労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第52号
筑波学院大学不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(組合)・X2組合(合わせて「組合ら」) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年1月11日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、団体交渉申入れに対する法人の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、組合らが団体交渉を申し入れたときは、録音を認めないという条件に固執することなく、誠実に応じなければならないことを命じた。 
命令主文   法人は、X1組合及びX2組合が団体交渉を申し入れたときは、録音を認めないという条件に固執することなく、誠実に応じなければならない。 
判断の要旨  1 却下を求める法人の主張について
 法人は、会計報告及び職業的会計監査人の証明書の提出がない限り本件は却下されるべきであると主張するが、労働組合法第5条第2項の要件は、労働組合の規約に同項各号の規定を含むことであって、組合規約の運用については組合員の責任に委ねられている。そして、当委員会の資格審査の結果、組合らは同項の要件を具備していることが認められる。
 したがって、本件申立ては申立人適格を欠き却下されるべきであるとの法人の主張は採用することができない。

2 本件団体交渉申入れに対する法人の対応について
(1)組合らは、団体交渉における録音は組合とC学院との間で確立した文書化されていない労使慣行であり、四者合意〔平成31年4月1日に大学の設置者がC学院から法人に変更されるに当たり、C学院、法人、組合及びD組合が締結した合意〕等により法人に包括的に承継されていると主張する。
 しかし、①四者合意の文言からは、教職員の労働条件について法人が承継することを合意したことは読み取ることができるが、労使間のルールや労使慣行の承継についても合意していたと解することは困難であり、また、②四者合意の別紙で丸印が付されている17本の労使協定等が全て法人に承継されたのか、それともこれら労使協定等に基づく教職員の労働条件のみが承継されたのかは文言上明確ではなく、仮に前者であるとしても、いずれの労使協定等にも、団体交渉における録音に関する記載及び団体交渉における労使慣行に関する記載は存在しないことからすると、団体交渉における録音が労使慣行であり、その労使慣行が法人に承継されているとする組合の主張を認めることはできない。

(2)法人は、公開される危険のある録音を認めるかどうかは使用者の裁量であり、団体交渉における録音には使用者の許諾が必要であるなどと主張する。
 確かに、団体交渉のルールは労使双方の合意により決定するのが原則であるから、使用者は団体交渉における録音を当然に認めなければならないわけではない。しかし、労使双方は健全な労使関係の構築のため団体交渉ルールの成立に努力する必要があり、団体交渉において労働組合がそれなりの根拠や必要性を示して団体交渉ルールの設定を求めた場合には、使用者には、それに応じた誠実な対応が求められることはいうまでもない。
 そして、①本件設置者変更においては、法人への移籍に係る承諾書に、移籍後の処遇についてはD組合と締結した協定等を同じ内容で法人が引き継ぐことを条件としますとの記載があり、集団的労使関係の協定に言及されていること、②E学園は設置者変更の前後を通じて法人と連携関係にあり、法人のB理事長はE学園の理事長でもあり、法人設置者変更前は旧設置者であるC学院の理事を兼務していたことなどの事情があることからすると、組合らと法人とは、組合らとC学院とが構築してきた従来の労使関係を踏まえて対応することが求められる関係にあるとみるのが相当である。そうすると、組合が団体交渉の録音を求めたことには相応の理由があり、これに対して法人が録音を認めない場合には団体交渉において一般論を超えた録音を拒否する具体的な必要性を説明するなどの誠実な対応が求められるというべきである。

(3)そこで、以下第1回ないし第3回の団体交渉における法人の対応について判断するに、いずれも録音に係るやりとりに終始して春闘要求事項に係る交渉は行われなかったが、それだけの時間を掛けた3回の団体交渉においても録音についての合意には至らなかった。そして、その内容をみると、組合が録音を必要とするその根拠を説明し、録音データ流出の懸念について具体的な方策を提案して法人の懸念の払拭に努めたのに対し、法人はデータ流出に係る一般的抽象的な不安を繰り返し述べるだけで録音を拒否し続けていたのであるから、合意に達しなかった主な原因は法人側にあったといわざるを得ない。
 法人は、録音について団体交渉で協議することを拒否しておらず、組合らの方が録音ができないのであれば団体交渉に出席しないという対応をしたのであるから、本件団体交渉が開催されなかったのは組合らの対応の結果であり、法人の団体交渉拒否ではないと主張する。しかし、本件団体交渉申入れに係る団体交渉が開催できなかったのは、3回の団体交渉において一般論を超えた具体的な理由を示さずに録音を拒否していた法人が同様の対応を繰り返す意向を示すことにより、実質的に団体交渉の開催を拒否したためであるということができ、このような法人の対応は正当な理由のない団体交渉の拒否に該当する。

(4)組合らは、法人が、元年9月12日、組合の春闘要求事項のうち医療費補助制度の充実と介護休暇の延長を除く事項について、義務的団交事項に当たらないため交渉事項にはしないなどと通知し、以後、この対応を変えていないことも、四者合意第2項により法人に承継された17年協定第1項違反であり、正当な理由のない団体交渉拒否に当たると主張する。一方、法人は、17年協定第1項について、任意的公表事項に当たると表明して交渉事項とすることを拒んでも、団体交渉の開催自体に応じることで足りると解釈しているものと思われ、同項の文言そのものからすると、法人の解釈が全く成り立たないとまではいい難い。
 他方、春闘交渉事項は、①法人の30年度決算と31年度予算及び理事会・評議員会・経営会議における議事と資料について、提示を求めるもの、②緊急時対応マニュアル、教員個人研究費の運用、機械警備の運用改善、教室環境の整備、学食の継続、地域団体からの脱退、退職金財団への加入に関することであり、これらは、組合員の労働条件に影響し得るものであるから、組合が具体的な要求内容等を明らかにした場合には、任意的交渉事項にとどまらず、義務的団交事項にも当たり得る事項であるといえる。
 しかし、本件では、10月10日の第3回団体交渉において、組合が、義務的団交事項に当たらないとの法人の見解について、組合の見解を記載した文書を読み上げて法人に交付したのに対し、法人が、文書は持ち帰って検討する、法人としては団体交渉を拒否するつもりはないなどと述べるやり取りがあったものの、その後、これらの春闘要求事項に係る労使間の交渉は行われていない。
 そして、本件団体交渉申入れについては、3回の団体交渉において充分な理由を示さずに録音を拒否していた法人が、同様の対応を繰り返す意向を示したことによって、団体交渉が実施できない状態となっており、労使間において組合らの春闘要求事項の具体的な内容が明らかにされるには至っていないのであるから、現時点では、法人が春闘要求事項の一部について義務的団交事項に当たらないため交渉事項にはしないとしたことが、正当な理由のない団体交渉の拒否時に当たるということはできない。

(5) 以上のとおり、春闘要求事項の一部について義務的団交事項に当たらないため交渉事項にはしないとした法人の対応が正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるという組合の主張は認められないものの、団体交渉における録音を巡る法人の説明は不充分で誠実に対応したとはいえず、本件団体交渉申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる。 
掲載文献   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委令和4年(不再)第4号 一部変更 令和5年7月5日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約447KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。