労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  北海道労委令和元年(不)第5号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年4月25日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が組合の委員長A1に対し実施した配置転換が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 北海道労働委員会は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(i)A1が組合員であることを理由に、主任生活相談員から生活支援員への配置転換を命じるという不利益な取扱いをしてはならないこと、(ⅱ)同人を現在の職から主任生活相談員に戻さなければならないこと、(ⅲ)先行事件に係る裁判所からの緊急命令を受け書記長A2を生活相談員に戻す代わりに、A1を主任生活相談員から生活支援員に配置転換し、組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅳ)文書掲示を命じた。 
命令主文  1 法人は、組合の執行委員長であるA1が労働組合の組合員であることを理由に、同人に対して主任生活相談員から生活支援員への配置転換を命じるという不利益な取扱いをしてはならない。
2 法人は、A1を現在の職から主任生活相談員に戻さなければならない。
3 法人は、札幌地方裁判所からの緊急命令を受け、組合の書記長A2を生活相談員に戻す代わりに、A1を主任生活相談員から生活支援に配置転換し、組合の運営に支配介入してはならない。
4 法人は、次の文章を、縦1.5メートル、横1メートルの白紙に楷書で明瞭かつ紙面いっぱいに記載し、法人が経営するC施設正面玄関の見やすい場所に、本命令書の交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。
 当法人が、貴組合に対し行った次の行為は、北海道労働委員会において、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにします。
1 貴組合の執行委員長A1が組合員であることを理由に、同人に主任生活相談員から生活支援員への配置転換を命じたことにより、不利益な取扱いをしたこと。
2 当法人が、札幌地方裁判所からの緊急命令を受け、貴組合の書記長A2を生活相談員に戻す代わりに、執行委員長A1を主任生活相談員から生活支援員に配置転換し、貴組合の運営に支配介入したこと。

 令和 年 月 日(掲示する日を記載すること)

 X 組合
  執行委員長 A1様
Y法人   
理事長 B
判断の要旨  1 本件配置転換は、委員長A1が組合員であることを理由とする「不利益取扱い」として、法第7条第1号の不当労働行為に当たるか(争点1)

(1) 労働組合法第7条第1号の不利益性の判断は、賃金の減少等の経済的不利益や職員制度の建前のみから、これを判断するべきではなく、当該職場における従業員の一般的認識に照らしてそれが通常不利益なものと受け止められ、それによって当該職場における組合員らの組合活動意思が萎縮し、組合活動一般に対して制約的効果が及ぶようなものであるか否かという観点からなされるべきである。

(2) 本件配置転換は、①疾病により、日勤業務が好ましい旨等の診断を受けている委員長A1に対し、月3ないし5回程度の宿直勤務が課されている生活支援員を命ずるものであること、②主任からの降格と認められること、③どちらが職制として上という直接的な定めはないものの、業務の内容において生活相談員にはフロアのリーダーないし管理者的な側面が認められる一方、人事の実績において生活支援員から課長に昇進した者は存在しないこと等を併せかんがみると、当該職場における職員の一般的認識として、本件配置転換が不利益なものと受け止められ、それによって組合員らの組合活動意思が萎縮し、組合活動一般に対して制約的効果が及ぶことを否定することはできない。
 以上から、本件配置転換は、不利益性を有する。

(3) 次に、本件配置転換が、委員長A1が組合員であることの「故をもって」行われたか否かについて検討するに、本件配置転換は、A2組合書記長に対して不利益取扱いを行ったことにつき〔札幌地方裁判所による、A2を生活相談員に復帰させることを命じる緊急命令をもって〕是正が命じられるや、今度は組合委員長に対して不利益な配置転換を行ったものであり、配置される人員がA2からA1に変わっただけであって、その実質としては、組合の要職にある者に対する不利益取扱いを継続させるものにほかならず、法人の一連の対応には、反組合的意図ないし動機を見出すことができ、不当労働行為意思が認められる。
 これに対し法人は、書記長A2を生活支援員から生活相談員へ復帰させることによって、生活相談員が過剰配置となる一方で生活支援員の欠員が生じるため、生活相談員1名を生活支援員に配置転換することは不可欠であるから、本件配置転換には業務上の必要性があり、また、その人員として委員長A1を選定することには相当性がある旨を主張しており、従来どおりの人員配置を維持するという観点からすれば、形式論としては、考え方自体は理解できないではない。
 しかし、生活支援員の欠員については、
①新規職員の採用によって対応することも法人の選択肢となり得ること
②組織体制や職員の人員配置体制の工夫による対応も検討対象となり得るはずであること等
③復職時点において、委員長A1以外の生活相談員として3名が存在しており、これらはいずれも管理職であり配置転換の対象としがたいと考えたとしても、疾患を患うA1との比較において、いずれかを生活支援員とすることは検討の俎上に上り得るものであるといわざるを得ないこと
からすると、本件配置転換を行うことには、不利益を正当化するほどの業務上の必要性や人選の相当性を認めることはできない。

(4)なお、仮に本件配置転換に業務上の必要性と人選の相当性という正当化理由が一応認められるとの見解に立った場合、本件配置転換の動機が競合していることになるから、本件配置転換の正当化理由と組合員であることのいずれが決定的動機であったかについても述べておく。
 札幌地裁の緊急命令によって不当労働行為の是正が命じられたのであるから、法人としては、その是正を原因とした更なる不当労働行為が連鎖することのないよう慎重に対応すべきであり、また、種々の検討対象となり得る方策が存したにもかかわらず、法人は、これら方策について何ら検討することなく本件配置転換を行っており、あたかもA2書記長の後は委員長A1であるといわんばかりの対応をしたといわざるを得ない。これに加えて、本件配置転換に当たって事前説明や内示は一切行われておらず、法人における配置転換としてはA2の場合と同様に異例の取扱いであることなどからすると、本件配置転換は、先行不当労働行為事件から継続する根強い反組合的意図ないし動機に基づくものであり、A1が組合員であることを決定的動機とするものであるといえる。

(5) 以上から、本件配置転換は、組合の執行委員長であるA1に対し、組合の組合員であることを決定的動機としてなされた不利益な取扱いであるから、法第7条第1号の不当労働行為に当たる。

2 本件配置転換は、法第7条第3号の支配介入に該当するか(争点2)

 本件配置転換は、組合の執行委員長であるA1に対し、組合の組合員であることの故をもってなされた不利益な取扱いであり、組合を弱体化し、組合員の組合活動に萎縮的効果をもたらすから、法第7条第3号の支配介入に該当する。

3 令和3年A1配置転換により、本件配置転換の不利益は消滅したか(争点3)

 法人は、令和3年4月1日付けで、A1を「主任生活支援員」から「生活支援員兼生活相談員 主任」とする配置転換を発令するとともに、職員Cを「生活支援員兼生活相談員主任」から「生活課 主幹」とする辞令を発令した(以下それぞれ「令和3年A1配置転換」「令和3年C配置転換」)。
 法人は、①A1は生活支援員としての宿直勤務を全面的に免除されて本件配置転換による身体健康上の不利益は発生しないし、②令和3年A1配置転換により人事上の不利益は存在しないことになり、併せて、③令和3年C配置転換により生活支援員から管理職に昇進した職員が出たのだから、生活相談員が生活支援員より上位であるとの主張は根拠を失った旨等を主張する。
 しかし、業務の内容において、生活相談員にはフロアのリーダー的ないし管理者的な側面が認められ、仮に、本件配置転換後、生活相談員が生活支援員の決裁者になる運用をやめたとしても、生活相談員の上記側面がなくなったとはいえず、生活相談員と生活支援員の業務の内容に特に変化はみられないから、前記認定に影響を与えない。そして、委員長A1は、令和3年A1配置転換により名目上は生活相談員の兼任を命じられているが、その勤務の実態は生活支援員のままであると認められ、同人にとっては、令和3年A1配置転換がなされても生活相談員におけるフロアのリーダー的ないし管理者的な側面を失わせる不利益は消滅していないと認めるのが相当である。
 以上から、本件配置転換の不利益が消滅したとはいえない。 
掲載文献   

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