労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  埼玉県労委平成30年(不)第4号
本田技研工業不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年7月2日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①組合が会社に対し、組合員A1の労働災害などについて団交の申入れをしたところ、会社がこれを拒否したこと、②会社がA1を雇止めにしたこと、③会社がC健保組合からA1に支払われた傷病手当金について説明していないこと、④A1が診察を受けた内容を確認するため、会社D工場健康管理センターに申入れを行ったところ、会社がこれを拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 埼玉県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合が会社に平成29年12月25日付「労災証明のお願い」を送付したことは、団体交渉の申入れに当たるか。当たる場合、それへの会社の対応は、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるか。(争点1)
 労組法は、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉することを正当な理由がなくて拒むこと」を不当労働行為として禁止している(労組法第7条第2号)。
 このような法的保護の対象となる団体交渉とは、労働組合と使用者との間で、労働者の待遇又は労使関係上のルールについて行う交渉であるが、労働組合が団体交渉を申し入れる場合、団体交渉申入書等によって、団体交渉の当事者(労働組合の名称・所在地)、担当者、交渉事項などを明確に示す必要がある。
 組合が会社に対し、平成29年12月25日付文書「労災証明のお願い」を送付したことは、団体交渉の申出であったということはできず、したがって、会社の対応も労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるとは認められない。
2 会社がA1の期間従業員雇用契約を更新しなかったことは、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たるか。(争点2)
(1)経過を見てみると、平成29年12月におけるA1の勤務状況については、体調不良や指の痛みなどにより21日間の平常勤務日のうち15日が欠勤となっている。
 また、期間従業員雇用契約の更新に関しても、その手続日とされていた平成29年12月26日はもとより、同月28日まで会社の担当者であったB1〔総務課〕に特段の連絡もなかった。同月29日、組合の委員長であったA2が会社に電話した際、対応したB2〔総務課〕がA1の安否確認をしたいと話したため、同日午後4時頃、A1がB2に電話しているが、雇用契約更新の手続日の変更申入れなどもなく、契約更新の意思について明らかにしなかったことが認められる。会社がこれらを総合的に勘案して、契約更新の実績もないA1について、契約更新をしないと判断したことにはやむを得ない面があったと言える。
(2)さらに、会社は、平成29年12月25日付け「労災証明のお願い」によって、A1が組合の組合員であることを知り得たが、それまでは同人が組合員であることを知る機会はなかったのである。
 また、同月20日に、A1は、指の痛みにより健康管理センターを受診したが、同人は、同日受診後にB3〔チームリーダー〕から出社の意向について聞かれ、既にその時点で、労災なので出社しないと答えていた。同月21日には、B1がA1に対して、無断欠勤が続くと契約満了まで雇用継続することが難しい旨の話をしており、さらに同月22日にもB3がA1に対し、改めて出社についての意向を確認したが、A1は、労災であるので出社しない旨を回答している。
 つまり、会社は、「労災証明のお願い」を受信する前から、A1の就労に係る意思などを確認し、同人が同月26日の契約更新手続に何の連絡もせずに出席しなかったことから、最終的に同月29日、同人との雇用契約について平成30年1月3日をもって終了することを決定したと言える。
 したがって、会社がA1が組合員であること又は同人の組合活動を嫌悪して、同人の契約更新をしないことを決定したと認めることは難しい。
(3)組合は、診断書が無視され、組合との交渉は拒否され、A1に更新契約書にサインする機会を与えられず、労働組合を公然化した故に会社は不利益取扱いとして雇止めをした旨を主張する。確かに、会社は、平成29年12月25日付け「労災証明のお願い」及び診断書をファクシミリにより同日に受信したが、当該文書への対応に日数がかかり、組合が回答期限としていた同月27日を徒過してしまったことは事実である。
 しかし、当該文書は、団体交渉の申入れとは認められず、また、A1からは雇用契約の更新手続日とされていた同月26日の日程変更について特段の意思表示もなく、雇用契約の期間が満了してしまったのである。
(4)これらから、会社がA1の期間従業員雇用契約を更新しなかったことは、同人が組合員であること又は同人の組合活動の故をもっての不利益取扱いであったとまでは言えず、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たるとは認められない。
3 C健康保険組合からA1に支払われた傷病手当金について、Aが会社及び同健康保険組合に過少ではないかと問い合わせたか。会社及び同健康保険組合が、問合わせに対し説明を拒んだ場合、これが労組法第7条第1号の不当労働行為に当たるか。(争点3)
 傷病手当金について、会社及びC健康保険組合がA1からの問い合わせに対し説明を拒んだ事実は認められず、労組法第7条第1号の不当労働行為には当たらない。
4 健康管理センターの診療内容に関するA1からの確認の申入れに対して、同センターが回答を拒否したことは、労組法第7条第4号の不当労働行為に当たるか。(争点4)
 一般的に、裁判係争中の当事者の間においては、相手方からの裁判外での問い合わせに安易に回答すると、裁判に影響する可能性もあることから、回答しないとすることはあり得ることであって当然健康管理センターが係争中のため回答しないとした運用については、合理性がないとまでは言えない。
 また、会社が、本件申立てにおいてA1が証拠を提示したことを嫌悪して、同人に回答しなかったことをうかがわせるような事実の疎明もない。
 したがって、本件申立ての審査手続においてA1が証拠を提示したことを理由として、同人に対する不利益取扱いがあったとは認められず、労組法第7条第4号の不当労働行為には当たらない。 
掲載文献   

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