事件番号・通称事件名 |
大阪府労委平成30年(不)第51号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
令和2年10月26日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①組合員1名に対し、退職金を支払わないこと、②組合員2名に対し、就労日数の減少に伴う収入減額の補填分を支払わないこと、③組合員3名を雇用するC2会社との運送委託契約を終了したこと、④①から③の事項等を協議事項とする団体交渉申入れに応じなかったこと、⑤組合員1名の就労を拒否したこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
大阪府労働委員会は、会社に対し、④の一部について労組法第7条第2号、⑤について同条第1号及び第3号にそれぞれ該当する不当労働行為であるとして、文書の交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 被申立人は、申立人に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
記
年 月 日
組合
執行委員長 A1 様
会社
代表取締役 B
当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
記
(1)貴組合が平成30年3月28日付けで申し入れた団体交渉(A4組合員、A5組合員及びA6組合員に係る議題を除く。)に応じなかったこと(2号該当)。
(2)平成30年5月1日以降、貴組合員A2氏を就労させていないこと(1号及び3号該当)。
2 申立人のその他の申立てを棄却する。
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判断の要旨 |
1-1 会社は、A2組合員又はA3組合員の労働組合法上の使用者
に当たるか。
ア
会社は、A2組合員及びA3組合員が、会社の業務に日々雇用の形で従事することがあったにすぎないから、会社は両組合員らの労働組合法上の使用者に当たらない旨主張するので、A2組合員及びA3組合員について具体的に検討する。
イ A2組合員及びA3組合員については、(27年7月1日に会社に事業譲渡を行った)C1会社及び会社において、17年や20年程度の長期間にわたる就労実績があり、就労実態をみても日々の就労手続やタイムカードの使用、日給月給制などから同人らが恒常的に就労することが前提とされる仕組みが存在し、しかも、日雇手帳を使用しない期間は、C1会社又は会社が、日雇労働求職者給付金相当額を同人らに支払うということを行っていたといえる。したがって、A2組合員及びA3組合員は、その実体において会社に継続的に雇用されていたものであり、会社に対して継続的に雇用されることに対する合理的な期待を有して然るべきものであるといえるから、会社は、両組合員の労働組合法上の使用者に当たる。
1-2 会社は、A4組合員、A5組合員又はA6組合員の労働組合法上の使用者に当たるか。
ア A4組合員ら3名は、C2会社の従業員であり、会社とは労働契約を締結しておらず、会社とA4組合員ら3名との間に直接の雇用関係がないことは当事者間に争いがない。
しかしながら、労働組合法第7条の使用者とは、労働契約関係のある者には限らないのであって、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、同法上の使用者に当たるから、直接の雇用関係がないからといって、直ちに、労働組合法上の使用者性が否定されるとはいえない。
そこで、以下、A4組合員ら3名について、具体的に検討する。
イ 会社は、10.10.31運送委託契約及び10.10.31覚書におけるC1会社及びC3会社の立場を引き継ぎ、C2会社に対して生コンの輸送を委託していたといえる。
ウ 会社は、A4組合員ら3名の仕事ぶりについて、直接A4組合員ら3名に指導するのではなく、C2会社を通じて改善又は担当替えを要求しており、また、C2会社は、会社により繰り返しなされた要請について、履行しないと回答していたと評価できるのであるから、会社は、A4組合員ら3名について、少なくとも業務遂行上の服務については、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位になかったと判断される。
エ その他、会社が、A4組合員ら3名の雇用主と同視できる程度に支配、決定することができる地位にあるといえることについての疎明はないから、会社は、A4組合員ら3名の労働組合法上の使用者に当たるとはいえない。
2
平成30年2月26日、会社と組合は、会社が、A3組合員に対し、退職金を支払う旨の合意をしたといえるか。いえるとすれば、会社が、この退職金を支払わないことは、組合員であるが故に行われた不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。
ア 30.2.26協議において、A7執行委員と社長との間で、A3組合員に対する退職金について、その支払の履行を会社に義務付けるような具体的な金額を確定してまでの明確な約束があったとはいえない。
イ よって、30.2.26協議において、A3組合員に対する退職金の支払の履行を会社に義務付けるような明確な合意があったとはいえない以上、会社がA3組合員に対して、退職金を支払わないことが、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であるとも、同条第3号に該当する不当労働行為であるともいえないから、この点に関する組合の申立ては棄却する。
3 平成30年2月26日、会社と組合は、会社が、A2組合員及びA3組合員に対し、同年1月分の就労日数の減少に伴う収入減額の補填分を支払う旨の合意をしたといえるか。いえるとすれば、会社が、これに伴う収入減額の補填分を支払わないことは、組合員であるが故に行われた不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。
ア 会社がA2組合員及びA3組合員に対し、平成30年1月分の就労日数の減少に伴う収入減額補填分を支払うことについて、30.2.26協議において、A7執行委員と社長との間で、具体的な金額を確定してまでの明確な約束があったとはいえない。
ウ よって、30.2.26協議において、会社は、A2組合員及びA3組合員に対する収入減額補填分の支払について、会社にそれを義務付けるような具体的金額を含む明確な合意があったとはいえない以上、会社が両組合員に対する収入減額補填分を支払わないことが、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であるとも、同条第3号に該当する不当労働行為であるともいえないから、この点に関する組合の申立ては棄却する。
4 会社が、平成30年3月13日付けでC2会社との運送委託契約を終了したことは、A4組合員、A5組合員及びA6組合員が組合員であるが故に行われた不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。
会社がA4組合員ら3名の労働組合法上の使用者に当たるとはいえないことは、前記1-2判断のとおりであって、この点に係る組合の申立ては、その余を判断するまでもなく棄却する。
5 組合の30.3.28団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか。
ア 30.3.28団交申入れについて、団交が開催されていないことは、当事者間に争いがない。
イ この点につき、まず、会社は、前記1-1判断のとおり、会社は、上記2名の組合員の労働組合法上の使用者に当たり、両組合員の労働条件に関する団交事項については、会社に応諾義務がある。
ウ 次に、30.3.28団交申入れにおける協議事項は、①平成30年2月20日付けの会社からC2会社に対する提案事項、②30.3.13本件契約終了、③A2組合員及びA3組合員の最終確認事項、④30.3.3春闘統一要求、⑤その他継続審議事項、についてであったことが認められる。そこで、それぞれの団交事項について、以下、順にみる。
(ア)平成30年2月20日付けの会社からC2会社に対する提案事項については、C2会社の従業員であるA4組合員ら3名に関する団交事項であるところ、会社がA4組合員ら3名の労働組合法上の使用者に当たるとはいえないことは、前記1-2判断のとおりであるから、会社に応諾義務はない。
(イ)30.3.13本件契約終了については、C2会社の従業員であるA4組合員ら3名に関する団交事項であるところ、会社がA4組合員ら3名の労働組合法上の使用者に当たるとはいえないことは、前記1-2判断のとおりであるから、会社に応諾義務はない。
(ウ)A2組合員及びA3組合員の最終確認事項について、会社は、協議事項の特定がなく、義務的団交事項なのかどうか判断しようがなかった旨主張するが、これまでの経緯に加え、A3組合員に対する退職金、A2組合員及びA3組合員に対する収入減額補填分の支払について、いまだ合意には至っておらず、協議は継続していたといえるのであるから、会社は、30.3.28団交申入書におけるA2組合員及びA3組合員の最終確認事項についての団交事項が、A3組合員に対する退職金、A2組合員及びA3組合員に対する収入減額補填分、A2組合員の日雇手帳の取扱い等を指すと容易に理解できたはずであり、上記会社主張は採用できない。
また、これらの事項は、A2組合員及びA3組合員の労働条件に関する事項であるから、会社に団交応諾義務がある。
(エ)
30.3.3春闘統一要求について、組合及び組合分会が会社に対し、①広域協の中小企業分断を排除し、中小企業の経営安定と労働者の福祉向上を求める旨、②日々雇用労働者の「本勤化」及び「バラ・生コン・ダンプの運賃アップ」を求める旨、記載のある30.3.3春闘統一要求書を提出したことが認められる。
この点について、労働者の福祉向上等については、組合員の労働条件に関する事項であるし、前記1-1判断のとおり、会社がA2組合員及びA3組合員の使用者といえる以上、会社は30.3.3春闘統一要求についても団交応諾義務がある。
エ よって、30.3.28団交申入れに対する会社の対応は、①平成30年2月20日付けの会社からC2会社に対する提案事項及び②30.3.13本件契約終了に係る対応を除き、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号違反の不当労働行為である。
6 会社が、平成30年5月1日以降、A2組合員を就労させていないことは、組合員であるが故に行われた不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。
ア 会社が、A2組合員の労働組合法上の使用者に当たることは、前記1-1判断のとおりである。
イ 平成30年5月頃、A2組合員が会社の出荷係に架電し、翌日の仕事の有無を確認したところ、会社の出荷係はA2組合員に対し、業務を指示しなかったことが認められるところ、①A2組合員が、遅くとも同28年5月2日から、会社で就労していたこと、②会社はA2組合員に対し、162,500円の基本給の他に、所定時間外賃金等も支給していたこと、が認められる。したがって、同30年5月以降、会社がA2組合員を就労させないことは、A2組合員に、経済的、精神的不利益が生じたといえるのであるから、会社のA2組合員に対する就労拒否は、その事情如何によっては、不当労働行為に該当する。
ウ 会社のA2組合員に対する就労拒否の理由については、会社は、28.5.1労働者供給契約(「労供契約」)の期間満了を挙げており、会社は組合に対し、28.5.1労供契約を、直近の期間満了日となる平成30年4月末日をもって終了する旨通知したことが認められる。
これについて、A2組合員は、28.5.1労供契約に基づき会社で就労していたとはいえず、会社が、28.5.1労供契約の終了をA2組合員に対する就労拒否の理由としたことに合理性はない。
エ 会社が、平成30年5月1日以降、A2組合員を就労させていないことは、28.5.1労供契約の期間満了及びA2組合員の勤務態度という会社が主張する理由に合理性がなく、また、組合に対する嫌悪の下に行われたもので、不利益取扱いに当たるとともに、組合活動を弱体化させるもので、支配介入にも当たり、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。 |
掲載文献 |
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