労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和元年(不再)第70・71号
YANO-J・R-C外1社不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Y1会社(第70号)、Y2会社(第71号) 
再審査被申立人  X組合(第70・71号) 
命令年月日  令和3年4月21日 
命令区分  全部変更・棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合の組合員Aに関する労災問題等についての団体交渉申入れ(以下「本件団交申入れ」という。)に対し、①Y2会社が、事実関係の調査などに時間が必要であることから、後日改めてX組合と開催日時等を協議したい旨回答し、②Y1会社が、Aを雇用しておらず、具体的な指示命令をした事実がない旨回答し、いずれも団体交渉に応じなかったことが労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第2号の不当労働行為に該当するとして、救済申立てがあった事案である。
2 初審神奈川県労働委員会は、①Y2会社に対し、本件団交申入れに対する同社の対応は労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するとして、文書の手交を命じ(初審命令主文第1項)、②Y1会社に対し、労災保険法違反に係る本件団交申入れに対する同社の対応は労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するとして、文書の手交を命じ(初審命令主文第2項)、③その余の本件申立てを棄却したところ、Y1会社及びY2会社は、これを不服として再審査を申し立てた。

 
命令主文  ⑴ Y1会社の再審査申立てに基づき、初審命令主文第2項を取り消し、これに係る救済申立てを棄却する。
⑵ Y2会社の再審査申立てを棄却する。
 
判断の要旨  ⑴ Y1会社は、Aとの関係において労組法第7条の使用者に当たるか。使用者である場合、本件団交申入れに対するY1会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。
ア Y1会社は本件工事の元請負人であり、その橋梁溶接工事の下請負人がC1会社であり、さらにその溶接鍛冶工事の下請負人がY2会社である。AはY2会社の従業員であり、同人の雇用主はY2会社である。
イ 本件団交申入れは、Aが労働者災害補償保険法( 「労災保険法」) に基づく労災補償請求を行うに当たり、本件工事の元請負人であるY1会社が事業主の証明を行っていないことをいうものと解される。
 この点について、初審命令は、Y1会社が、労組法第7条の使用者に当たると説示し、その根拠として、①労働保険の保険料の徴収等に関する法律(「徴収法」)第8条及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則(「徴収則」)第7条により、本件工事の元請負人であるY1会社が、Aの労災における療養・休業補償給付手続についての事業主であるといえること、及び②労働者災害補償保険法施行規則(「労災則」)第12条の2及び第13条第2項により、事業主は証明を付すこととされていることを挙げる。X組合も初審命令と同趣旨の主張をする。
 しかしながら、初審命令の上記説示は是認することができない。その理由は次のとおりである。
(ア)徴収法第8条第1項、徴収則第7条は、建設の事業が数次の請負人によって行われる場合には、この法律の適用については、その事業を一の事業とみなし、元請負人のみを当該事業の事業主とする旨を規定している。この規定は、労災保険法上の保険料徴収と労災制度運営上の便宜のために、元請負人は、その請負に係る事業に使用される全ての労働者について、保険料の納付等の義務を負担しなければならないこととしたものと解される。このような同法8条第1項の文言及び趣旨に照らせば、同規定の存在は、元請負人が下請負人等の従業員の労働条件を決定したり労務管理上の指揮命令をしたりすることとは関係がないことは明らかである。
(イ)労災則第12条の2は、労災補償手続について、 「療養補償給付たる療養の費用の支給を受けようとする者」が請求書を労働基準監督署に提出しなければならない旨を規定し、同規則第13条は、休業補償給付の請求について、 「休業補償給付の支給を受けようとする者」が請求すべき旨を規定している。そして、同規則第12条の2第2項、同規則第13条第2項は、補償給付たる療養の費用の請求、休業補償給付の請求に当たっては、事業主の証明を受けなければならない旨を規定している。しかしながら、事業主の証明を受けられない場合でも被災労働者は労災請求をすることができる。実質的にみても、被災労働者を始めとする下請負人等の協力を得て事実を確認しなければ事実の証明ができないこと、また、この事故の証明は、被災労働者等が事故の調査に協力し事故の確認ができさえすれば容易にできる事柄である。以上の諸点を総合すると、労災則第12条の2及び第13条第2項をもって、事故証明の可否に係る事項がY1会社との関係においてAの労働条件等に関する事項ということはできず、上記各規定はY1会社の労組法上の使用者性の根拠になるものではない。
ウ X組合は、再審査において、Y1会社が労働安全衛生法の特定元方事業者であることを指摘して、労組法上の使用者であると主張する。
 しかし、Y1会社は、労働安全衛生法上の特定元方事業者として、請負人やその労働者に対し同法上の規制を遵守させる義務を負うが、このことは労災保険法の手続に関する本件団交申入れとは関係がない。
エ Y1会社に対する救済申立ては、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
⑵ 本件団交申入れに対するY2会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。
ア 本件団交申入れは、組合がAの雇用主であるY2会社に対し、Aの労災関係の事実関係の確認を求めるとともに、労災補償請求や何らかの金銭請求をする前提として、本件事故の存在の確認を求めるものと解され、このことはAの雇用主であるY2会社にとっても了解可能な事柄であると解される。そうすると、本件団交申入れは、Y2会社の従業員であるAの本件事故に係る個別的な権利主張に関する事項であると解されるから、義務的団交事項に当たる。
イ Y2会社は、同年3月22日付け文書を送付した後、X組合に対し、同月30日付け回答書及び同年5月9日付け通知書を送付しただけで、本件の救済申立てに至る約5か月間何らの連絡をせず、団体交渉に応じていない。したがって、本件団交申入れに対するY2会社の上記対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるというべきである。
 
掲載文献   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成30年(不)第17号 一部救済 令和元年12月11日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約312KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。