどの対応をしたとも認められない。上記(2)のとおり、本件配置転換が、A1委員長個人への不利益という被害の他に、組合の被害として、組合活動を萎縮させ抑止する効果をも有する不当労働行為であることも踏まえると、業務内容が従前のA1委員長の担当業務と同等のものとなったとしても、かかる経緯及び態様で行われたA1委員長の復帰によって、組合が受けた組合活動への被害が回復したとまでは認められない。
また、法人が同種の不当労働行為を今後繰り返すおそれも残っているので、本件における組合の救済利益が失われたとは認められない。 |
掲載文献 |
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