労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第1号・第26号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年8月18日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合からの団体交渉申入れを拒否したこと、②組合が、従業員A1及びA2(「A1ら」)の組合加入を通知したところ、同人らに自宅待機を命じたこと、③A1らとの面談において、組合を誹謗中傷する発言を行ったこと、④組合に対して、組合の活動を非難する文書を送付したこと、⑤A1らに対して組合脱退勧奨を行ったこと、⑥申立外グループ会社の記念パーティーに、従業員らの中でA1らのみ招待しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号及び第3号、②について同条第1号及び第3号、③について同条第3号、⑥について同条第1号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し文書交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社       
代表取締役 B1
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)貴組合からの令和3年10月12日付け団体交渉申入書及び同日付け分会要求書で申し入れられた団交に応じなかったこと(2号及び3号該当)
(2)令和3年10月18日から同年12月17日までの間、当時組合員であった2名に対し、自宅待機を命じたこと(1号及び3号該当)
(3)令和3年11月22日の会社代表者らと当時組合員であった2名との面談において、会社代表者が、組合を誹謗中傷する発言を行ったこと(3号該当)
(4)申立外会社の記念パーティーに、当時組合員であった2名を招待しなかったこと(1号該当)

2 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 令和3年10月12日団体交渉申入書(以下「本件団交申入書」)に対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点1)

(1)会社は、組合は明白な違法行為を常態的に行っており労働組合法第2条に規定する労働組合ではないので労働委員会の救済命令を受けるべき資格がないとする。
 確かに、組合については、①平成29年12月12日から15日頃にかけての争議活動における威力業務妨害等の容疑で複数の組合員が逮捕され、有罪判決を受けたこと、②令和4年3月28日に大阪地方裁判所が会社、C2会社〔注〕についての誹謗中傷や拡声器を用いた喧伝等の業務妨害行為、社長に対する人格権を侵害する一切の行為等を禁止する仮処分決定を行ったことが認められる。
 しかし、不当労働行為救済申立て事件の命令を発出するに当たっての組合の資格審査は、組合が労働組合法第2条及び第5条第2項の規定に適合するかどうかを審査するものであり、たとえ、組合が行った活動に関連して有罪判決を受けた組合員が存在したり、特定の街宣行動等を禁じる仮処分命令を受けていたとしても、そのことのみをもって、組合組合が労働組合ではなくなるとか、不当労働行為からの救済を求める権利を失うものではない。したがって、会社の主張は採用できない。

〔注〕C2会社、会社等により、C1グループと称する企業グループが形成されている。

(2)会社は、団交を行っても、従前どおり、会社を威圧する有無を言わさぬ団交になることが想定されたため、組合に対し、執行メンバーが刷新され暴力的、脅迫的労働組合活動の実態がなくなったと評価できるまでは団交に応じないと回答したものであり、拒否には正当な理由がある旨主張する。
 しかし、会社が主張する「会社を威圧する有無を言わさぬ団交になることが想定される」だけでは、あまりにも漠然として具体性を欠く主張であるため正当理由としては認めがたく、したがって、会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるといわざるを得ない。

(3)また、会社の対応は、組合の存在を否定し、組合の団結権を否認するものとして、組合員の組合に対する信頼を失墜させるものといえ、組合に対する支配介入にも当たる。

(4)以上のとおりであるから、本件団交申入書に対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。

2 令和3年10月18日から同年12月17日までの間において、会社が、A2氏ら2名に対し自宅待機を命じたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点2)

(1)会社は、自宅待機期間中、A2氏及びA3氏ら2名(組合員であった時期も含め、以下「A2氏ら2名」)に通常の賃金は支払っており、実質的な不利益は発生していない旨主張するが、労働組合法第7条第1号にいう「不利益な取扱い」の不利益とは、広く精神的不利益も含むものと解すべきである。
 そうだとすれば、A2氏ら2名は、長期間、いつまで続くかわからない自宅待機を日々命じられ、身分上不安定な状態にあったことは否めないことなどから、精神的な不利益を被ったといえる。

(2)次に、会社がA2氏ら2名に自宅待機を命じた理由についてみる。

ア 会社がA2氏ら2名を自宅待機としたのは、令和3年10月16日に、C2会社、C2会社M工場、申立外C3会社、申立外O会社、申立外P会社及び申立外Q会社が、「ご連絡」と題する文書を会社に提出し、A2氏らが組合に加入したことを理由に、同人らの立入りを拒否したことが理由である。

イ そこでA2氏ら2名に対して自宅待機命令を行ったことは、取引先の立入り拒否が理由であるのだから、業務上のやむを得ない理由によるものといえ、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらないといえるのか否かについてみる。

(ア)①上記アの文書を会社に提出した会社らの中には、C1グループの企業で、社長を代表者とするC2会社、C2会社M工場及び申立外C3会社が含まれていたこと、②A2氏ら2名が自宅待機となる前の直近1か月の運搬先として、C1グループの3社あての運搬が大部分を占めている状態であったこと、③社長は、令和3年11月14日前後の時期、C2会社の従業員に配布した文書(以下「記念パーティー1週間前社長文書」)において、C2会社の代表者として、組合への嫌悪を表明するとともに、組合とは付き合わないし関わらないとするD協議会〔注大阪府及び兵庫県の生コンクリート製造事業者を組合員とする事業協同組合〕(広域協)の方針について完全な支持を表明していることが認められる。これらからすれば、A2氏ら2名を拒否したという取引先らの意思決定とは、主にC2会社らの代表者としての立場で、会社の社長が行ったものといえる。

(イ)なお、会社は、当時組合員であったA2氏ら2名の立入りをC1グループの企業が拒否したのは、D協議会の方針の下に行ったものである旨を主張するが、それに従うか否かは構成員の判断によるものであるから、同方針に従ったからといって、不当労働行為責任が免ぜられるものではない。

(3)これらを総合すると、会社がA2氏ら2名に命じた自宅待機命令には、不利益性があるといえ、その理由もやむを得ないものとは認められず、むしろ会社が積極的に広域協の組合排除方針に従おうとして行ったものとみることができる。さらに組合と会社の労使関係が緊張関係にある中で行われたことからすると、A2氏ら2名に命じた自宅待機命令は、会社の組合嫌悪によりなされた、同人らが組合員であるが故の不利益取扱いに当たる。
 そして、A2氏ら2名に自宅待機命令を命じたことによって、会社で業務に従事する組合の組合員は存在しない状態になり、組合は、会社における組合活動を行うことができない状態であったといえ、また、他の従業員の組合加入を抑止する効果の可能性も否定できない。それらのことから、A2氏ら2名に自宅待機を命じたことは、組合に対する支配介入にも当たる。

(4)以上のとおりであるから、会社が、A2氏ら2名に自宅待機命令を命じたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。

3 3.11.22面談における会社代表者の発言は、組合に対する支配介入に当たるか。(争点3)

(1)令和3年11月22日にN市内の喫茶店において行われた面談(以下「3.11.22面談」)において、社長が述べたことは組合を非難し、否定し、また同人らが組合に入ったことを非難するニュアンスを含む発言であったといえる。
 会社は、社長に対する個人攻撃やC1グループに対する妨害行為等、明らかな違法行為で自分たちの主張を通そうとする組合の主張を表現したものであり、正当な反論の域を出ない旨主張する。しかし、仮に組合に対する正当な反論であったとしても、反論であるのならば、それは組合に対して行うべきであり、組合員を個別に呼び出して述べるべき内容ではない。
 このように、A2氏ら2名に対する発言は、組合の意義を否定し、同人らの組合脱退に繋がった可能性も否定できず、組合活動に与える影響があったとみるのが相当であり、明確に組合脱退勧奨行為に当たるとまでは認定できないまでも組合に対する支配介入であるといわざるを得ない。

(2)以上のとおりであるから、3.11.22面談における社長の発言は、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

4 会社が、組合に対し、3.11.25会社回答書を送付したことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点4)

(1)令和3年11月25日付け会社回答書(以下「3.11.25会社回答書」)には、組合の執行部メンバーが刷新され、かつ暴力的・脅迫的労働組合活勲の実態がなくなったと評価できるまでは、組合からの団交申入れは受けることができない旨等の記載があった。

(2)使用者の言動が支配介入に該当するか否かを判断するには、当該言論の内容、発表の手段、方法、時期、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響等を総合考慮し、当該言動が、組合員に対し威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼしたり、一般的に影響を及ぼしたりする可能性がある場合は、支配介入に該当すると解すべきである。
 3.11.25会社回答書は組合あての文書であり、広く一般の組合員や従業員に向けて発表されたものではなく、その中で、会社が組合の執行部メンバーに関して言及したり、組合を非難したりしたとしても、そのことで組合の組織、運営に影響を及ぼしたり、及ぼす可能性があるものであったとまでみることはできない。また、表現の自由の観点からも、会社が自己の見解を表明することは、一定許容されるべきといえる。

(3)以上のとおりであるから、会社が、組合に対し、3.11.25会社回答書を送付したことは、組合に対する支配介入に当たらない。

5 会社は、A2氏ら2名に対して、組合脱退勧奨を行ったといえるか。いえるとすれば、かかる会社の行為は、組合に対する支配介入に当たるか。(争点5)

 3.11.22面談の社長発言の全体をみても、組合脱退を勧める発言それ自体は見当たらず、具体的な組合脱退勧奨が行われたとまで認めることはできない。また、面談からA2氏ら2名が組合に口頭で組合脱退の意思表示を行った同年12月6日までの間に、会社が同人らに対して、実際に脱退勧奨を行った事実があるとまで認めることは困難である。
 これらのことから、会社は、A2氏ら2名に対して、組合脱退勧奨を行ったとはいえない。

6 会社が、C2会社の記念パーティーに、A2氏ら2名を招待しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか。(争点6)

(1)令和3年11月21日の40周年記念パーティー(以下「3.11.21記念パーティー」)は、会社の施設内において公然と案内が行われた上で会社の従業員全員に一律に提供された催しであり、かつ、料理やエンターティンメントが提供されていたことからすれば、たとえ主催者が会社ではなくC2会社であったとしても、会社の従業員に対してサービスを提供する催しとしての側面を持つものであった。
 そうだとすれば、A2氏ら2名は、職場の全員の参加が予定され、参加者がサービスを享受できるイベントから自分達だけが排除されたことになり、不利益があったといえる。

(2)次に、会社がA2氏ら2名を3.11.21記念パーティーに招待しなかったことについて、合理的な理由があったといえるかについてみる。

ア 社長は、記念パーティー1週間前社長文書で、組合に関するD協議会の方針を完全に支持する旨表明しており、これがC2会社の代表者としての立場で発した文書であるとはいえ、社長は同一人物であることからすれば、A2氏ら2名を招待しなかったことは、やむを得なかったのではなく、積極的にD協議会の方針に同調して行ったものであるといえる。

イ さらに、組合がA2氏ら2名を通じて記念パーティーを妨害することが予想された旨の会社の主張については、A2氏ら2名がどのような役割を果たし、どのような組合の妨害が行われることが予想されたのかが不明確であり、当該会社の主張する妨害の恐れは、具体的な根拠のないものであったといえる。
 会社は、この主張の根拠として、3.11.21記念パーティーが開催されたホテルの前で、同じ日に「労働者イジメ・違法企業を許さない決起集会」が開催され、組合もこれに参加していたことを挙げるが、組合はこの実行委員会を構成する労働組合の一つに過ぎず、また、具体的に社長やC1グループを攻撃する言動が同集会で行われたとの疎明もない。
 これらからすれば、会社がA2氏ら2名を招待しなかったことに合理的な理由があったとまではいえない。

(3)なお、会社は、C2会社としてA2氏ら2名を3.11.21記念パーティーに招待しないと判断しても、これは使用者である会社の判断ではないので不当労働行為足り得ない旨主張する。しかし、これは最終陳述において初めてなされた時機を逸した主張である上、会社ではなくC2会社が判断したとの事実の疎明はない。

(4)以上のとおりであるから、会社が、3.11.21記念パーティーにA2氏ら2名を招待しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるといえ、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。 
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