労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  京都府労委令和3年(不)第1号
京都暮らし応援ネットワーク不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和5年9月28日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、組合による2回の団体交渉の申入れ、及びその後4回の団体交渉の申入れ(合わせて「本件申入れ」)に、それぞれ誠実に対応しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 京都府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  ○争点
 本件申入れに対する法人の対応は、労組法第7条第2号の団体交渉拒否に該当するか。

1 労使間の合意の成否及び撤回について

(1)団体交渉において労使間で一旦成立した合意を、使用者が相当な理由がないにもかかわらず、安易に撤回したり無視する態度に出ることは労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるというべきである。

(2)従業員に事実経過を説明する文書(以下「経緯説明文書」)について

ア 第1回団体交渉関係

(ア)組合は、令和2年11月12日に実施された第1回団体交渉で代表理事B1が、従業員に対する経緯説明をした方が良いとした上で、文案作成を組合に依頼したにもかかわらず、組合作成文案を理由なく拒絶した旨主張する。

(イ)第1回団体交渉で、B1が経緯説明文書を作成することの有用性について発言した上で、組合にその文案作成を依頼したのに対し、組合は、組合作成文案を法人に提示したが、法人は、組合に同文案を基にした文書は作成しない旨伝えた。
 その理由は、①第1回団体交渉において代表理事Bが慰謝料支払を拒否していたにもかかわらず、組合が慰謝料支払等を内容とする本件合意項目案及びそれを前提とする組合作成文案を提示したこと、②これを受けて、法人が慰謝料支払等には合意できず、経緯説明文書もそれに応じて再作成する旨回答したが、③執行委員長A2は慰謝料支払についても合意が必要との姿勢である旨回答し、さらに、A1も退職届を提出して組合の提案全てに合意しない限り翻意しない旨B1に伝えたことであると解される。

(ウ)以上の経緯は、要するに、第1回団体交渉におけるB1の経緯説明文書作成の有用性に対する発言及び組合への経緯説明文書の文案作成の依頼を契機として、組合と法人の間で経緯説明文書の擦り合わせが行われたが、双方の意見の開きが大きかったことから、経緯説明文書について成案を得なかったというものである。
 つまりB1は、第1回団体交渉において、上記の発言をし、組合に経緯説明文書の文案作成を依頼したにとどまり、組合と法人の間で経緯説明文書の成案を得る等との合意があったわけではないのであるから、上記成案が得られなかったとしても、法人に第1回団体交渉における経緯説明文書に関する合意を撤回したと評価されるような点はない。
 よって、法人の対応は不当労働行為には当たらない。

イ 第2回団体交渉について

 組合は、第2回団体交渉において、法人が本件通告に係る記載を含む経緯説明文書を2週間後に提出すると明確に約束した旨主張する。〔注〕
 しかし、当該団体交渉は、組合の(7つの)要求項目について順に検討する形で進行していたが、3番目の項目である「理事会としての経緯説明文書の作成及び全従業員への周知」について、代表理事B1が文書作成を了承したものの、その提出期限については特段回答していないと認められるから、明確な約束があったとはいえない。
 そして、当該団体交渉におけるやり取りをもって、本件通告を含む経緯説明文書を作成するとの明確な約束があったとはいえず、組合においても、そのような明確な約束があったとまで認識していなかったことは、令和3年5月4日付けの団体交渉申入れに関する組合の組合員に対する周知文書の記載からもうかがえるところである。
 よって、法人の対応は不当労働行為には当たらない。

〔注〕
①法人は、相談員及び事務員であった組合員A1からパワーハラスメントを受けた旨のコーディネーターであったCからの申告を受けて、両者の勤務時間が重ならないようにシフト表を作成して出勤を調整した。
②法人は、A1がこれに従わなかったとして、懲戒処分を検討している旨及び弁明書の提出を求める旨の通告(以下「本件通告」という。)をした。
③これらのことに関し、組合が団体交渉を申し入れた。

(3)謝罪について

 組合は、第1回団体交渉で、代表理事B1は「A1に恐怖を与えたり、一方的にA1が悪いかのように受け止められるようなことをしてきたということについて」謝罪はやぶさかでないと発言したと、B1がA1に対する非違行為があったとの事実を認めた上で謝罪を表明した旨主張する。
 しかし、B1は「A1さんに恐怖を与えたり、一方的にA1さんが悪いかのようにA1さんが受け止められるようなことをしてきたということが、我々の行為によってそういうことがあったとしたら、謝ることについては異はありません」と、そのような事実があったとしたら謝罪する旨発言しているにすぎず、しかもこの発言は、執行委員長A2が「我々が考える文言には、謝罪は必ずいります。」「それがのめないということであれば、今の段階でのめないと言ってください。」と発言したのに対しなされたものであるから、その時点で謝罪しないことが確定的であることを否定したものにすぎない。
 また、組合においても、謝罪についての合意があったと認識していなかったことは、団体交渉を終了するに当たって、A2が、経緯説明文書、謝罪及び慰謝料については今後の課題とする旨発言していたことからもうかがえる。
 よって、法人の対応は不当労働行為には当たらない。

(4)慰謝料(カンパ)について

 組合は、法人は金銭和解を提案し具体的な金額提示までしながらその後取り下げたと主張する。
 法人は、カンパはB2の個人的な提案である旨主張するところ、第3回団体交渉における経過からすれば、カンパ自体はB2個人による提案であっても、その金銭と引替えに本件申立て及び本件関連訴訟を取り下げて解決するとの合意を交わすことについては法人としての提案と解され、法人の主張は認められない。しかしながら、ここで合意されたのは、B2が個人として理事会にカンパを呼びかけることだけであって、B2や代表理事B1が提示した11万円ないし12万円という金額もカンパに対して個人として支出する用意がある旨表明したにすぎず、これに対しA1は12万円では合意できない旨表明していたのであるから、第3回団体交渉において、金銭和解及びその金額についての合意があったとは認められない。
 また、組合においてもそのような合意があったと認識していなかったことは、5月申入れ①に関する組合の組合員に対する周知文書に「これこれの額の解決金を支払うとの約束には至っていませんが」と記載していることからもうかがえる。
 よって、法人の対応は不当労働行為には当たらない。

2 団体交渉における使用者の説明等について

(1)使用者は、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務がある。

(2)この点、法人は組合の解決案の提示の要求に対し、「回答は従前のとおり」と繰り返すのみで、このような対応は、誠実性を欠く面があったとする余地もある。
 しかしながら、法人は、謝罪等については、第3回団体交渉において、業務に影響を与えないよう対応してきたのでその全体について謝罪はできないこと、服務規律違反があった以上本件通告を発したことは間違ってはいないことなどを説明し、慰謝料(カンパ)に関しては、第2回団体交渉において、慰謝料の原資はない旨、理事及び監事にA1へのカンパを呼びかけたが賛同者は得られなかった旨を説明していた。
 一方で、組合は、自らの要求に沿った「解決案」の提示を要求することに拘泥し、法人が「回答は従前のとおり」と繰り返す理由やそのような結論に至った経緯などについて、団体交渉を開催して法人に説明を求めたわけでもない。
 これらからすれば、上記に説示した使用者の団体交渉における義務に照らし、法人の対応が不当労働行為に当たるところはない。

(3)なお、組合は、団体交渉の出席者についても、法人が〔引き続き代表権限のある者が出席する旨の〕回答を変更しないため団体交渉が実現できないと主張するが、交渉担当者の人選については、原則として、使用者が自由に決定できるものであることから、法人の対応が不当労働行為に当たるところはない。 

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