概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和元年(不)第42号
ドイツ品質システム認証不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1組合・同X2支部(組合ら) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和4年2月15日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
自動車に関する国際品質保証規格の審査員であり、会社と業務委託契約を締結している者(以下「業務委託審査員」)の一部が、X1組合に加入するとともに、X2支部を結成した。
本件は、会社が、①組合らに対しX2支部の組合員名簿の開示を求めたこと、②業務委託審査員との懇談会を開催したこと及び支部の組合員らを含む同審査員全員と個別面談を実施しようとしたこと、③会社の審査部長が、支部委員長に対し、支部の結成を容認しない趣旨の発言を行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、③について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合らに交付しなければならない。
記 年 月 日
X1組合
中央執行委員長 A1殿
X2支部
執行委員長 A2殿
Y会社
代表取締役 B1
1 当社の審査部長が、平成30年12月20日における貴組合X2支部の執行委員長との面談終了後に、当社と業務委託契約を締結している者の契約内容の改善に向けての方法論について話し合った際、支部結成を容認しない趣旨の発言を行ったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は交付した日を記載すること。)
2 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 支部の組合員らは、労組法上の労働者に当たるか否か(争点1)
労組法上の労働者に当たるか否かについては、契約の名称等の形式のみにとらわれることなく、その実態から客観的に判断する必要があり、現実の就労実態に即して、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下での労務提供、一定の時間的場所的拘束、⑥顕著な事業者性などの諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。以下それぞれの要素に沿って検討する。
(1)事業組織への組入れ
会社は、自らの主力業務である審査業務を円滑に行うために業務委託審査員を極めて重要な存在として位置付け、会社に専属させている。そして、会社が委託先事業者と調整して決定した審査工数(日数)及び審査日程に業務委託審査員を割り振っている。
また、業務委託審査員は、会社を代表して審査業務を行っており、審査先事業者からの異議申立てや苦情があった場合には会社がこれに対応している。
これらのことからすると、会社は、審査業務の遂行に不可欠の存在として業務委託審査員を自らの事業組織に組み入れているものということができる。
(2)契約内容の一方的・定型的決定
会社と業務委託審査員との基本契約に相当する「審査契約書」及び毎年の個別契約に相当する業務委託契約書は、共通の契約事項が定型的に定められており、個別に契約条項についての交渉がなされているとは認められないなど、契約内容は、会社によって一方的・定型的に決定されていると認められる。
(3)報酬の労務対価性
会社の業務委託契約書には審査業務についての専属契約条項があり、業務委託審査員は、審査業務を会社以外の認証機関から受託することができない。加えて、組合員ら5名が〔別会社の経営者又は個人事業主として〕行なっているコンサルティング事業による収入が、審査業務収入を上回っていないことも考慮すると、業務委託審査員は、会社からの審査業務収入を主たる収入源として生活しているということができる。
業務委託審査員に対する会社からの報酬は、報酬単価に審査工数(日数)を掛けることで計算されている。報酬単価については、業務委託審査員によって会社が異なる金額を設定しており、審査工数(日数)についても、会社が委託先事業者と調整した上で決定している。また、審査日程についても会社が決定している。これらのことからすると、業務委託審査員の報酬は、会社が決定した報酬単価と会社の決定に基づいて審査業務を提供した時間によって算出されているといえる。
そして、組合員ら5名の中に審査業務に当たって他人の労働力を利用している者はいないことからすると、報酬は、業務委託審査員が自ら会社に労務を提供したことに対する対価とみるのが相当である。
(4)業務の依頼に応ずべき関係
業務委託審査員は、毎月末に3か月先までの予定日が通知された段階で、審査日程の再調整を依頼したり、審査業務自体を断ったりすることができるなど、会社の個別の業務の依頼に対する諾否の自由は、相当程度認められているということができる。これらのことから、業務委託審査員が、会社の個別の業務の依頼に応ずべき関係にあるとは認められない。
(5)広い意味での指揮監督下での労務提供、一定の時間的場所的拘束
ア 業務委託審査員は、具体的な指示、指揮監督等を受けずに会社から独立して審査業務を行っており、広い意味で会社の指揮監督下で労務を提供しているとまではいえないが、会社から、不十分な審査報告書について修正の指示を受けたり、審査業務について評価を受け、改善指導を受けるなど、審査業務の品質を保つための一定の管理を受けているということができる。
イ 現地調査を行う間は、業務委託審査員は、時間的場所的に拘束されることになるが、現地審査のスケジュールは、主任審査員が審査計画書において案を作成して、審査先事業者の承認を得るものであり、会社が決めているわけではないから、現地審査について、業務委託審査員が、会社から一定の時間的場所的拘束を受けているとは言い難い。
現地審査以外の審査業務については、時間的拘束は特になく、場所は、会社、委託先事業者のほか、自宅、宿泊先ホテルの自室内に限られているが、業務委託審査員が自由に選択できるのであるから、会社から一定の場所的拘束を受けているとまでは言えない。
(6)顕著な事業者性
ア 業務委託審査員の審査業務については、審査先事業者、審査工数(日数)等を会社が決定しており、業務委託契約書には専属契約条項があることから、業務委託審査員は自ら営業して審査業務を獲得することはできない。
組合員ら5名の審査業務による収入は、年間を通じた収入の総額が最大で1300万円を超える組合員もいて高額である。しかし、審査業務の従事日数をみると、業務委託審査員の報酬は審査員工数(日数)と対応しており、また、審査業務に当たって他人の労働力を利用している者はいないのであるから、結局、業務委託審査員は、会社に提供する自らの労務量を増やすことによって高額の収入を得ているとみざるを得ない。
これらのことから、審査業務において、業務委託審査員が、事業者として自己の才覚で利得している実態があるとは認められない。
イ 組合員ら5名は、個人事業主として又は自らが経営する有限会社の事業として、会社との専属契約条項の対象になっていないコンサルティング業務を行っているが、会社で行う審査業務とは別の業務であり、そのことによって、審査業務を行う業務委託審査員に顕著な事業者性があると認めることはできないというべきである。
(7)これらの事情を総合的に勘案すれば、業務委託審査員は労組法上の労働者に当たるということができる。
2 会社が、平成30年10月3日付け、23日付け、26日付け及び11月2日付けの文書で支部の組合員名簿の開示を求めたことは組合らの運営に対する支配介入に当たるか(争点2)
組合らは、〔業務委託審査員に支払われる報酬について15ないし20パーセント超の減額となったと主張するところ〕組合員らがどのように計算をして結果を得たのか計算方法を伝えていない。そうすると、会社が、減額について確認するために組合員名簿の開示を求めることには一応の理由があると認められる。
また、組合らは、支部結成の通知を行った際に、会社に対して組合員の契約内容、労働環境に関わる決定、変更等を実施する場合は組合らに申し入れるよう依頼していることなどから、会社において意図しない個別交渉を防止するためには組合員を特定しておくことにも一応の理由があると認められる。
そして、会社は、組合員名簿の開示を団体交渉開催の条件とはしておらず、開示がない中でも団体交渉には応じている。
以上のとおり、会社が開示を求めたことには一応の理由が認められることに加え、当時の労使関係において、会社に組合員であることが知られることで組合員が動揺するおそれがあったとは認められず、会社が不当な意図や目的をもって組合員名簿の開示を求めたと認めるに足りる疎明もない。したがって、これを組合らの運営に対する支配介入に当たるということはできない。
3 会社が、11月19日に懇談会を開催したこと及び支部の組合員らを含む業務委託審査員全員と個別面談をを実施しようとしたことは組合らの運営に対する支配介入に当たるか(争点3)
(1)懇談会について、会社は、組合らに対し、支部結成通知の約1か月後にこれまで実施したことのなかった懇談会の開催を通知したものの、業務委託審査員には非組合員もいて、組合員が誰なのかを特定できていない状況下において、翌年の契約締結時期を控えた会社が、業務委託審査員全員に対し、30年業務委託契約の改定について会社の考え方を説明して理解を得ようとしたこと自体は、不自然なものではない。
会社は、組合らに対し、懇談会を開催する前にその趣旨を通知して組合らから組合員らに参加を呼びかけるよう依頼しており、また、懇談会の後日開催された団体交渉の場で同資料を渡して説明を行っているのであるから、会社が、組合らを差し置いて、組合員らと個別に契約内容について合意を図ろうとしていたとみることはできない。
これらのことを考慮すると、組合らの運営に対する支配介入には当たらない。
(2)30年における個別面談について、個別面談は、会社が毎年行ってきたものであり、上記(1)の状況下において、翌年の契約締結時期を迎えた会社が、特定できていない組合員を含む業務委託審査員全員に対して個別面談を実施しようとしたことは、不自然な対応ではない。
しかも、会社は組合員名簿が開示された後、団体交渉を通じてのみ組合員の契約条件の交渉を行うことという組合らの申入れを受け入れており、結果的に組合員らに対しては個別面談を実施しなかったことも考慮すれば、会社が、組合員を特定できない状況の下で、組合員を含む業務委託審査員全員に対して個別面談を実施しようとしたことは、組合らの運営に対する支配介入に当たらない。
4 B2部長が、30年12月20日にA2委員長に対し、支部の結成を容認しない趣旨の発言を行ったことは、組合らの運営に対する支配介入に当たるか(争点4)
B2部長の発言は、労働組合を認めない、会社において労働組合は基本的には存在として認めていないなどと、組合らの存在を否定するものであり、また、労働組合を通して契約内容の改善を切望するのは駄目である、それを前提に落とし所を考えてほしいなどと、業務委託審査員の契約内容について組合らを通じて集団的に調整、決定することを否定し、組合らを通じてではない交渉の在り方を求めたものであるといえる。
会社は、B2部長の発言は、いわゆる「オフレコ」の会話、私的な会話の中で出たものであるなどと主張する。しかし、話合いに際し、「オフレコ」とすることを双方が了解したような事情はうかがわれないことなどからすると、この話合いは、組合の支部執行委員長と会社の審査部長による組合らと会社との関係に係る話合いと見るのが相当であり、B2部長の発言は、会社の行為と同視できるものである。また、会社が主張するように、同委員長が、自分が同部長と同じ大学の学部学科も同じ先輩に当たることを利用したり、発言を誘導したりしたということはできない。
会社は、A2委員長がB2部長との話合いを無断で録音したことを違法な組合活動に当たるとして、録音反訳文の証拠能力を否定する。しかし、労使双方にとって重要な話合いを録音しておこうとすることは、基本的には理解できることであり、録音が無断で行われていることを除けば、録音に当たっての手段や態様の相当性に疑義を生じさせる事情は特に認められない。そうすると、無断録音であることのみをもって、当該録音反訳文の証拠能力を否定することはできない。
以上のとおり、B2部長の発言は、会社の審査部長が、組合らと会社との関係に係る話合いにおいて、組合の支部執行委員長に対し、組合らの存在を否定し、業務委託審査員の契約内容について組合らを通じて集団的に調整、決定することを否定して、組合らを通じてではない交渉の在り方を求めたものであるから、組合らの組織運営に対する支配介入に該当する。 |
掲載文献 |
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