労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  奈良県労委令和3年(不)第5号
夢kitchen不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年1月23日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①団体交渉における社長の言動、②会社が、団体交渉において組合が要求している資料を提示しなかったこと、③労働基準監督署が提出を求めているとして、組合に紛争終結を誓約する文書の提出を求めたこと、④組合員A2及びA3が組合に加入したことを理由に時間外労働に対する賃金の支払いに応じないこと等が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 奈良県労働委員会は、②について労働組合法第7条第2号、③について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、主文にて③が不当労働行為であることを確認するとともに、会社に対し、(ⅰ)組合から求められた資料について、存在しない、又は、廃棄した旨回答するだけではなく、不存在又は廃棄に至った事情を説明した上で組合の理解を求めるなど、誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)②及び③に関する文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合から求められた資料のうち、組合員の雇用契約書、出勤簿、タイムカード及び組合員に適用される就業規則について、これらの書類が存在しない、又は、廃棄した旨回答するだけではなく、不存在又は廃棄に至った事情を説明した上で組合の理解を求めるなど、誠実に応じなければならない。

2 会社が、組合に対し、労働基準監督署が求めているとして、組合と会社との間の労働紛争が解決したという事実と異なる内容の文書の提出を求めたことは、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であることを確認する。

3 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
令和 年 月 日
X組合
委員長 A1様
Y会社       
代表取締役 B1

 当社が行った下記の行為は、奈良県労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)貴組合が令和2年3月11日及び同年7月31日に申し入れた団体交渉において、貴組合から求められた資料のうち、組合員の雇用契約書、出勤簿、タイムカード及び組合員に適用される就業規則について、これらの書類が存在しない、又は、廃棄した旨回答するだけではなく、不存在又は廃棄に至った事情を説明した上で貴組合の理解を求めなかったこと(2号該当)
(2)労働基準監督署が求めているとして、貴組合と当社との間の労働紛争が解決したという事実と異なる内容の文書の提出を求めたこと(3号該当)

4 組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 令和3年5月20日に開催された団体交渉の場で、社長が語気を荒げ恫喝的な言動を行ったか。行った場合、当該言動を行ったことは不誠実団交に該当するか(争点1)

 組合は、社長の団体交渉での言動は、組合の要求を検討する意思がないばかりか、誠実な団体交渉を拒否した不当労働行為に該当すると主張する。
 社長は、委員長の発言に対して、「その言い方はないやろ。」と発言したことは認めているが、当該発言は委員長の発言〔注「あんたみたいな社長がおるから労働者は困るんや」〕に立腹して言い返したものであり、その発言のみをもって直ちに不誠実団交に該当すると認めることはできない。また、当該発言以外に社長が組合の主張するように語気を荒げ恫喝的な言動を行ったかどうかについては、団体交渉記録など組合の主張を裏付ける証拠はない。
 これらのことから、組合が主張する、団体交渉における社長の恫喝的な言動は、これを行ったものと認めるに足りる証拠はなく、その他の社長の発言はその一事をもって労組法第7条第2号の不当労働行為と認めることはできない。

2 会社が組合の要求している資料を提示しなかったか。しなかった場合、そのことは不誠実団交に該当するか(争点2)

(1)使用者が団体交渉の議題となる事項について、問題となる組合員の処遇の根拠となる資料を示すことを労働組合から求められた場合に、合理的理由なくそれを拒むことは誠実交渉義務違反になると解される。
 本件において、組合は、会社に対し、団体交渉で組合員の労働条件や勤怠に係る資料の提出を求めたが、会社は十分な説明を行わないまま一部を除いて提出しなかったと主張する一方、会社は、組合から求められた資料については存在するものは提出し、存在しないものはその旨回答していると主張する。

(2)組合が提示を要求している資料のうち雇用契約書については、必ずしも作成が義務づけられているとはいえないが、労働基準法第15条第1項は、使用者は労働契約の締結に際し労働者に対して労働条件を明示する義務を定めており、そのうち労働時間及び賃金等に関する事項は、同施行規則第5条第3項及び第4項によれば、書面の交付等により明示しなければならないとされている。
 就業規則は、同法第89条により事業所に常時10人以上の労働者を使用する場合には、その作成及び労働基準監督署への届出が義務づけられており、賃金台帳及びタイムカードは、同法第109条(本条の附則として第143条第1項参照)により一定期間の保存が義務づけられている。これらの就業規則、賃金台帳及びタイムカードはいずれも団体交渉の主要な議題であった組合員の時間外労働について交渉するに当たって重要な基礎資料となるものである。会社は、タイムカードは店長主催の会議での要望を受けて廃棄したと主張するが、そうした事情があるからといって保存義務のある書類の保存期間が経過する前にこれを廃棄することは到底許されない。
 以上のことから、これらの書類の提示を組合が要求したにもかかわらず、会社が提示しなかったことには合理的な理由がなく、労組法第7条第2号の不誠実団交に該当すると判断するのが相当である。

(3)また、法律上保存義務のある書類を会社が保存していない場合、会社はこれらの書類が存在しない、又は、不存在又は廃棄に至った事情について、会社は説明した上で組合の理解を求めるべきであった。にもかかわらず、会社が団体交渉において説明を尽くさなかったことは、不誠実な対応というべきであるから、会社の対応は労組法第7条第2号の不誠実団交に該当すると判断するのが相当である。

3 会社が、労基署が紛争終結の書面の提出を求めているとして、組合に文書の提出を求めたことは、組合に対する支配介入に該当するか(争点3)

(1)組合は、組合員A2が労基署に相談したことを理由として、会社が、紛争の解決に至らない時点において紛争終結書面の提出を求めたことは、労働組合の正当な活動を阻むものであり、組合活動に対する支配介入に該当すると主張する。これに対して、会社は、A2が会社との交渉窓口として組合ではなく労基署を選んだものと理解して、交渉窓口を一本化するために、労基署から求められた紛争終結書面を提出するよう、組合及びA2に通知したものであると主張する。

(2)令和2年4月22日、会社は、組合(組合員A2と連名)とA2からそれぞれ会社に送付された2通の書面は相反する内容であるとして、組合からの説明がなければそれをもって本件について和解終了したものとすると一方的に通告しており、会社には組合との団体交渉を避けようとする姿勢が認められる。

(3)その後、同年5月14日に会社は組合及びA2に対し、紛争終結書面の提出を求めているが、その時点において、組合は会社に対し、同組合員の未払賃金等を議題とする団体交渉を開催するよう求めており、会社が組合及び同組合員に紛争終結書面に記載するよう求めた「労働紛争問題は解決し終結した」旨の文言は事実に反するものである。
 また、当該紛争終結書面は、会社と組合及びA2との間の労働紛争が終結した旨を宣言した書面を会社に提出させることにより、以後会社とA2との間の未払賃金に関する紛争の仲介窓口を労基署のみに限定すると同時に、当該紛争について会社と組合との間で行われてきた団体交渉の終結を要求することを内容とするものであるから、会社が当該紛争解決書面の作成及び提出を求める書面を組合及びA2に送付したという事実は、会社がその当時組合活動に介入する意図を有していたことを疑わせるに足りるものと言うべきである。

(4)社長と労基署とのやり取りに先立ち、令和2年4月22日に組合はA2との連名で、A2から労基署に相談した内容も踏まえて改めて団体交渉を求める旨を会社に通知しており、A2が会社に対して交渉窓口として組合ではなく労基署を選んだものと理解したとの会社の判断が合理的なものであったことを裏付けることができる事情は見当たらない。また、労基署が、会社と組合との間の団体交渉が継続している最中に会社とA2との交渉窓口として組合を除外し、交渉窓口を労基署に限定する形で一本化するために、組合の団体交渉権を制限するような内容を記載した書面の提出を組合に求めるとは考えがたい。社長は労基署が会社とA2との間の交渉窓口として組合を除外する意図を有しなかったことを推測できたはずであり、これと異なる社長の説明には疑問を抱かざるを得ず、A2が会社との交渉窓口として労基署を選んだとする会社の主張については、これを採用することはできない。

(5)よって、会社が、労基署から紛争終結の書面の提出を求められているとして、組合に対して当該書面の提出を要求した行為は、組合を排除する意図によるものと推認され、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当すると判断するのが相当である。

4 申立人のその他の主張に対する判断

(1)組合は、組合員A2及び組合員A3が組合に加入したことを理由に、会社が未払いの時間外労働に対する賃金の支払いに応じなかったこと、及び会社が、採用時に労働条件通知書を提示していないなど労働条件の明示義務に違反したままで雇用し、労働安全衛生法に基づく健康診断も行っていなかったことを申立事実として主張する。
 しかし、組合が主張するこれらの申立事実は、いずれもA2及びA3が組合に加入する以前から会社の不作為が労働基準法、労働安全衛生法に違反していたことを主張するものであり、同組合員らが組合に加入したことを理由としてA2らに不利益を課した等、労組法第7条第1号に該当する不当労働行為を会社が行ったことを基礎づける具体的な事実を主張したものと認めることはできない。
 組合の主張は会社において労働者が労働組合の組合員であることの故をもって行った不利益な取扱いであることが主張されていないものと認められるので、会社に反論を求めるまでもなく申立てを棄却することが相当である。

(2)組合は、会社があっせんの継続を拒んだことが労組法第7条第3号の支配介入に該当すると主張している。しかし、認定したとおり、第1回あっせんが開催され、その後団体交渉が継続して開催されていることが確認されたことから、当委員会はまずは双方の自主的交渉による解決に委ねることが適当であるとの判断で、双方にあっせんの打切りを通知したものである。
 したがって、会社があっせんの継続を拒んだとする組合の主張は、当委員会に顕著な事実と異なることが明白であるから、会社に反論を求めるまでもなく棄却することが相当である。

5 救済方法

 以上のとおり、会社が組合との間の団体交渉において組合が要求している資料を提示しなかったこと及び提示しなかった理由についての説明が不十分であった点は労組法第7条第2号の不誠実団交に該当する。よって、会社に対し、不存在又は廃棄に至った事情を説明した上で組合の理解を求めるなど誠実に対応することを命ずるとともに、会社が同様の行為を繰り返さないようにするために主文のとおり文書の手交を命じるのが相当である。
 会社が、労基署から提出を求められたとして、組合に対し紛争終結書面の提出を求めた行為は、労組法第7条第3号の支配介入に該当する。そこで、組合が会社に対して当該書面を提出できない旨通知して以来、会社は組合に対して改めて当該書面の提出を求めていないことを踏まえ、会社が当該書面の提出を組合に対して要求した行為が支配介入に該当する旨を確認するに留める。
 また、会社が今後同様の行為を繰り返さないようにするために、主文のとおり文書の手交を命じるのが相当である。なお、組合は謝罪文の掲示を求めているが、組合員2名が既に退社している等諸般の事情を総合勘案して文書の手交で足りるものと判断する。 
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