概要情報
事件番号・通称事件名 |
愛知県労委令和5年(不)第6号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和6年4月12日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく就労継続支援A型の事業を行う事業所(以下「本件A型事業所」)を運営していた会社が、①令和5年3月24日の団体交渉において、a当該事業の利用者として、期間の定めのない雇用契約にて就労していた組合員A2の未払賃金についての議題に関し、一方的な計算基礎を示した以外に詳細な根拠等を何ら説明せず、b同人の解雇理由についての議題に関し、資料を示して説明することを拒否したこと、②組合からの同年4月12日付けなど2回の団交申入れに応じず、組合との電話で団交を拒む発言をしたこと、③A2を解雇したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
愛知県労働委員会は、①のb及び②について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)誠実団体交渉応諾、(ⅱ)文書交付を命じるとともに、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 会社は、組合が令和5年4月12日付け及び同月19日付けで申し入れた団体交渉に、誠実に応じなければならない。
2 会社は、組合に対し、下記内容の文書を本命令書交付の日から7日以内に交付しなければならない。
記 当社が、令和5年3月24日に開催された団体交渉において、貴組合の組合員であるA2の解雇理由について、具体的な説明を行わなかったこと並びに貴組合から同年4月12日付け及び同月19日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったこと(同月18日の通話に係る会社の対応を含む。)は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると愛知県労働委員会によって認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
年 月 日
X組合
運営委員長 A1様
Y会社
代表取締役 B1
3 その余の申立ては棄却する。 |
判断の要旨 |
1 令和5年3月24日の団体交渉(以下「5.3.24団体交渉」)における、組合員Aの未払賃金についての議題及び解雇理由についての議題に係る会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点1)
(1)本件において、組合は、5.3.24団体交渉について、会社がこれに誠実に応じていない旨主張するので〔注〕、以下検討する。
〔注〕会社は、組合の主張及び立証に対し、一切の反論及び反証を行っていない。
(2)A2の未払賃金について
イ 令和4年10月18日、組合が会社に対し、「ご連絡」と題する書面において、「切り捨てられた賃金の支払については、支払う、支払わないだけでなく、支払う場合は金額とその計算方法など、支払わない場合はその理由など、資料もお示しいただき具体的にご回答ください。」と求めたことが認められる。
ロ 会社が組合に対して手交した「掃除・終礼時間」と題する書面には、令和2年4月から同年9月まで、同年10月から令和3年9月まで及び同年10月から令和4年9月までの各期間についてのA2に係る時間給、掃除又は終礼に要した総時間数、支給額並びに掃除又は終礼があった日の当該業務に要したとする時間が記載され、上記の全期間の支給額の合計として「¥21,423」と記載されていたことが認められる。
ハ 会社は、当該書面を手交しつつ、21,423円を支払うつもりであることを述べたところ、組合が支給額の積算根拠について質問したのに対し、会社が「本人が不服があれば、こうやってじゃないのって、言ってもらえばいい。」などと回答したため、組合は、「これが正しいかどうか今すぐ僕らは言えないので、」「持ち帰って検討します。」と述べたことが認められる。
ニ そうすると、「掃除・終礼時間」と題する書面は、組合にとって十分とまでは評し得ずとも、会社は、組合が支給額の積算に疑義を呈した場合は協議に応じる旨回答しており、組合が持ち帰って検討するとしていることから、この時点では、A2の未払賃金に係る議題についての会社の対応は、不誠実であったとまではいえない。
(3)A2の解雇理由について
ア 会社は、本件A型事業所の閉鎖の理由について経営不振のためである旨述べたのみであり、それ以上の説明をしなかった理由として、労働基準監督署の監督官が解雇理由を書面で知らせること以外は任意であり、その点について争うのであれば裁判しかないと言われたからである旨の説明に終始したことが認められる。
イ また、組合が、会社が財務的に厳しいことを証明するための根拠資料として、過去5年分の財務諸表の提出を求めたところ、会社は、「出しませんと言っています。」「裁判にしてくださいよ。」などと述べてこれを拒み、財務諸表に代わる何らの資料も提示しなかったことが認められる。さらに、組合が説明を求めた整理解雇の必要性についても「司法が説明しろっていったら説明しますよ。」と述べ、組合に対する説明を拒んだことが認められる。
ウ そうすると、会社が、A2の解雇理由について、組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、論拠を示して反論するなどの努力をしたとはいえない。
(4)以上から、5.3.24団体交渉における、A2の未払賃金についての議題に係る会社の対応は労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当せず、A2の解雇理由についての議題に係る会社の対応は同号の不当労働行為に該当する。
2 会社が、組合からの令和5年4月12日付け及び同月19日付けの団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点2)。及び、令和5年4月18日の組合の運営委員A3(当時は副委員長)との電話に係る会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点3)
令和5年4月18日の組合と会社の通話は、同月12日付けの団体交渉申入れに対する会社の対応の一環としてなされたものであるから、以下争点2と争点3を併せて検討する。
(1)令和5年4月12日付け及び同月19日付けの団体交渉申入れに対する会社の対応について
ア 組合は会社に対し、令和5年4月12日付け書面で、A2の解雇撤回及び未払賃金の支払等を議題として団体交渉を申し入れ、同月17日までに当該申入れに回答することを要求したが、同日までに会社から回答及び資料送付がなかったことが認められる。
また、同月18日、副委員長A3は、B2氏(団体交渉前の組合との連絡において会社の窓口としての役割を務め、5.3.24団交では積極的に発言を行って中心的役割を果たすなどした)に架電して留守番電話に伝言を残し、折り返しで架電してきたB2氏と通話したことが認められる。
さらに、組合は会社に対し、同月19日付けで、5.3.24団体交渉及び同月12日付け団体交渉申入れに係る会社の対応に抗議するとともに、同月18日の組合と会社の通話について、「同日16時43分ごろ、貴社B2氏から当労組に折返しがあり、繰り返しで結論が出ないから裁判にしてください、電話もしてこないでください、などと話し、途中で電話を切ってしまわれました。その後16時45分ごろに再度B2氏から当労組に電話があり、再度、裁判にしてください、電話もしてこないでください、などと述べ、当労組A3が、団体交渉を拒否するのですか、などと述べたところ、はい、といって電話を切ってしまわれました。」と記載した上で抗議したことが認められる。このことから、会社は、同月18日の通話において、同月12日付け団体交渉申入れを拒否したものと認められる。
イ また、組合は会社に対し、同月19日付けで、再度、A2の解雇撤回及び未払賃金の支払等を議題として団体交渉を申し入れ、同月24日正午までに当該申入れに回答すること及び未払賃金に関する資料を事前に送付することを要求したが、同日までに会社から回答及び資料送付がなかったことが認められる。
ウ そして、本件申立てに至るまでの間に会社から回答があった事実及び団体交渉が開催された事実は認められない。
エ そうすると、会社は、同月12日付け団体交渉申入れに対しては、同月18日の通話においてこれを拒否し、同月19日付けの団体交渉申入れに対しては何ら応答していないのであるから、かかる会社の対応は同月12日付け及び同月19日付けの団体交渉申入れを拒んだものといえる。
(2)会社が令和5年4月12日付け及び同月19日付けの団体交渉申入れを拒んだ正当な理由の有無について
ア 5.3.24団体交渉において、会社がA2の未払賃金について計算した「掃除・終礼時間」と題する書面を提示したのに対して組合がこれを持ち帰って検討する旨述べたこと及び会社が支給額の積算に疑義がある場合は協議に応じる旨回答したことが認められる。また、組合がA2の解雇の必要性を示す資料を求めたのに対し、会社は、説明する必要がない旨述べて拒んだことが認められる。
イ かかる事実に照らせば、A2の未払賃金について、組合が会社の提示した書面を検証する予定がある上、会社も組合の検証によって生じた疑義に応じる姿勢を示しており、また、A2の解雇についても、会社は何ら具体的な説明をしていなかったのであるから、議論が尽くされたと評価することはできない。
ウ この点、会社は、上記正当な理由の存在を基礎付ける事実についても、何ら主張・立証をしておらず、このほか、会社が団体交渉申入れを拒む正当な理由となり得る事情も認められない。
エ したがって、会社が同月12日付け及び同月19日付けの団体交渉申入れを拒む正当な理由があったとはいえない。
(3)以上から、会社が、組合からの同月12日付け及び同月19日付けの団体交渉申入れに応じなかったこと(同月18日の通話に係る会社の対応を含む。)は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
3 会社が、A2を解雇したことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するか(争点4)
ア 会社は、令和4年12月16日、A2を含む本件A型事業所の利用者に対し、令和5年1月15日付けで解雇する旨の解雇予告通知書を交付し、令和4年12月28日、A2を含む本件A型事業所の利用者に対し、同月16日付けの解雇予告を取り消す旨の「解雇予告取消通知書」を交付したことが認められる。また、会社は、令和5年2月28日、A2を含む本件A型事業所の利用者に対し、同年3月31日付けで解雇する旨の解雇予告通知書を交付し、同日、全ての利用者及び職員を解雇して本件A型事業所を閉鎖したことが認められる。
そうすると、会社がA2を解雇したことは、A2が組合の組合員であること又は組合活動をしたことを理由に排除する目的で行われたとまではいえない。
イ なお、組合は、本件A型事業所閉鎖後に、同じ場所で別の経営者が障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく就労継続支援A型の事業を行う事業所を開設しており、当該事業所の労働者の過半数が会社の労働者であった者であることを述べるが、かかる事情があったとしても、上記判断を覆すものではない。
ウ したがって、会社が、A2を解雇したことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。 |