労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和4年(不再)第13号・第14号
ドイツ品質システム認証不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Y会社(「会社」)(13号)、X1組合(「組合」)・X2支部(「支部」)(14号) 
再審査被申立人  X1組合(「組合」)・X2支部(「支部」)(13号)、Y会社(「会社」)(14号) 
命令年月日  令和6年7月17日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①会社が支部の組合員名簿の開示を求めたこと、②会社が業務委託審査員懇談会(「懇談会」)を開催したこと及び業務委託審査員全員と個別面談を実施しようとしたこと、③会社の審査部長が、支部執行委員長に対し、支部の結成を容認しない趣旨の発言を行ったことが、労働組合法(「労組法」)第7条第3号の不当労働行為に該当するとして、救済申立てがあった事案である。

2 初審東京都労委は、上記1の③の会社の審査部長の発言は、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるとして、会社に文書交付等を命じ、組合及び支部(「組合ら」)のその余の救済申立てを棄却したところ、会社及び組合らは、これを不服として再審査を申し立てた。
 
命令主文  本件各再審査申立てを棄却する。
 
判断の要旨  (1) 争点1(組合員らは労組法上の労働者に当たるか)について
ア 労務の供給が業務委託契約等の労働契約以外の契約形式によってなされる場合であっても、実質的に、①事業組織への組入れ、②契約の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性という判断要素に照らし、団体交渉の保護を及ぼすべき必要性と適切性が認められる場合には、労組法上の労働者に当たるというべきである。
 上記判断に当たっては、補充的に、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、日時や場所の一定の拘束といった要素も考慮される。他方、⑥事業者性が顕著である場合には、労組法上の労働者性は否定されることとなる。
イ 業務委託審査員は、①会社の審査業務の遂行に不可欠な労働力を恒常的に提供する者として会社の事業組織に組み入れられており、②契約内容は会社によって一方的・定型的に決定され、③支払われる報酬は、労務供給の対価性を有している。また、業務委託審査員は、④一定程度は業務の依頼に従わざるを得ない立場にあるほか、⑤労務提供に当たっては、広い意味で会社の指揮監督の下にあり、一定程度は時間的場所的拘束を受けている。他方、⑥顕著な事業者性があるとは認められない。これらのことからすれば、組合員らは労組法上の労働者に当たるといえる。

(2) 争点2(会社が組合員名簿の開示を求めたことは労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか)について
 会社としては、団体交渉を行うに当たり、報酬が減額となったと組合らが主張する業務委託審査員を特定する必要があったと認められるから、組合員名簿の開示を要求したことには相応の理由があったといえる。そして、会社は、理由を説明して、事実を確認できる資料の提示を組合らに依頼し、組合員名簿の提示はなかったものの組合らと複数回にわたり団体交渉を行い、懇談会の資料を配布して説明を行っている。これらからすると、会社が、組合らの交渉力を低下させ弱体化することを企図して組合員名簿の開示要求を行ったとはいえない。したがって、会社が組合員名簿の開示を求めたことが、労組法第7条第3号の支配介入に当たるとはいえない。

(3) 争点3(会社が、懇談会を開催したこと及び組合員らを含む業務委託審査員全員と個別面談を実施しようとしたことは労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか)について
 翌年の契約締結時期を迎えた会社が、業務委託審査員全員に対し、個別面談の前に、報酬単価の変更や翌年の改訂事項等について説明して理解を得ようとしたことには相応の理由があるといえる。さらに、会社は、組合らに対し、懇談会を開催する前にその趣旨を通知して組合員らに参加を働きかけるよう依頼し、組合らとの団体交渉にも応じ、懇談会の資料を配布して説明を行っていることからすると、会社が、組合らとの団体交渉を軽視したり、組合らの頭越しに組合員らと個別に契約条件に関する交渉を進めようとしていたとみることはできない。したがって、会社が懇談会を開催したことは労組法第7条第3号の支配介入に当たるとはいえない。
 支部が結成された年に初めて個別面談が企画されたわけではなく、氏名が判明している組合員は3名のみで、その他の組合員を特定できない状況であったことからすると、会社が業務委託審査員全員に対して個別面談を実施しようとしたことは、格別相当性を欠くとはいえない。したがって、会社が、業務委託審査員の契約内容について組合らを通じて集団的に調整、決定することを否定しようとしたとか、組合らの弱体化を企図して個別面談を実施しようとしたと認めることはできず、業務委託審査員全員と個別面談を実施しようとしたことは労組法第7条第3号の支配介入に当たるとはいえない。

(4) 争点4(審査部長が、支部執行委員長に対し、支部の結成を容認しない趣旨の発言を行ったことは労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか)について
 労働組合ということを認めないなどの審査部長の発言は組合らの存在を否定するものであると評価せざるを得ない。また、労働組合を通して契約内容の改善を切望するのは駄目であるなどとの発言は、業務委託審査員の契約内容について、組合らの関与の下に解決を図ることを否定し、組合らを無視ないし軽視することで組合らの影響力を排除しようとするものである。
 これらの発言が審査部長から支部執行委員長に対してなされれば、組合らの活動は萎縮し、組合らは弱体化するおそれがあることから、同発言は労組法第7条第3号の支配介入に当たる。
 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委令和元年(不)第42号 一部救済 令和4年2月15日
 
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