概要情報
事件番号・通称事件名 |
茨城県労委令和2年(不)第1号
筑波大学不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1組合(組合)・個人X2(合わせて「組合ら」) |
被申立人 |
Y国立大学法人(「法人」) |
命令年月日 |
令和6年2月15日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①X1組合の組合員X2が法人の教員会議において発言しようとしたところ、系長B1らが発言を制止したこと、②X2による面談の申入れに研究科長B2が応じず、主幹B3が文書以外での対応をしない旨のメールを送信したこと、③学類カリキュラム委員長B4が学生1名に対し、X2が担当教員を務める科目の履修の取消しが望ましいなどのメールを送信したことが不当労働行為に当たる、として組合及び個人X2から救済申立てがなされた事案である。
茨城県労働委員会は、申立てを棄却した。
〔注〕法人は、当時、教育組織として、E1学群など9学群とその下にE2学類など23学類、大学院にD研究科など8研究科など、教員の所属組織としてC系など10の系を設置していた。 |
命令主文 |
本件申立てをいずれも棄却する。 |
判断の要旨 |
1 本件申立てに対して却下を求める法人の主張について
組合らが不当労働行為を構成する具体的事実として主張するところのものが、「申立人の主張する事実が不当労働行為に該当しないことが明らかなとき」と評価できるほど不明確なものとまでは言えない。また、請求する救済内容である(X2の)発言の機会の確保については、申立ての利益を欠くとまでは認められない。
よって、法人の却下を求める旨の主張は採用しない。
2 平成31年4月3日のC系教員会議において、C系長B1(以下「系長B1」)らが発言しようとしたX2〔注当時、C系所属の准教授〕を制止し、また、支援室主幹B2(以下「主幹B2」)が議場に入り、発言を制止しようとしたことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第4号の報復的不利益取扱いに当たるか(争点1)。
(1)系長B1の行為に係る判断について
ア 系長B1の行為について
系長B1は、C系教員会議において、X2に対し発言の機会を認めず、X2がどのような事項について質問や発言をしたいのか確認し、その内容によっては時間があれば報告事項終了後に発言の機会を与えるなどの対応を取ることをしなかったものであり、このような対応は不利益な取扱いと言える。
イ 使用者への帰責性について
系長B1は、系の教員の人事決定過程に関わる職制上の立場にあり、法人本部の人事決定に影響を与える点で事実上の権限を有し、C系に所属する教員の服務監督者であったことなどから、使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者に当たる。
そして、C系教員会議における系長B1による発言制止行為は、B1が同会議の長という立場で行ったものであるから、当該行為は、法人の意を踏まえたものと言え、法人に帰責できる。
ウ 不当労働行為意思について
当時、法人は、X2が組合の組合員であるという事実及び前事件〔注〕を認識していたと言える。しかし、組合らは、法人が組合やX2に対し、組合員であることや労働組合の正当な行為をしたこと又は前事件に係る救済申立てをしたことを理由としての嫌悪意思を有していたことについて、具体的かつ十分な疎明を行っておらず、当該意思を有していたと認めることはできない。
また、系長B1は、X2が組合員であるという事実を認識していたと認められるが、組合やX2に対し、上記の嫌悪意思を有していたと認めることはできない。
そして、C系教員会議における系長B1の議事進行については、会議を限られた時間の中で円滑に進めるため、議長としてX2に対して求めた側面も認められ、組合らから法人の組合に対する日頃の態度等に係る十分な疎明はないことなども踏まえると、上記発言制止行為について、不当労働行為意思に基づきなされたものとまでは認められない。
〔注〕本件に先立ち、組合らから茨城県労働委員会に対し、①平成29年9月6日などに法人の団体交渉に係る対応、X2に対する懲戒手続き等に関し、②平成30年4月19日にX2の懲戒処分に関し、それぞれ救済申立てがなされている(茨城県労委平成29年(不)第1号、同平成30年(不)第2号)。
エ 労働組合法第7条第1号及び第4号該当性について
よって、系長B1による発言制止行為については、労働組合法第7条第1号や第4号の不利益取扱いとは認められない。
(2)主幹B2の行為に係る判断について
組合らは、C系教員会議において、主幹B2が発言を阻止しようとしたなどと主張するが、B2の行為は、X2に近づき、指示に従うように言ったにすぎず、不利益な取扱いとまで評価できるものではないから、労働組合法第7条第1号や第4号の不利益取扱いとは認められない。
(3)D研究科長B3(以下「研究科長B3」)の行為に係る判断について
組合らは研究科長B3から発言を拒否されたなどと主張するところ、系長B1に関し(1)のアで述べたのと同様に、D3によるC系教員会議における発言制止行為は不利益な取扱いと言える。
そして、研究科長B3は、使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者に当たると認められるから、上記行為は、法人の意を踏まえたものと言え、法人に帰責できる。
一方、法人が、組合やX2に対し、組合員であること等を理由としての嫌悪意思を有していたと認めることはできず、また、研究科長B3は、X2がX1組合の組合員であることや組合らが前事件に係る救済申立てをしたという事実を認識していなかった。
これらから、研究科長B3の発言制止行為については、不当労働行為意思に基づきなされたものとまでは認められず、労働組合法第7条第1号や第4号の不利益取扱いとは認められない。
3 平成31年4月3日、X2の面談の申入れに対して、研究科長B3が面談に応じず、同月4日、主幹B2が、「系長B1と研究科長B3が相談した結果」としてメールを送信したことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第4号の報復的不利益取扱いに当たるか(争点2)。
(1)研究科長B3の行為に係る判断について
X2の面談申入れに対し、研究科長B3は妻が入院している病院に行くため、面談することはできない旨回答し、面談に応じなかった事実が認められ、X2もこれら状況を認識していたと言えるから、B3が面談に応じなかったことにつき、直ちに不利益な取扱いに当たるとまで評価することはできない。
なお、法人や研究科長B3が、組合やその組合員であるX2に対し、組合員であること等を理由としての嫌悪意思を有していたと認めることはできず、B3がX2からの面談申入れに応じなかった行為については、不当労働行為意思に基づきなされたものとまでは認められない。
したがって、研究科長B3の行為は、労働組合法第7条第1号又は第4号の報復的不利益取扱いとは認められない。
(2)主幹B2の行為に係る判断について
主幹B2が平成31年4月4日にX2に対して送信したメールの内容は、まず、X2が相談内容を具体的に記載した文書をメールで系長B1及び研究科長B3宛てに送付し、その文書の内容を確認した上で、同人らが相談し改めてメールでX2に連絡するというものである。
相談内容を事前に文書で送付してもらい確認した上で、それへの対応について連絡をするということは、不合理な対応とは言えず、また、当該メールの内容自体、面談を拒否するような内容まで含まれているものとは言えない。
これらから、当該メールの送信自体が不利益な取扱いと言えるものではなく、その余の点につき判断するまでもなく、労働組合法第7条第1号又は第4号の不利益取扱いとは認められない。
4 令和元年5月13日、E1学群E2学類に設置されているカリキュラム委員長B4(以下「委員長B4」)が、〔X1が担当していた〕G科目を履修していたE2学類学生1名に対し、「G科目」は履修しないよう
にしてください」などといった内容のメール(以下「5.13メール」)を送信したことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第4号の報復的不利益取扱いに当たるか(争点3)。
(1)5.13メールを発端として、X2によれば、E2学類の学生から多数問合せを受け対応に困る事態になったなど、5.13メールはX2に対して事実上の不利益を被らせた面があるものと言える。
(2)しかし、委員長B4が5.13メールを送信した行為については、
①卒業要件を満たす科目がどれであるかを判断するのはE2学類であり、他学群又は他学類が開設する授業科目のうち、相当な部分にE2学類の授業科目と内容の重複が認められるものについては、学類長は卒業に必要な修得単位として認めないことがあるとされていたこと、
②委員長B4は、X2が担当するQ科目が、E2学類で開設される「R実習」の内容との重複が問題となり得るなどとして、当該実習の履修が望ましく、Q科目はE2学類における卒業要件を満たす科目としては認めない可能性が高いことなどを内容とする5.13メールを学生あて送信していること、
③Q科目とR実習との内容の重複につき、Q科目の担当であるX2にも確認すればより慎重かつ丁寧と考えられるものの、具体的な規定の存否等について組合らによる疎明はなく、また、委員長B4によれば、手続的な規程も、全学的に共通した運用ルールも存在しないことなどから、X2に確認しなかったことを不相当とまで評価できないこと、
④委員長B4による、Q科目とR実習は同じプログラミング言語の習得を内容とすることなどから内容の重複が著しいと判断した旨や、R実習の担当教員に確認したところ内容の重複が著しいと判断された旨の証言内容が不合理とまでは言えないこと、
⑤本件における、科目の内容の重複の確認手続につき、相当性を欠くとは認められないこと。
⑥委員長B4は、事後的にではあるが、E2学類カリキュラム委員会の各委員に対し、Q科目とR実習の内容の重複やそれに係る対応方針について通知し確認していること。
などを踏まえると、委員長B4が5.13メールを送信したことは、理由のあるものであり、X2に対する不利益な取扱いとは言えないから、その余の点につき判断するまでもなく、労働組合法第7条第1号や第4号の不利益取扱いとは認められない。 |