労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委令和元年(不)第9号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年2月4日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合員A3に対し組合脱退を勧奨するとともに組合を誹謗中傷する発言をしたこと、②A3に対し、①の行為に関して、事実と異なる認識を押し付けようとするとともに当該認識を書面化するよう強要したこと、③組合の分会長であるA2に対し出張業務を命じず、これにより賃金額を他の従業員に比して少なくしていること、④団体交渉に労使合意に関する決定権限を有する者を出席させていないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛知県労働委員会は①及び②について労働組合法第7条第3号、③について同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)従業員に出張業務を命ずるに当たって、A2を他の従業員に比べて不利益に取り扱ってはならないこと、(ⅱ)文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、従業員に出張業を命ずるに当たって、組合の組合員であって組合C分会の分会長であるA2を他の従業員に比べて不利益に取り扱ってはならない。
2 会社は、組合に対し、下記内容の文書を本命令書交付の日から7日以内に交付しなければならない。
 当社が、貴組合の組合員であるA3に対し、平成31年1月29日に貴組合からの脱退を勧奨するとともに貴組合を誹謗中傷する発言をしたこと及び同月31日に当社の同月29日の発言が脱退勧奨ではない旨の認識を執拗に押し付けた上で、その旨の書面の作成を繰り返し求めたことは、労働組合法第7条第3号に、平成29年8月以降、貴組合のC分会の分会長であるA2に対し、出張業務を命じなくなったことは、労働組合法第7条第1号及び第3号に、それぞれ該当する不当労働行為であると愛知県労働委員会によって認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
   
 年 月 日
X組合
 運営委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B1
3 その余の申立ては棄却する。 
判断の要旨  1 平成31年1月29日、会社はA3組合員に対して組合からの脱退を促す発言及び組合を誹謗中傷する発言をしたか。当該発言は労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するか。(争点1)

ア 平成31年1月29日の面談(以下「1.29面談」)について、B2課長代理又はB3が、会社からの指示を受けていたと認めるに足る事情は認められないことから、同面談におけるB2課長代理又はB3の発言が、会社の行為であるとして組合運営に対する支配介入行為に当たるか否かを検討する。

イ B2課長代理は、会社における労務関係の担当者であって、組合との間の労使関係における会社担当者であったことが認められることから、労組法第2条第1号の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者とみるのが相当である。
 B3は、会社外の者ではあるが、会社の賃金、労務管理、経営分析等に関する労務顧問として定期的に会社を訪問するものであり、少なくとも第15回団交に出席して会社の見解を発言したことなどからすると、組合との間の労使関係の対応を一定程度会社から任せられているものであるといえる。

ウ B3及びB2課長代理の発言が会社の行為といえるかについて検討する。
 B3による①2月の団交にいないことを祈っている旨の発言、②本社に復帰するのであれば組合を辞めたほうがよく、社長の心証も全然違う旨の発言、③会社を選ぶのであれば組合に加入し続ける選択はない旨の発言、④社長との面談時に組合を辞めるつもりであると言えば社長の心証がよい旨の発言、⑤会社と組合との二者択一である旨の発言及び⑥団交には取るに足らない話も多く、時間を浪費している旨の発言並びにB2課長代理によるB3に同調する発言をみるに、①及び⑥の団交に係る発言は団交における会社出席者としての発言であり、さらに、②から⑤までの発言は、労使が対立する状況において、会社又はB1社長の意向に沿った発言であるといわざるを得ない。
 そうすると、1.29面談におけるB3及びB2課長代理の発言は、イで判断したそれぞれの地位に基づいてなされたものであって、会社の意を体したものと評価できるのであり、会社の行為とみるのが相当である。

エ そこで、B3及びB2課長代理の一連の発言が支配介入行為に該当するか検討する。
 B3による一連の発言をみるに、組合による労働組合活動やA2分会長個人を執拗に批判するとともに、これらの活動によってA3が享受するメリットは何らない旨断じるものであって、組合を誹謗又は中傷するものというほかない。また、B2課長代理の一連の発言についても、B3の一連の発言と相まって組合を誹謗又は中傷するものというほかない。
 さらに、これらB3及びB2課長代理の発言は、組合嫌悪の情の下、A3の組合への不信感を煽りつつ、同組合員の組合脱退を促すものであったというほかない。
 したがって、1.29面談におけるB3及びB2課長代理のA3に対する一連の発言は、組合に対する誹謗又は中傷であり、かつ、組合からの脱退勧奨であって、組合の組織、運営に影響を及ぼすものといえ、同人らの発言は会社の行為といえるから、組合に対する支配介入として労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

2 平成31年1月29日、会社がA3組合員に対して組合からの脱退を促す発言をしたことが認められる場合、同月31日、会社はA3に対して当該発言が事実と異なる旨の書面の作成を強要したか。当該行為は労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当するか。(争点2)

 1.29面談における会社の一連の発言が不当労働行為に該当するものであるところ、(組合からの)「抗議および緊急団体交渉申し入れ書」(「1.31申入書」)を受けた平成31年1月31日の面談(以下「1.31面談」)において、B3がA3に対し、脱退勧奨ではない旨の認識を執拗に押し付けた上で、その旨の書面の作成を繰り返し求めた行為については、A3の意思により当該書面が作成されることがなかったことから、書面の作成の強要があったとまではいえない。しかし、当該行為は、不当労働行為があたかも存在しなかったように隠蔽しようとするものであったといわざるを得ない。また、1.29面談におけるB3の発言が会社の行為と評価されるものであるところ、1.29面談における内容について、同面談からわずか2日後に会社の会議室において行われた1.31面談におけるB3の発言についても同様に会社の行為ということができる。
 したがって、1.31面談における会社の行為は、1.29面談における不当労働行為が存在しなかったように隠蔽しようとするものであって、組合活動を妨害することを企図したものといえるから、組合に対する支配介入として労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
 組合は、会社の行為が労組法第7条第1号の不利益取扱いにも該当する旨主張するが、不利益性について組合から具体的な主張はなく、組合員がその意志による書面の作成を拒否した後は、会社が、書面の作成をさらに求めたことは認められず、また、何らかの不利益取扱いを示唆した経過も見当たらないことからすると、当該行為によって組合に不利益があったとまではいえない。
 
3 平成29年8月以降、会社がA2分会長に対して出張業務を命じなくなったことは労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当するか。(争点3)

 不利益性について、出張作業に従事することで毎月数千円の出張旅費手当の支給を受けていたA2分会長にとっては、出張作業が一切命じられなくなることによって、経済的不利益が生じたものといえる。
 会社とA2分会長とは、組合加入以前から、同人が行った労働基準監督署への相談等に起因する対立関係にあったものといえる。
 A2分会長は、平成28年4月頃から29年7月3日までの期間、出張作業に従事していたが、同日以降出張作業に従事していないこと及びA2分会長を除く製造グループの従業員のうち、平成29年8月から同年12月31日までの期間、出張作業の従事回数が0回であった者は、当該期間における退職者、移動者及び出張作業を望まないものを除いて、存在しなかったことが認められることからすれば、会社は、平成29年8月以降、出張作業への従事について、A2分会長に対してのみ異なった取扱いをしたものといえる。
 平成29年8月以降、会社がA2分会長に出張作業を命じなくなったのは、実質的に初めて労使が対峙する第1回団交の開催時期と会社がA2分会長に出張作業を命じなった時期がおおむね合致していることを踏まえると、組合活動を開始したA2分会長に対する嫌悪の情に基づく措置であるものと見るのが相当であって、不利益取扱いといわざるを得ない。
 したがって、平成29年8月以降、会社がA2分会長に出張作業を命じなくなったのは、同分会長が組合に加入し組合活動を開始した故になされた不利益取扱いであり、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。また、当該取扱いは、組合の組合活動を委縮させるものであるといえるから、組合に対する支配介入として同条第3号の不当労働行為に該当する。

4 平成30年12月27日及び平成31年2月13日の団交において、会社がB1社長を出席させなかったことは労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に該当するか。(争点4)

ア 使用者が誠実交渉義務を果たしたか否かは、協議事項の内容、労働組合側の態度等の具体的事情に応じて、客観的具体的根拠を示して説明するなど労使間の対立を可能な限り解消させる努力を行っていたか否かという観点から判断するのが相当である。そこで、第15回団交及び第16回団交における協議事項に関して、会社が、社長の出席がなくても誠実交渉義務を尽くしたといえるかについて検討する。

イ 第15回団交について
 会社の出席者は、同団交の協議事項の内容、組合側の態度等の具体的事情に応じて、会社としての見解を一定程度具体的に説明したものであると評価できることに加え、同団交においてB1社長の団交出席に係るやり取りの経過は見当たらないことからしても、社長の出席がなくても誠実交渉義務を尽くしたものとみるのが相当である。

ウ 第16回団交について
 組合が録音から書き起こした資料を所持する一方、会社の説明はB2課長代理の記憶やB3からの聴取内容によらざるを得なかったものであるから、同団交の場における1.29面談に係る事実認識の水準には組合と会社との間に隔たりがあったといえるが、そのような状況の下においても、会社は、組合が認識の水準において優位な立場で行う事実確認に対して、できる限りの見解を説明しているといえ、さらに、組合が1.29面談及び1.31面談の当事者を参加させていない一方、会社はB2課長代理を参加させていることを併せ考えると、会社は、第16回団交の協議事項たる1.29面談及び1.31面談の事実確認を行うに当たって、組合の交渉態度に応じた可能な限りの努力を行っていたものといえる。
 また、B1社長が1.29面談及び1.31面談に出席していないことからすれば、両面談の事実確認に当たって、社長の出席が必要であったとはいえない。さらに、第16回団交は、1.29面談に係る組合と会社との間の労使間の事実認識の水準に隔たりがあったまま終了したものであって、社長が出席したとしても、会社が何らかの対応を決定することは困難であったものといわざるを得ない。
 加えて、会社において、組合による社長の出席要求の目的が1.29面談についての社長からの直接の謝罪であるとの認識であったところ、会社が、第16回団交の協議事項たる両面談の事実確認に係る協議の見通しもない中で、両面談に出席していない社長を、謝罪を前提として出席させることまでは必要ないと考えても無理からぬところといえる。
 そうすると、少なくとも第16回団交において会社が社長を出席させなかったことが不誠実であるとはいえない。

エ したがって、会社がB1社長を出席させなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当せず、また、組合を軽視し、弱体させるものであるともいえないから、同条第3号の不当労働行為にも該当しない。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
名古屋地裁令和4年(行ウ)第24号 棄却 令和5年2月22日
 
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