労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和元年(不)第33号
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年7月6日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①平成30年5月2日に中労委において組合及び会社が受諾した和解勧告書(以下「本件和解勧告書」)に係る不履行、②5回の団体交渉における会社の対応、③会社が組合分会長A2の連絡先をマネージャー名簿に記載しなかったこと、法人設立30周年記念式典における会社のA2及び組合副分会長A3に対する取扱い等、④30年7月16日に会社が従業員Cに対して行った注意指導が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、②の一部について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。
 
命令主文  1 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
委員長 A1 様
Y会社       
代表取締役 B
 当社の貴組合との平成30年7月11日の第44回団体交渉におけるA2副分会長の工場顧問就任通知に関する議題についての対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
  (注:年月日は、文書を交付した日を記載すること。)
2 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。
 
判断の要旨  1 本件和解勧告書について、会社に不履行が認められるか。不履行が認められるとして、不利益取扱い及び支配介入に当たるか
 前件の再審査において、中労委が組合、会社及びA2・A3両名に勧告し、四者が受諾した本件和解勧告書の第2項には、「会社は、本件に係る初審命令の主文第2項を受けて、30年6月21日付けでA2を本社付きの特任マネージャーに、A3を本社付きの工場顧問に任じ、・・・」と定められている。
 組合は、本件和解勧告書第2項の「初審命令の主文第2項を受けて」とは、原職に戻すことであると主張する。しかし、本件和解勧告書第2項では、A2を原職であるC工場管轄店舗マネージャーではなく特任マネージャーに、A3を原職であるC工場長ではなく工場顧問に任じる旨定めているのであるから、組合の上記主張を採用することはできない。
 「初審命令の主文第2項を受けて」とは、前件配置転換について救済を命じた前件命令の趣旨に沿って両名を処遇することであり、両名の処遇の内容は、原職そのものではなく、本件和解勧告書に記載された内容であると解するのが相当である。
 そこで、以下、本件和解勧告書の記載に照らして、会社に不履行があったと認められるか否かを判断する。
 (注1)初審命令:事件番号 東京都労委 平成26年(不)第80号
 (注2)前件配置転換:平成26年9月16日付けで会社が発令した、A2に対しマネージャー職を解いて受付担当を、A3に対し工場長の職を解いて工場内作業担当職を命ずる配置転換
(1)A2の処遇について
 組合は、A2の職務の実態は店舗における受付業務という人手不足の補充要員であり、本件和解勧告書の文言を履行していないと主張するところ、A2が就いた業務は、本件和解勧告書に定められた趣旨や文言から大きく逸脱し、本件和解勧告書に反するとまではいえない。
 組合は、A2の職務が、原職に近いものではないことが「初審命令主文第2項を受けて」の文言の不履行に当たると主張するようであるが、同人の処遇は、原職そのものではなく、本件和解勧告書に記載された内容におおむね沿ったものであると解するのが相当であり、同人の従事した業務は、本件和解勧告書に定められた職務から大きく逸脱したものとまではいえないのであるから、A2の職務について、会社に本件和解勧告書の不履行があったとまではいうことはできない。
(2)A2の特任マネージャー就任通知について
 本件和解勧告書の第2項には、A2が特任マネージャーに就任したことを会社が業務上必要な範囲で通知すると定められており、組合は、A2が特任マネージャーに就任したことを、会社が店舗勤務労働者に正しく周知しなかった等と主張する。
 会社は、A2の就任について、A2が業務で関与する可能性のあるC工場管轄店舗のスタッフに対しては、B社長が各店舗を直接訪問してA2の紹介を行い、併せて、「特任マネージャー就任のお知らせ」と題する書面を配布している。
組合は、その記載内容が正しくないと主張するようであるところ、記載内容が本件和解勧告書に反しているとまではいえず、会社が就任を正しく周知しなかったということはできない。
 また、組合は、A2の就任について、工場勤務の従業員には通知していないことが本件和解協定書の不履行に当たるとも主張するところ、同人の特任マネージャーの職務は、職場工場勤務の従業員と深い関わりがあるとはいえないので、会社が通知しなかったことは、直ちに、業務上必要な範囲で通知するとの本件和解協定書を履行していないとまではいえない。
(3)A3の工場顧問就任通知について
 組合は、会社がA2の工場顧問就任を店舗勤務労働者に通知しなかったことが、本件和解勧告書の不履行に当たると主張するところ、その職務についてみると、業務上店舗勤務従業員と関わる可能性が高いとはいえないことからすると、通知しなかったことが、直ちに、本件和解協定書を履行していないとまでいうことはできない。
(4)店舗会議について
 本件和解勧告書では、A2について、「店舗会議に出席する」等とされているところ、組合は、店舗会議は通常のマネージャー会議と異なっており、A2がマネージャー会議から外されていると主張する。しかし、本件和解勧告書にA2がマネージャー会議に出席できるとの記載はなく、また、会社の「業務分掌・職務分掌規程」によればマネージャーと特任マネージャーでは業務に差異があるから、会社がマネージャー会議とは別の店舗会議を新設してA2を対象とする一方で、マネージャー会議からA2を外したことは、本件和解勧告書に反するとまではいえない。
 また、必要に応じて月一回程度開催するとの和解勧告書の文言から見れば店舗会議の開催実績は少ないということができるが、「必要に応じて」月一回程度開催するとされており、開催実績が月一回より少なくても、直ちに本件和解勧告書に反しているとはいえない。
(5)工場会議について
 本件和解勧告書では、A3について「工場会議に出席する」等とされており、組合は26年9月20日までA3が出席していた工場長会議が工場会議と名称変更となったものと理解して、会社と合意したなどと主張する。しかし、和解勧告書上、工場長会議が工場会議と名称変更になったとの条項はなく、また、A3は、社員の採用等人事労務事項及び経理に関する事項に決定に関与しないのであるから、会社が新たに工場会議を設置したとみるのが自然である。
 また、工場会議の開催実績は少ないといえるが、本件和解勧告書上、工場会議は「必要に応じて」月一回程度開催すると規定されていることからすると、開催実績が少なくても不履行があったとまではいうことはできない。
(6)研修等について
 組合は、A2が特任マネージャーであるにもかかわらず、東京国際クリーニング総合展示会への出張の指示がなく、また、A3が工場顧問であるにもかかわらず、「人事評価シートに関する勉強会」の対象にならず、伊香保温泉における親睦会から除外され、東京国際クリーニング総合展示会の出張指示がなかったなどと主張する。しかし、これらの研修等への参加は本件和解勧告にA2及びA3の職務として記載されているものではないから、このことについて、会社に本件和解勧告書の不履行があったとまではいうことはできない。
 なお、組合は、会社が両名をこれらの研修等で参加させなかったことが、本件和解勧告書の履行不履行にかかわらず、組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合の組織運営に対する支配介入に当たるとも主張するようであるようなので、念のために個別に検討するに、研修等についての会社の両名に対する対応は、両名に対する不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるとはいえない。
(7)以上のとおり、会社の本件和解勧告書についての対応は、組合員に対する不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入には当たらない。
2 30年5月30日、7月11日、9月5日、11月13日及び31年1月25日の団体交渉における会社の対応が不誠実な団体交渉及び支配介入に当たるか
(1) 30年5月30日、9月5日、11月13日及び31年1月25日の団体交渉について
 次の団体交渉に関する組合の申立てに係る会社の対応については、いずれも不誠実な団体交渉や支配介入には当たらない。
①第43回団体交渉(30年5月30日)
 A2が特任マネージャーに、A3が工場顧問にそれぞれ就任することを必要な範囲で通知する方法について紙で回答するよう求めたが、就任日までに会社の回答がなかったこと。また、「人件費上昇比率」、「人件費総額」、「売上総額」、「営業利益」及び「経費」の開示に応じなかったこと。
② 第45回団体交渉(9月5日)
 A2が接客マニュアル案を会社に提出しているにもかかわらず、「業務命令違反だ。」、「懲戒します。」などと責め立てるなど、あらかじめ結論ありきの団体交渉であることを明らかにしたことなど。
③第46回団体交渉(11月13日)
 店舗会議の開催について質問したところ、説明義務を否定したこと。
④第48回団体交渉(31年1月25日)
 組織図に特任マネージャー及び工場顧問の記載がない理由について質問したところ、説明を拒否したこと等。
(2) 30年7月11日の団体交渉について
 第44回団体交渉(7月11日)において、A3の就任通知が実施されていないことに対する組合の要求に対する会社の対応について、就任通知は、本件和解勧告条第2項に明記されたものであるから、会社だけの問題ではなく、労使の合意事項と解すべきである。そして、前件配置転換により従来の職を解任されたA2及びA3について和解に基づく就任の通知をすることは、会社の業務上の必要だけではなく、両名の名誉回復を図り、新設の職に就く両名の業務が円滑に進むよう配慮する趣旨も含めて本件和解勧告書に記載されたものとみるのが相当である。
 したがって、就任通知の内容や通知する範囲に疑問等があれば、組合が、会社に対し、それを指摘して要求等を行うことは当然であり、また、そのことについて組合が団体交渉を求めたときは、会社は誠実に応じなければならないというべきである。
 ところが、会社は、就任の通知は組合が要求したり指摘する事項ではないとの態度に終始し、「勧告書に書いていないことについて、もう少し丁寧にやり取りをしてもらいたい」との組合の要求に対しても、「ケチをつけられているって印象ですよ。」と述べるなどして、交渉に応じる姿勢を示さなかったのであるから、会社の対応は、合意達成の可能性を模索する態度ということはできず、不誠実な団体交渉に当たるといわざるを得ない。
 もっとも、会社は本件和解勧告書に基づく自らの見解を述べたものであり、組合の運営に影響を及ぼそうとしたものであるとまではいえないので、会社の対応は支配介入に当たるとまではいえない。
3 会社がA2の連絡先をマネージャー名簿に記載しなかったこと、法人設立30周年記念式典における会社のA2及びA3に対する取扱い等が不利益取扱い及び支配介入に当たるか
(1)A2の連絡先をマネージャー名簿に記載しなかったことについて
 マネージャーと特任マネージャーの職務及び権限が異なることから、会社の連絡経路を一本化するために、特任マネージャーを「緊急連絡網」及び「マネージャーの連絡順序」に記載しなかったとの会社の主張は理解できないものではない。このほか、A2が組合員であることを理由として同人の連絡先をマネージャー名簿に記載しなかったことを示す事情についての具体的な疎明はないことから、A2に対する不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。
(2)法人設立30周年記念式典について
 30周年記念式典の具体的な状況が明らかでなく、会社が、意図的にA2及びA3に対して業務指示をせず、A2に対して他のマネージャーと異なる服装着用の指示をしたとまで認めるに足りる具体的な疎明はない。そして、他に会社が両名に対して組合員であることを理由として差別的に取り扱ったとの事情も認められない。したがって、法人設立30周年記念式典における会社の対応が、A2及びA3に対する不利益取扱い又は組合に対する支配介入に当たるとまではいえない。
4 30年7月16日に会社がCに対して行なった注意指導が不利益取扱い及び支配介入に当たるか
 従業員Cが勤務時間外に店舗に立ち寄り、カーテンの設置に協力したことをA2が会社に報告したところ、会社は、平田に注意指導を行ったことについて、会社が、労務管理上の業務命令の有無の明確化や施設の適切な管理等の観点から、勤務日以外に店舗を訪れてカーテンの設置を行ったCに対して注意指導したことに理由がないとはいえない。したがって、会社のCに対する注意指導は、A2に対する不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委令和3年(不再)第36号・第40号 棄却 令和5年8月2日
 
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