労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  岡山県労委令和2年(不)第1号
協進商会不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(組合)・個人X2 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年7月29日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合の組合員X2が会社の提示した勤務条件に合意しないことを理由に、同人を就労させなかったこと、②組合が申し出た団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 岡山県労働委員会は、②について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、組合が申し入れたX2の勤務条件を議題とする団体交渉に応じなければならないこと、及び組合に対する文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が申し入れたX2の勤務条件を議題とする団体交渉に応じなければならない。
2 会社は、組合に対し、次の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X1組合
 執行委員長 A殿
Y会社    
代表取締役 B

 当社が、令和元年10月3日付け、同月21日付け、同月29日付け、同年11月12日付け、同月18日付け、同月27日付け及び同年12月12日付けで貴組合から申し入れられた団体交渉に応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると、岡山県労働委員会において認定されました。
 今後このような行為を繰り返さないようにいたします。
(注:年月日は文書を手交した日を記載すること。)
3 組合らのその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、X2に対して一方的に労働条件を提示して業務委託契約からパートタイム労働契約への変更を求め、これに合意しないX2組合員を就労させなかったことは、労組法第7条第1号に規定する不利益取扱いといえるか(争点1)
(1)会社は、X2が組合に加入する以前から、パチンコ店に併設されている特殊景品買取所に勤務する業務委託契約者について順次パート契約へ移行するよう見直しを進めていたのであり、X2に対しても、1日14時間勤務の業務委託契約を見直して1日5時間若しくは6時間勤務のパート契約を締結するよう求めていたことは明らかであって、X2が組合に加入したからといって労働条件を殊更不利益に変更して提示したとの事実は認められないことから、組合らが主張する不利益取扱いは、X2が組合員であるが故に行われたものとは認められない。
(2)また、組合らは、X2組合員が会社より提示された勤務条件で就労すると表明したにもかかわらず、会社が一方的に勤務時間を変更した労働契約の締結を求めたため、その条件に同意できないX2組合員は就労できなかったのであり、これがX2に対する不利益取扱いに当たると主張するので、以下検討する。
 会社が〔注.令和元年〕10.11ご連絡において提示した契約書には「始業・終業の時刻:17時00分~23時00分間で5時間勤務の場合もありえる(15日以内)」と記載されており、平成28年11月11日に提示されていた午前9時から午後3時までの勤務時間とは異なることから、組合らは、会社は勤務時間が9時から17時まで等の求人募集をしていながら、勤務時間をX2が就労困難とする17時から23時までの勤務時間帯しか提示せず、同人が組合員であるが故に就労させなかったと主張する。しかし、組合らは、条件が整えば1日14時間就労させることも要求しているのであり、17時から23時までの勤務時間帯であってもX2にとって就労可能な時間と考えられ、組合らの主張は合理的とはいえない。
 また、契約書を提示したのと同じ時期に勤務時間を9時から17時まで(休憩1h)及び17時から23時までと記載してパートタイマーを募集していたが、こうした募集方法には関係なく最終的には9時から23時までの間で個別に勤務時間を決定するという方法で採用していたことに照らすと、当該募集方法に問題がないとはいえないが、他の従業員の採用方法と比して、殊更X2のみを不利益に取り扱うものとはいえない。
(3)その他の組合らの主張も含め、組合らがX2に対する不利益取扱いとして主張する事実は、X2が組合員であることを理由としてされたものとは認められず、労組法第7条第1号に規定する不利益取扱いに当たるとはいえない。
2 令和元年10月3日、10月21日、10月29日、11月12日、11月18日、11月27日、12月12日に組合が申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことに正当な理由はなく、労組法第7条第2号に規定する団体交渉拒否といえるか(争点2)
(1)X2の就労の意思の有無に疑問がある以上、当該就労の意思を確認してからでなければ勤務条件について話合いの場を設ける意味も乏しい旨の会社の主張について
 X2は、異議をとどめた上で会社より提示された勤務条件で就労する旨を表明するなど歩み寄りの姿勢をみせ、会社もそのことを認識していたこと等から、就労の意思が確認できないとする主張は合理的とはいえない。
(2) 10.3団交において組合から大声を上げる、机上の資料を叩くなどの有形力の行使が会ったことから、同様の方法では有意義な話し合いは見込めず、当事者間のみでの団体交渉の開催は事実上困難であると考えざるを得なかった旨の会社の主張について
 このような組合の言動は交渉態度として問題がないわけではないが、組合の言動によって会話が著しく困難な状況にあったとまでは認められないこと、会社においても交渉の継続を示唆する姿勢が認められることからすると、社会通念上、その後の交渉が不可能又は困難であるという程度の具体的支障が生じた状況であったとは言い難い。
(3)当事者のみで話合いが成立しないのであれば、労働委員会のあっせんで解決を図ったとしても団体交渉の実質的な目的は達成されると考え、あえて労働委員会のあっせんを申し立てた旨の会社の主張について
 あっせんの活用により紛争解決を図ろうとする姿勢自体は評価しうるとしても、団体交渉は、その制度の趣旨からみて、労使が直接話し合う方式によるのが原則であり、あっせんを申立てたことをもって直ちに団体交渉に応じない正当な理由とならないことはいうまでもなく、会社も、あっせんと団体交渉が別物であることは承知している。
 もっとも、双方の感情的対立が激しく会社が団体交渉の当事者同士だけでは話し合いができる状況ではなくなったと判断してもやむを得ないと認められるような場合や、団体交渉申入れからあっせん期日までの期間が近接しているといった場合には、労働委員会のあっせんの場で交渉に応じる旨の回答も、不合理とはいえない。
 この点、当事者間のみでの交渉が不可能または困難な状況であったとまではいえず、加えて、会社が組合等に対してあっせんの申請をする旨の連絡をした後も、組合は、あっせんが団体交渉に代わるものではないとして団体交渉申入れを行っていることから、組合には、あっせんとは別に団体交渉より自主的な解決を模索する意思があったことは明らかである。また、組合の団体交渉申入れが、労働委員会のあっせん期日までに団体交渉を実施できないほどの時間的余裕のない申入れであったとも認められない。
(4)以上のことからすると、組合の団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由なく団体交渉を拒否したといえるのであって、労組法第7条第2号に規定する不当労働行為に当たるといわざるをえない。
3 会社の行為は、組合の弱体化を図り、労組法第7条第3号に規定する支配介入といえるか(争点3)
 組合らは、会社が組合の団体交渉の権利を侵害して組織の力を弱めたと主張するが、本件において、これを認めるに足る証拠はなく、具体的に労働組合に必要な自主性(独立性)、団結力、組織力を損なうおそれがあったとは認められず、会社の行為は支配介入に当たるとはいえない。
 
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