労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和2年(不再)第10号
古久根鉄工不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Y会社(「会社」) 
再審査被申立人  X組合(「組合」) 
命令年月日  令和4年5月11日 
命令区分  一部変更 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が組合に対し、①組合及び組合の分会(組合及び分会を併せて「組合ら」)との間で実施した平成30年5月31日及び同年6月7日の各団体交渉(「第1回団交」、「第2回団交」併せて「本件各団交」)で、組合らからの同年の賃上げ及び夏季賞与に係る要求に対する回答において、その根拠となる資料の提示及び具体的な説明を行わなかったこと並びに②平成30年6月15日に団体交渉を開催しなかったことが、それぞれ労働組合法(「労組法」)第7条第2号に該当するとして、救済申立てがされた事件である。
2 初審愛知県労委は、会社の本件各団交における対応及び平成30年6月15日の団体交渉に応じなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるとして、会社に対し、①同年の賃上げ及び夏季賞与に係る団体交渉について、回答の根拠を具体的に説明するとともに、貸借対照表、損益計算書その他会社の財務状況を把握するための資料を示して誠実に応じること及び②文書交付を命じたところ、会社は、これを不服として再審査を申し立てた。 
命令主文  (1) 初審命令主文を次のとおり変更する。
会社は、組合が平成30年5月17日付けで申し入れた同年の賃上げ及び夏季賞与に係る団体交渉において、組合に対し、会社の売上げ、利益等の経営状況に関する資料を交付して説明するとともに、その論拠となる資料の提示を求められた際は、貸借対照表及び損益計算書等の必要な項目及びその具体的な金額を把握できる資料を示して、誠実に応じなければならない。
(2) その余の本件再審査申立てを棄却する。 
判断の要旨  (1) 争点1(本件各団交における平成30年の賃上げ及び夏季賞与に係る要求に対する会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。)について
ア 使用者は、単に労働組合の要求や主張を聴くだけでなく、その主張や要求の程度に応じた回答をし、必要に応じて、その論拠を示したり、必要な資料を提示する義務を負う。
イ 本件各団交において、組合らは、賃上げ及び夏季賞与について具体的な要求を掲げ、内部留保等を賃上げ及び賞与に振り向けることができるかどうかという趣旨の質問をしたことが認められる。会社は、これに対して、資金がない旨を回答したことから、組合らは、その論拠として、会社の経営状況を把握することのできる資料の提示を求めたのであって、会社がこれに応じることは、団体交渉を実のあるものとするために必要であった。
ウ 会社は、会社の賃上げや賞与支給水準は、主に納入数、出来高、従業員の出勤率等の要素を考慮して決定しており、本件各団交ではその根拠となる資料を提示して説明したのであるから、この上、計算書類等を開示して説明をする必要はないと主張する。
しかし、本件では、会社の賃上げや賞与支給水準の決定に会社の経営状況が影響し得ると認められるため、会社が上記イの組合の求めに応じることは、やはり団体交渉を実のあるものとするために必要であったというべきである。しかるに、会社交付の資料では会社の経営状況を把握できないのであって、上記の会社主張を採用することはできない。
エ 以上の事情を総合すると、会社は、誠実団交応諾義務として、組合の質問に対し、会社の経営状況を説明するとともに、その論拠として経営状況を把握することのできる資料を示す義務を負っていたというべきであり、これを果たさない会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
(2) 争点2(会社が平成30年6月15日に団体交渉を開催しなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。)について
ア 本件各団交における組合の言動や、組合が第2回団交の4日後に6月15日の団交開催を申し入れた事実等に鑑みると、会社が本件各団交において上記(1)エの義務に従った対応を取っていたならば、なお交渉進展の余地があったというべきである。
イ 会社は、第2回団交において、組合との間で、互いにこれ以上譲歩の余地はないこと、労使双方の意向として団体交渉を終結することを確認したと主張するが、これを認めるに足りる客観的証拠はない。
ウ したがって、平成30年6月15日に団体交渉を開催しなかった会社の対応は、正当な理由のない団交拒否であり、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
(3) 争点3(救済方法)について
ア 組合は、会社は財務諸表の開示義務を負う旨主張するが、本件各団交の経過及び議題に鑑みると、財務諸表の全部の項目及びその金額の提示を命じる必要はなく、また、財務諸表全体の交付を命じる必要もないというべきであって、主文第1項のとおり命ずることで、救済の実を挙げ得ると判断する。
イ また、初審命令主文第1項を変更したことに伴い、修正内容を反映した文書の交付を命じるように変更することも考えられるが、会社が既に同第2項掲記の文書を組合に交付済みであることを勘案し、改めて文書交付を命じることはしないこととする。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛知県労委平成30年(不)第5号 全部救済 令和2年2月10日
 
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