概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委平成31年(不)第4号
つばめ交通不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y会社(会社) |
命令年月日 |
令和5年4月18日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、①会社による組合員Aに対する4回の懲戒処分、②乗務員が親睦等を目的として結成した団体(以下「C団体」)の理事Dが月例集会で行った組合に関する発言(以下「本件発言」)、③会社が、Aに対し、組合員向けに別日程で実施する法定研修への出席を命じたこと(以下「本件業務命令」)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 平成30年9月11日付懲戒処分(第一次懲戒処分)について(争点1)
(1) 平成30年9月11日、会社は組合員Aに対し、同人が会社内で同僚従業員に大声で罵声を浴びせる行為をなし、会社が口頭で注意したにもかかわらず、再び別の同僚従業員に対し、会社内で大声で罵声を浴びせるなどし、社内の秩序を乱す行為をしたことを理由にけん責処分を行った。
(2) 8月28日及び9月1日のAの行為については、Aが相当に強い口調でそれぞれ乗務員E1やE2〔いずれもC団体の会員〕に迫り、仮にE1らが言い返すなどしてすぐにその場を離れていなければトラブルに発展するおそれがあったと十分に認められる。
(3) 組合は、会社では社員の暴言について職場の秩序を乱したことを理由にけん責処分が行われた事例はないと主張する。しかし、第一次懲戒処分は、処分事由となった行為の態様だけでなく、Aが口頭注意を受けたにもかかわらず、近接した時期に同様の行為を繰り返したことに対する処分とみるべきである。
会社では、従業員間で訴訟が係属する〔注C団体会員6名が、組合ブログのC団体に関する掲載内容につき、Aに対し損害賠償等を求める訴訟を提起し、Aが反訴を提起〕という異常な状況の中、Aが、実際に他の乗務員との間でトラブルに発展するおそれのある行為をしたことから、会社が、これ以上従業員間の対立をエスカレートさせてはいけないと考えたとしても不自然とはいえず、口頭注意の僅か数日後の9月1日にAが同様の行為をしたことにつき、処分の必要があると判断したのも、職場秩序維持の観点から不自然とはいえない。
(4) 当時の労使関係をみると、会社と組合とは対立関係にあったことが認められるが、これを考慮したとしても、第一次懲戒処分が、Aが組合員であるが故になされたとまではいい難い。
(5) よって、第一次懲戒処分は、組合員であるが故の不利益取扱いであるということはできないし、組合の弱体化を企図した支配介入に当たるとまではいえない。
2 明け番会におけるC団体理事Dによる本件発言について(争点2)
(1) C団体理事Dは、発言の前半で、「明け番会〔注 C団体が勤務時間外に実施している月例の集会〕について、会社側より説明してくださいとのことです。明け番会は明け番の日に行うのが良いとのことで、労働組合が言う出番の日に明け番会に出席すると皆さま方乗務員の売上げが下がります。」と発言しているが、この発言は、単に出番の日の勤務時間内に研修〔会社が、運輸局からの通達により、月1回程度乗務員に対し実施している研修(以下「法定研修」)〕を行うと、各乗務員が運転時間を制限されて売上げが下がり、その結果として歩合の給与も下がるという事実を説明しているにすぎず、組合に殊更悪印象を持たせようとする趣旨の発言とまではいえない。
(2) 一方、後半の「こんなバカなことを言っている、そういう労働組合にどしどし文句を言ってください。」との発言については、組合の活動を単に非難するだけにとどまらず、必要以上に組合を攻撃するものであり、この発言により組合の運営に支障を与えるおそれなしとしない。しかし、Dは、C団体の理事職にあるものの、会社における地位は乗務員にすぎないところ、本件発言に対する会社の関与を認めるに足りる疎明はない。
(3) この点について、組合は、会社とC団体とが一体となっている旨主張している。
確かに、会社とC団体は協調的な関係にあることが窺われ、Aが、労働基準監督署に調査を依頼したことについて、同監督署が会社に是正勧告をし、これを受けて、会社はC団体役員と協議し、是正報告書を提出した経緯をも併せ考えると、組合が、会社とC団体が密接な協力関係にあるものとみることも理解できなくはない。
しかし、そうした事情があったとしても、そのことのみで組合を攻撃する上記発言を会社がC団体理事Dに行わせたとみることは困難である。
(4) むしろ、本件発言当時、組合とC団体が険悪なまでに対立的な関係にあったとみられること、本件発言が行われたのは、C団体の会員が集まる明け番会の場であったことを併せ考えると、本件発言の後半部分は、D自身のC団体執行部としての意見の表明であったとみるのが相当である。
(5) 以上のとおり、本件発言は、いずれも会社の意を受けた発言であるということはできないから、本件発言が、組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。
3 平成30年12月10日付懲戒処分(第ニ次懲戒処分)について(争点3)
(1) 平成30年12月10日、会社は、Aに対し、会社の許可を得ることなく社内に組合の抗議文、団体交渉申入予告通知書等(以下「組合チラシ等」)を貼付した行為及びC団体のポスターを剥がして持ち去った行為が社内の秩序と融和を定めた就業規則に反するとして、けん責処分を行った。
会社の就業規則において、事業所内で掲示を行う際は事前の許可が必要とされ、また、会社の施設を利用して会社の許可なく労働組合活動等をすることが禁じられているところ、Aは許可を得ることなく組合チラシ等を貼付しており、Aの行為は、形式的に就業規則の規定に反している。
(2) 組合は、C団体の抽選ポスター〔注〕の内容が乗務員の有給休暇取得の抑制を図るものであるから、組合チラシ等を貼付する行為は正当な権利の行使に当たると主張する。しかし、繁忙期に従業員の有給休暇取得の調整を図ることは必ずしも不当なものとはいえないし、従業員が〔抗議文に記載の如く〕「あたかもこの抽選を受けないと年末年始の有給休暇が適法に取得できないように誤解」する可能性が高い状況にあったとまではいえず、組合がそのような誤解の生じることを危惧していたとしても、そのために、就業規則に定められた許可を得ずに組合チラシ等を貼付する行為が正当な権利の行使として是認されるとまでいうことはできない。
〔注〕平成30年11月14日にC団体が会社の許可を得て休憩室の入口に掲示した「乗務員各位 正月有給休暇について」と題する、乗務員に対し抽選で有給休暇を取得するよう案内するポスター。
(3) AがC団体の抽選ポスターを撤去し持ち帰った行為についても、抽選ポスターが従業員の有給休暇取得に誤解を与えると組合が判断していたとしても、そのような誤解が生じる可能性が高い切迫した状況にあったとまではいえず、C団体が会社の許可を得て掲示した抽選ポスターを、Aが独断で撤去し持ち去る行為が正当な権利の行使として是認されるということはできないし、会社が職場の秩序維持の観点から、Aの行為を問題視したことは不自然とはいえない。
(4) 以上のとおり、Aの行為を正当な組合活動と認めることは困難であり、第二次懲戒処分には相当な理由があったというべきであるから、組合と会社とが、年次有給休暇取得時の賃金支給や所定時間外の法定研修について対立関係にあったことを考慮しても、第二次懲戒処分が、Aの組合活動を理由とした不利益取扱いないし組合弱体化を企図した支配介入に当たるとまではいえない。
4 組合員のみを対象とする研修への参加を命じたこと等について(争点4)
(1) 組合は、法定研修の実施時間に対して時間外手当の支給を求めていた組合活動を嫌うが故に、会社とC団体とが一体となり本件業務命令を行ったと主張するが、勤務時間の異なる乗務員に一律に法定研修を受講させる必要があった事情も認められ、C団体から明け番会への参加を拒否された組合員にも法定研修を受講させるために、組合員向けの法定研修を別途実施せざるを得なかったとの会社の主張も理由がないとまではいえない。
(2) 組合は、AとC団体との対立の悪化を防ぐ必要があったのであれば、Aだけに別途法定研修を受けさせれば済んだとし、会社が〔「労働組合定例会実施」と題する〕ポスター(以下「本件ポスター」)を用いて法定研修の実施を周知したことは、組合活動への介入が目的であると主張する。確かに、会社は、組合の同意を得ることなく、一方的に本件ポスターを掲示しており、組合員に対する法定研修の実施の周知方法としてこのような一見すると組合自身が本件ポスターを掲示したかのようにも取られかねない形式を採ったことが適切であったとはいい難い。
しかし、本件ポスターの掲示は、会社が明け番会に出席しない乗務員に対しても法定研修を受講させる必要性に基づいて行ったと認められるし、会社は、本件ポスターの掲示に先立って本件業務命令を発しており、本件ポスターがAを含めた組合員に対して法定研修の実施日時等を周知する趣旨で掲示されたと理解できる状況であったことから、会社に組合活動への介入の意図があったとまでは認められない。
(3) 本件業務命令や本件ポスターの掲示によって、A以外の非公然組合員が明け番会に出席することに何らかの支障が生じたとの疎明はなく、本件業務命令や本件ポスターにより会社が非公然組合員のあぶり出しを行うことは事実上不可能であり、そのほかにも本件業務命令や本件ポスターの掲示により組合活動に何らかの支障が生じたとの疎明はない。
そうすると、組合に対してなされた法定研修の内容がC団体に対してなされた法定研修と同一であったことや、組合に対する法定研修が勤務時間内に実施されたことは組合の問題視する時間外賃金の件を回避するという形で組合の意向を汲んだものともいえることをも踏まえると、本件業務命令及び本件ポスターによる周知が、会社が組合を嫌悪し弱体化を意図して行った支配介入とまでは認められない。
5 令和元年7月12日付懲戒処分(第三次懲戒処分)について(争点5)
(1) 令和元年7月12日、会社は、Aに対し、研修の受講を拒否していること、正当な理由なくC団体の掲示物を剥がしたこと及び始業点呼を妨害したことを理由に、減給処分を行った。
(2) 会社は、第三次懲戒処分に係る申立ては申立期間が徒過してからなされており不適法であると主張する。
しかし、手続の経過に照らせば、組合は、実質的には、行為の日(第三次懲戒処分)から1年の申立期間内に不当労働行為に関する事実を申し立てているとみるべきであり、当該追加申立ては、既になされていた申立ての内容をより具体化して整理、記述したものと認められるから、会社の主張を採用することはできない。
(3) Aは、平成31年2月以降、第三次懲戒処分まで約半年間、業務命令に従わずに法定研修を欠席しており、他にこのように長期にわたり法定研修を欠席した乗務員がいたとの疎明はなく、また、会社が乗務員全員に法定研修を受講させる必要があったことに鑑みると、Aが長期間業務命令に従わずに研修欠席を続けたことを会社が重く見て懲戒事由としたことも無理からぬことである。
(4) 〔C団体が事務所内の掲示板に掲示した5月大型連休の〕有給休暇抽選会のポスターを持ち去ることは、争点3で判断した抽選ポスターの場合と同様に、正当な権利の行使として是認されるものではなく、会社が職場の秩序維持の観点から、当該行為を問題視することは不自然とはいえない。
(5) 就業規則第99条第2項で「非違行為を繰り返す場合には、上位の懲戒を科すことを原則とする。」としている趣旨からも、第一次懲戒処分で処分されたAが再度同種の非違行為を繰り返したことを重く見て、同人にのみ懲戒処分を課したとしても不自然とまではいえない。
(6) 以上のとおり第三次懲戒処分には相当な理由があり、組合員であること等を理由とする不利益取扱い又は支配介入があったとまでは認められない。
6 令和元年8月30日付懲戒処分(第四次懲戒処分)について(争点6)
(1) 元年8月30日、会社は、Aに対し、出庫前点呼時に大声を出し、業務を妨害するとともに会社役員や従業員を畏怖させたとして、減給処分を行った。
(2) 第四次懲戒処分について、会社は、本申立てが申立期間を経過したものである旨主張するが、争点5における判断と同様に、会社の主張を採用することはできない。
(3) 処分の理由は、出庫前点呼で、Y2取締役が乗務員に対し、「最近事故が多くて、こんなことでは皆さんが乗りたがっているジャパンタクシー〔注車高の高いユニバーサルデザインタクシー〕への代替を社長に交渉することができません。」と述べたのに対して、X1が抗議する旨の発言を行ったことであったが、業務時間である出庫前点呼において組合の見解を表明することに問題がないとはいえない。これまで組合が自動車の車種について何らかの要求をしたとか団体交渉等で議題になったなどの経過の疎明がないことからすれば、X1の発言を組合としての意見表明や要求であるとして是認することは困難である。
(4) 会社が、X1がこれまで非違行為を繰り返し第一次懲戒処分ないし第三次懲戒処分を受けたことを考慮した上で、他の乗務員の見ている前で幹部職員の発言に抗議したという同人の行為を職場秩序維持の立場から問題視し、業務妨害行為と判断して処分事由としたことも、不自然とまではいえないし、処分内容が重すぎるともいえない。
(5) 以上のとおり、第四次懲戒処分は、組合活動を理由とした不利益取扱い又は支配介入に当たるとまでは認められない。
7 以上の次第であるから、本件申立てに関する会社の対応は、いずれも労働組合法第7条に該当しない。 |
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