概要情報
事件番号・通称事件名 |
中労委令和2年(不再)第28号・第29号
光榮・昌榮産業不当労働行為再審査事件 |
再審査申立人 |
Y1会社、Y2会社(「会社ら」)(28号)、X1組合、X2組合(「組合ら」)(29号) |
再審査被申立人 |
X1組合、X2組合(「組合ら」)(28号)、Y1会社、Y2会社(「会社ら」)(29号) |
命令年月日 |
令和6年4月3日 |
命令区分 |
一部変更 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、Y2会社とその親会社であるY1会社(会社ら)が、労働者供給事業を行っているX1組合が運営しているA1センターに対し、平成30年1月27日分以降、日々雇用労働者の供給を依頼しなかったこと(本件供給依頼停止)が不当労働行為に該当するとして、X1組合とX2支部(組合ら)が大阪府労働委員会に救済申立てをした事件である。
なお、X2支部には、日々雇用で就労する組合員で組織されるA2分会という活動単位があり、A2分会に所属する組合員(A2分会員)は、X2支部とX1組合に個人加盟している。
2 大阪府労働委員会は、本件供給依頼停止は労働組合法(労組法)第7条第3号の不当労働行為に該当すると認め、会社らに対し文書交付を命じ、その余の申立てを棄却したところ、会社ら及び組合らは、それぞれ再審査を申し立てた。 |
命令主文要旨 |
(1) 会社らの再審査申立てに基づき、初審命令を取り消し、本件救済申立てを棄却する。
(2) 組合らの再審査申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
(1) 会社らは、Y2会社に日々雇用労働者として供給されていたA2分会員の労組法上の使用者に当たるか
ア Y2会社について
(ア) 労組法第7条の使用者は、原則として、労働契約上の雇用主であるが、労働契約成立前であっても、近い将来において労働契約関係が成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者も含まれる。また、組合員と雇用主との間に近い過去に労働契約関係が存在し、労働組合若しくは組合員又はその両者がその労働契約の終了を争っている場合にも、当該雇用主は労組法第7条の使用者に該当し得る。
(イ) 組合らとY2会社は、平成21年10月1日付けで、「日々雇用労働者供給契約書」及び「労働協約附属協定書」を交わして労働者供給契約(本件労供契約)を締結した。本件労供契約は、Y2会社が随時組合らの日々雇用労働者の供給を受け使用することができるというものであり、Y2会社が組合ら以外の労働者を使用することはできない旨定められていた。また、本件労供契約では、日々雇用労働者の勤務時間及び供給した組合員の賃金は当日勤務終了後にY2会社が直接本人に払うという賃金の支払方法等の労働条件が定められており、同契約に定めのない事項については、労働協約附属協定等に従い、疑義が生じた場合はその都度Y2会社と組合らが協議して決めることとされていた。実際に、日々雇用労働者の賃金その他の労働条件は、「労働協約附属協定書」に定められており、Y2会社は、こうして決定された賃金を日々雇用労働者に支払っていた。
A1センターから供給されたA2分会員は、上記のようにY2会社に日々雇用されるのであるが、これは、Y2会社が、A1センターにおいて手配して供給したA2分会員との間で日々雇用の労働契約を締結して日々雇用し、当日に同契約が終了するというものである。
この日々雇用の労働者供給の実態についてみると、組合らに所属してA1センターからの供給によってY2会社に日々雇用されたことのあるA2分会員の集団(A2分会員集団)は、平成22年2月頃以降、約8年間にわたり、そのうちのだれかが必要に応じてY2会社に日々雇用されていたものである。平成29年2月以降平成30年1月までの供給実績では、月の延べ供給人員の合計平均は21.8名であり、必要に応じて1日当たり1名ないし4名程度、A2分会員24名のうちのだれかがA1センターからの供給によってY2会社に日々雇用されていた。これをA2分会員についてみると、A1センターからの供給によってだれかの日々雇用が短い間隔を置きつつ断続的に行われており、日々雇用されたA2分会員を集団としてみると、この集団に属することによって日々雇用がA1センターからの供給により継続していたものということができる。
このような実態に鑑みると、組合らに所属してA1センターからの供給によってY2会社に日々雇用されたことのあるA2分会員集団は、これまでと同様、近い将来においても、そのうちのだれかとY2会社との間で日々雇用の労働契約が短い間隔を置きつつも成立することにより、継続して就労ができる現実的かつ具体的な可能性を有しているということができる。したがって、Y2会社はA2分会員集団に属するA2分会員との関係において労組法第7条の使用者に当たると解するのが相当である。
また、本件供給依頼停止によってA2分会員の日々雇用が行われなくなったが、これは、A2分会員集団との関係でみると、同集団を構成するA2分会員のだれかとY2会社との間に近い過去に存在していた日々雇用の労働契約関係の終了とみることができるところ、組合らはその集団的な日々雇用の労働契約関係の終了を争っているのであるから、この点からも、Y2会社はA2分会員集団に属するA2分会員との関係において労組法第7条の使用者に該当するということができる。
イ Y1会社について
(ア) 雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、労組法第7条の使用者に当たると解するのが相当である。
(イ)a Y1会社は、Y2会社の全株式を保有しており、Y2会社の設立以降、この株主構成に変更はなかった。平成27年5月20日以降、Y1会社とY2会社の代表取締役はいずれもB1社長である上、両社の前の代表取締役も、いずれもB1社長の父親であるB2前社長であった。このような両社の資本関係及び役員の選任状況からして、Y1会社は、Y2会社の経営に対し、相当程度の影響力を有していたといえる。
また、Y1会社は、Y2会社との契約に基づき、Y1会社の製造販売する生コンクリート(生コン)の運搬を全てY2会社に委託し、Y2会社に対し運送料を支払っていたと認められ、これは両社が独立した法人格として事業活動を行っていたことを示す事情といい得るが、証拠上、その運送料の金額は不明である。Y1会社が、ミキサー車を所有していながらも、その運転手を雇用したことがなく、Y2会社に対しミキサー車を貸与して、Y2会社の社員である運転手又はY2会社の日々雇用労働者に乗務させ、Y1会社の製造販売する生コンを全て輸送させていたこと、Y1会社とY2会社の本店所在地は同じであり、Y2会社はY1会社の所有する事務所棟内の一部及びプレハブ建物を貸借して使用していたが、これについてY2会社はY1会社に対し賃料を支払っていなかったことからすると、Y1会社は、事業活動上も、Y2会社と極めて密接な関係にあり、Y2会社は実際上Y1会社の運送部門のような役割を果たしていたといえる。
b 次に、Y2会社の正社員たる運転手及び日々雇用労働者としてA1センターから供給された運転手の労働関係についてみると、そもそも、Y2会社の正社員であり組合員であった運転手は、X2支部がY1会社に対し、これらの組合員を雇用するよう求めた際、Y1会社が雇用することが困難であるとの理由により、Y2会社に雇用されることとなったのであり、Y2会社における正社員たる運転手の雇用にY1会社の事情が直接的に影響していたものといえる。
また、Y1会社の社員は、Y1会社が生産する生コンを輸送するに当たり、Y2会社の社員による輸送能力で輸送を賄いきれるか否かを判断した上、賄いきれない場合、A1センターに対し、労働者供給を受ける日の前日の昼頃に、供給日当日の生コンの輸送に必要な人員数と就労開始時刻を電話で連絡し、労働者供給を依頼していたのであって、Y2会社が本件労供契約に基づいて日々雇用労働者の供給を求めるか否か、受ける場合の人数や就労開始時刻は、Y1会社の社員において判断・決定され、供給依頼の連絡も、Y1会社の社員によって行われていた。
さらに、Y1会社の所有・管理するミキサー車に乗務するY2会社の正社員及び日々雇用労働者に対し、車両を使用するに当たって安全上必要な注意を与えるなどしていたのは、Y1会社の代表者であり安全運転管理者であったB1社長又はY1会社の社員であったのであり、Y1会社が、Y2会社の正社員又は日々雇用労働者に対し、業務上必要な注意を与えるという実態があった。
そして、X2支部との話合いや団体交渉において、本件供給依頼停止の理由などについて、C1協同組合とX2支部との問題が非常に大きい、C1協同組合とX2支部の状況が変わっていないので日々雇用労働者の使用の再開は難しいなどと説明していること等からすると、Y1会社の代表取締役でもあったB1社長は、C1協同組合が「C2組合」(X2支部)と係争中であり組合員企業と「C2組合」との個別の接触・交渉等を禁止する旨記載されたC1協同組合発出の平成30年1月23日付け文書の影響を受け、本件供給依頼停止をするという判断に至り、その後も、C1協同組合が発出した「C2組合系の業者」の使用を極力控えるよう求める同年2月6日付け文書の影響を受け、日々雇用労働者の供給依頼停止を継続していたと認められるところ、C1協同組合に加盟していたのはY2会社ではなくY1会社であり、上記のようなC1協同組合からの要請等を受けたのはY1会社であったのであるから、本件供給依頼停止には、Y2会社のみならず、C1協同組合の会員でありその方針に従うことが求められていたY1会社の意向も反映されていたと認められる。
c これらのことからすると、Y1会社は、Y2会社に日々雇用労働者として供給されたA2分会員の基本的な労働条件等、特に日々雇用の労働契約関係の成否や内容について、Y2会社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったものといえる。
(ウ) 以上によれば、Y1会社は、本件で問題になっている労働者供給依頼の停止に関し、Y2会社に日々雇用労働者として供給されていたA2分会員の労組法上の使用者に当たる。
(2) 本件供給依頼停止は労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
ア 本件供給依頼停止は労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか
(ア) 本件供給依頼停止に至る経緯として、①平成29年12月12日からX2支部が正当性のない業務妨害行為を伴い、かつC1協同組合及びその組合員企業にとどまらず、バラセメントの輸送業者やゼネコン等の広範な事業者に影響を及ぼす争議行為(本件ゼネスト)を行った際、A1センターもX1組合の決定に従い、労働者供給を停止したこと、②この供給停止により、会社らは、Y1会社の所有するミキサー車が全て稼働できず、連日、少なくない量の輸送能力の確保及びそのコストの負担を余儀なくされるなどの被害を受けたこと、③B1社長自身、本件ゼネストの正当性に疑問を持っていたところ、C1協同組合の平成30年1月23日付け文書を読み、C1協同組合が違法な本件ゼネスト及びこれを行ったX2支部に厳しい態度で臨むことを認識するとともに、同業者の中でも、本件ゼネストが正しいと言う者はおらず、違法行為には立ち向かう旨の話を聞いたこと等の事情があったものである。
このような事情の下で、会社らは、X2支部が再度のストライキを行うことになれば、A1センターはX2支部との関係性から労働者供給を停止する可能性が高く、労働者の安定供給が損なわれる不安が大きく、そうなれば、会社らの事業遂行に重大な支障が生じることになると考え、C1協同組合の動きや同業者の認識等も踏まえ、本件供給依頼停止を行ったものといえる。
そうすると、生コン製造及び輸送の事業者として需要者への安定的な生コン供給体制の確保を最重要課題と考える会社らが、A1センターの労働者の安定供給に不安を抱き、傭車で対応することにし、本件供給依頼停止を行ったことには相応の合理性が認められる。
(イ) 本件供給依頼停止には、相応の合理性があり、組合らの排除を意図して行われたものではなく、労組法第7条第3号の支配介入に当たらない。
イ 本件供給依頼停止は労組法第7条第1号の不当労働行為に当たるか
上記アのとおり、本件供給依頼停止には相応の合理性があり、組合らの排除を意図して、あるいは組合所属や正当な組合の行為を理由として行われたものとは認められず、A2分会員集団に属するA2分会員が組合らの組合員であることを理由に行われたものとはいえない。したがって、本件供給依頼停止は、その余の点について判断するまでもなく、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たらない。 |
掲載文献 |
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