概要情報
事件番号・通称事件名 |
神奈川県労委平成30年(不)第17号
YANO-J・R-C等不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y1会社・Y2会社・Y3会社 |
命令年月日 |
令和元年12月11日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、組合が組合員A2の労働問題に係る団体交渉を申し入れたところ、Y1会社及びY2会社が、事実関係の調査などに時間が必要であることを理由に組合との団体交渉の日時や開催場所について改めて協議したい旨回答したこと、また、Y3会社が、A2を雇用しておらず、就労場所で具体的な指示命令をした事実もないなどとして団体交渉に出席いたしかねると回答し、団体交渉に応じなかったことが、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。
神奈川県労働委員会は、Y1会社及びY3会社に対し、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、文書の手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 被申立人Y1会社は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。
記
貴組合が平成30年3月15日付けで申し入れた団体交渉に対する当社の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
令和 年 月 日
組合
執行委員長 A1 殿
Y1会社
代表社員 B1
2 被申立人Y3会社は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。
記 当社が、貴組合が平成30年3月15日付けで申し入れた貴組合員A2の労働者災害補償保険法に関する手続についての団体交渉に応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
令和 年 月 日
組合
執行委員長 A1 殿
Y3会社
代表取締役 B2
3 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 Y1会社
組合の平成30年3月15日付け団体交渉申入れに対するY1会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点①)
ア Y1会社は、30.3.22Y1会社文書で、本件事故の事実関係の調査を慎重に進めるためなどとして、後日改めて団体交渉の開催日時及び場所について協議を行うことを組合に申し入れている。しかしながら、Y1会社は、平成30年3月17日に会社らで現場立会いを行っており、また、同年5月8日にA2の動作を撮影するなどの本件事故の事実関係について調査を行っている。そうすると、Y1会社は、それらの調査の結果を踏まえて、本件事故についての同社の見解を組合に説明できる状況にあったといえる。そうであるにもかかわらず、Y1会社は、組合に対し、30.3.30Y1会社回答書及び30.5.9通知書において本件事故の存否に疑義を抱いている旨を通知するのみで、団体交渉の開催には一切触れていない。
そして、Y1会社が、30.5.9通知書を組合に送付した以降は、本件申立て(平成30年8月29日)までの約4か月間、組合に一切連絡をしていないのであるから、Y1会社のこうした対応は、事実上組合との団体交渉を回避しているものであって、団体交渉を拒否したものといわざるを得ない。
確かに、組合は、Y1会社から30.3.22Y1会社文書、30.3.30回答書及び30.5.9通知書を受領していながら、Y1会社に対し何ら連絡をとることなく本件申立てに及んでいる。その間、約4か月間があったことからすれば、組合としても、Y1会社に対し、何らかの連絡を試み、団体交渉に応じる意思があるのかどうか確認することが可能であったともいえる。しかし、Y1会社からの回答が上記のようなものであった以上、組合がそのような対応をしなかったからといって、団体交渉拒否を否定する事情にはなり得ない。
イ 以上のことから、組合の団体交渉申入れに対するY1会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
2 Y2会社
Y2会社は、A2との関係において、労組法第7条の使用者に当たるか否か。(争点②)Y2会社が使用者に当たる場合、組合の平成30年3月15日付け団体交渉申入れに対するY2会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点③)
ア Y2会社は、Y1会社の元請負人であり、A2とY2会社との間に雇用関係は存在しないことから、Y2会社は、直ちに団体交渉応諾義務を負うものではない。しかしながら、雇用主以外の事業主であっても、当該労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあると認められる場合には、その限りにおいて労組法第7条にいう使用者に当たるものと解されるので、以下検討する。
イ 30.3.15要求書において、組合が会社らに要求した団体交渉事項は、①平成30年2月6日労災問題、②給与明細及び利息のこと、③労災保険法の手続がなされていないこと、④労働者死傷病報告の提出がなされていないことであった。
①については、本件事故の経過が記載されているのみで、組合が会社らに対し、何を要求しているか不明瞭であるため、判断の対象とならない。
②について、給与支払者は、雇用主であるY1会社であり、同社に処分可能な事項である。また、Y2会社が、A2の給与等に対し支配、決定していることについて、組合による具体的な主張、立証もない。
③について、Y2会社が、A2の労災保険法の手続に関して支配、決定していることについての組合による具体的な主張、立証はない。
④について、労働者死傷病報告の提出者は、法令上、被災労働者を雇用している事業主とされているため、Y1会社に処分可能な事項であり、Y2会社が、この点についてどのように関与しているのかについての組合による具体的な主張、立証はない。
ウ 以上のことから、30.3.15要求書において、Y2会社は労組法第7条の使用者とはいえないから、争点③については判断するまでもない。
3 Y3会社
(1) Y3会社は、A2との関係において、労組法第7条の使用者に当たるか否か。(争点④)
ア A2の雇用主はY1会社であり、Y3会社は本件工事の元請負人であるため、Y3会社とA2の間に雇用契約がない。この点について、組合は、Y3会社は労災保険法の適用事業主であり、A2の労働条件等についてY1会社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあると主張するので、以下検討する。
イ 本件で、組合が30.3.15要求書において申し入れた団体交渉事項は、①平成30年2月6日労災間題、②給与明細及び利息のこと、③労災保険法の手続がなされていないこと、④労働者死傷病報告の提出がなされていないことであった。
①については、本件事故の経過が記載されているのみで、組合が会社らに対し、何を要求しているか不明瞭であるため、判断の対象とならない。
②及び④については、雇用主であるY1会社に処分可能な事項であり、Y3会社がそれらの労働条件等について支配、決定していることについて、組合による具体的な主張、立証はない。
③について、組合のいう労災保険法の手続とは、療養・休業補償給付手続とみられるが、その手続が適切に行われないと被災労働者の療養に係る経済的負担が大きくなり、また、療養中の賃金が補償されなくなるため、同手続が適切に行われることは、被災労働者にとって重要な関心事であり、労働条件その他の待遇に関する事項に当たるというべきである。
労働基準法第87条、労働保険の保険料の徴収等に関する法律第8条及び同法施行規則第7条によると、建設事業が数次の請負によって行われる場合には、その事業を一つの事業とみなし、元請負人のみを当該事業の事業主とするとされているため、本件工事の元請負人であるY3会社は、本件事故における療養・休業補償給付手続についての事業主であるといえる。また、労災保険法施行規則第12条の2及び第13条第2項では、「負傷又は発病の年月日」及び「災害の原因及び(その)発生状況」について、事業主は、証明を付すこととされているため、労災保険法の手続については、本件工事の元請負人であるY3会社のみが処分可能な事項というべきである。
ウ 以上のことから、Y3会社は、労災保険法の手続を議題とする団体交渉において、労組法第7条の使用者に当たるといえる。
(2) Y3会社が使用者に当たる場合、組合の平成30年3月15日付け団体交渉申入れに対するY3会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点⑤)
Y3会社は、組合の30.3.15要求書による団体交渉の申入れに対し、30.3.22Y3会社文書及び30.3.30Y3会社においてA2の使用者に当たらない旨の回答をして、これに応じなかった。
しかしながら、Y3会社はA2の労災保険法の手続を議題とする団体交渉に関し、労組法第7条の使用者に当たるので、Y3会社のこうした対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。 |
掲載文献 |
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