労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第41号・同4年(不)第80号・同5年(不)第4号
パーソルテンプスタッフ・NTTデータ・パーソルテンプスタッフ(4号)不当労働行為審査事件 
申立人  個人X 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和6年2月6日 
命令区分  棄却・却下 
重要度   
事件概要   本件は、(1)派遣元Y1会社について、①申立外C組合の平成31年4月9日付け団体交渉申入れに対する対応、②C組合の組合員である派遣労働者Xを雇止めとしたこと、③C組合との計4回の団体交渉における対応、④a 平成31年4月22日の始業前のXとの面談における対応、b Xに言動の改善等に係る確約書の提出を求めたこと、c Xへの雇止め理由書の送付、⑤Xの取扱いに関する労働局及び労基署からの行政指導に従わなかったこと、並びに(2)派遣先Y2会社について、⑥上記①の団体交渉申入れに応じなかったこと、⑦C組合との計2回の話合いにおける対応、⑧a 平成31年4月22日の始業前のXとの面談における対応、b 同月23日の職場における対応、c 同日の電話連絡における対応、d Y1会社にXの定時前退社を報告したこと、⑨Xを雇止めとしたこと、⑩a 残留私物はないと回答して返却していないこと、b Xが求めた勤怠表の写しを交付していないこと、⑪Xによるコンプライアンス窓口への連絡に回答していないこと、⑫Xの取扱いに関する労働局からの行政指導に従わなかったことが不当労働行為に当たる〔注〕、として個人Xから救済申立てがなされた事案である。
 なお、①から④まで及び⑥から⑨までに係る申立てはC組合及びXによりなされたが(2不41号事件)、その後、XはC組合を脱退し(別組合に加入)、C組合は申立てを取り下げた。さらに、Xは、それら以外の各事項に係る2件の申立て(4不80号事件、5不4号事件)を行った。
 東京都労働委員会は、(1)について、④aを申立期間を徒過した不適法なものとして却下するとともに、その余の申立てを棄却し、また、(2)について、Y2会社はX又はC組合との関係において労働組合法上の使用者に当たるとはいえないとした上で、申立てを棄却した。

〔注〕①、②、③、④a、⑥、⑦、⑧a、cは労働組合法第7条第3号、④b、c、⑧b、dは同条第1号及び第3号、⑤、⑩、⑪、⑫は同条第4号、⑨は同条第1号に該当するとの主張。 
命令主文  1 平成31年4月22日のY1会社の対応についての申立てを却下する。

2 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合の平成31年4月9日付けの団体交渉申入れに対するY1会社の対応は、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点1)

 組合が平成31年4月中旬の団体交渉開催を求めたことに対し、Y1会社は令和元年5月下旬を提示し、その結果、第1回団体交渉の開催が5月24日となった。
 しかし、①平成31年4月9日付け団体交渉申入書にて、Xが組合員であることが初めて通知されるまで、Y1会社が組合との団体交渉に対応したことはなく、②組合が、同申入書で、Xの派遣就業に関する事項についての協議や、事実関係に関する認識についての文書回答を要めていたことから、4月中旬の団体交渉開催は困難であったとみざるを得ず、同社が、事実関係等を確認するために、一定の時間を見込んだ上で、団体交渉の開催日を回答したとしてもやむを得なかったといえる。
 また、Y1会社が団体交渉の開催に向けた連絡調整を意図的に遅らせていたとはいい難く、さらに、その後の4回の団体交渉が正常に進んでいたことからすると、第1回団体交渉が5月24日になったことにより、団体交渉の実質が損なわれたなどとは評価できない。
 これらを踏まえると、Y1会社の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

2 Y1会社が、Xを令和元年5月6日をもって雇止めとしたことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点2)

(1)Xが、①令和元年4月3日の早退の際に、Y1会社及びY2会社に対し、同人への連絡の拒否及び今後の対応を第三者に委ねる旨を通告し、②「第三者」について何ら具体的に明示していない中で、Y1会社がXとの接触を控え、その結果、職場復帰後である4月23日に雇止めを告げることとなったとしても、やむを得なかったというべきである。
 また、当該早退を受けて、Y1会社は、同人に、今後の就労については話合いが必要との認識を伝え、健康状態についての回答を求めているが、Xは、①早退の際に、体調が回復するまで休むことのみを告げて、以後欠勤し、②その後も、診断書を送付するのみで、逐次の現状報告や復帰の見込みなどの連絡などは行っていない。
 これらを踏まえると、Y1会社が、Xとの雇用契約更新の前提となる、今後の労務提供確保の見通しが立たないと判断したとしても、不合理とはいえない。

(2)Y1会社による不自然な対応や反組合的な姿勢が窺われるような事情は認められず、組合の弱体化を意図して同人を雇止めとしたなどとみることは困難であるから、Y1会社によるXの雇止めは、組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

3 令和元年5月24日、8月7日、10月9日及び2年1月22日の団体交渉におけるY1会社の対応は、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点3)

 これら団体交渉におけるY1会社の回答、説明等の状況を踏まえると、結果として合意達成に至っていないとはいえ、労使間の懸案事項の解決を目指して協議を行う場である団体交渉は、正常に進行していたとみるのが相当であり、Y1会社が団体交渉を無意味化させる対応を行っていたなどと評価することはできない。したがって、Y1会社の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

4(1)Xに対するY1会社の平成31年4月22日の始業前における対応は、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点4ー1)

 (組合は、Y1会社がXに個別に接触し、解雇の通知を図ったと主張するところ)このことに係る令和2年4月23日の申立ては、行為の日から1年を経過しており、申立期間を徒過した不適法なものとして却下を免れない。

(2)Xに対しY1会社が平成31年4月24日に確約書の提出を求めたことは、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点4-2)

 Y1会社がXに言動の改善等に係る確約書(以下「確約書」)の提出を指示するに至った経緯をみるに、平成31年4月23日に、Xが、Y2会社の上司との面談後、就業時間終了の10分前に退社したこと(以下「本件定時前退社」)は、たとえ短時間であっても業務への従事を放棄した点においては、Xに非が無かったとはいい難い。
 また、Xのその後の対応をみるに、Y1会社及びY2会社を非難するのみで、本件定時前退社についての弁明等を述べていた事実もない。さらに、Xは、同月3日の早退以降、連絡を拒んだ上で、現状報告等を行うこともなく(4月22日に出勤するまで)欠勤を続けるなどしており、Y1会社がそれまでの同人の言動を問題視し、本件定時前退社に対し、より強い姿勢で臨んだとしても、無理からぬことというべき。
 そして、Y1会社が、Xが確約書を提出せずに欠勤となった期間について、会社都合による休業手当を支払っていることからすれば、確約書の提出指示が、同人を出勤させずに経済的打撃を与えることを意図したものなどとみることはできない。
 これら事情を踏まえれば、Y1会社が確約書の提出を求めたことは、業務上の改善指導として、Xに確約書への署名を求めて自省を促し、翌日以降の派遣契約の履行を担保しようとしたとみるのが相当であるから、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

(3)Xに対しY1会社が平成31年4月26日に雇止め理由書を送付したことは、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点4-3)

 ①Xは、雇止め理由書の送付自体が同人に与えた不利益の内容について、具体的な事実の疎明をしておらず、また、②雇止めの理由を記した書面の送付だけでは、労働者としての地位に影響を与えるものではなく、しかも、③Y1会社は、Xの求めに応じて送付したのであるから、その送付自体が特段問題視されるものとはいえない。
 さらに、Xは、雇止め理由書を組合に交付することを求めていたが、雇止め理由書は、本来、雇用主が被用者に交付すべきものであるから、Y1会社がXに送付したことのみをもって、組合の頭越しに同人と接触して、組合と同人との分断を図ったなどとみることも困難である。
 以上のとおり、Y1会社がX1に雇止め理由書を送付したことは、同人に不利益な取扱いとも、反組合な行為とも評価できないから、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

5 Y1会社は、Xの取扱いに関して東京労働局及び渋谷労基署から行政指導を受け、それに従わなかったと認められるか。認められる場合、そのことは、Xが2不41号事件を申し立てたことを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。(争点5)

 Xが(令和2年4月23日に)2不41号事件を申し立てたことと、①(右申立て以前に是正完了が確認されている)令和2年4月2日の東京労働局からの(労働者派遣法に係る)第1回の指導、②(申立ての約6か月前である)令和元年10月10日の渋谷労働基準監督署からの(労働基準法に係る)指導、③(申立ての約9か月以上後の)令和3年2月9日頃の東京労働局からの第2回の指導に対するY1会社の対応との間に因果関係があるとは認め難い。また、Xは、上記の行政指導に従わないことが同人にもたらした不利益の内容について、何ら具体的な事実の疎明をしていない。
 したがって、東京労働局及び渋谷労基署からの行政指導に対するY1会社の対応が、2不41号事件申立てを理由とする報復的不利益取扱いに当たるとはいえない。

6 Y2会社は、本件において、労働組合法上の使用者に当たるか否か。また、労働組合法上の使用者に当たる場合、以下の争点6-1から争点6-7までの会社の対応や行為は不当労働行為に当たるか否か。

 労働組合法上の使用者に当たるかの判断は個々の具体的な事案に応じて判断すべきであるから、Y2会社に係る各争点を踏まえて、同社が、Xの基本的な労働条件等について、部分的とはいえ現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあるか否かを以下検討する。

(1)Y2会社が、平成31年4月9日付けにて組合から申し入れられた団体交渉に応じなかったことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点6-1)
(2)令和元年5月29日及び同年12月26日の組合とY2会社との話合いにおける同社の対応は、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点6-2)

 平成31年4月9日付け団体交渉申入書などで組合が求めた協議事項は、①Xの従事業務の特定、②時間外労働時間の上限、③本件B2発言〔注令和元年3月29日、Y2会社の歓送迎会において、同社課長B2が挨拶の中でXについて言及し、「長くいてほしい。」と発言したこと〕及びそれに対するXの苦情申出への対応、並びに④残留私物の返還及び勤怠表の交付であった。
 この点、①及び②について、組合が協議を求めたのは、就業条件明示書の記載事項における正誤関係というべきで、それらは、派遣元とXとの雇用契約関係の下で決定される事項である。また、派遣先であるY2会社が、就業条件明示書に記載された業務内容を明らかに超えた業務や、上限を超える時間外労働を命じていたなどの事情も認められない。
 また、③については、派遣元であるY1会社のB1に対して苦情申出がなされ、派遣先のB2も苦情に対応しようとしていたが、派遣先が派遣労働者の苦情に対応することは労働者派遣法に沿った対応であり、Y2会社がXの苦情申出に対応したとしても、そのことが直ちにY2会社の使用者性を基礎付けるものとはいえない。
 さらに、④についても、Y2会社は、派遣先として、仮に派遣労働者の残留私物があれば対応する必要があるとしても、そのことが使用者性を基礎付けるものとはいえない。また、Xとの雇用契約関係にあるのは派遣元のY1会社であり、Y2会社は、Y1会社にXの勤怠表を報告済みである旨回答しているから、同人への勤怠表の交付は、Y1会社が対応すべき事柄といえる。

(3)Xの令和元年5月6日付け雇止めは、Y2会社の行為といえるか。いえる場合、そのことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか否か。(争点6-4)

 Y1会社が、Xに雇止めを通知し、雇止め理由書を交付していることを踏まえると、Y1会社がXの雇止めを決定していたとみるのが相当であり、その他、Y1会社が別個独立した企業体としての実質を欠き、その意思決定をY2会社が事実上支配、決定していたなどといえる事情もない。
 なお、Y2会社が派遣契約を更新しないこと自体は、派遣法に基づく労働者派遣の枠組みの範囲内の行為というべきで、そのことを受けて雇用主であるY1会社が雇用契約を更新しなかったとしても、Y2会社がXの雇用を支配、決定しているなどとみることもできない。

(4)Xに対するY2会社の①平成31年4月22日の始業前における対応、及び②4月23日の電話連絡における対応は、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。また、③4月23日の職場における対応、及び④4月23日の本件定時前退社に関するY1会社への報告は、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点6-3)
(5)XがY2会社に残留私物の返却及び勤怠表の写しの交付を求めたことに対し、同社が残留私物はないと回答して、4不80号事件申立時までに返却していないこと、及び同社が、4不80号事件申立時までに、勤怠表の写しを同人に交付していないことは、同人が2不41号事件を申し立てたことを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。(争点6-5)
(6)XがY2会社又は外部のコンプライアンス窓口に連絡したことに対し、本件4不80号事件申立時までに、同社が同人に回答していないことは、同人が2不41号事件を申し立てたことを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。(争点6-6)
(7)Y2会社は、Xの取扱いに関して、東京労働局から行政指導を受け、それに従わなかったと認められるか。認められる場合、そのことは、Xが2不41号事件を申し立てたことを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。(争点6-7)

 いずれも、Y2会社の行為とXの具体的な労働条件との関連を認めるに足りる事実の疎明がなされているとはいえず、また、Y2会社が派遣先の指揮命令権を行使する立場を超えて、部分的であっても、Xの何らかの労働条件を直接左右していたといえる事情も認められない。

(8)よって、Y2会社は、部分的であっても、Xの基本的な労働条件等を雇用主と同視できる程度に、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとはいえず、X又は組合との関係において、労働組合法上の使用者に当たるとはいえない。
 そうすると、その余を判断するまでもなく、争点6-1ないし争点6-7におけるY2会社の各行為が不当労働行為に当たるとはいえない。

7 本件調査手続終了時までにXが組合から脱退している本件において、支配介入に係る救済の利益が存在するか。(争点7)

 Y2会社は、Xは、C組合を自ら脱退し、C組合も本件申立てを取り下げているのであるから、同人は、仮に支配介入行為により組合の自主性等が損なわれたとしても、もはや、組合に代わって救済を求める立場にもなく、同人には救済の利益が存在しない、と主張する。
 しかし、本件申立ての各事実が組合の運営に対する支配介入に当たるといえないことは、上記判断のとおりであるから、争点7は判断を要しない。 

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