労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和4年(不再)第4号
筑波学院大学不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Y法人(「法人」) 
再審査被申立人  X1組合(「組合」)及びX2組合連合(併せて「組合ら」) 
命令年月日  令和5年7月5日 
命令区分  一部変更 
重要度   
事件概要  1 平成31年4月1日、申立外学校法人が設置運営していたB大学を法人が設置運営することとなった(「本件設置者変更」)。その後、組合らと法人とは団体交渉を3回行い(「第1回ないし第3回団体交渉」)、団体交渉の開催条件としての録音をめぐり議論を行ったが、合意は成立しなかった。
2 本件は、組合らが、令和元年12月6日付けの団体交渉申入れ(「本件団体交渉申入れ」)で、団体交渉における録音を認めないことについて法人から合理的な理由の説明がないため録音を行う、と通知したところ、法人が、一方的に録音するのであれば団体交渉を中止すると回答したこと等が、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、申立てがあった事件である。
3 初審東京都労委は、録音を認めないという条件に固執することのない誠実団体交渉応諾を命じたところ、法人はこれを不服として、再審査を申し立てた。 
命令主文要旨  初審命令主文を次のとおり変更する。
1 法人は、組合らから団体交渉申入れがあった場合には、団体交渉開催条件としての録音につき、自らの提案の具体的理由を説明し、組合らの提案に対して具体的理由をもって反論し、代替案等を含めた検討を行うなど、合意を目指して誠実に協議しなければならない。
2 本件団体交渉申入れに係る団体交渉に関し、法人と組合らとの間で、団体交渉開催条件としての録音について合意が成立しない限り、法人は、録音をしないという条件に固執することなく、上記申入れにつき誠実に団体交渉に応じなければならない。 
判断の要旨  (1) 本件団体交渉申入れに対する、録音をめぐる法人の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。
ア 労使関係における一般原則として、団体交渉をどのような形で行うかという条件については、労使双方の合意により決定するのが原則であるが、組合らと法人との間で録音について何らかの合意があったとも、法人が本件設置者変更前の労使慣行を承継しているとも認められない。
 本件では、第1回ないし第3回団体交渉は団体交渉の開催条件としての録音をめぐる協議に終始したが労使合意は成立せず、具体的な労働条件等の交渉を進められない状況となり、結果として、本件団体交渉申入れに係る団体交渉が開催されなかった。本件におけるこのような事情の下では、不当労働行為該当性の判断については、法人及び組合ら双方にとっての当該開催条件の必要性や相当性、団体交渉への支障や不利益のおそれとその程度等だけではなく、当該開催条件についての合意を達成するための双方の努力の有無や程度等の諸般の事情を総合考慮すべきである。そして、このような合意を達成する可能性を模索する努力が、組合らの合意を求める努力に照らして、法人において不十分であったと評価されるか否かを検討すべきである。
イ 組合らの交渉態度には一定の不十分な面はあるものの、組合らは、録音を求める理由の説明を具体的に行い、法人が録音を懸念する理由に配慮した提案を行い、歩み寄りの態度を示したことが認められるのであるから、総合的に判断して、合意を求める努力を一定程度行っていたと評価することが相当である。
 一方、法人は、繰り返し録音を拒否する意向を示すにとどまり、録音を拒否する理由や危険性について組合らの質問に対応した誠実な説明をせず、その理由も変遷し、組合らからの提案を検討したとは認められないうえ、加えて、組合らの事情に配慮した正確な記録の作成方法等を提案する等の、妥協点を見出すための努力が十分であったとも認められない。このように、法人の態度は全体として労使合意を目指した誠実なものであったとはいえず、録音に係る合意達成の可能性を模索する誠実な努力を組合らの努力に照らして十分に行っていたと評価することはできない。
 第1回ないし第3回団体交渉における、録音をめぐる法人の一連の対応は、団体交渉の開催条件に係る合意の達成に向けて誠実に対応したものとはいえず、そのために本件団体交渉申入れに係る団体交渉が開催されなかったのであるから、その責は法人にあると認めることが相当である。
ウ 本件団体交渉申入れに対する録音をめぐる法人の対応は、本件事案を全体としてみると、労組法第7条第2号の正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。
(2) 救済方法
 本件で問題となっている団体交渉開催条件としての録音については、法人に、組合らから団体交渉申入れがあった場合、自らの提案の具体的理由を説明し、組合らの提案に対して具体的理由をもって反論し、代替案等を含めた検討を行うなど合意を目指して誠実に協議することを命ずるのが相当である。
 また、誠実な協議を命ずる救済方法とは別に、法人に対し、本件団体交渉申入れに係る団体交渉については、別段の合意が成立しない限り、録音をしないという条件に固執することなく、誠実に団体交渉に応じることを命ずるのが相当である。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委令和2年(不)第52号 全部救済 令和4年1月11日
 
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