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概要情報
事件番号・通称事件名  名古屋地裁令和4年(行ウ)第24号
不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  株式会社X(「会社)」 
被告  愛知県(代表者兼処分行政庁 愛知県労働委員会) 
被告補助参加人  Zユニオン(「組合」) 
判決年月日  令和5年2月22日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、①組合員A1に対し組合脱退を勧奨するとともに組合を誹謗中傷する発言をしたこと、②A1に対し、①の行為に関して、事実と異なる認識を押し付けようとするとともに当該認識を書面化するよう強要したこと、③組合の分会長であるA2に対し出張業務を命じず、これにより賃金額を他の従業員に比して少なくしていること、④団体交渉に労使合意に関する決定権限を有する者を出席させていないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事件である。
2 愛知県労委は、①及び②について労働組合法第7条第3号、③について同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)従業員に出張業務を命ずるに当たって、A2を他の従業員に比べて不利益に取り扱ってはならないこと、(ⅱ)文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。
3 会社は、これを不服として、名古屋地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 面談1(平成31年1月29日)及び面談2(平成31年1月31日)におけるB1及びB2の言動が不当労働行為に該当するか(争点1)
(1)B1及びB2の地位について
 労組法2条1号所定の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者が使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行った場合には、使用者との間で具体的な意思の連絡がなくとも、当該支配介入をもって使用者の不当労働行為と評価することができる(最高裁平成18年12月8日第二小法廷判決参照)。
 本件では、B1は面談1の当時、会社管理グループ課長代理の職にあり、A1組合員が本社勤務に復帰する辞令等の調整や、組合との団体交渉に継続して出席していることから、労組法2条1号所定の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者に該当すると認めるのが相当である。
 また、B2は、税理士として会社から労務管理について委託を受け、団体交渉にも出席する者であったことからすれば、B2は、会社代表者の組合に対する意向に従って行動する地位にあったと認められる。

(2) 面談1におけるB1及びB2の言動について
ア B2は、面談1において、A1組合員に対し、組合に加入していることは不利益である旨など、組合の組合活動を否定する発言を繰り返すとともに、A1組合員が本社業務に復帰するのであれば組合を辞めた方が会社代表者の心象が良い、2月の団体交渉にいない事を祈っている等と述べてA1組合員に対して組合から脱退することを勧める発言をしており、かかる発言は、労使が対立を深める中で組合及びその組合員に対する嫌悪の感情に基づく発言であるといえる。また、B1は、管理グループ課長代理として、復帰に当たっては組合を辞めた方が会社代表者の心象が良いとのB2の発言に同調し、A1組合員に対する脱退勧奨に加勢したものと認められる。
 前記(1)の説示を踏まえて以上の事情を総合すれば、B1及びB2の言動は、会社ないし会社代表者との間での具体的な意思の連絡に基づくものでなかったとしても、会社の意を体してされたものであって、組合の組合活動を批判し、組合を誹謗又は中傷するものというほかなく、A1組合員に対して組合への不信感を煽りつつ脱退を促すものとして、組合の組織、運営を弱体化させ得る支配介入(労組法7条3号)に該当し、会社の不当労働行為と評価することができる。

イ これに対し、会社は、B1及びB2はA1組合員との間の個人的な関係から助言をしたにすぎないと主張する。しかし、前記(1)で説示したB1及びB2の地位に加え、面談1が会社と組合との間で生じていた争議の解決の一環として業務時間内に会社本社の会議室で行われたものであること、面談1における会話の内容を精査しても、A1組合員が自ら進んで組合への不満を述べるとか組合からの脱退について助言を求める趣旨の発言は見当たらないことに照らすと、B1及びB2とA1組合員との人的関係が直ちに前記アの評価を左右されるものとはいえず、また、A1組合員が秘して会話内容を録音し、すぐに組合に報告していることからすれば、B1及びB2とA1組合員との間に親密な関係が構築されていたとも認め難いから、会社の上記主張は採用することができない。

(3) 面談2におけるB1及びB2の言動について
 B1及びB2は、平成31年1月31日付けで組合から面談1における発言が不当労働行為に該当すると抗議を受けた状況下で、同日の面談2において、A1組合員が面談1での会話を録音したかどうか、録音を組合に聞かせたかどうかを確認した上、脱退勧奨された事実はない旨記載した書面の作成を求めており、さらに、B1は、書面の作成を拒否したA1組合員に対し、不当労働行為に該当することについて争うとA1組合員の組合での立場も悪くなるとして不利益があることを示唆していることが認められる。
 これらの事実に照らせば、B1及びB2の同日の発言は、A1組合員に対し、面談1におけるやりとりの経緯や事実の確認にとどまらず、脱退勧奨をしていないとの書面作成に協力するよう促し、組合から不当労働行為の追及を免れることを企図する行為といわざるを得ない。
 そして、前記(1)の説示と上記の発言内容を総合すれば、面談2におけるB1及びB2の言動は、組合からの責任追及を免れるという点で会社代表者の意に沿うものというべきであるから、会社の意を体してされたものと認めるのが相当であり、上記の発言が組合の不当労働行為に係る責任追及という組合活動を妨げるものであることからすると、組合の組織、運営を弱体化させ得る支配介入(労組法7条3号)に該当し、会社の不当労働行為と評価することができる。

(4) 小括
 よって、A1組合員への脱退勧奨及びその後の書面作成を求めたことは不当労働行為に該当し、これと同旨の本件救済命令は適法である。

2 会社が平成29年8月以降A2分会長に対して出張業務を命じなかったことが不当労働行為に該当するか(争点2)
ア ①会社は、A2分会長に対し、平成29年7月4日以降、本件事件(愛知県労委令和元年(不)第9号、令和元年11月19日申立)の審問終結時まで、一切出張業務を命じなかったこと、②組合は、会社に対し、同年6月10日付けで出張業務における移動時間を労働時間として認めること等を要求したこと、③会社と組合は、同年7月26日に第1回団体交渉を行ったことが認められ、会社がA2分会長に対して出張業務を命じなくなった時期と第1回団体交渉の開催時期は近接している。
 7月26日の第1回団体交渉では、A2分会長が組合側の中心人物として参加し、団体交渉の結果についてもインターネット上に公表されたこと、第1回団体交渉以後、会社代表者は組合からの要求を受けても団体交渉を欠席するという態度をとっていることに照らせば、第1回団体交渉は、会社代表者が組合又はA2分会長に対して悪感情を持つに至る重要な契機となったことがうかがわれる。また、上記のとおり、組合は、同年6月10日以降、出張業務における移動時間の労働時間性を団体交渉における要求事項として挙げたことからすると、会社が、組合の組合員に対して、賃金額に今後紛争が生じることが予想される出張業務を命じないこととする動機があるといえる。
 これらの事情に加え、出張業務を命じなくなった対応がA2分会長のみに対して行われており、その対応には後記イ及びウのとおり合理的な理由を見出し難いことを総合すれば、会社が平成29年8月以降A2分会長に対して出張業務を命じなくなったことは、A2分会長が組合の組合員であることを理由に不利益に取り扱ったものと推認することができ、同推認を妨げる証拠はない。

イ これに対し、会社は、出張工事案件に係る人員配置の方針変更及びA2分会長のスキル不足を指摘し、A2分会長に出張業務を命じなかったことに合理性があると主張する。
 しかし、第60期(平成28年4月1日)から第61期(平成30年3月31日)にかけて、①スキルを要求される出張修理案件は増加しており、出張修理案件が減少したからスキルのある人材を出張工事案件に回せるようになったとの会社の主張はその前提となる事実を欠いている。また、②工事の延べ人数は増加し、製造グループ以外の従業員や協力会社の従業員にも出張業務を割り当てていること、③平成29年7月から同年8月にかけて、出張工事案件の件数はほぼ変わらず、人員配置の方針を変更する必要がある状況にあったことはうかがわれないこと、④会社では、平成29年7月以降、A2分会長を除いて、本人の希望等によらずに出張業務を命じられていない者はいないことが認められ、これらの事実に照らせば、出張工事案件を割り当てるべき人員に余剰が生じていたことや会社が人員配置の方針を変更したことを認めることはできない。そればかりか、上記の事実は、現場からは人員が不足しておりA2分会長にも出張業務をさせてほしいといった声があったとのA2分会長及びA4の供述に整合するものといえる。
 したがって、出張工事案件に係る人員配置の方針変更及びA2分会長のスキル不足をいう会社の主張は採用することができない。

ウ また、会社は、A2分会長の体調面を考慮して出張業務を命じなかった旨主張する。
 しかし、会社の主張を前提としても、会社がA2分会長の体調不良を認識したのは数回の団体交渉を経た後であり、現に、団体交渉においてA2分会長の体調が話題に出たのは平成30年12月27日の団体交渉以降であって、同日以前にA2分会長に対して体調面や出張業務に関する意向聴取がされたことはうかがわれない。そうすると、会社が、出張業務を命じなくなった当初からA2分会長の体調面に配慮することを目的としていたとは認められない。
 また、A2分会長が体調を理由に出張業務を断ったことや配慮を求めたことはなく、体調面により業務に具体的な支障が生じたことはうかがわれないばかりか、出張業務を命じられないことに対して抗議していることに照らせば、A2分会長の体調面が出張業務を命じない合理的な理由であるとは認められない。
 したがって、A2分会長の体調面をいう会社の主張は理由がない。

エ このほか、会社は、会社代表者が出張業務に従事する者の選定に関与していない旨主張するが、出張業務を命じるか否かは使用者である会社の権限に属する事項であるから、A2分会長に対して出張業務を命じなかったことについて会社の行為と評価することは妨げられず、他に上記認定を左右する事情は認められない。

(3) 小括
 以上により、会社が、平成29年8月以降、A2分会長に出張業務を命じなかったことは組合の組合員であることを理由とする不利益な取扱い(労組法7条1号)である上、組合の弱体化を招くおそれのある支配介入行為(同条3号)であると認めるのが相当であり、これと同旨の本件救済命令は適法である。

3 結論
 以上の次第で、会社の本件請求は理由がないから、これを棄却する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛知県労委令和元年(不)第9号 一部救済 令和4年2月4日
 
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