労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第6号
NHKビジネスクリエイト不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和6年3月5日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、組合員A2に対し、平成31年度及び令和3年度に昇給を行っていないこと、②令和元年夏季及び冬季並びに2年冬季の賞与において、運転職の平均を下回る業績加算を支給していること、③出張(宿泊費及び日当が支給されるもの)及び時間外労働の少ない運行業務を担当させていること、④令和元年10月8日など2回の団体交渉における会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、③のうち出張の少ない運行業務を担当させていることについて、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書の交付及び掲示等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、会社の自動車運転職の労働者の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
執行委員長 A1殿
Y会社       
代表取締役 B
 当社が、貴組合の組合員A2氏に対し、平成29年6月以降、出張(宿泊費及び日当が支給されるもの)の少ない運行業務を担当させていたことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

2 会社は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。

3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 昇給、業績加算、出張及び時間外労働について

(1)平成31年度及び令和3年度に昇給していないことについて

 組合は、組合員A2が無事故無違反で誠実に業務に取り組んできたにもかかわらず、合理的理由なく長期間昇給していないと主張する。
 しかし、①A2が長期間昇給していないのは、(平成29年6月の)組合加入前も加入後も、考課の評価点の合計が規定の点数に達していないためであり、組合加入が直接の原因とまではいえないこと、②会社は団体交渉において昇給の制度と運用及びA2の考課結果とその具体的根拠について詳細に説明しており、③会社の説明の一部を組合が不合理であると受け止めたとしても、直ちに同人の考課結果を変更すべき重大な誤りがあったとまでは認められないことを併せ考えると、A2が組合員であることや同人の組合活動(以下「A2が組合員であること等」)が、同人の考課結果に影響していたとまではみることができない。
 したがって、会社が、A2に対し、平成31年度及び令和3年度に昇給を行っていないことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとまではいえない。

(2)令和元年夏季及び冬季並びに2年冬季の業績加算が低額であることについて

ア 組合は、A2の業績加算の平均との差は、平成30年は5倍以上、令和元年は3倍以上となっているなどと主張する。
 確かに、令和元年夏季及び冬季並びに2年冬季賞与のA2の業績加算は、平均より大幅に下回っているものの、平成29年6月の組合加入の前後による特段の変化は認められず、同人の業績加算が低額であることについて、直ちに同人が組合員であること等を理由とするものとみるのは困難である。

イ 会社は、業績加算について、第1回から第7回までの団体交渉において、①評定項目や平均・最高・最低を記載した資料を提示して、賞与は73%が固定部分であり、査定部分の27%については頑張ってくれた運転職に多く支払うメリハリをつける制度であること、②会社の裁量の範囲で会社に対する協力度、貢献度を含む勤務姿勢等を総合的に判断していることを説明しており、会社は、A2の査定に当たって、就業規則に基づく運用を行っていることがうかがわれる一方、同人が組合員であること等を考慮に入れていた形跡は特にうかがわれない。
 そして、会社は、第8回団体交渉において、A2に足りない点を説明し、第9回から第13回までの団体交渉では、同人の査定の根拠について具体例を挙げて説明しているから、会社が査定の要点を団体交渉で明らかにしていないとまではいえない。

ウ また、組合は、①現場の仕事を経験したことがない評価者による恣意的査定がされている、②支給額の27%を会社の裁量で自由に配分し、大きな格差を付けることは極めて不合理であり、運転業務においてここまでの格差が設けられることは、裁量の域を超えているとも主張する。
 しかし、組合から、A2が組合員であること等を理由として、会社が低評価を行ったと認めるに足りる具体的な疎明はなされておらず、A2の組合加入が直接の原因とまではいえない。加えて、A2の業績加算は、平成28年夏季から30年冬季までは最低額であったところ、令和元年夏季及び冬季並びに2年冬季においては、いずれも、同人と同額又は同人より低額の者が複数名存在している。

エ 以上からすると、A2の令和元年夏季及び冬季並びに2年冬季の業績加算が低額であることについては、同人が組合員であること等が影響しているとまではみることができない。

(3)出張及び時間外労働が少ないことについて

ア 出張が少ないことについて

(ア)A2の出張回数は、組合加入前から全運転職の年間出張回数の平均と比べて少なく、平成29年6月に組合に加入し、組合が会社に団体交渉を申し入れた後、更に減少して、その後1年9か月の間、全く出張がない状態が続いた。その後も、ほとんど出張のない状態が続いている。一方、全運転職の年間出張回数は、平成27年から31年にかけて徐々に減少しているが、同時期のA2の出張回数ほど大幅には減っておらず、組合加入後のA2の出張回数の少なさは際立っている。

 更に遡ってみると、A2は、平成21年ないし23年には年間10回前後、24年及び25年に年間5回出張していたところ、25年10月に同人が振替休日の賃金未払について労働基準監督署に申告して以降の25年11月からの1年5か月の間、全く出張がない状態が続いていた。
 そして、A2の出張回数は、その後一旦増加していたが、(平成29年6月の)組合加入及び組合の団体交渉申入れの後1年9か月の間、再度、全く出張がない状態が続き、その後は新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言等の影響を受けるなどして、ほとんど出張回数は増えていない。

(イ)このように、A2の労働基準監督署への申告後と組合加入後とで、同じように長期間、同人の出張が全くない状態が続いていることを考慮すると、会社は、A2が会社に対して自らの労働条件に関する行動を起こしたときに、長期間、出張を命じない措置を採り、その後一旦は出張を命じるようになっておきながら、組合加入後に再び長期間、全く出張を命じなくなったとみることができる。
 そうすると、会社が、A2に出張の少ない運行業務を担当させていることは、同人の組合加入及び団体交渉出席等の組合活動を理由にしたものであるといわざるを得ない。

(ウ)一方、会社は、出張の日当は出張先での支出の補填として支給しているのだから、出張の少ないことが賃金減に当たるとはいえないし、〔スケジュールボードが空白で職場において疎外感があるなどの組合の主張についても〕同ボードは2週間分を7日ごとに更新しており、ー時的に空白であることは疎外感を与えるものではないと主張する。
 確かに、宿泊費や日当は出張に伴う諸経費に相当するから、出張の少ないことが賃金減に当たるとはいえず、また、スケジュールボードが空白であることが、直ちに精神的な不利益に当たるともいえない。
 しかし、A2が、中継車やロケバスを運行する運転職であることを考慮すると、遠方に移動して宿泊等を伴う出張業務は、通常よりもやりがいを感じる業務であるとみることができ、出張が少ないことは、業務経験やキャリアアップ、仕事のモチベーションなどの面で、不利益に当たらないとまではいえない。

(エ)また、会社は、第13回団体交渉において、出張に限らず業務については、運転職の適性を見て、その時の状況で対応できる者に割り当てている、業務内容は前日に決まることが多いなどと、一応の回答はしていた。そして、第1回から第7回までの団体交渉においては、会社は、A2の評価が低い理由である適性を満たしていないことが業務の割当てに影響しているとも述べている。
 しかし、全運転職の年間出張回数と比べて、組合加入後のA2の出張回数の少なさが際立っていることについて組合が具体的な疑義を示しているのに対し、団体交渉における会社の回答は、業務(出張を含む)の一般的な割当てに関する説明にとどめられていることから、上記判断を左右しない。

(オ)以上のとおり、平成29年6月以降、会社がA2に出張の少ない運行業務を担当させていることは、同人の組合加入を理由とする不利益取扱いに当たる。

イ A2の時間外労働が少ないことについて

 A2に時間外労働の少ない運行業務を担当させているとの組合の主張は、主に会社が同人を緊急グループ(緊急報道等に対応するチーム)に入れなかったことを指すとみられるところ、同グループは平成26年3月以降存在していない。そのほかに、本件申立日前1年間のA2の時間外労働について、組合は具体的な主張をしておらず、平成31年のA2の時間外労働は運転職の平均よりも少ないことが認められるものの、このことのみをもって、会社が、組合加入後にA2に時間外労働の少ない業務を担当させているとまでいうことはできない。

2 第8回及び第14回の団体交渉について

 組合は、令和元年10月8日の第8回団体交渉及び3年5月18日の第14回団体交渉における「昇給の考課の各項目の評価点が低い理由についての説明」に関し、求めていたのは考課基準の具体的な説明であるところ、会社の説明はいずれも抽象的なものであったと主張する。また、「業績加算が低額である理由についての説明」に関し、査定に関する会社の説明には数々の誤りがあり、組合の指摘に対し、会社は具体的な説明ができなかったと主張する。
 しかし、これら団体交渉において、会社は、A2の昇給の考課の各項目の評価点が低い理由や、業績加算が低額である理由について、事実関係の認識については組合と議論が対立していたものの、会社の認識する事実に基づいて、一定程度具体的な例を挙げるなどして説明しており、結果として、事実の認識が違う組合の納得を得られなかったとしても、会社の対応が不誠実な団体交渉に当たるとまでいうことはできない。

3 結論

 以上のとおり、会社が、A2に対し、①出張の少ない運行業務を担当させていることは、同人の組合加入及び団体交渉出席等の組合活動を理由とする不利益取扱いに当たるが、②平成31年度及び令和3年度に昇給を行っていないこと、及び③令和元年夏季及び冬季並びに2年冬季の賞与において、平均を下回る業績加算を支給していることは、同人が組合員であること等を理由とする不利益取扱いには当たらない。
 また、第8回及び第14回の団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉には当たらない。

4 救済方法について

 会社は、今後、出張を伴う運行業務について、Aが労働組合員であることや、労働組合の正当な活動を考慮した決定をしてはならないが、同時期に会社全体の出張回数が減少していること、出張回数が少ないことによる具体的な経済的不利益の疎明がなく、認定も困難であることなどの諸事情を考慮し、本件の救済方法としては、主文第1項のとおり命ずることとする。 

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