労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委平成30年(不)第47号
不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(「組合」)・X2組合(「支部」) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和2年6月16日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合らとの労働者供給契約に基づき、日々雇用組合員の使 用の申込みをしていたY1会社らが、平成30年1月27日分以降、日々雇用組合員の使用の申込みをしなくなったことが不当労 働行為であるとして申し立てられた事件である。
 大阪府労働委員会は、Y1会社及びY2会社に対し、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為であるとして、文書の交付を 命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人Y1会社は、申立人組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
組合
 執行委員長 A1 様
Y1会社        
代表取締役 B
 Y2会社が、平成30年1月27日分以降、貴組合に対し労働者供給契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、大阪府 労働委員会において、当社による労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認められました。当社は、今後、この ような行為を繰り返さないようにいたします。
2 被申立人Y1会社は、申立人支部に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
支部
 執行委員長 A2様
Y1会社        
代表取締役 B
 Y2会社が、平成30年1月27日分以降、組合に対し労働者供給契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、大阪府労 働委員会において、当社による労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認められました。当社は、今後、このよ うな行為を繰り返さないようにいたします。
3 被申立人Y2会社は、申立人組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
組合
 執行委員長 A1 様
Y2会社        
代表取締役 B
 当社が、平成30年1月27日分以降、貴組合に対し労働者供給契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、大阪府労働 委員会において、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さな いようにいたします。
4 被申立人Y2会社は、申立人支部に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
支部
 執行委員長 A2 様
Y2会社        
代表取締役 B
 当社が、平成30年1月27日分以降、組合に対し労働者供給契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、大阪府労働委 員会において、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さない ようにいたします。
5 申立人のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Y1会社は、組合がY2会社に労働者供給しているA3分会員の労働組合法上の使用者に当たるか。(争点1)
ア A3分会員(支部の日々雇用組合員)は、本件労供契約に基づいてY2会社に供給されていた当時、本件労供契約に基づき使 用申込みを行っていたY2会社との間では、 雇用関係にあるが、Y1会社との間では、直接の雇用関係にあったとはいえない。
 しかしながら、労働組合法第7条にいう「使用者」については、労働契約上の雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的 な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にある場合には、そ の限りにおいて、 当該事業主は同条の使用者に当たるものと解するのが相当であり、具体的な事実に即して総合的に判断されるべきである。
イ 本件においては、A3分会員の使用申込みをしなくなったことが問題となっているところ、本件労供契約に基づく使用の申込みは、 A3分会員の就労の端緒となるものであり、労働者の基本的な労働条件等に係る事項といえる。そこで、Y1会社が、Y2会社 と同視できる程度に、本件労供契約に基づく使用申込みに関与していたかについてみる。
(ア)①平成27年5月以降、Y1会社とY2会社の代表取締役は同じ者であること、②Y2会社の株式は全てY1会社が所有し ていること、③Y2会社は、Y1会社が製造販売する生コンの専属輸送を行っており、令和元年10月3日時点では、Y2会社の 営業収入の約9割を輸送関係が占めていたこと、が認められ、これらのことからすると、Y1会社とY2会社は、密接な関係にあり、 Y1会社はY2会社に対し、一定の影響力を有していたといえる。
(イ)また、①支部とY1会社が、15.7.31和解協定書を交わしたこと、同協定書には、C会社に不測の事態が発生し た場合には、その従業員5名はY1会社の従業員として採用する旨の条項があったこと、②平成20年10月31日付でC会社はY1会社に対し、同日をもって休眠する旨通知し たこと、 ③支部はY1会社に対し、15.7.31和解協定書に基づき、組合員の雇用を求め、Y2会社が、C会社の正社員であった組合員5名を、自らの正社員として雇用したことが認 められる。 これらのことからすると、C会社の従業員であった組合員5名の雇用に関して、15.7.31和解協定書に基づく雇用責任が あったのはY1会社であり、また、支部もY1会社に対して雇用するよう求めたにもかかわらず、実際に当該組合員らを雇用した のは、Y2会社であったのであるから、Y1会社が、Y2会社の従業員の雇用に関して、具体的な影響力を有していたことが窺える。
(ウ)さらに、Y2会社は、本件労供契約に基づき、使用の申込みをしているところ、この申込みの手続を行っているのは、Y1 会社の社員であることが認められ、 Y1会社は、本件労供契約に基づく使用の申込みに、直接、関与しているといえる。
(エ)そして、30.2.1話合いにおいて、B社長は、Y2会社が日々雇用組合員の使用の申込みをしないとの判断に至った理由について、 広域協に所属している会社である以上、広域協の指示や指導が来れば従わざるを得ないことを理由として挙げているといえる。
 ところで、平成27年5月以降、Y1会社とY2会社の代表取締役は同じ者であること、Y1会社は広域協の組合員であるが、 Y2会社は広域協の組合員ではないこと、が認められ、これらのことからすると、30.2.1話合いにおけるB社長の発言は、 Y2会社の代表者としての発言であるだけではなく、Y1会社の代表者としての発言でもあるとみるのが相当であり、また、Y2会社が 日々雇用組合員の使用の申込みをしないとの判断に至った理由として、Y2会社の事情ではなく、Y1会社が広域協に所属 していることを挙げていることからすると、B社長は、Y2会社とY1会社とを区別せず、両社をあたかも一体のもののとして捉えて、 日々展用組合員の使用の申込みをしないことを判断したとみざるを得ない。
 そうすると、Y2会社が、日々雇用組合員の使用の申込みをしなくなったことについて、Y1会社は具体的な影響力を有してい たといえる。
(オ)以上のことを総合的に勘案すると、Y1会社は、本件労供契約に基づく使用の申込みやY2会社が本件労供契約に基づく使 用の申込みをしなくなったことについて、現実的かつ具体的に関与していたとみるのが相当である。
エ そうすると、Y1会社は、本件労供契約に基づく使用の申込みや使用の申込みをしなくなったことについて、Y2会社と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、 決定できる地位にあるといえるのだから、Y1会社は、組合がY2会社に労働者供給しているA3分会員の労働組合法上の使用者に当たる。
2 Y2会社が平成30年1月27日分以降、組合に対し本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、Y1会社ら による組合員に対する不利益取扱いであるとともに、組合らに対する支配介入に当たるか。(争点2)
ア まず、Y2会社が組合に対し本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、Y1会社らによる組合員に対する不利益取扱いに当たるかについてみる。
(ア)この点について、A3分会員が、本件労供契約に基づきY2会社に供給され、継続して日々雇用される期待権を有していた か についてみる。
a ①支部らとY2会社が、23.8.30確認書を交わしたこと、②23.8.30確認書には、(i)平成24年10月10日に組合員1名が定年退職することに伴い、 支部らが推薦する人員で欠員補充する旨、(ii)欠員補充するまでの期間、その車両を使用する場合、支部らが推薦する人員を乗務させる旨、 (iii)ミキサー車の最低保有台数は5台とし、減車する場合は事前に支部らと協議する旨の記載があったこと、③23.8.30確認書の「欠員補充」とは、 正社員を補充することを意味し、正社員が補充されるまでの間、支部が推薦する日々雇用組合員がミキサー車に乗務することになったこと、 ④平成24年10月10日に組合員1名がY2会社を退職した後、Y2会社が保有していたミキサー車5台のうち、4台には、Y2会社の正社員である組合員4名が乗務し、 残り1台には、A3分会員が乗務していたこと、が認められ、また、本件審問終結時点において、Y2会社において「欠員補充」がなされたと認めるに足る疎明はない。 これらのことからすると、平成24年10月10日以降、Y2会社において、組合員1名の退職に伴う「欠員補充」の代替措置として、 A3分会員が供給されていたとみるのが相当であり、そうすると、「欠員補充」がなされるまでの期間、 少なくとも1名枠については、A3分会員がY2会社において継続して就労することについて、A3分会員を擁する組合らには、集団としての期待権があったといえる。
b もっとも、上記の期待権があったことをもって、直ちに、A3分会員全員が個々に、継続してY2会社に供給され、 日々雇用されるという個別具体的な期待権を有していたとみるべきではなく、就労実態など、各組合員の個別具体的な事情を考慮して、 個々の組合員ごとに判断されるべきである。
 そこで、A3分会員のY2会社における就労実績についてみると、A3分会員にとって、Y2会社での就労がその中心であったり、 毎月、必ずY2会社で就労することが前提とされていたとはいい難い。
 また、Y2会社が供給される日々雇用組合員を指定していたり、Y2会社に供給されていたA3分会員が、事実上、固定化されていたといった事情も見当たらない。
 そうすると、A3分会員にとって、Y2会社は、供給先の一つにすぎず、Y2での就労を期待することにつき合理的な理由があったとはいえず、 その他、Y2会社での就労を期待することに特段の事情を有する組合員がいたとの疎明もないのであるから、個々のA3分会員が、 本件労供契約に基づきY2会社に供給され、Y2会社において、継続して日々雇用される個別具体的な期待権を有していたとまではいえない。
(イ)以上のとおり、個々のA3分会員が、Y2会社において継続して就労する個別具体的な期待権を有していたとまではいえない以上、 Y2会社が本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったことによって、A3分会員が不利益を被ったとはいえない。
 したがって、その余を判断するまでもなく、Y2会社が平成30年1月27日分以降、組合に対し本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、 組合員に対する不利益取扱いには当たらず、この点に関する申立てを棄却する。
イ 次に、Y2会社が、組合に対し本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、Y1会社らによる、組合らに対する支配介入に当たるかについてみる。
(ア)まず、組合に対する支配介入に当たるかについてみる。
a Y2会社は組合に対し、約8年間にわたり、継続して本件労供契約に基づき使用の申込みをしており、しかも、少なくとも1名枠については、 A3分会員がY2会社において継続して就労することについて、組合らには、集団としての期待権があったといえる。 かかる状況において、平成30年1月27日分以降、Y2会社は、組合に対して本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったのであるから、 その理由によっては、支配介入に当たるというべきである。
b この点について、Y1会社らは、合理的な経営判断として日々雇用組合員を使用しないこととした旨主張し、その理由として、①日々雇用の使用は、コスト的には見合わない旨、 日々雇用の場合、事故が発生した場合にはY2会社がそのリスクを負担しなければならず、かつ、車両の修繕管理の負担も発生する旨、庸車を使用する方がコストが低く、 かつリスクも低減できる旨、②支部が、平成29年12月12日に威力業務妨害行為を行った結果、取引先から、支部を使っていると白眼視され、仕事を失うリスクを抱えるようになり、 信用リスクが生じるに至った旨主張する。
(a)まず、上記主張①についてみる。
 コスト面から本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったとするY1会社らの主張は、30.2.1話合いにおける自ら の発言とも矛盾しているとみざるを得ず、一貫性を欠くものといえる。
(b)次に、上記主張②についてみる。
 ①平成29年12月12日、支部が29.12.12組合行為を行ったこと、②広域協が、広域協の組合員に対して発した30.1.23文書には、 広域協は、平成29年12月12日より支部により行われた威力業務妨害行為に対し、大阪地方裁判所へ仮処分命令申立てを申請し、 現在係争中である旨、必要な交渉等については、広域協として対応するので、支部との個別の接触・交渉等は厳に控えられたい旨の記載があることが認められ、 これらのことからすると、29.12.12組合行為がY1会社らに対して何らかの影響を及ぼしたことは否定できない。
 しかしながら、使用の申込みをしなくなる前に発せられた30.1.23文書には、支部が威力業務妨害を行ったとする記載はあるものの、 支部の組合員の就労を禁じたり、組合員を就労させている企業との取引を差し控えるよう求めたものということはできない。 また、30.2.1話合いにおいて、B社長は、その時点では、広域協から具体的な指示や指導がなかったことは認めている。 さらに、29.12.12組合行為以降、取引先から会社らに対し、A3分会員を使用することについて、何らかの申入れがあったとの疎明もない。 加えて、A3分会員がY2会社に供給されていた間、Y2会社での就労に当たり支障があったとする疎明はなく、A3分会員は、特段の問題もなく業務を遂行していたといえる。
 そうすると、本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなった時点で、Y1会社らが主張する信用リスクが具体的に発生していたかについて疑問が残る上、 A3分会員は、特段の間題もなく業務を遂行していたのであるから、約8年間継続的に使用申込みがあり、 しかも、少なくとも1名枠については、A3分会員がY2会社において継続して就労することについて、組合らには、集団と しての期待権があったといえる状況において、使用の申込みをしなくなったことに、合理的な理由はないといわざるを得ない。
c さらに、本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなった経緯についてみる。
 21.10.1労供契約書には、協議の上契約を改廃する旨の規定があり、しかも、平成29年12月6日及び同月26日の団交において、 Y2会社に供給する日々雇用組合員に関する話題が挙がったにもかかわらず、Y2会社は、事前に、組合らに対して申出等を行わないまま、 平成30年1月27日分以降、本件労供契約に基づく使用の申込みを行わなくなったのであるから、かかる対応は、問題があるといわざるを得ない。
d 以上のことからすると、Y2会社が、本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、合理性を欠くものであるといわざるを得ない。
e なお、Y1会社らは、本件労供契約を締結した当時から、支部と組合の両者を好ましからざる存在とみていたと推認できる。
f ところで、Y2会社が使用の申込みをしなくなったことにより、A3分会に所属する組合員数が減少した可能性は否定できない。
g 以上のことを総合的に判断すると、Y2会社が、組合に対して本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、組合の組合活動に影響を与え、 組合を弱体化させているといえ、かかる対応は、Y1会社らによる組合に対する支配介入に当たる。
(イ)次に、支部に対する支配介入に当たるかについてみる。
 本件労供契約は、組合らとY2会社との間で締結されたものであること、平成22年2月頃から、Y2会社は、本件労供契約に 基づく日々雇用組合員の使用の申込みを開始し、以降、A3分会員が、Y2会社に供給されていたこと、A3分会員は、組合だけでなく支部にも加盟していたこと、 が認められ、これらのことからすると、本件労供契約に基づく使用の申込みが行われなくなれば、支部の組合活動にも影響を与えることは明らかである。
 そして、Y2会社が、本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったことにつき、合理的な理由が認められないことは、前記(ア)判断のとおりである。
 したがって、Y2会社が、組合に対し本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、Y1会社らによる、支部に対する支配介入にも当たる。
ウ 以上のとおりであるから、Y2会社が平成30年1月27日分以降、組合に対し本件労供契約に基づく使用の申込みをしなくなったことは、 Y1会社らによる、組合らに対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 
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