概要情報
事件番号・通称事件名 |
中労委令和3年(不再)第25号
本田技研工業不当労働行為再審査事件 |
再審査申立人 |
X1組合(「組合」)、X2組合員(併せて「組合ら」) |
再審査被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
令和6年5月22日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、会社が、①組合が「労災証明のお願い」と題する文書(労災証明のお願い)の送付により申し入れたX2組合員の団体交渉を拒否したこと及び②X2組合員を平成30年1月3日をもって雇用終了としたこと、並びに③健康保険組合(健保組合)が傷病手当金に係る問合せに応じなかったこと、及び④会社の健康管理センターが、X2組合員が受けた診察内容の確認を拒否したことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。
2 埼玉県労働委員会は、会社の上記1の各行為は労働組合法(労組法)第7条の不当労働行為に該当しないとして組合の救済申立てを棄却したところ、組合らは、それぞれ再審査を申し立てた。 |
命令主文 |
本件各再審査申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
(1) 組合が会社に労災証明のお願いを送付したことに対する平成30年1月9日までの会社の対応について
ア ①組合が平成29年12月25日に送付した労災証明のお願いの標題ないし本文に、協議ないし交渉を求める趣旨の文言、議題や交渉事項という文言、あるいは交渉日時の提案などの記載もないこと、②会社が平成30年1月9日に回答書を出すまでの間の組合委員長とのやり取りにおいて、委員長から会社に対し、労災証明のお願いが団体交渉の申入れであるという趣旨の発言はしていないこと等からすると、組合が、会社に対して労災証明のお願いを送付したことをもって、X2組合員の契約更新等に関する団体交渉を申し入れたと評価することはできない。
イ また、会社が組合に送付した回答書の内容は、組合が労災証明のお願いで回答を求めた労災申請への協力につき、関係書類が提出されれば内容を確認して対応すると回答したものであり、この点に問題があるとはいえず、本件雇用契約が更新手続のないまま期間満了で終了したこと及び契約終了後は更新手続ができないこと等を通知したことをもって、組合との一切の交渉を拒否したものと評価することもできない。さらに、会社が組合の指定した期限までに回答しなかったことをもって、交渉する意思がないとか、組合の弱体化や支配介入の意図の現れということはできない。
ウ 以上から、組合が会社に対して労災証明のお願いを送付したことに対する平成30年1月9日までの会社の対応は、団体交渉を拒否したものとして労組法第7条第2号及び同条第3号の不当労働行為に当たるということはできない。
(2) 会社が、X2組合員について、平成30年1月3日をもって雇用終了としたことについて
会社では、期間雇用従業員が契約を更新するには、期間が満了するまでに契約更新手続をとることが必要とされており、X2組合員もこれを十分認識していたと認められる。一方、X2組合員は、12月25日に組合加入を公然化する前の同月18日に、退職したい旨を申し出るとともに指の痛みを理由とする欠勤を開始し、更新手続のための説明会に何の連絡もしないまま出席せず、契約期間満了日まで一度も出勤しなかった。
このようなX2組合員の一連の対応等を踏まえると、契約更新には手続が必要だったところ、同組合員の更新手続への意向が明らかであったとはいえず、会社が同組合員には就労の意思がないと考えたことはやむを得ない。加えて、X2組合員の組合加入公然化の前後を通じて、同組合員に対する会社の対応に特に変化があったと認められないこと、その他、会社の組合嫌悪をうかがわせる事情がないことを併せて考えれば、会社が、X2組合員を平成30年1月3日をもって雇用終了としたことは、X2組合員が組合の組合員であるが故の不利益取扱いであるとは認められず、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たるとはいえない。
(3) 健保組合からX2組合員に支払われた傷病手当金に関する問合せに対する健保組合の対応について
X2組合員が健保組合に対し、いつどのような問合せを行ったかという具体的な日時・内容や、健保組合の回答の内容は、当委員会が釈明を求めてもなお具体的事実が明らかになっていないから、組合らが主張する、健保組合がX2組合員からの問合せに対し説明を拒んだという点について、労組法第7条第1号の不当労働行為を認めることはできない。
(4) 健康管理センターの診察内容に関するX2組合員からの確認の申入れに対する同センターの対応について
裁判等で係争中の当事者間で、係争中の事案に関係する照会には裁判等の手続以外で回答しないとする対応には相応の理由があり、X2組合員個人からの問合せに対し健康管理センターが回答しなかったことのみをもって不合理であるということはできない。
また、会社が、不当労働行為救済申立てにおいてX2組合員が証拠を提示したことを嫌悪して同人に回答しなかったことをうかがわせるような事情、その他、会社の組合嫌悪をうかがわせるような事情も認められないから、労組法第7条第1号及び第4号の不当労働行為は成立しない。 |
掲載文献 |
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