労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第7号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y1会社・Y2会社・Y3会社(会社ら) 
命令年月日  令和3年11月26日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、組合員を雇用する申立外C会社と製品運送契約を締結しているY1会社及びY2会社(以下「本件2社」)を含む会社ら(本件2社及びY3会社)が組合員の使用者に当たるとし、①当該2社が、加入する協同組合が行った組合との決別宣言に賛成したこと、②当該2社が、当該契約を解除したこと、③申立外C会社が、正社員である組合員3名を解雇し、日々雇用労働者である組合員1名を就労させなくしたことが、それぞれ不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Y1会社は、A1、A2、A3及びA4各組合員の労働組合法上の使用者に当たるか(争点1-1)
  Y2会社は、A1、A2、A3及びA4各組合員の労働組合法上の使用者に当たるか(争点1-2)

(1)本件正社員A1、A2及びA3の3名は、C会社に雇用されていたこと、及びA4はC会社にて日々雇用のミキサー車運転手として就労していたこと、が認められ、会社らが本件組合員ら4名の労働契約上の雇用主でないことについて、争いはない。
 この点について、組合は、委託企業が請負契約の解除や条件変更等を通じて、事実上下請企業の生殺与奪の権を握っているとみられる場合などを挙げて、労働関係に対して現実に強い影響力・支配力を持つ者は使用者に当たる旨主張する。
 しかしながら、労働組合法第7条にいう「使用者」については、労働契約上の雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、当該事業主は同条の使用者に当たるものと解するのが相当であって、雇用主以外の者が単に請負契約等を通じて経営上の影響力を有していることを理由に、使用者の地位にあるということはできない。
 そこで、C会社の製品運送契約の相手方である本件2社が、本件組合員ら4名の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるか否かについて、Y3会社の関わりも含めて、検討する。

(2)まず、労務の提供と賃金について検討する。
①労務の提供については、C会社の運転手は、輸送の現場において、本件2社による業務上の指揮命令を受けていた部分はあるものの、労務提供の全てにわたって本件2社の指揮命令のもと、労務を提供していたとはいえない。
②賃金については、C会社が同社の従業員の賃金水準を決定していたというのが相当で、この決定に本件2社が関与していたと認めるに足る疎明はない。
③組合は、本件2社が使用者の地位にある理由として、C会社の設立への関与や設立後のC会社の経営への強い影響力を指摘するので、これらの点について検討するに、C会社の設立や設立後のC会社の経営への影響力から見て、本件2社とC会社は密接な関係にあるとはいえるが、この密接な関係は経営上のものにとどまると判断され、本件2社が、C会社の従業員の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったということはできない。
④組合は、本件2社が使用者の地位にある理由として、資金注入や立米走り〔注.輸送量に応じて運賃を決定する方式〕についても主張する。しかし、資金注入は、C会社と会社らが密接な関係にあることを窺わせるものではあるが、これが、C会社の従業員の労働条件そのものを直接決定したというべき事情は見当たらない。なお、立米走りについても、運賃の決定方法にすぎず、使用者性の判断を左右するものには当たらない。
 また、Y1会社のY1工場の工場長やC会社の正社員のミキサー車運転手等が参加して、安全衛生委員会と称する会議が開催され、C会社のミキサー車運転手は、女性専用トイレの設置、洗車場の危険箇所の改善、Y1工場の出入口への看板の設置等を提案し、これらの提案が、Y1会社により実現されたことが認められるが、これらの事実は、いわばY1会社とC会社との輸送委託契約に付随する職場環境の改善措置にすぎないから、このことのみをもって、Y1会社が本件における使用者に当たるとはいえない。

(3)組合は、本件2社の使用者性の判断において、C会社に法人格否認の法理が適用されると主張するが、C会社は、本件2社と組合との合意に基づき設立された、会社らとは別個の独立した法人格を有する会社であるというべきで、C会社が形骸化しているとか、法人格の濫用目的で設立されたとか、会社等と同一化しているとかいうことはできない。
 また、①C会社従業員との関係で、C会社が配車に関する事務、賃金の計算、組合との事前協議約款に基づく合理化協議を行っていること、②C会社は本件2社と運送委託契約を締結していること、③C会社はD社等から資金を借り入れていたこと、が認められる。これらの事実からすれば、C会社は独立して企業活動を行っていると判断され、組合の主張を採用することはできない。

(4)以上のとおりであるから、本件2社が、C会社の従業員の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったということはできず、したがって、本件2社は、いずれも、本件組合員ら4名の労働組合法上の使用者には当たらないと判断される。

2 Y3会社は、A1、A2、A3及びA4各組合員の労働組合法上の使用者に当たるか(争点3)

(1)Y3会社の前身であるD会社の関連会社が関与してC会社が設立され、C会社と本件2社の経営上の密接な関係に、Y3会社が何らかの影響を及ぼしていたことが窺われる。しかし、C会社は本件組合員ら4名の賃金等の基本的な労働条件等を決定し、C会社の正社員のミキサー車運転手の勤怠管理を行っていたところ、Y3会社が本件4名の雇用や賃金の決定に直接関与していたと認めるに足る疎明はない。
 したがって、Y3会社のC会社への関与は、経営面のものにとどまっていたというのが相当であって、Y3会社がC会社の従業員の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったということはできない。

(2)なお、組合は、A2組合員へのセクハラ問題の解決についてY3会社が関与したことを指摘する。しかし、組合からの申入れを受け、Y3会社の部長代理がこの件についてC会社新社長を指導したとしても、組合とC会社との間で、交渉を行い、合意したとして、謝罪文の提出や慰謝料の支払等を内容とする確認書が作成されているのだから、この時の経緯をもって、Y3会社が、本件4名の労働組合法上の使用者に当たるということはできない。
 また、組合は、Y3会社が継続的に極めて高額な資金を関連会社を介して、C会社に貸し付け、C会社の経営を経済的に維持してきた旨主張するが、Y3会社が関与した資金援助がC会社の経営状況を通じて、C会社の従業員の労働条件に間接的な影響を及ぼすことがあったとしても、このことのみでは、Y3会社がC会社の従業員の労働条件そのものを直接決定したとはいえない。

(3)組合は、平成19年頃の組合とC会社との交渉に、C会社の代表者とともにY3会社の命を受けた同社の系列会社である運送会社の関係者が出席した旨主張するが、同年8月9日付け作成の協定書は組合とC会社との間で作成されたものである上、出席したとされる運送会社の関係者が団交で協議を主導したと認めるに足る疎明やY3会社から具体的な指示を受けていたと認めるに足る疎明はなく、C会社の代表者以外の者の団交への出席を理由に、Y3会社が組合員の労働条件等の決定に関与したということはできない。

(4)以上のとおりであるから、Y3会社は、本件組合員ら4名の労働組合法上の使用者には当たらないと判断される。

3 Y2会社及びY3会社が、令和元年7月11日にE協組が行った「A5労組関連との決別宣言」に賛成したことは、組合に対する支配介入に当たるか(争点2-1)
 Y1会社が、申立外C会社との間の製品輸送契約を解除したことは、組合に対する支配介入に当たるか(争点2-2)
 Y2会社が、申立外C会社との間の製品輸送契約を解除したことは、組合に対する支配介入に当たるか(争点2-3)
 A1、A2、A3各組合員が令和元年11月15日付けで解雇されたこと並びにA4組合員が同月18日以降就労できなくなったことは、会社らによる組合員に対する不利益取扱い及び組合に対する支配介入といえるか(争点2-4)

 前記1及び2判断のとおり、会社らはいずれも本件組合員ら4名の労働組合法上の使用者には当たらないと判断されるのであるから、その余を判断するまでもなく、本件申立ては棄却する。
 ところで、本件審査手続きにおいて提出された給与明細書をみると、A2組合員について、平成31年4月まで、出勤していないにもかかわらず高額の賃金が支払われていたというべきで、このことが労働組合法第2条ただし書第2号の使用者からの経費上の援助に該当する可能性は否定できない。しかし、令和元年8月にC会社は事業を停止し、その休暇制度の詳細は不明であって、A2への賃金の支払と組合活動との関係も明らかではないのだから、本件において、組合が同法が定める組合資格の要件を満たしていないとは判断しない。
  
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