概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和4年(不)第20号
ベルリッツ・ジャパン不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年7月2日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①会社が、令和3年7月29日付けで組合が申し入れた団体交渉に、同年10月7日まで応じなかったこと、②同年10月7日に行われた団体交渉における会社の対応、③会社が、同年10月17日に、組合との労働条件の交渉を行わないとの意思を示したこと、④会社のエリアマネージャ―が、組合員らがチラシを配布する様子を写真撮影したこと、⑤同年11月4日に、組合との団体交渉を一方的に打ち切ったこと、⑥会社が、組合員A1の業績評価を引き下げたこと、⑦組合員A2に対して雇用を脅かす書面を発行するなどしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 組合が、令和3年7月29日付けで申し入れた団体交渉に、会社が同年10月7日まで応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点1)
会社は、組合との団体交渉開催に向けて調整を図っていた事実が認められ、いたずらに組合との団体交渉を避けて開催を引き延ばしていたと評価することはできない。むしろ、組合が、①社長ではなく人事部長に直接連絡を取るよう会社から繰り返し要請されたにもかかわらず、社長にメールを送り続けたこと、②団体交渉の開催場所について、会社がスペースの制約から開催困難と主張しているにもかかわらず、特に合理的な理由を示すこともなくCランゲージ・センター〔注 語学教室〕での開催にこだわり、調整が難航したこと、③組合が団体交渉の具体的な日時を提案せず調整が遅れたことなどが、団体交渉開催の遅延の主な原因であったといわざるを得ない。
したがって、会社の対応は正当な理由のない団体交渉拒否に当たらない。
2 令和3年10月7日に行われた団体交渉における会社の対応は、不誠実といえるか否か。(争点2)
会社は、対案を提示することはなかったものの、第1回団体交渉とその前後のやり取りを通じて、単に組合の要求を拒否しただけではなく、なぜ要求に応じられないのか、自らの見解とその根拠を組合に説明し理解を求めようと試みていたといえる。そして、会社は、団体交渉において対案を示す義務はないのであるから、会社の交渉態度が不誠実な対応ということはできない。
3 令和3年10月17日に会社が組合との労働条件の交渉を行わないとの意思を示した事実が認められるか否か。その事実が認められる場合、そのことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点3)
会社の、令和3年10月15日付文書(組合はこの書面を同年10月17日に受領したと推認される。)での回答の内容は、組合の要求事項に対し、第1回団体交渉のやり取りを踏まえてその時点での会社の見解を補足説明したものとみるのが相当である。また、当該文書には、会社は労働組合法に基づき、組合と誠意をもって団体交渉を行うと記載されていること、かつ、直後に会社は事務折衝の提案をしていることも併せ考えると、会社が、組合との団体交渉を行わないとの意思を示した事実を認めることはできない。
したがって、会社の上記文書における回答は、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。
4 令和3年10月18日、会社のエリアマネージャ―が、組合員らがチラシを配布する様子を写真撮影した行為(以下「本件撮影行為」という。)は、組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるか否か。(争点4)
本件撮影行為によって具体的に組合員にどのような不利益が生じたのか、組合による疎明はない。そして、エリアマネージャーは、撮影した写真を人事部長らと共有したが、当該写真を他の目的に使用したり、当該写真の内容を根拠として会社が懲戒処分や人事異動等の不利益処分を実施したことはなく、本件撮影行為によって組合員らに何らかの不利益が生じた事実は認められない。
したがって、本件撮影行為が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるとはいえない。
5 令和3年11月4日に会社が、組合との団体交渉を一方的に打ち切った事実が認められるか否か。その事実が認められる場合、そのことは正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点5)
会社が、令和3年11月4日の事務折衝を延期したのは、弁護士が同席しないオフレコの事務折衝の席で組合の要求に応じられない事情を説明しようとしたが、組合が録音を希望したことから、録音をするのであれば弁護士も同席の上正式に団体交渉を実施すべきとの判断に変わったためと認められ、組合との話合いを打ち切る意図があったとはいえない。
したがって会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。
6 令和4年3月8日に会社が、組合員A1の業績評価を「期待を超えている」から「期待に応えている」に引き下げたことは、組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるか否か。(争点6)
A1が組合員であること又は同人の正当な組合活動を理由として、会社がA1の評価を不当に引き下げたと認めるに足りる具体的な事実の疎明はない。
したがって、会社によるA1の評価が、同人が組合員であることなどを理由とした不利益取扱いに当たるということはできない。
7 令和4年6月15日に会社が、組合員A2に対して雇用を脅かす書面を発行して、それを読むことを強要した事実が認められるか否か。その事実が認められる場合、そのことは、組合が当委員会に不当労働行為救済申立てをしたことを理由とした不利益取扱いに当たるか否か。(争点7)
(1)令和4年6月15日、会社は、就業規則に基づきA2に「けん責」の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」)を行った。組合がいう「雇用を脅かす書面」とは懲戒処分通知書のことと推察されるが、この文書は、けん責処分を通知したものであり、更に問題が起こった場合には、解雇を含めた更なる懲戒処分となり得ることについて理解を求める旨の記載があるものの、この記載をもって、直ちに「雇用を脅かす書面」とまで評価することは困難である。また、会社が、A2に対し、社会通念上許容されない態様で書面の閲読を強要したことを示す疎明はない。
したがって、会社が、A2に対して雇用を脅かす書面を発行して、それを読むことを強要した事実を認めることはできず、当委員会に(令和4年4月4日に当初の)不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とした不利益取扱いに当たる会社の行為があったということはできない。
(2)なお、組合は、会社がA2に本件懲戒処分を行ったこと自体を指して、報復的不利益取扱いに当たると主張するようでもあるので、念のため検討する。
会社は、令和2年4月以降、会社は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、オンラインレッスンを広く実施するようになり、ランゲージ・センターで勤務する講師には、受講者のニーズに合わせてオンラインレッスンに従事することを命じており、受講者の要望に対応した対面レッスンからオンラインレッスンへの切替えや、授業が予定されていなかった時間帯に別の受講者のレッスンを行うよう命じることは、少なくとも同年4月以降は会社において日常的な業務指示として行われている。これらの事情からすれば、受講者からの信頼を損ね、会社の信用の失墜につながるおそれもあるとして、会社がA2の〔同年5月25日における〕指示拒否が懲戒事由に該当すると判断したことには相応の理由があったといえる。
したがって、本件懲戒処分は、組合が本件不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする報復的不利益取扱いには当たらない。 |