労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第29号
不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(組合)・X2組合(併せて「組合ら」) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年7月15日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合らの組合員13名に対して脱退勧奨を行ったこと、②組合に労働者供給の依頼をしなくなったこと、③組合員1名について就労させなくなったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①のうち1名に関するものについて労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し文書交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、X2組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
X2組合
執行委員長 A1様
Y株式会社       
代表取締役 B1
 当社が、貴組合員A2氏に対し、貴組合を脱退するよう勧奨したことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
2 組合らのその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社は、本件X2組合組合員ら11名に対し、組合脱退勧奨を行ったか。行ったとすれば当該行為は、X2組合に対する支配介入に当たるか。(争点1-1)
 会社は、本件C分会の分会員2名に対し、組合脱退勧奨を行ったか。行ったとすれば当該行為は、組合らに対する支配介入に当たるか。(争点1-2)

(1)会社が、組合脱退勧奨を行ったといえるか

ア 令和元年9月上旬から中旬頃、工場長B2が組合員A2に対し、A2にも生活があるだろうから組合を辞めてうちに来ないか、いったん組合を脱退して情勢が変わればまた組合に戻ったらいいのではないかと述べたことがあったことが認められ、かかる発言は、組合脱退勧奨というほかない。

イ この点について、会社は、当時、組合員内部でも組合ら(X1組合及びX2組合。以下同じ)に対する不満が充満していた旨、それ故、工場長B2は、組合員A2やその家族は大丈夫なのか、これからの生活をどうするのかというような話をしたのであり、組合脱退勧奨をした事実はない旨主張し、B2自身も、本件審問において、A2との会話について「E労働組合〔注 令和3年1月23日に会社が加盟する事業協同組合が発した文書におけるX2組合の略称〕がこういう状況やから自分、家族とか大丈夫なんかと、これからの生活どないするんやって、そういうような話はしました。」と証言するとともに、「組合を脱退して情勢が変わればまた組合に戻ったらいいのではないかと言って、組合をやめさせるような発言はしていませんか。」との会社代理人からの質問に対し、「いや、そういう話はしていないです。」と証言している。
 しかしながら、認定によると、令和元年9月18日に行われたX2組合と会社の話合い(以下「1.9.18話合い」)において、工場長B2は、組合員A2の生活を心配したが故の発言であるとしつつも、組合員A2に対して組合を辞めるよう発言したこと自体は認めている。そうすると、組合脱退勧奨があったとする令和元年9月上旬から中旬頃とそれほど期間を置かずに行われた同話合いにおいて、工場長B2自身が、組合を辞めるよう発言したことを認めている以上、これよりも2年近く経過して行われた本件審問においてなされたB2の証言は採用できない。

ウ また、会社は、工場長B2には組合脱退勧奨をする動機も理由も一切ない旨主張する。
 しかしながら、1.9.18 話合いにおけるB2の発言からすると、同人が、会社にX2組合又は組合らの組合員がいることにより、広域協(注 会社が加盟する事業協同組合)から圧力を受け、会社が漬されることを懸念しているとともに、一時的に、会社からX2組合又は組合らの組合員がいないような外形を作出すべきとの意向があることが窺える。そうすると、同人が、X2組合の組合員A2に対し、組合脱退勧奨をする動機も理由もないとはいえない。

エ これらのことから、組合員A2については、令和元年9月上旬から中旬頃、工場長B2が脱退勧奨を行ったといえる。
 一方、X2組合組合員ら11名及びC分会〔注 X2組合の下部組織で、日々雇用で就労する組合員で構成〕分会員2名のうち、A2以外の組合員については、組合脱退勧奨があったと認めることはできず、その余を判断するまでもなく、組合らの申立てを棄却する。

(2)次に、工場長B2が行った組合員A2に対する組合脱退勧奨が、会社に帰責するといえるかについてみる。

ア この点について、会社は、工場長B2は、使用者の利益代表者に近接する地位にない旨、B2は、対外的肩書上、工場長兼出荷係であるが、工場長の役割は取締役B3がバックアップしている旨主張する。
 しかし、JIS規格関係書類用に会社が作成した会社組織図では、工場長は、代表取締役、取締役統括部長に次ぐ地位に位置付けられていることが認められ、この会社組織図をみると、工場長は、使用者の利益代表者に近接する地位に当たるといえる。そうすると、会社は、少なくとも、対外的には、B2を使用者の利益代表者に近接する地位にある者として取り扱っているといえるのだから、本件申立てにおいても、B2の行為は、そのような地位にある者の行為として取り扱うべきであるといえる。
 そして、認定によれば同人の発言を社長も容認ないし黙認しているのであるから、工場長B2による組合員A2に対する組合脱退勧奨に係る責任は会社に帰属するというべきである。
 これらのことから、会社が組合員A2に対し、組合脱退勧奨を行ったといえる。

イ そこで、かかる行為が支配介入に当たるかについてみると、組合員A2はX2組合を脱退していないものの、会社がA2に対し組合脱退勧奨を行えば、A2が心理的な圧力を受け、また、X2組合の組合活動を阻害することは明らかである。

ウ 以上のとおりであるから、会社は組合員A2に対し、組合脱退勧奨を行ったといえ、かかる行為は、X2組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

2 会社が、令和2年3月26日分以降、X1組合のDセンターに対し、C分会員の供給依頼をしなくなったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合らに対する支配介入に当たるか(争点2)

(1)組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか

ア 組合らは、個々のC分会員は、会社に就労したことのある者もそうでない者も等しく、会社に供給され就労し賃金を得ることを期待することについて、合理的な理由がある旨主張するが、個々のC分会員が期待権を有しているかは、就労実態など、各組合員の個別具体的な事情を考慮して、個々の組合員ごとに判断されるべきである。

イ そこで、Dセンターから供給されていたC分会員の会社における就労実績についてみるに、会社での就労が前提とされていたとはいい難く、そうであれば、上記以外のC分会員についても、個別に検討するまでもなく就労実績から会社での就労が前提とされていた者がいたとはいえない。

ウ また、会社に供給されるC分会員の人選は、前日に会社が申し込んだ人数に応じてDセンターが行っていたといえ、労働者供給を依頼する際、会社は、供給されるC分会員を指定していなかったといえる。
 さらに、会社に供給されていたC分会員が事実上、固定化していたとの事情も見当たらず、その他、会社での就労に関して特段の取り決めがなされていたC分会員がいたとの疎明もない。

エ そうすると、①個々のC分会員にとって、会社は、供給先の一つにすぎず、会社での就労を期待することにつき合理的な理由があったとはいえず、②その他、会社での就労を期待することに特段の事情を有する組合員がいたとの疎明もないのであるから、個々のC分会員が、Dセンターを通じて会社に供給され、会社において、継続して就労する個別具体的な期待権を有していたとまではいえない。

オ そうである以上、会社が供給依頼をしなくなったことによって、C分会員が不利益を被ったとはいえないから、その余を判断するまでもなく、会社が、令和2年3月26日分以降、X1組合のDセンターに対し、C分会員の供給依頼をしなくなったことは、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらない。

(2)組合らに対する支配介入に当たるか

ア 組合らは、C分会員が会社において就労することについて、C分会員を擁する組合らには、集団としての期待権があった旨主張し、その根拠として、会社は、X1組合との間で労働者供給契約を口頭で締結し、平成29年9月から同契約に基づき、C分会員を恒常的に就労させてきた旨主張する。

イ そこで、労働者供給事業に関するX1組合と会社との経緯についてみると、①会社とX1組合との間の労働者供給契約を裏付ける書面が存在しない上に、②会社がDセンターに対してC分会員の供給を依頼していた期間をみても、約2年6か月間に留まり、会社から継続的に労働者供給依頼が行われるとの期待権をC分会員を擁する組合らが有していたといえるほど長期間、労働者供給事業が行われていたとはいえず、③その他、会社と組合らとの間で、会社が、継続してDセンターに対し、労働者供給依頼を行うべき特段の事情があったとの疎明はない。

ウ そうすると、C分会員が、会社において継続して就労することについて、C分会員を擁する組合らに集団としての期待権があったとはいえないから、会社がC分会員の供給依頼をしなくなったことが不当であったとまではいえず、したがって、その余を判断するまでもなく、組合らに対する支配介入には当たらない。

3 会社が、令和2年3月31日以降、組合員A2を会社で就労させていないことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、X2組合に対する支配介入に当たるか(争点3)

(1)組合員A2は、日雇手帳を使用して就労していたことが認められる。また、A2が、会社から直接雇用されていたのか、C分会員の一員として就労していたかについては争いがあるものの、日々雇用されていたことには争いがない。そうすると、会社での一日の就労が終了すれば、組合員A2と会社との間の雇用関係も、その都度、終了することが前提とされる雇用形態であったといえる。

(2)もっとも、上記のような雇用形態であっても、組合員A2が会社に継続して雇用されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合は、その雇用が終了されたことにより、A2は経済的不利益を被ったというべきである。
 しかしながら、①A2の会社での就労期間は約9か月間であって、かかる就労実績からは、会社が、実態として、A2を会社で継続雇用することを前提に扱っていたとまではいえず、②会社がA2に対し、継続雇用を期待させる言動があったとの疎明もなく、③その他、継続雇用を期待させる特段の事情があったとの疎明もない。
 これらから、A2が会社に継続して雇用されるものと期待することについて合理的な理由があったとまではいえず、そうである以上、会社が、令和2年3月31日以降、A2を会社で就労させていないことによって、A2が不利益を被ったとはいえない。
 したがって、その余を判断するまでもなく、会社が、令和2年3月31日以降、A2を会社で就労させていないことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たらず、X2組合に対する支配介入にも当たらない。 
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