労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第5号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年3月25日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、組合が令和2年10月29日付け等で申し入れた団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、組合が申し入れた、同委員会の同年2月25日付けの命令に基づく団体交渉に応じなかったことについて労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書交付を命じた。 
命令主文   会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
 X組合
  執行委員長 A様
Y会社        
代表取締役 B
 当社が、貴組合が令和2年10月29日付け及び同年11月6日付けで申し入れた、同年2月25日付けの大阪府労働委員会の命令に基づく団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  1 本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか

(1)組合が会社に対し、令和2年10月29日付け通知書及び同年11月6日付け通知書を提出して、先行事件命令に基づく団交及び2年春闘の2項目について本件団交申入れを行ったのに対し、会社が令和2年11月5日付け回答書及び同月16日付け回答書を組合に提出して、団交に応じられない旨回答し、団交に応じなかったことが認められる。

(2)先行事件命令に基づく団交申入れについて
 会社は、先行事件命令に基づく団交開催を求める組合からの本件団交申入れに応じられない理由として、先行事件が中労委で係属中であり、先行事件命令の判断は中労委において否定されると考え、先行事件命令を理由とする組合の団交申入れには応じられないとの立場を採ったことを挙げる。
 しかし、本件団交申入れにいう先行事件命令に基づく団交開催の申入れの趣旨は、先行事件命令が会社に応諾を命じた団交を改めて申し入れ、当事者間での話合いでの解決を求めたものと解するのが相当である。そうすると、本件団交申入れは、当該問題を中労委の再審査手続きにのみ委ねるのではなく、その間も労使間の交渉による解決の道を探るために申し入れたものとみることができる。
 したがって、先行事件命令に基づく団交開催を求める組合からの本件団交申入れについて、使用者が再審査係属中であることを理由に団交に応じないことが団交拒否の正当な理由となり得ないことはいうまでもないから、会社が団交に応じなかったことに、正当な理由があるとはいえない。

(3)2年春闘要求について
ア 2年春闘統一要求書の14項目のうちどれが会社を名宛人とする2年春闘要求の実質的要求事項であるのか明確でないところ、本件団交申入れに先立って行われた2年春闘団交〔令和2年6月8日、同月22日、同年7月13日及び同年8月6日に組合と会社が2年春闘要求について行った団交〕におけるやり取りをみると、①賃金引上げ、②一時金及び夏季・冬季手当、③総合福利の3項目について交渉が行われたことが認められるのであるから、実質的議題はこの3点であるということができ、これらがいずれも義務的団交事項であることは明らかである。

イ 一般に、団交において労使が協議を尽くした結果、議論が平行線をたどり、交渉が決裂して、再度交渉したとしても進展が見込めない状態に至った場合には、その後の事情の変更により団交を再開する必要が生じるなどの特段の事情がない限り、使用者がその後の団交申入れを拒否しても、正当な理由のない団交拒否には当たらない。

ウ そこで、2年春闘団交が、議論が平行線をたどり、交渉が決裂して、再度交渉したとしても進展が見込めない状況に至っていたかについてみるに、同団交においては、第3回団交以降、A組合員の賃上げについて、会社全体の収支で考えるのか、A組合員が乗車する車両1台当たりの収支で賃金を考えるのかで労使双方の主張が対立する状況が続いたものとみることができる。
 こうした状況の下、会社は、A組合員の賃上げができない理由について、自らの主張の根拠を具体的な数字を挙げて説明し、さらに会社全体で黒字が出たことが賃上げに直結するという判断基準はないという補足説明も行っているということができる。
 一方、組合は、会社の上記説明を受けて、新たな主張や提案をすることなく、自ら交渉の終了を宣言したものということができる。
 これらのことからすると、2年春闘団交は、A組合員の賃上げについて、双方の主張が対立して会社が一定の対応をする中、組合は、新たな主張も提案もなさぬまま交渉の終了を宣言しているのであるから、労使が協議を尽くした結果、議論が平行線をたどり、交渉が決裂して、再度交渉したとしても進展が見込めない状況に至っていたものとみるのが相当である。

エ 次に、その後の事情の変更により団交を再開する必要が生じるなどの特段の事情があったかについてみるに、組合は、2年春闘団交の終了後、団交再開を求めるに際して、同団交において中心的議題となった賃金引上げについての新たな要求は明示しておらず、また、同団交において会社が回答するに留まった一時金及び総合福利という他の2つの要求事項等を改めて議題として明示してもいないのであるから、同団交を再開する必要が生じたとみることはできず、特段の事情があったとはいえない。

オ これらのことからすると、本件団交申入れに先立つ2年春闘団交が、A組合員の賃金引上げについては、労使が協議を尽くした結果、議論が平行線をたどり、交渉が決裂して、再度交渉したとしても進展が見込めない状況に至っていたとみられ、かつ、同団交を再開すべき特段の事情があったとはいえないのであるから、2年春闘要求に係る本件団交申入れについて、会社が団交に応じなかったことに正当な理由があるというべきである。

3 以上のとおりであるから、会社が、本件団体交渉申入れのうち先行事件命令に基づく団交申入れについて団交に応じなかったことは、正当な理由がなく、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約302KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。