労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和元年(不)第54号
大蔵屋商事不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年4月5日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、従業員に対し、労働組合を批判する内容が含まれた文書を配布・閲覧させたこと、②会社の総務部長B2が、組合員A2に対し、ストライキの際に会社車両を社外のコインパーキングに駐車したことについて注意したこと、③会社がA2及びA3の使用する会社車両の駐車場所を変更したこと、④前記③に係る団体交渉における会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号、③について同条第1号及び第3号、④について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)従業員に対し、労働組合を批判する内容が含まれた文書を配布することにより、組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅱ)組合がA2及びA3の駐車場所変更を議題とする団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならないこと、(ⅲ)文書の交付及び掲示等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、従業員に対して労働組合を批判する内容が含まれた文書を配布することにより、組合の運営に支配介入してはならない。
2 会社は、組合が組合員A2及びA3の駐車場所変更を議題とする団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならない。
3 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書にて明瞭に墨書して、会社の全9営業所の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
 X組合
 共同代表 A1殿
Y会社         
代表取締役 B2
 当社がC営業所において労働組合を批判する内容が含まれた文書を配布したこと、当社が貴組合の組合員A2氏及び同A3氏が使用する配送トラックの駐車場所を変更したこと、並びに令和2年10月8日の団体交渉における当社の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為と認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
 (注:年月日は文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
4 会社は、前項を履行した時は、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
5 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 文書の配布等について

(1)平成31年1月末ないし2月初旬頃に、C営業所長が本件文書〔注.労働問題コンサルタントを称する者が「労働者を洗脳し、企業をゆする『ユニオン』の正体」という標題でインターネット上に掲載していた記事をコピーアンドペーストして印刷したもの〕を同営業所の従業員に手渡しで配付したことが認められる。

(2)本件文書の表題及び内容は、ユニオン一般に対する認識や見解としては、ユニオンを悪く評価する偏ったものであり、従業員に配付されれば、会社内に労働組合に対する嫌悪感が醸成され、従業員の労働組合に対するイメージを悪化させる効果をもたらすことは明らかである。また、本件文書が配付されたのは、組合が、会社に対して団体交渉を申し入れて、初めての団体交渉が行われた時期であり、また、組合が組織拡大を企図していた時期でもある。
 以上のような本件文書の内容と配付の時期を合わせ考慮すると、C営業所長による本件文書の配布は、同営業所の従業員に対し、組合に対するイメージを悪化させ、組織拡大を企図する組合の活動を抑制するものであったといわざるをえない。

(3)C営業所長は、同営業所を統括する地位にあり、所長会議に出席するなど、使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある。また、本件文書の配布が職務に全く関係のない個人的行為として行われたと認めるに足る事実の疎明はなく、むしろ会社は、組合対応を議題として所長会議を開催し、その席上で、取扱いについて特段の注意喚起をしないまま本件文書を営業所長間で共有することを了承しているのである。そうすると、C営業所長による本件文書の配布は、会社の意を体して行われたものであり、使用者の行為とみるのが相当である。

(4)これらのことから、C営業所長による本件文書の配布は、使用者の行為ということができ、従業員の組合に対するイメージを悪化させて、当時、組織拡大を企図していた組合の活動を抑制させる効果を持つものであるから、組合の組織に対する支配介入に当たる。

2 A2に対する口頭注意について

 組合は、ストライキ中は就労義務がないため、商品や集金した金銭、会社車両を管理する義務はないなどとし、また、会社のA2に対する注意は、ストライキ及びそれに付随する組合の行動を対象とするものであり、会社が、組合を通じてではなく、A2個人に対して直接注意したことは、同人に組合活動を萎縮させる効果を与え、組合の運営に影響を及ぼすものである旨主張する。
 しかし、会社は従前から、ルートドライバーに対して所定の駐車場所に会社車両を戻してから退社するという運用を、業務上の遵守事項としている一方、本件ストライキは、当初から就業時間の途中から終業時刻までの実施を予定しており、当日中に組合員が業務に復帰することは予定されていなかった。そうすると、会社がA2及びA3に対し、ストライキに入る前の就業時間内において、所定の駐車場所に会社車両を戻し、集金した金銭を納金することを求めることには相応の根拠があるというべきである。
 会社がA2に対して行った注意は、ストライキに入る前の就業時間内における業務上の遵守事項ないし就業規則上の義務に違反する行為に対する注意であって、会社財産の適正な管理を目的とした労務管理上必要なものであり、また、その手段も口頭注意にどどまる相当なものである。

3 A2及びA3の駐車場所の変更について

 会社は、別件訴訟〔注 A2及びA3が、他の組合員ら数名と共に、会社を被告として、提起した未払残業代請求訴訟〕が組合活動の一環として提起されたものと認識した上で、両名に対して本件変更を予告することにより、別件訴訟における(所属営業所からC駐車場までの)移動時間の労働時間該当性の主張を断念させようとしたところ、両名がそれを拒否して請求の拡張を行ったことから、これに対する対抗措置として、本件変更(会社車両の駐車場所のD駐車場への変更)をあえて行ったものであるといえる。
 よって、本件変更は、組合活動を理由とする不利益な取扱いに当たるとともに、組合員に不利益を与えて組合活動を萎縮させる支配介入にも該当する。

4 駐車場所の変更を議題とする団体交渉における会社の対応について

 会社は、会社車両の駐車場所をどこにするかは会社の専管事項であって、義務的団交事項に該当しないと主張する。
 しかし、駐車場所の指定は、A2及びA3の通勤時間に影響するだけでなく、A2については業務時間にも影響するものであるから、両名の労働条件として義務的団体交渉事項に該当するものであることは明らかである。
 本件団体交渉において、会社は、本件変更が義務的団体交渉事項に該当しないことを前提として、(両名の駐車場所として営業所内の駐車場を指定する)8月14日付業務指示書の内容は説明したものの、指示の撤回を求める組合の質問に対して答えようとせず、会社が裁量で決めたことなので交渉の余地はないという態度に終始した。このような会社の対応は、組合との合意達成の可能性を模索する意思のないことを終始明確にした交渉態度といわざるを得ず、本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たる。

5 救済方法について

 会社がA2及びA3の使用する会社車両の駐車場所を変更したことは、組合活動を理由とする不利益な取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるが、駐車場所の変更から時間が経過しており、事情の変更が発生していることも考えられることから、今後の駐車場所の指定については労使間での話合いによる解決に委ねることが適切であり、本件申立ての救済としては、主文第2項及び第3項のとおりとすることが相当である。 
掲載文献   

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