概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京地裁令和6年(行ウ)第223号
NHKビジネスクリエイト救済命令取消請求事件 |
原告 |
X会社(「会社」) |
被告 |
東京都(処分行政庁 東京都労働委員会) |
被告補助参加人 |
Z組合(「組合」) |
判決年月日 |
令和7年4月21日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、①会社が、組合員A1に対し、平成31年度及び令和3年度に昇給を行っていないこと、②令和元年夏季及び冬季並びに2年冬季の賞与において、運転職の平均を下回る業績加算を支給していること、③出張(宿泊費及び日当が支給されるもの)及び時間外労働の少ない運行業務を担当させていること、④令和元年10月8日など2回の団体交渉における会社の対応が不当労働行為に当たるとして救済申立てがなされた事案である。
2 東京都労働委員会は、③のうち出張の少ない運行業務を担当させていることについて、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書の交付及び掲示等を命じ、その余の申立てを棄却した。
3 会社はこれを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は会社の請求を棄却した。
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判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
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判決の要旨 |
(1)「不利益な取扱い」該当性(争点1)
A1が組合に加入して以降、出張の回数が有意に減少していることは、認定事実から明らかである。また、組合は、令和3年2月17日の団体交渉において、A1の出張が少ないことを問題視しており、A1が組合加入後に出張を伴う業務の遂行を拒否し、又は難色を示したといった事情もうかがわれないのであって、出張回数の減少は、会社がA1に対して出張に係る業務を指示した回数又は命じた回数自体が減少したことによるものであることも容易に認められる。
そして、会社における昇格の評定項目の定めは、抽象的・概括的なものであり、出張を要する運転業務に関わる事実・事情も、昇格の決定に係る評価の考慮対象に含まれ得るというべきである。また、会社の主張によっても、入社2年目の自動車運転職に経験を積んでもらうために6日間を要する出張を担当させたことがあるというのであり、会社の自動車運転職における出張業務はその職員としての経験蓄積につながるものというべきであること、A1に限らず、会社における自動車運転職が出張を伴う業務に仕事のやりがいを感じることは業務の性質上不自然なこととはいえず、A1がこれにやりがいを感じるということも、A1個人の特異な考えにすぎないとはいえず、社会通念に照らして十分に理解可能なものというべきであること等の諸事情を総合考慮すると、A1が組合に加入して以降、出張の回数が減少したことは、「不利益な取扱い」に当たるというべきである。この点に関する会社の主張は、採用することができない。
(2)「故をもつて」該当性(争点2)
組合は、会社に対し、A1が組合に加入した平成29年6月に、昇給等に関して団体交渉を申し入れ、以後、A1は全ての団体交渉に参加していたものであるから、会社が、A1の組合活動の事実を認識していたことは明らかである。
この減少の理由等について、会社は、会社における運行業務の個別性が強い上に、A1の乗務車両は主にロケ車に限定されているから、乗務車両に制限のない自動車運転職とは条件が異なるため、出張回数を比較することに意味はない旨を主張する。しかし、A1の乗務車両が主にロケ車に限定されていることを裏付ける的確な証拠はないし、これを措くとして、仮に、主にロケ車に限定されているという事情があったとしても、そのような事情はA1の組合加入以前から存在していたはずであると考えられるから、A1の組合加入の前後において出張回数が大きく変動(減少)したことの理由とみることには疑間がある。(令和元年度(平成31年度)までの会社における管理職を除いた自動車運転職全体(A1含む)の合計出張回数には大きな変動がないのに、A1の組合加入後の出張回数の減少は顕著である。)特に、平成 30年度における会社における管理職を除いた自動車運転職全体(A1含む)の出張回数の総数は、その前年度(平成29年度)より増加した一方で、A1は平成30年度に1回も出張を命じられなかったこと、会社は、令和3年2月17日の団体交渉や労働委員会における審査において、A1の出張が減少している理由として上記事情を説明・主張していないという経緯に照らすと、会社の主張する事情が組合加入後の出張回数の減少の原因であるとは認められない。
また、会社は、日帰り出張等のA1の担当する業務全体についてみれば、A1の組合加入後の業務内容は変わっていない旨を主張するが、提出書証を検討しても、組合加入後に出張回数が減少した理由を合理的に説明するものとはいえない。
会社は、A1の他にも、平成27年度や平成28年度以降に2名の乗務員の出張が減少していることを主張するが、これら2名の乗務員の出張回数の減少の原因、理由を認めるに足りる証拠はなく、他の多くの乗務員の出張回数とA1の出張回数との乖離について、相応の理由を推認できるものは見当たらない。
なお、A1は、組合加入前である平成26年にも会社から出張を命じられていなかったところ、これは、A1が会社に提出した平成26年度考課表に、対人恐怖症であって、人との接触が少ない業務を希望する旨記載していたことが考慮された対応であり、出張回数の減少に明確な理由があると認めることができるものである。
以上の検討を総合すると、A1の組合加入後に出張を命じられた回数が減少したことは、A1の組合活動を理由とするものと認めるのが相当であり、この点に関する会社の主張は採用することができない。
(3) 結論
以上によれば、本件救済命令には会社主張に係る違法が認められず、本件救済命令は適法というべきであるから、主文のとおり判決する。 |
その他 |
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